マタイの福音書
1
- アブラハムの子、ダビデの子、イエス・キリストの系図。
- アブラハムはイサクを生み、イサクはヤコブを生み、ヤコブはユダとその兄弟たちを生み、
- ユダは、タマルによってパレスとザラを生み、パレスはエスロンを生み、エスロンはアラムを生み、
- アラムはアミナダブを生み、アミナダブはナアソンを生み、ナアソンはサルモンを生み、
- サルモンは、ラハブによってボアズを生み、ボアズは、ルツによってオベデを生み、オベデはエッサイを生み、
- エッサイはダビデ王を生んだ。ダビデは、ウリヤの妻によってソロモンを生み、
- ソロモンはレハブアムを生み、レハブアムはアビヤを生み、アビヤはアサを生み、
- アサはヨサパテを生み、ヨサパテはヨラムを生み、ヨラムはウジヤを生み、
- ウジヤはヨタムを生み、ヨタムはアハズを生み、アハズはヒゼキヤを生み、
- ヒゼキヤはマナセを生み、マナセはアモンを生み、アモンはヨシヤを生み、
- ヨシヤは、バビロン移住のころエコニヤとその兄弟たちを生んだ。
- バビロン移住の後、エコニヤはサラテルを生み、サラテルはゾロバベルを生み、
- ゾロバベルはアビウデを生み、アビウデはエリヤキムを生み、エリヤキムはアゾルを生み、
- アゾルはサドクを生み、サドクはアキムを生み、アキムはエリウデを生み、
- エリウデはエレアザルを生み、エレアザルはマタンを生み、マタンはヤコブを生み、
- ヤコブはマリヤの夫ヨセフを生んだ。キリストと呼ばれるイエスはこのマリヤからお生まれになった。
- それで、アブラハムからダビデまでの代が全部で十四代、ダビデからバビロン移住までが十四代、バビロン移住からキリストまでが十四代になる。
- イエス・キリストの誕生は次のようであった。その母マリヤはヨセフに嫁ぐことが決まっていたが、ふたりがまだいっしょにならないうちに、聖霊によって身重になったことが分かった。
- 夫のヨセフは正しい人であって、彼女を公に暴露したくなかったので、内密に去らせようと決めた。
- それで、彼がこれらのことを考えたとき、主の御使いが夢に現れて、「ダビデの子ヨセフ。マリヤをあなたの妻として迎えることを恐れてはならない。なぜならば、彼女の中に宿っておられる方は、聖霊によるからである。
- マリヤは男子を産む。その方をイエスと名付けよ。この方は、ご自分の民を彼らの罪から救われる。」と言った。
- この全ての出来事は、主が預言者を通して言われた事が成就するためであった。
- 「見よ、処女がみごもる。そして男の子を産む。その名はインマヌエルと呼ばれる。」それを訳すと、神は私たちとともにおられる、という意味である。
- ヨセフは眠りから覚めた時、主の御使いが命じたとおりにし、マリヤを彼の妻として受け入れた。
- そして、男児が生まれるまで彼女を知る〈性的に交わる〉ことがなかった。そして、その男児をイエスと名付けた。
2
- イエスが、ヘロデ王の時代に、ユダヤのベツレヘムでお生まれになった時、見よ、東方の博士たちがエルサレムにやって来た。
- 彼らは、「ユダヤ人の王としてお生まれになった方はどこにおられますか。私たちは、東方でその方の星を見たので、その方を拝みに来ました。」と言った。
- それを聞いて、ヘロデ王は恐れ惑った。エルサレム中の人も王と同様であった。
- そこで、王は、民の祭司長たちと学者たちとをみな集めて、キリストはどこで生まれるのかと彼らに詳しく尋ねた。
- 彼らは王に、「ユダヤのベツレヘムです。預言者によってこのように書かれているからです。
- 『ユダの地、ベツレヘム。あなたはユダを治める者たちの中で、決して一番小さくはない。わたしの民イスラエルを治める支配者が、あなたから出るのだから。』」と言った。
- そこで、ヘロデは密かに博士たちを呼んで、彼らから星が現れてからの期間を詳しく問いただして確かめた。
- そして、彼は、「行って幼子のことを詳しく調べ、分かったら、報告せよ。私も拝みに行くためだ。」と言って彼らをベツレヘムへ送り出した。
- それで、彼らは王の言葉を聞いてから出て行った。すると、見よ、東方で見た星が彼らを先導し続け、幼子のおられる所まで進んで行き、その上にとどまった。
- その星を見て、彼らはこの上もなく非常に喜びに喜んだ。
- そして彼らは、その家に入って、母マリヤと共におられる幼子を見た。そしてその幼子にひれ伏して礼拝した。そして、宝の箱を開け、黄金、乳香、没薬を贈り物としてささげた。
- それから、夢の中でヘロデのところへ戻るなという御告げを受けたので、別の道を通って自分たちの国へ帰って行った。
- 彼らが帰って行った時、見よ、主の使いが夢の中でヨセフに現れ、「立って、幼子とその母を連れ、エジプトへ逃げよ。そして、私が知らせるまで、そこにおれ。今、ヘロデがこの幼子を殺すために捜している。」と言った。
- そこで、ヨセフは立って、夜のうちに幼子とその母を連れ、エジプトに向けて去って行った。
- そして、彼らはヘロデが死ぬまでそこにいた。これは、主が預言者を通して、「わたしはエジプトから、わたしの子を呼び出した。」と言われた事が成就するためであった。
- その後、ヘロデは、博士たちに騙されたことを知って、激しく怒った。そして、彼は(兵隊を)送って、彼があの博士たちから確かめた幼子誕生の時に従って、ベツレヘムとその近辺の二歳以下の男の子全てを殺させた。
- そのとき、預言者エレミヤを通して言われた事が成就した。
- 「ラマで(泣き)声が聞かれる。激しい泣き声と嘆き叫ぶ声。ラケルがその子らのために泣いている。ラケルは慰められることを嫌がっている。子らがもういないからだ。」
- ヘロデが死んだ時、見よ、主の使いが、エジプトにいるヨセフに夢の中で現れ、
- 「立って、幼子とその母を連れ、イスラエルの地に向かって行け。幼子のいのちを狙っていた者たちが死んでしまっているからだ。」と言った。
- それで、彼は立って、幼子とその母を連れ、イスラエルの地に入った。
- しかし、アケラオが父ヘロデに代わってユダヤを治めていると聞いたので、そこ〈ユダヤ地方〉に入ることを恐れた。そして、夢の中で御告げを受けて、ガリラヤ地方に立ち退いた。
- そして、彼は行ってナザレという町に住み着いた。これは預言者たちを通して「この方はナザレ人と呼ばれる。」と言われた事が成就するためであった。
3
- ちょうどそのころ、バプテスマのヨハネが現れた。そしてユダヤの荒野で教えを宣べていた。
- 彼は、「悔い改めよ。天の御国が(すぐそばにまで)近づいているからだ。」と語っていた。
- この人は、実に預言者イザヤによって、「荒野で叫ぶ者の声がする。『主の道を直ちに備えよ。主の歩まれる道を真っ直ぐにせよ。』」と言われたその人である。
- さて、この人は、らくだの毛の織物を着、腰の周りには皮の帯を締めていた。そしていなごと野の蜂蜜を常食していた。
- その時、エルサレム、ユダヤ全土、ヨルダン川沿いの全地域の人々が、続々とヨハネのところへ出て来た。
- そして彼らは自分の罪を自ら告白し、ヨルダン川で彼から次々とバプテスマを受けていた。
- しかし、パリサイ人やサドカイ人が大勢バプテスマを受けに来るのを見た時、ヨハネは彼らに言った。「毒蛇のすえたち。だれが必ず来る御怒りを逃れるようにお前たちに教えたのか。
- それなら、悔い改めにふさわしい実を結べ。
- 『我々の先祖はアブラハムだ。』と心の中で言おうと思うな。お前たちに言っておく。神は、これらの石ころからでも、アブラハムの子孫を起こすことがおできになるのだ。
- 斧もすでに木の根元に置かれている。だから、良い実を結ばない木は、みな切り倒されて、火に投げ込まれる。
- 私は、お前たちを、悔い改めに基づいて、水でバプテスマしているが、私の後から来られる方は、私よりも力のある方である。私はその方の靴をお脱がせする値打ちもない。その方は、お前たちを聖霊と火とによってバプテスマされる。
- その方の手に箕がある。そしてご自分の脱穀場を完全にきよめ尽くされる。そして麦を集めて倉に納め、殻を消えない火で燃やしてしまわれる。」
- その時、イエスは、ヨハネからバプテスマを受けるために、ガリラヤからヨルダンにいるヨハネのところに来られた。
- しかし、ヨハネはイエスに、「実に私こそ、あなたによってバプテスマされる必要があります。それなのに、どうしてあなたが、私のところに来られたのですか。」と言って、しきりに思い止まらせようとした。
- ところが、イエスは彼に答えて、「今はそうさせてもらいたい。なぜならば、このようにして、神の義を全て実行することが、わたしたちにふさわしいからである。」と言われた。そこで、ヨハネは承知した。
- それで、イエスはバプテスマを受けてから、すぐに水から上がられた。すると、天が開かれた。そして、神の御霊が鳩のように、ご自分の上に下って来られるのを見られた。
- また、天から、「これは、わたしの愛する子、わたしはこの者に(十分に)満足している。」と告げる声が聞こえた。
4
- その時、イエスは、悪魔によって試みられるために、御霊によって荒野に導かれて行かれた。
- そして、四十日四十夜断食したあとで、空腹を覚えられた。
- すると、試みる者が近づいて来て言った。「あなたは神の子であるのだから、これらの石にパンになるように言え。」
- イエスは答えて、「『人はパンだけではなく、神の御口から出て来る全てのみことばによって生きなければならない。』と書いてある。」と言われた。
- すると、悪魔はイエスを聖なる都に連れて行き、神殿の屋根のひさしの上に立たせた。
- そして、「あなたは神の子であるのだから、下に身を投げよ。『神は、あなたのためにご自分の御使いたちに命じて、その手にあなたを必ず支えさせ、あなたの足が石に打ち当たることのないようにされる。』と書いてあるからだ。」と言った。
- イエスは、「『あなたの神である主を試みてはならない。』とも書いてある。」と言われた。
- 再び、悪魔は、イエスを非常に高い山に連れて行った。そして、この世の全ての国々とその栄華を見せた。
- そして、「もしひれ伏して私を拝むなら、これらの全てをあなたに与えよう。」とイエスに言った。
- それで、イエスは、「去って行け。サタン。『あなたの神である主を伏し拝み、主のみを礼拝し続けよ。』と書いてある。」と言われた。
- すると悪魔はイエスから離れて行った。そして、見よ、御使いたちが近づいて来てイエスに仕え始めた。
- その時、イエスは、ヨハネが捕らえられたと聞かれた。それで、ガリラヤへ立ち退かれた。
- またナザレを去って、ゼブルンとナフタリとの境にある、湖のほとりの町、カペナウムに来て住まわれた。
- これは、預言者イザヤを通して言われた事が、成就するためであった。すなわち、
- 「ゼブルンの地とナフタリの地、湖に向かう道、ヨルダンの向こう岸、異邦人のガリラヤ。
- 暗やみの中に座っていた民は偉大な光を見た。死の地と死の陰に座っている人々のために、光が上った。」
- この時から、イエスは宣教を開始された。「悔い改めよ。なぜならば、天の御国が(すぐそばにまで)近づいているからだ。」と語られた。
- イエスがガリラヤ湖のほとりを歩いておられたとき、ふたりの兄弟、ペテロと呼ばれるシモンとその兄弟アンデレを見られた。彼らは湖に投げ網を打っていた。漁師だったからである。
- イエスは彼らに、「直ちにわたしに従え。そうしたら、わたしはお前たちを、人間を獲る漁師にならせる。」と言われた。
- 彼らはすぐに網を捨ててイエスに従った。
- イエスは、そこから進んで行かれた時、別のふたりの兄弟、ゼベダイの子ヤコブとその兄弟ヨハネが、父ゼベダイといっしょに舟の中で網を繕っているのを見られた。そして、彼らをお呼びになった。
- 彼らはすぐに舟も父も残してイエスに従った。
- イエスはガリラヤ全土を巡回し始められた。そして、諸会堂で教え続け、御国の福音を宣べ伝え続けられ、民の中のあらゆる病気、あらゆるわずらいを治しながら巡回された。
- イエスのうわさはシリア地方全体に広まった。それで、人々は、さまざまの病気と痛みに苦しむ病人、悪霊に憑かれた人、てんかん持ちや、中風の人などを全て、みもとに運んで来た。そしてイエスは彼らを癒された。
- こうしてガリラヤ、デカポリス、エルサレム、ユダヤおよびヨルダンの向こう岸から大勢の群衆がイエスにつき従った。
5
- この群衆を見て、イエスは山に登られた。イエスが座られたので、弟子たちがみそばに来た。
- そこで、イエスは口を開き、彼らに教え始められた。
- 「霊の領域において貧しい者は幸いである。なぜならば、天の御国はそのような人のものだからである。
- 悲しんでいる者は幸いである。やがてその人は慰められるからである。
- 柔和な者は幸いである。やがてその人は地を相続するからである。
- 義に飢え渇いている者は幸いである。やがてその人は満ち足りるからである。
- 憐れみ深い者は幸いである。やがてその人は憐れみを受けるからである。
- 心のきよい者は幸いである。やがてその人は神を見るからである。
- 平和をつくる者は幸いである。やがてその人は神の子どもと呼ばれるからである。
- 義のために迫害されている者は幸いである。天の御国はそのような人のものだからである。
- わたしのために、人々がお前たちをののしり、迫害し、また、偽りを造って悪口雑言を言うとき、お前たちは幸いである。
- 喜べ。喜びおどれ。天におけるお前たちの報いは大きい。なぜなら人々はお前たちより前に来た預言者たちをも、同じように迫害したからだ。
- お前たちは、地の塩である。しかし、もしその塩が塩気をなくしたら、何によって味付けができようか。塩気をなくした塩は何の役にも立たず、外に捨てられて、人々に踏みつけられるだけである。
- お前たちは、世の光である。山の上にある町は隠れる事ができない。
- また、だれもランプに火を灯してから、それを枡の下には置かない。燭台の上に置く。そうすれば、家にいる人々全部を照らす。
- このように、お前たちの光を人々の前で輝かせ、人々がお前たちの良い行いを見て、天におられるお前たちの父をあがめるようにせよ。
- お前たちは、わたしが律法や預言者を廃棄するために来たと思ってはならない。廃棄するためではなく、成就するために来たのだ。
- 真実にお前たちに言う。天と地が滅びる前に、律法からその一点一画でも脱落することは決してない。全てが成就される。
- だから、戒めのうち最も小さいものの一つでも、これを破ったり、また破るように人に教えたりする者は、天の御国で、最も小さい者と呼ばれる。しかし、それを守り、また守るように教える者は、天の御国で、偉大な者と呼ばれる。
- 真実に、お前たちに言う。もしお前たちの義が、律法学者やパリサイ人の義に優らなければ、お前たちは決して天の御国に入れない。
- 昔の人々に対して、『人を殺すな。人を殺す者はさばきを免れない。』と命じられたと、お前たちは聞いている。
- それで、わたしはお前たちに言う。自分の兄弟に向かって腹を立てる者は、だれでもさばきを免れない。自分の兄弟に向かって『能なし。』と言うような者は、最高議会に引き渡される。また、『ばか者。』と言うような者は燃えるゲヘナに投げ込まれる。
- だから、祭壇の上に供え物をささげようとしているとき、もし兄弟に恨まれていることをそこで思い出したなら、
- 供え物はそこに、祭壇の前に置いたままにして、行って、まずお前の兄弟と仲直りせよ。それから、来て、その供え物をささげよ。
- お前を告訴する者とは、お前が彼と共に歩いている途中に早く和睦せよ。そうでないと、告訴する者は、お前を裁判官に引き渡し、裁判官は下役に引き渡して、お前はついに牢に入れられることになる。
- 真実に、お前に言う。お前は最後の一コドラントを支払うまで、決してそこから出ることができない。
- 『姦淫してはならない。』と命じられたことを、お前たちは聞いている。
- それで、わたしはお前たちに言う。だれでも情欲をいだいて女を見ている者は、すでに心の中で姦淫を犯している。
- だから、もし、お前の右目が、お前をつまずかせるなら、えぐり出して、捨ててしまえ。からだの一部を失っても、からだ全体がゲヘナに投げ込まれるよりはお前にとって得である。
- もし、お前の右手がお前をつまずかせるなら、切って、捨ててしまえ。からだの一部を失っても、からだ全体がゲヘナに落ちるよりは、お前にとって得である。
- また『だれでも、妻を離別する者は、妻に離婚状を与えよ。』と命じられている。
- それで、わたしはお前たちに言う。だれであっても、不貞以外の理由で妻を離別する者は、妻に姦淫させることになる。また、だれでも、離別された女と結婚しているならば、姦淫を犯している。
- さらにまた、昔の人々に対して、『偽りの誓いを立ててはならない。お前の誓ったことを主に果たせ。』と命じられたと、お前たちは聞いている。
- それで、わたしはお前たちに言う。決して誓ってはならない。天をさして誓ってもいけない。そこは神の御座だからだ。
- 地をさして誓ってもいけない。そこは神の足台だからだ。エルサレムをさして誓ってもいけない。そこは偉大なる王の都だからだ。
- お前の頭をさして誓ってもいけない。お前は、一本の髪の毛すら、白くも黒くもできないからだ。
- だから、お前たちの『はい。』は『はい。』に、『いいえ。』は『いいえ。』にせよ。それ以上のことは悪である。
- 『目には目で、歯には歯で。』と命じられたと、お前たちは聞いている。
- それで、わたしはお前たちに言う。悪い者に手向かってはいけない。お前の右の頬を打つような者には、左の頬も向けよ。
- お前を告訴して下着を取ろうとしている者には、上着も与えよ。
- お前に一ミリオン行けと強いるような者とは、いっしょに二ミリオン行け。
- 求める者には与え、借りようとする者を退けるな。
- 『自分の隣人を愛し、自分の敵を憎め。』と命じられたと、お前たちは聞いている。
- それで、わたしはお前たちに言う。自分の敵を愛し、迫害する者のために祈る者であれ。
- そのようにして、お前たちは天におられる父の子どもになれるのだ。天の父は、悪い人の上にも良い人の上にも太陽を昇らせ、正しい人の上にも正しくない人の上にも雨を降らせてくださっているからだ。
- だから、自分を愛してくれる者を愛したからといって、何の報いがあろうか。取税人でも、同じことをしているではないか。
- また、自分の兄弟にだけ挨拶したからといって、どれだけ優ったことをしたのだろうか。異邦人でも同じことをしているではないか。
- だから、お前たちは、お前たちの天の父が完全であられるように、完全であれ。
6
- 人に見せるために人前で善行をしないように気を付けよ。そうでないと、天におられるお前たちの父の御前で、報いが受けられない。
- だから、お前が施しをするときには、人にほめられたくて会堂や通りで施しをする偽善者たちのように、自分の前でラッパを吹き鳴らしてはいけない。真実に、お前たちに言う。彼らは自分の報いを受けている。
- お前は、施しをするとき、お前の右手のしていることを左手に知らせるな。
- それは、お前の施しが密かに行われるためである。そうすれば、隠れた所を見ておられるお前の父が、お前に必ず報いてくださる。
- また、祈るときには、偽善者たちのようであってはならない。彼らは、人に見られるように、会堂や通りの四つ角に立って祈ることを好んでいる。真実に、お前たちに言う。彼らは自分の報酬を受け取っている。
- それで、お前は、祈る時に自分の奥まった部屋に入れ。そして、戸を閉じ、隠れた所におられるお前の父に祈れ。そうすれば、隠れた所を見ておられるお前の父が、お前に必ず報いてくださる。
- また、祈るとき、異邦人のように長々とべらべら同じことばを繰り返してはいけない。彼らはことば数が多ければ聞かれると思っている。
- だから、彼らのまねをしてはならない。なぜならば、お前たちの父は、お前たちが願う前に、お前たちの必要とするものを知っておられるからである。
- だから、このように祈れ。 『天にいます私たちの父よ。御名があがめられますように。
- 御国が来ますように。みこころが天におけるように地でも行われますように。
- 私たちの一日に必要な糧を今日もお与えください。
- 私たちが、私たちに罪の負債を負っている人たちを赦したように、私たちの罪の負債をお赦しください。
- 私たちを試みに会わせないで、悪からお救いください。』
- もしお前たちが、人々の罪を赦すなら、お前たちの天の父もお前たちを赦してくださる。
- しかし、人々を赦さないなら、お前たちの父もお前たちの罪をお赦しにならない。
- 断食するときには、偽善者たちのようにやつれた顔つきをしてはいけない。彼らは、断食していることが人に見えるようにと、その顔をやつすのだ。真実に、お前たちに言う。彼らは自分の報いを受け取っている。
- だから、お前は、断食する時、自分の頭に油を塗り、顔を洗え。
- それは、断食していることが、人には見られないで、隠れた所におられるお前の父に見られるためである。そうすれば、隠れた所を見ておられるお前の父が報いてくださる。
- お前たちの宝を地上に積むのを止めよ。そこでは虫と錆で、きず物になり、また盗人が穴をあけて盗む。
- 自分の宝を天に蓄えよ。そこでは、虫も錆もつかず、盗人が穴をあけて盗むこともない。
- お前の宝のあるところに、お前の心もあるからだ。
- からだのあかりは目である。それで、もしお前の目が健全なら、お前の全身が明るいが、
- もし、目が悪ければ、お前の全身が暗くなる。それなら、もしお前の内の光が暗ければ、その暗さはどれほどになろうか。
- だれも、ふたりの主人に仕えることはできない。なぜならば、一方を憎んで他方を愛したり、一方を重んじて他方を軽んじたりするからである。お前たちは、神と富の両方に仕えることはできない。
- だから、わたしはお前たちに言う。自分のいのちのことで、何を食べようか、何を飲もうかと、また、からだのことで、何を着ようかと思い煩い続けてはいけない。いのちは食べ物より、またからだは着物より大切ではないか。
- 空の鳥を見よ。種蒔きもせず、刈り入れもせず、倉に納めることもしない。けれども、お前たちの天の父はこれらを養っておられる。お前たちは、鳥よりも、はるかに優れているではないか。
- お前たちのうちだれが、心配したからといって、自分の寿命を少しでも延ばすことができるのか。
- それならば、なぜ着物のことで思い煩い続けるのか。野のゆりが労苦せず、織りもせずにどうして育つのか、しっかり学べ。
- それで、わたしはお前たちに言う。栄華の頂点に達したソロモンでさえ、このような花の一つほどにも自分を飾れなかったのだ。
- 今日あっても、明日は炉に投げ込まれる野の草さえ、神はこれほどに装ってくださるのだ。ましてやお前たちを!ああ、信仰の薄い者たちよ。
- だから、何を食べようか、何を飲もうか、何を着ようか、などと言って思い煩うな。
- なぜならば、こういうものはみな、異邦人が切に求めているものであるからだ。しかし、お前たちの天の父は、それら全てをお前たちが必要としていることを知っておられるからだ。
- それで、第一に、神の国と神の義とを求め続けよ。そうすれば、これら全てはお前たちのために付け加えられる。
- だから明日のために心配するな。なぜならば、明日が、明日自身のことを心配するからだ。一日の労苦はその日の分で十分である。
7
- さばいていてはならない。さばかれないためである。
- なぜならば、お前たちがさばいているとおりに、お前たちもさばかれ、お前たちが量っているとおりに、お前たちも量られるからである。
- また、なぜお前は、兄弟の目の中の木くずは見つけるのに、自分の目の中の丸太には気がつかないのか。
- 兄弟に向かって、『あなたの目の木くずを取らせてくれ。』などとどうして言うのか。見よ。自分の目の中に丸太があるではないか。
- 偽善者よ。まず自分の目から丸太を取り除け。そうすれば、はっきり見えて、兄弟の目からも、木くずを取り除くことができる。
- 聖なるものを犬に与えるな。また豚の前に、真珠を投げるな。豚がそれを足で踏みにじり、向き直ってお前たちを咬み裂くといけないからだ。
- 求め続けよ。そうすれば必ず与えられる。探し続けよ。そうすれば必ず見つかる。叩き続けよ。そうすればお前たちのために必ず開かれる。
- なぜならば、だれでも、求め続ける者は受け続け、探し続ける者は見つけ続け、叩き続ける者には(必ず)開かれるからである。
- あるいは、お前たちの中に、自分の子がパンを求めているのに、石を与える者がいるだろうか。
- また、子が魚を求めているのに、蛇を与える者がいるだろうか。
- そのように、お前たちは、たとい悪い者であっても、自分の子どもには良い物を与えるべきであることを知っているのだ。ましてや、天におられるお前たちの父は、ご自分に求めている者たちに良いものを必ず与えてくださるのだ。
- それで、全て、自分のために人々にしてもらいたいことと同じことを、ほかの人々にもせよ。これが律法と預言者(が語っていること)である。
- 狭い門から入れ。なぜならば、滅びに至る門は大きく、その道は広いからだ。そして、そこから入って行く者が多い。
- いのちに至る門は狭く、その道も細く、それを見出す者が少ない。
- 偽預言者たちに気をつけよ。彼らは羊の着物を着てお前たちのところにやって来る。しかし、内部は貪欲な狼である。
- お前たちは、彼らの実によって彼らを見分けよ。人はいばらからぶどうの実を集めることができない。またあざみからいちじくの実を集めることもできない。
- 同様に、良い木は良い実を結ぶが、悪い木は悪い実を結ぶ。
- 良い木が悪い実をならせることはできないし、また、悪い木が良い実をならせることもできない。
- 全て、良い実を結ばない木は、切り倒されて、火に投げ込まれる。
- それだから、お前たちは、彼らの実によって彼らを見分けよ。
- わたしに向かって、『主よ、主よ。』と言っている者がみな天の御国に入るのではなく、天におられるわたしの父のみこころを行っている者が入るのである。
- その日には、大勢の者が『主よ、主よ。私たちはあなたの名によって預言をし、あなたの名によって悪霊を追い出し、あなたの名によって奇蹟をたくさん行ったではありませんか。』とわたしに言う。
- しかし、その時、わたしは彼らにこう宣告する。『わたしはお前たちを全く知らない。無法をなし続ける者ども。わたしから離れて行け。』
- だから、わたしのこれらのことばを聞いてそれを行っている者をみな、岩の上に自分の家を建てた賢い人にたとえることができる。
- 雨が降って洪水が押し寄せ、風が吹いてその家に打ちつけたが、それでも倒れなかった。岩の上に建てられていたからである。
- また、わたしのこれらのことばを聞いてそれを行っていない者をみな、砂の上に自分の家を建てた愚かな人にたとえることができる。
- 雨が降って洪水が押し寄せ、風が吹いてその家に打ちつけると、倒れてしまった。しかもそれはひどい倒れ方であった。」
- イエスがこれらのことばを語り終えられると、群衆はその教えに驚愕していた。
- なぜならば、イエスが、律法学者たちのようにではなく、権威ある者として教えておられたからである。
8
- イエスが山から降りて来られると、大勢の群衆がイエスに従った。
- すると、一人の重い皮膚病の人がみもとに来て、ひれ伏して、「主よ。お望みくだされば、あなたは私をきよめることがおできになります。」と言った。
- イエスは手を伸ばして、彼にさわり、「わたしの望みだ。きよくなれ。」と言われた。すると、直ちに彼の重い皮膚病はきよめられた。
- イエスは彼に、「気をつけて、だれにも話さないようにせよ。ただ、人々への証のために、行って、自分を祭司に見せよ。そして、モーセの命じた供え物をささげよ。」と言われた。
- イエスがカペナウムに入られた時、一人の百人隊長がみもとに来て、懇願して、
- 「主よ。私の召使い〔若者〕が全身麻痺で、家で寝かされたままで、ひどく苦しんでいます。」と言った。
- イエスは彼に、「わたしが行って、彼を癒そう。」と言われた。
- しかし、百人隊長は答えて言った。「主よ。あなたを私の屋根の下にお入れする資格は、私にはありません。ただ、一言語ってください。そうすれば、私の召使いは癒されます。
- 実は、私も権威の下にある者ですが、私自身の下にも兵士たちがいます。その一人に『行け。』と言えば行きますし、別の者に『来い。』と言えば来ます。また、しもべに『これをせよ。』と言えば、そのとおりにいたします。」
- イエスは、これを聞いて驚かれた。そしてついて来た人たちにこう言われた。「真実に、お前たちに言う。わたしはイスラエルのうちのだれにも、このような信仰を見たことがない。
- お前たちに言う。大勢の者が東からも西からも来て、天の御国で、アブラハム、イサク、ヤコブといっしょに食卓に着く。
- しかし、御国の子らは外の暗やみに放り出され、そこで泣いて歯ぎしりするのだ。」
- それから、イエスは百人隊長に、「行け。お前の信じたとおりにお前になるように。」と言われた。すると、ちょうどその時刻に、その召使いは癒された。
- それから、イエスは、ペテロの家に来られて、ペテロのしゅうとめが寝かされて、高熱で苦しんでいるのをご覧になった。
- イエスが彼女の手に触られると、熱がひき、彼女は起き上がり、イエスをもてなし始めた。
- 夕方になった時、人々は悪霊に憑かれた者を大勢みもとに連れて来た。そこで、イエスはみことばをもって霊どもを追い出し、また病気の人々をみな癒された。
- これは、預言者イザヤを通して言われた事が成就するためであった。「彼が私たちのわずらいを身に引き受け、私たちの病を背負った。」
- さて、イエスは群衆が自分の周りにいるのをご覧になると、(弟子たちに)向こう岸に行くようにお命じになった。
- そこに、一人の律法学者が進み出て、「先生。私はあなたのおいでになる所なら、どこにでも必ずついて行きます。」と言った。
- すると、イエスは彼に、「狐には穴があり、空の鳥には巣がある。だが人の子には枕する所もない。」と言われた。
- また、別の一人の弟子がイエスに、「主よ。まず行って、私の父を葬ることを許してください。」と言った。
- ところが、イエスは彼に、「わたしに従い続けよ。そして死人たちに彼らの中の死人たちを葬らせよ。」と言われた。
- イエスが舟にお乗りになったので、弟子たちもイエスに従った。
- すると、見よ、湖に大暴風が起こって、舟は大波をかぶった。ところが、イエスは眠っておられた。
- 弟子たちはイエスのみもとに来て、イエスを起こし、「主よ。助けてください。私たちは滅びます。」と言った。
- イエスは、「なぜこわがっているのか、信仰の薄い者たちだ。」と言われた。それから、起き上がって、風と湖を叱りつけられると、大なぎになった。
- 人々は驚いて、「風や湖までが言うことをきくとは、いったいこの方はどういう方なのだろう。」と言った。
- それから、向こう岸のガダラ人の地にお着きになると、悪霊に憑かれた人が二人、墓から出て来て、イエスに出会った。彼らはひどく狂暴で、だれもその道を通れないほどであった。
- すると、見よ、彼らはわめいて、「神の子よ。私たちにかまわないでください。まだその時ではないのに、もう私たちを苦しめに来られたのですか。」と言った。
- ところで、そこからずっと離れた所に、たくさんの豚の群れが飼ってあった。
- それで、悪霊どもはイエスにしきりに願って、「もし私たちを追い出そうとされるのでしたら、どうか豚の群れの中にやってください。」と言った。
- イエスは彼らに「行け。」と言われた。すると、彼らは出て行って豚の中に入った。すると、見よ、その群れ全体が湖に向かってどっと崖を駆け下って行った。そして、水の中で死んだ。
- 飼っていた者たちは逃げ出して町に行き、悪霊に憑かれた人たちのことなどを残らず知らせた。
- すると、見よ、町中の者がイエスに会いに出て来た。そして、イエスを見て、その地域から立ち去るようにと願った。
9
- イエスは舟に乗って湖を渡り、自分の町に帰られた。
- すると、見よ、人々が中風の人を床に寝かせたままで、みもとに運んで来た。そして、イエスは彼らの信仰を見て、中風の人に、「子よ。勇気を出せ。お前の罪は赦されている。」と言われた。
- すると、ある律法学者たちが、心の中で、「この人は神を汚している。」と言った。
- イエスは彼らの心の思いを知って、「なぜ、お前たちは、心の中で悪いことを考えているのか。
- 『お前の罪は赦されている。』と言うのと、『立ち上がって歩け。』と言うのと、どちらが容易か。
- お前たちに、この人の子が地上で罪を赦す権威を持っていることを知らせよう。」と言われた。それから中風の人に、「直ちに立ち上がれ。そして寝床を取り上げ、家に帰れ。」と言われた。
- すると、彼は起きて家に帰った。
- 群衆はそれを見て恐ろしくなり、このようなすばらしい権威を人々に示された神をあがめた。
- イエスは、そこから歩いて行かれる途中、収税所に座っているマタイという人をご覧になって、「わたしに従え。」と言われた。すると彼は立ち上がって、イエスに従った。
- さて、イエスがその家で食事の席に着こうとしておられると、見よ、大勢の取税人や罪人も来て、次々とイエスやその弟子たちといっしょに食卓に着いた。
- すると、これを見たパリサイ人たちが、イエスの弟子たちに、「なぜ、お前たちの先生は、取税人たちや罪人たちといっしょに食事をするのか。」と言った。
- イエスはこれを聞いて、「医者を必要とするのは丈夫な者ではなく、病人である。
- 『わたしは憐れみは好むが、いけにえは好まない。』とはどういう意味か、行って学べ。わたしは正しい人々を招くためではなく、罪人たちを招くために来たのだ。」と言われた。
- するとまた、ヨハネの弟子たちが、イエスのところに来て、「私たちとパリサイ人は断食するのに、なぜあなたの弟子たちは断食しないのですか。」と言った。
- イエスは彼らに言われた。「花婿につき添う友だちは、花婿がいっしょにいる間は、どうして悲しんだりできようか。しかし、花婿が取り去られる時が来る。その時に彼らは必ず断食する。
- だれも、真新しい布切れで古い着物の継ぎをするようなことはしない。なぜならば、その継ぎ切れが着物を引き破って、破れがもっとひどくなるからである。
- また、人は新しいぶどう酒を古い皮袋に入れるようなことはしない。そんなことをすれば、皮袋は裂けて、ぶどう酒が流れ出てしまい、皮袋もだめになってしまう。新しいぶどう酒は新しい皮袋に入れよ。そうすれば、両方とも保たれる。」
- イエスがこれらのことを話しておられると、見よ、一人の会堂管理者が来て、ひれ伏して、「私の娘がいま死にました。でも、おいでくださって、娘の上に御手を置いてやってください。そうすれば娘は生き返ります。」と言った。
- イエスが立って彼について行かれると、弟子たちもついて行った。
- すると、見よ。十二年の間出血を患っている女が、イエスのうしろからその着物のふさにさわった。
- 「お着物にさわることでもできれば、きっと治る。」と心のうちで考えていたからである。
- イエスは、振り向いて彼女を見て、「娘よ。勇気を出せ。お前の信仰がお前を全く治したのだ。」と言われた。すると、女はその時から治った。
- イエスはその管理者の家に来られて、笛吹く者たちや大声で泣きわめいている群衆を見て、
- 「帰れ。その少女は死んだのではないからだ。眠っているのだ。」と言われた。すると、彼らはイエスをあざ笑い始めた。
- イエスは、群衆を外に出してから、内に入り、少女の手を取られた。すると少女は起き上がった。
- このうわさはその地方全体に広まった。
- イエスがそこを出て、道を歩いておられた時、ふたりの盲人が大声で、「ダビデの子よ。私たちを憐れんでください。」と叫びながらついて来た。
- それで、イエスが家の中に入られたので、その盲人たちはイエスのみもとに来た。イエスが「わたしにそのことができると信じているのか。」と言われると、彼らは「そうです。主よ。」と言った。
- そこで、イエスは彼らの目にさわって、「お前たちの信仰のとおりに、お前たちになれ。」と言われた。
- すると、彼らの目が開けられた。イエスは彼らをきびしく戒めて、「決してだれにも知られないように気をつけよ。」と言われた。
- ところが、彼らは出て行って、イエスのことをその地方全体に言いふらした。
- この人たちが出て行くと、見よ、悪霊に憑かれた聾唖者が、みもとに連れて来られた。
- 悪霊が追い出されると、その聾唖者が語った。群衆は驚いて、「こんなことは、イスラエルでいまだかつてあったことがない。」と言った。
- しかし、パリサイ人たちは、「彼は悪霊どものかしらを使って、悪霊どもを追い出しているのだ。」と言っていた。
- それから、イエスは、全ての町や村を巡り始められた。そして、行く先々の会堂で教え、御国の福音を宣べ伝え、あらゆる病気、あらゆる障害を癒された。
- また、群衆を見、彼らが羊飼いのない羊のように弱り果てて倒れているので、彼らを深く憐れまれた。
- そのとき、弟子たちに、「収穫は多いが、働き手が少ない。
- だから、収穫の主に、ご自分の収穫のために働き手を送ってくださるように祈れ。」と言われた。
10
- イエスは十二弟子を呼び寄せて、汚れた霊どもを追い出し、あらゆる病気、あらゆる障害を癒す権威をお与えになった。
- さて、十二使徒の名は次のとおりである。第一にペテロと呼ばれるシモン、それにその兄弟アンデレ、ゼベダイの子ヤコブとその兄弟ヨハネ、
- ピリポとバルトロマイ、トマスと取税人マタイ、アルパヨの息子ヤコブと、タダイ、
- 熱心党員シモンとイエスを裏切ったイスカリオテ・ユダである。
- イエスは、この十二人を遣わし、彼らにこう命じられた。「異邦人の道に行くな。サマリア人の町に入るな。
- むしろイスラエルの家の滅んでしまっている羊のところに行け。
- 行って、『天の御国が近づいた。』と宣べ伝えよ。
- 病人を治し、死人を生き返らせ、重い皮膚病人をきよめ、悪霊を追い出せ。お前たちは、ただで受けたのだから、ただで与えよ。
- お前たちの胴巻に金貨や銀貨や銅貨を蓄えるな。
- 旅行用の袋も、二枚目の下着も、くつも、杖も持たずに行け。なぜならば、働く者が食べ物を与えられるのは当然だからである。
- どんな町や村に入っても、そこでだれが適当な人かを調べて、そこを立ち去るまで、その人のところにとどまれ。
- その家に入る時には、平安を祈る挨拶をせよ。
- その家がそれにふさわしい家なら、その平安をその家に来させよ。もし、それがふさわしい家でないなら、その平安をお前たちのところに返らせよ。
- もしだれも、お前たちを受け入れず、お前たちのことばに耳を傾けないなら、その家またはその町を出て行く時に、お前たちの足のちりを払い落とせ。
- 真実に、お前たちに言う。さばきの日には、その町に対するものより、ソドムとゴモラに対するもののほうが、もっと耐え易いのだ。
- 見よ。わたしはお前たちを狼の真ん中に羊を送り出すように遣わす。だから、蛇のように思慮深く、鳩のように素直であれ。
- 人々には用心せよ。なぜならば、彼らがお前たちを議会に引き渡し、会堂でむち打つからである。
- また、お前たちは、わたしのゆえに、総督たちや王たちの前に引き出される。それが、彼らと異邦人たちに対するあかしの機会となる。
- それで彼らがお前たちを引き渡した時、どのように、あるいは何を話そうかと心配するな。その時、お前たちに話すべきことばが与えられる。
- 語るのはお前たちではない。語られるのは、お前たちの内におられるお前たちの父の御霊である。
- 兄弟は兄弟を死に渡し、父は子を死に渡し、子どもたちは両親に立ち逆らって、彼らを殺す。
- また、わたしの名のために、お前たちは全ての人々に忌み嫌われる。それで、最後まで耐え忍ぶ者は救われる。
- 彼らがこの町でお前たちを迫害する時、他の町に逃げよ。真実にお前たちに言う。お前たちは、この人の子が来るまでに、イスラエルの町々を巡り尽くすことはない。
- 弟子は彼の師に優らず、奴隷は彼の主人に優らない。
- 弟子が彼の師のようになれたなら、彼にとって十分である。奴隷が彼の主人のようになれたなら十分である。人々が家長をベルゼブルと呼んでいるなら、その家族の者をそう呼ぶことは当然である。
- だから、彼らを恐れるな。なぜならば、おおわれているものは、必ず明るみに出され、今隠されているものは、やがて必ず知られるからである。
- わたしがお前たちに暗やみで話すことを光の中で語れ。また、お前たちが小声で聞くことを屋上で宣言せよ。
- からだを殺しても、たましいを殺すことができない者たちを恐れているな。そんなものより、たましいもからだも、ともにゲヘナで滅ぼすことのできる方を恐れよ。
- 二羽の雀は一アサリオンで売られているではないか。しかも、その中の一羽も、お前たちの父のお許しなしには地に落ちることはない。
- 実に、お前たちの頭の毛さえも、みな数えられている。
- だから恐れていてはいけない。お前たちは、多くの雀よりも優れている。
- だから、わたしを人の前で認める者を、わたしも、天におられるわたしの父の御前で認める。
- しかし、人の前でわたし(との関係)を否定する者を、わたしも天におられるわたしの父の御前で(関係を)否定する。
- わたしが来たのは地に平和をもたらすためだと思ってはならない。わたしは、平和をもたらすために来たのではなく、剣をもたらすために来たのだ。
- なぜなら、わたしは人をその父に、娘をその母に、嫁をそのしゅうとめに逆らわせるために来たからである。
- さらに、家族の者がその人の敵となる。
- わたしよりも父や母を愛する者は、わたしにふさわしい者ではない。また、わたしよりも息子や娘を愛する者は、わたしにふさわしい者ではない。
- 自分の十字架を負ってわたしについて来ない者は、わたしにふさわしい者ではない。
- 自分のいのちを自分のものとした者はそれを失い、わたしのために自分のいのちを失った者は、それを自分のものとする。
- お前たちを受け入れる者は、わたしを受け入れるのである。また、わたしを受け入れる者は、わたしを遣わされた方を受け入れるのである。
- 預言者を預言者だというので受け入れる者は、預言者の受ける報いを受ける。また、義人を義人だということで受け入れる者は、義人の受ける報いを受ける。
- わたしの弟子だというので、この小さい者たちの一人に、水一杯でも飲ませるなら、真実に、お前たちに言う。その人は決して報いを受け損なうことがない。」
11
- イエスは十二弟子に命令を与え終えられてから、彼ら〈ユダヤ人〉の町々で教えるため、また宣べ伝えるためにそこを立ち去られた。
- しかし、獄中でキリストの御業について聞いたヨハネは、その弟子たちに伝言を託して、
- 「来られるはずのお方は、あなたですか。それとも、私たちは別種の方を待つべきでしょうか。」とイエスに言い送った。
- イエスは答えて、彼らに、「お前たちは行って、自分たちの聞いたり見たりしていることをヨハネに報告せよ。
- 盲人たちが見、足の萎えた者たちが歩き、重い皮膚病の病人たちがきよめられ、耳の聞こえない者たちが聞こえ、死人たちが生き返り、貧しい者たちは福音を聞かされている。
- だれでも、わたしにつまずかない者は幸いである。」と言われた。
- この人たちが行ってしまうと、イエスは、ヨハネについて群衆に話しだされた。「お前たちは、何を見に荒野に出て行ったのか。風に揺れる葦か。
- でなかったら、何を見に行ったのか。柔らかい着物を着た人か。柔らかい着物を着た人たちなら王の宮殿にいる。
- でなかったら、何を見ようと出て行ったのか。預言者を見るためか。そのとおり。だが、わたしが言う。預言者よりも優れた者をだ。
- この人こそ、『見よ、わたしは使いをあなたの前に遣わし、あなたの道を、あなたの前に備えさせよう。』と書かれているその人である。
- 真実に、お前たちに言う。女から生まれた者の中で、未だかつてバプテスマのヨハネより優れた人が出たことはない。しかし、天の御国の一番小さい者でも、彼より偉大である。
- バプテスマのヨハネの日以来今日まで、天の御国は激しく攻められている。そして、激しく攻める者たちがそれを奪い取っている。
- ヨハネに至るまで、全ての預言者たちと律法とが(このことを)預言したのだ。
- もしお前たちが受け入れようと思うなら、実はこの人こそ、来るべきエリヤなのだ。
- 耳のある者は聞け。
- それで、この時代が何に似ていると言おうか。市場に座して、自分とは異なるグループの子どもたちに呼びかけている子どもたちに似ている。
- 彼らは、『僕たちは君たちに笛を吹いてやったけれど、君たちは踊らなかった。弔いの歌を歌ってやっても、胸を打って悲しまなかった。』と言う。
- というのは、ヨハネが来て、食べも飲みもしないと、人々は『あれは悪霊に憑かれているのだ。』と言い、
- 人の子が来て食べたり飲んだりしていると、『あれ見よ。あれは食いしんぼうの大酒飲み、取税人、平気で罪を犯す者どもの友だ。』と言う。しかし知恵はその知恵自体の行いによって正しさが直ぐに証明される。」
- それから、イエスは、数々の力ある業の行われた町々が悔い改めなかったので、責め始められた。
- 「ああコラジン。ああベツサイダ。お前たちのうちで行われた力ある業が、もしもツロとシドンで行われたのだったら、彼らはとうの昔に荒布をまとい、灰をかぶって悔い改めていたことだろう。
- しかし、そのツロとシドンのほうが、お前たちに言うが、さばきの日には、まだお前たちよりは罰が軽いのだ。
- カペナウム。どうしてお前が天に上げられることがありえよう。ハデスに落とされるのだ。お前の中でなされた力ある業が、もしもソドムでなされたのだったら、ソドムはきょうまで残っていたことだろう。
- しかし、そのソドムの地のほうが、お前たちに言うが、さばきの日には、まだお前よりは罰が軽いのだ。」
- 実にその時、続いて、イエスは(御父に)答えて言われた。「天地の主、御父よ。あなたを誉め讃えます。なぜならば、あなたはこれらのことを、賢い者や知恵のある者たちには隠して、幼子たちに現してくださったからです。
- そうです、父よ。なぜならば、このように成ることがあなたの御目に喜ばしいことであるからです。
- 全ての者は、わたしの父によってわたしに委ねられています。そして御父のほかには、子を熟知している者はありません。また、子と、子が父を啓示して知らせようと心に定めた人のほかは、だれも父を熟知する者はありません。
- 全て、疲れ果てている人たち、重荷を負わされている人たちよ。直ちにわたしのところに来い。わたしがお前たちに安息を与える。
- 直ちにわたしのくびきをお前たちの上に懸け、わたしから学べ。なぜならば、わたしは心穏やかで、心を低くしているからである。そうすれば、お前たちのたましいに安息が与えられる。
- なぜならば、わたしのくびきは心地よく、わたしの荷は軽いからである。」
12
- ちょうどその頃、イエスは、ある安息日に麦畑を通って歩かれた。弟子たちは空腹になった。それで、彼らは穂を摘んで食べ始めた。
- しかし、それを見たパリサイ人たちは、イエスに、「見よ。あなたの弟子たちは、安息日にはしてはならないことをしている。」と言った。
- そこで、イエスは彼らに言われた。「ダビデとその連れの者たちが飢えたとき、彼が何をしたか、読んだことがないのか。
- 神の家の中に入って、祭司以外には彼も彼の供の者も食べてはならない供えのパンを、彼らは食べたのだ。
- また、安息日に宮にいる祭司たちは安息日を破っても罪にならないということを、律法で読んだことはないのか。
- お前たちに言う。ここに宮よりも偉大な者がいるのだ。
- 『わたしは憐れみは好むが、いけにえは好まない。』ということがどういう意味かを知っていたら、お前たちは、罪のない者たちを罪に定めはしなかったはずだ。
- この人の子は安息日の主なのだ。」
- イエスはその場を離れ、(町の)人々の会堂に入られた。
- 見よ、そこに片手の萎えた人がいた。そこで、彼らはイエスを告訴しようとしてイエスに「安息日に人を癒すことは法にかなっているでしょうか。」と言って質問した。
- イエスは彼らに、「お前たちのうち、もしだれかが一匹の羊を持っていて、その羊が安息日に穴に落ちたなら、それを掴んで引き上げてやらないだろうか。
- 人間は羊よりはるかに価値があるのだ。それだから、安息日に良いことをすることは、正しいのだ。」と言われた。
- それから、イエスはその人に、「手を伸ばせ。」と言われた。彼が手を伸ばすと、手は治って、もう一方の手と同じようになった。
- パリサイ人たちは出て行って、どのようにしてイエスを殺そうかと相談した。
- それで、イエスはそれを知って、そこを立ち去られた。すると多くの群衆がついて来た。それで彼らの全てを癒された。
- そして、ご自分のことを人々に知らせないようにと、彼らを戒められた。
- これは、預言者イザヤを通して言われた事が成就するためであった。
- 「これぞ、わたしの選んだわたしのしもべ、わたしの心の喜ぶわたしの愛する者。わたしは彼の上にわたしの霊を置き、彼は異邦人に公義を宣べる。
- 争うこともなく、叫ぶこともせず、大路でその声を聞く者もない。
- 彼はいたんだ葦を折ることもなく、くすぶる燈心を消すこともない、公義を勝利に導くまでは。
- 異邦人は彼の名に望みをかける。」
- そのとき、悪霊に憑かれ、目が見えず、口もきけない人が担ぎ込まれた。イエスが彼を癒されたので、その人は口がきけるようになり、目も見えるようになった。
- それで、群衆はみな驚愕していた。そして彼らは、「もしかして、この人が、ダビデの子ではないのか。」と言い出した。
- これを聞いたパリサイ人たちは、「この人は、ただ悪霊どもの支配者ベルゼブルの力で、悪霊どもを追い出しているだけだ。」と言った。
- そこで、イエスは彼らの思いを知ってこう言われた。「内部で分裂している国は必ず荒廃する。またどの町も家も、分裂して相争えば立ち行かない。
- もし、サタンがサタンを追い出すならば、サタンは自分に対立して分裂したことになる。そうしたら、サタンの国はどうして立ち続けられようか。
- また、もしわたしがベルゼブルによって悪霊どもを追い出しているのなら、お前たちの子らはだれによって(悪霊どもを)追い出しているのか。だから、お前たちの子らが、お前たちをさばく者になるのだ。
- しかし、もしわたしが神の御霊によって悪霊どもを追い出しているのなら、神の国はお前たちのすぐそばに、すでに来ているのだ。
- そうでないならば、だれが強い人の家に入り、家財を奪い取ることができようか。まずその強い人を縛ってしまってから、その家を略奪するのだ。
- わたしの味方でない者はわたしの敵であり、わたしとともに集めない者は散らす者である。
- だから、わたしはお前たちに言う。人の全ての罪も冒涜も必ず赦される。しかし、聖霊に対する冒涜は決して赦されない。
- また、だれでも、たとい人の子に逆らうことを語っても必ず赦される。しかし、だれであっても聖霊に逆らって語る者は、今の時代でも、次に来るべき時代においても決して赦されない。
- 実が良い木を良い木と言い、実が悪い木を悪い木と言え。木はその実によって知られるのだ。
- お前たち、毒蛇のすえたちよ。お前たち悪い者に、どうして良いことが言えよう。なぜならば、心に満ちていることを口が話すからだ。
- 良い者は、良い倉から良い物を取り出し、悪い者は、悪い倉から悪い物を取り出す。
- わたしはお前たちに言う。さばきの日には、人々は語ったあらゆる無駄なことばについての弁明をしなければならないのだ。
- なぜならば、お前のことばによってお前は正しいと認められ、お前のことばによってお前は有罪と宣告されるからだ。」
- そのとき、律法学者、パリサイ人たちのうちのある者たちがイエスに答えて言った。「先生。私たちは、あなたからしるしを見せていただきたいのです。」
- しかし、イエスは答えて言われた。「悪い、姦淫の時代はしるしを求める。だが預言者ヨナのしるしのほかには、しるしは与えられない。
- なぜならば、ヨナは三日三晩、大魚の腹の中にいたが、同様に、この人の子も三日三晩、地の中にいることになるからだ。
- ニネベの人々が、さばきのときに、今の時代の人々に対して立ち上がり、この人々を必ず罪に定める。なぜなら、ニネベの人々はヨナの説教で悔い改めたからだ。しかし、見よ。ここにヨナよりも優る者がいるのだ。
- 南の女王が、さばきのときに、今の時代の人々に対して立ち上がり、この人々を必ず罪に定める。なぜなら、彼女はソロモンの知恵を聞くために地の果てから来たからだ。しかし、見よ。ここにソロモンより優る者がいるのだ。
- もし汚れた霊が人から出て行って、休み場を求めて砂漠中をさまよったが、見つからないと、
- 『私は、出て来た自分の家に帰ろう。』と言う。そして彼は帰って見ると、家が空いていて、よく掃除され、飾られているのを見る。
- そこで、その霊は出て行き、自分よりも一層悪い他の霊を七つ連れて来る。そしてそこにみな入り込んで住みついてしまう。そうなると、その人の終わりは、初めよりも一層悪くなる。実にこの悪の世代も、必ずこのようになるのだ。」
- イエスがまだ群衆に話しておられる時、イエスの母と兄弟たちが、イエスに話す機会を求めて、外に立ち続けていた。
- すると、だれかが、「見よ。あなたの母と兄弟たちが、あなたに話をしようと外に立っている。」と言った。
- しかし、イエスはご自分にそう言っている人に答えて、「わたしの母とはだれか。また、わたしの兄弟たちとはだれか。」と言われた。
- それから、イエスは手を弟子たちのほうに差し伸べて、「見よ。わたしの母、わたしの兄弟たちだ。
- なぜならば天におられるわたしの父のみこころを行う者はだれでも、わたしの兄弟、姉妹、また母なのだ。」と言われた。
13
- その日、イエスは家を出て、湖のほとりに座っておられた。
- すると、大勢の群衆がみもとに集まったので、イエスは舟に乗って腰をおろされた。それで群衆はみな浜に立っていた。
- イエスは多くのことを、彼らに喩えで話して聞かされた。「見よ。種を蒔く人が種蒔きに出かけた。
- 彼が蒔いている時、道端に落ちた種があった。すると鳥が来て食べてしまった。
- また、別の種が土の薄い岩地に落ちた。土が深くなかったので、すぐに芽を出した。
- しかし、日が昇ると、焼けて、根がないために枯れてしまった。
- また、別の種はいばらの上に落ちた。しかし、いばらが伸びて、その種をふさいで枯らしてしまった。
- しかし、別の種は良い地に落ちた。そしてあるものは百倍、他のものは六十倍、その他のものは三十倍の実を結んだ。
- 耳のある者は聞け。」
- すると、弟子たちが近寄って来て、イエスに、「なぜ、彼らに喩えでお話しになるのですか。」と尋ねた。
- イエスは答えて言われた。「それは、お前たちには、天の御国の奥義を知ることが許されているが、彼らには許されていないからだ。
- それで、だれでも持っている者にはさらに与えられ、溢れるようになる。しかし、だれでも持っていない者は持っているものまでも取り上げられる。
- それだから、わたしは彼らには喩えで話しているのだ。彼らは見てはいるが見ず、聞いてはいるが聞かず、また、悟ることもしないからだ。
- 実にイザヤの告げた預言が彼らに成就されているのだ。『お前たちは耳で聞け。だが決して悟るな。また確かに見てはいるだろうが、決して分かるな。
- なぜなら、この民の心は鈍くなっており、その耳は遠く、聞くことができず、目は閉じてしまっているからだ。それは、彼らがその目で見ず、その耳で聞かないためだ。そして彼らが心で悟り、立ち返らないためであり、わたしが彼らを癒すことがないためだ。』
- しかし、お前たちの目は見えているから幸いである。また、お前たちの耳は聞こえているから幸いである。
- だから真実にお前たちに言う。多くの預言者や義人たちが、お前たちが今見ているものを見たいと、切に願ったのに見られず、お前たちが今聞いていることを聞きたいと、切に願ったのに聞けなかったのだ。
- それで、お前たちは種蒔きの喩えを聞け。
- だれでも御国のことばを聞いても悟らないならば、悪い者が来て、その人の心の中に蒔かれてあったものを奪って行く。これが道端に落ちた種のような人のことである。
- また岩地に蒔かれた種とは、みことばを聞いた時、すぐに喜んで受け入れるが、
- その人の心の中に根がないので、しばらく続くだけで、みことばのための困難や迫害が起こると、すぐにつまずいてしまう人のことである。
- また、いばらの中に蒔かれた種とは、みことばを聞いているけれど、この世の思い煩いと富の惑わしがみことばを塞いでおり、そのために実が実らない人のことである。
- しかし、良い地の上に蒔かれた種とは、次のような人のことである。その人は、みことばを聞き続けており、そしてそれを悟っており、実際に、実を実らせ続け、百倍、あるいは六十倍、あるいは三十倍に増やしているのである。」
- イエスは、また別の喩えを彼らに示して言われた。「天の御国は、自分の畑に良い種を蒔いた人にたとえることができる。
- 人々が眠っている間に、彼の敵が来て麦の中に毒麦を蒔き、行ってしまった。
- それで麦が芽生え、実が実ったとき、毒麦も現れた。
- そこで、その家の主人のしもべたちが来て、『ご主人。あなたは畑に良い種を蒔かれたのではありませんか。どうして毒麦が生えているのでしょうか。』と言った。
- 主人は彼らに、『それは敵がやったことだ。』と言った。そこで、彼らは、『では、お望みならば私たちが行ってそれを抜き集めます。』と言った。
- だが、主人は、『いやだめだ。お前たちが毒麦を抜き集めるうちに、それらといっしょに麦も抜き取るかもしれない。
- だから、収穫まで、両方とも育つままにしておけ。収穫の時期になったら、私は刈る人たちに、「最初に毒麦を集め、焼くために束にせよ。麦のほうは、集めて私の倉に納めよ。」と言おう。』」と言われた。
- イエスは、また別の喩えを彼らに示して、「天の御国は、からし種に似ている。人がそれを取って、自分の畑に蒔いた。
- それはどんな種よりも小さいが、成長すると、野菜の中で一番大きくなる。そして空の鳥が来て、その枝に巣を作るほどの木になる。」と言われた。
- イエスは、また別の喩えを彼らに話された。「天の御国は、パン種に似ている。女が、それを取って、三サトンの粉の中に隠した。すると、全体が発酵した。」
- イエスは、これらのことをみな、喩えで群衆に話され、喩えを使わずには何もお話しにならなかった。
- それは、預言者を通して、「わたしは喩え話をもって口を開き、(世の)初めから隠されていることどもを語ろう。」と語られた事が成就するためであった。
- それから、イエスは群衆を去らせてから家に入られた。すると、弟子たちがみもとに来て、「畑の毒麦の喩えを十分に説明してください。」と言った。
- イエスは答えてこう言われた。「良い種を蒔く者は、この人の子である。
- 畑はこの世界のことであり、良い種とは御国の子どもたちのことである。それで、毒麦とは悪い者の子どもたちである。
- 毒麦を蒔いた敵とは、悪魔のことである。収穫とはこの時代の終わりのことである。そして、刈り手とは御使いたちのことである。
- だから、毒麦が集められて火で焼かれるように、この時代の終わりにもそのようになる。
- この人の子はその御使いたちを遣わす。御使いたちは、(今この世で)人を罪に引き入れている者や無法を行っている者たちをみな、やがて御国から取り集めて、
- 必ず火の燃える炉に投げ込む。そこには嘆きと歯ぎしりがある。
- そのとき、正しい者たちは、彼らの父の御国で太陽のように輝く。耳のある者は聞け。」
- 「天の御国は、畑に隠されている宝に似ている。その宝を見つけた人は、それを秘密にする。そして大喜びで出て行き、全財産を売り払い、その畑を買う。
- また、天の御国は良い真珠を探している商人に似ている。
- 彼は、すばらしい値打ちの真珠を一つ見つけると、行って持ち物を全部売り払ってしまい、それを買ってしまう。
- また、天の御国は、海におろしてあらゆる種類の魚を集める地引き網に似ている。
- 網がいっぱいになったとき、人々はそれを岸に引き上げ、座って、良いものを器に入れ、悪いものを捨てる。
- この時代の終わりにもそのようになる。御使いたちは出て行き、正しい者たちの中から悪い者を分離する。
- そして彼らを必ず火の燃える炉に投げ込む。そこには嘆きと歯ぎしりがある。
- お前たちは、これら全てを悟ったか。」と言われた。彼らはイエスに「はい。」と言った。
- そこで、イエスは彼らに言われた。「だから、天の御国の弟子にされた学者はみな、自分の倉から新しい物や古い物を取り出す一家の主人に似ている。」
- イエスは、これらの喩えを話し終えられると、そこから立ち去られた。
- それから、イエスはご自分の郷里に行かれて後、そこの会堂で人々を教え始められた。それで彼らは非常に驚いて、「こんな知恵と不思議な力はどこからこの人に。
- この人はあの大工の息子ではないのか。彼の母親はマリヤと呼ばれる女で、彼の兄弟は、ヤコブ、ヨセフ、シモン、ユダではないのか。
- 妹たちもみな私たちといっしょにいるではないか。とすると、この人は、いったいどこでこれら全てのものを手に入れたのか。」と言った。
- こうして、彼らはイエスに次々とつまずいた。しかし、イエスは、「預言者は、自分の郷里、家族の間では決して尊敬されない。」と彼らに言われた。
- そして、イエスは、彼らの不信仰のゆえに、そこでは多くの奇蹟をなさらなかった。
14
- ちょうどその時、国主ヘロデは、イエスのうわさを聞いて、
- 侍従たちに、「あれはバプテスマのヨハネだ。ヨハネが死人の中からよみがえったのだ。だから、あんな力が彼のうちに働いているのだ。」と言った。
- このヘロデは、自分の兄弟ピリポの妻ヘロデヤのことで、ヨハネを捕らえて縛り、投獄した。
- それは、ヨハネが彼に、「あなたが彼女をめとるのは不法である。」と言い張っていたからである。
- ヘロデはヨハネを殺したかったのだが、群衆を恐れていた。なぜならば、彼らがヨハネを預言者と認めていたからである。
- さて、ヘロデの誕生祝いの宴会が催された時、ヘロデヤの娘がみなの前で踊りを踊ってヘロデを喜ばせた。
- それで、彼は、その娘に、欲しい物は何でも与えると、堅く誓って約束した。
- ところが、娘は母親にそそのかされて、「今ここに、バプテスマのヨハネの首を盆に載せて私に下さい。」と言った。
- 王は心を痛めたが、自分の誓いもあり、また列席の人々の手前もあって、(それを)与えるように命令した。
- そして、彼は人をやって、牢の中でヨハネの首をはねさせた。
- そして、彼の首は盆に載せて運ばれ、その少女に与えられた。そして彼女はそれを母親のところに運んだ。
- それから、ヨハネの弟子たちがやって来て、死体を引き取って葬った。そして、彼らはイエスのところに行って報告した。
- このことを聞かれた時、イエスは舟でその場所から、自分だけで人里離れた所に向かわれた。すると、群衆がそれと聞いて、町々から、徒歩でイエスのあとを追った。
- イエスは舟から上がられて、多くの群衆を見られ、彼らを深く憐れまれた。そして彼らの中の病人たちを癒された。
- 夕刻になった時、弟子たちはイエスのところに来て、「ここは人里離れた所です。そして時刻ももう過ぎています。ですから、群衆を解散させ、村に行って自分で食物を買うように言ってください。」と言った。
- しかし、イエスは、「彼らが出かけて行く必要はない。お前たちが彼らに食べる物を与えよ。」と言われた。
- しかし、弟子たちはイエスに、「ここに、私たちは五つのパンと二匹の魚しか持っていません。」と言った。
- すると、イエスは、「それを、ここに、わたしのところに持って来い。」と言われた。
- そしてイエスは、群衆に草の上に座るように命じられ、五つのパンと二匹の魚を取り、天を見上げて感謝された。そしてそれらのパンを裂いて弟子たちに与えられた。それで、弟子たちは群衆に与えた。
- 人々はみな、食べて満腹した。そして、弟子たちは裂かれたパンの余りを十二の籠にいっぱい集めた。
- 食べた者は、女と子どもを除いて、男五千人ほどであった。
- それから直ちにイエスは弟子たちを強いて舟に乗り込ませ、自分より先に向こう岸へ行かせられた。そうしてから群衆を解散させられた。
- 群衆を解散させたあとで、祈るために、ひとりで山に登られた。夕方になったが、そこに、一人でおられた。
- しかし、舟は、陸からすでに数キロメートルも離れていた。風が向かい風なので、舟は波に悩まされていた。
- すると、夜中過ぎ、明け方近くになって、彼〈イエス〉は湖の上を歩いて、彼らに向かって来られた。
- 湖の上を歩いておられる彼〈イエス〉を見た弟子たちは動揺した。そして、それを幽霊だと言って、恐怖のあまり悲鳴を上げた。
- しかし、イエスはすぐに彼らに話しかけ、「しっかりせよ。わたしである。恐れていてはならない。」と言われた。
- すると、ペテロが答えて、「主よ。あなたなのですから、水の上を歩いてあなたのところまで来るように私に命じてください。」と言った。
- イエスは「来い。」と言われた。そこで、ペテロは舟から降り、水の上を歩いた。そしてイエスに向かって行った。
- ところが、彼は風を見て恐れた。そして沈み始めたので、「主よ。助けてください。」と叫んだ。
- そこで、イエスはすぐに手を伸ばして彼を掴んで、彼に、「信仰の薄い人だ。なぜ疑ったのか。」と言われた。
- ふたりが舟に上がると、風が止んだ。
- そこで、舟の中にいた者たちは、イエスを礼拝し、「真実にあなたは神の子です。」と言った。
- 彼らは湖を渡ってゲネサレの地に着いた。
- すると、その地の人々は、イエスが来られたことを知って、付近の地域にくまなく知らせを送った。そして、全ての病人を、みもとに連れて来た。
- そして、彼らはイエスの着物のふさに触ることだけでも許してくださいと、イエスにお願いしていた。そして、触った人々はみな、完全に癒された。
15
- その時、パリサイ人や律法学者たちが、エルサレムからイエスのところに来て、言った。
- 「あなたの弟子たちは、なぜ先祖の言い伝えをいつも犯すのですか。パンを食べるとき、いつも手を洗っていないではありませんか。」
- そこで、イエスは彼らに答えて言われた。「なぜ、お前たちも自分たちの言い伝えのために神の戒めをいつも犯すのか。
- 神は『あなたの父と母を敬え。』また『父や母をののしる者は、死刑に処せられる。』と言われたのだ。
- それなのに、お前たちは、『だれでも、父や母に向かって、「あなたがたが私から受け取るはずだった物は全て、神への供え物になりました。」と言う者は、
- それ以上、父、母を尊重する必要がない。』と言っている。こうしてお前たちは、自分たちの受け継いだ言い伝えによって神のことばの権威を否定している。
- 偽善者たち。イザヤはお前たちについて次のように語って正しく預言している。
- 『この民は、口先ではわたしを敬っている。しかし、彼らの心は、わたしからはるかに遠く離れている。
- 彼らは、わたしを空疎に拝んでいる。彼らが教えている教えは人間の戒めにすぎない。』」
- そして、イエスは群衆を呼び寄せて、「聞いて悟れ。
- 口に入るものは人を汚さない。しかし、口から出るもの、それが人を汚すのだ。」と言われた。
- その時、弟子たちが、近寄って来て、イエスに、「パリサイ人たちが、みことばを聞いて、つまずいたことを知っておられますか。」と言った。
- しかし、イエスは答えて、「天におられるわたしの父がお植えにならなかった木は、みな根から引き抜かれる。
- 彼らを放っておけ。彼らは、目の見えない人を手引きする目の見えない人である。もし、目の見えない人が目の見えない人を手引きするなら、ふたりとも穴に落ち込む。」と言われた。
- そこで、ペテロは、イエスに答えて、「私たちに、その喩えを説明してください。」と言った。
- イエスは言われた。「お前たちも、未だに分からないのか。
- 口に入るものはみな、腹に入り、便所に捨てられることが分からないのか。
- しかし、口から出るものは、心から出る。そのようなものが人を汚すのだ。
- なぜならば、心の中から、悪い考え、殺人、姦淫、不品行、盗み、偽証、冒涜が出て来るからである。
- これらが、人を汚すものである。しかし、洗わない手で食べることは人を汚さない。」
- それから、イエスはそこを去って、ツロとシドンの地方に立ち退かれた。
- すると、一人のカナン人の女がその地域から出て来て、「私に憐れみを。主よ。ダビデの子よ。娘は、ひどい悪霊憑きです。」と言って大声で叫んでいた。
- しかし、イエスは彼女に一言もお答えにならなかった。そこで、弟子たちはみもとに来て、「あの女を追い払ってください。私たちのうしろで叫んでいるのです。」と言ってイエスにしきりに願った。
- しかし、イエスは答えて、「わたしは、イスラエルの家の滅んでしまっている羊以外のところには遣わされていない。」と言われた。
- しかし、その女は来て、イエスを伏し拝んで、「主よ。私を助けてください。」と言い続けた。
- すると、イエスは答えて、「子どもたちのパンを取り上げて、小犬に投げてやるのはよくない。」と言われた。
- しかし、女は、「主よ。そのとおりです。ただ、小犬でも主人の食卓から落ちるパンくずはいただきます。」と言った。
- そのとき、イエスは彼女に答えて、「ああ女よ。お前の信仰は立派だ。その願いどおりになるように。」と言われた。すると、彼女の娘はその時から治った。
- それから、イエスはそこから移られて、ガリラヤ湖の畔に行かれた。そして山に登られ、そこに座っておられた。
- すると、大勢の人の群れが、足のなえた人、目の見えない人、不具者、口のきけない人、その他大勢の人々をみもとに連れて来た。そして、彼らをイエスの足もとに置いたので、イエスは彼らを癒された。
- それで、群衆は、口のきけない人がものを言い、不具者が治り、足のなえた人が歩き、目の見えない人が見えるようになったのを見て、驚いた。そして、彼らはイスラエルの神をあがめた。
- イエスは弟子たちを呼び集めて、「かわいそうに、この群衆はもう三日間もわたしといっしょにいて、食物を何も持っていない。彼らを空腹のままで帰らせたくない。途中で動けなくなるといけないから。」と言われた。
- そこで弟子たちは、「この辺鄙な所で、こんなに大勢の人に、十分食べさせるほどたくさんのパンが、どこから手に入るでしょうか。」と言った。
- すると、イエスは彼らに「どれぐらいパンがあるのか。」と言われた。彼らは、「七つです。それに、小さい魚が少しあります。」と言った。
- すると、イエスは群衆に、地面に座るように命じられた。
- それから、七つのパンと魚とを取り、感謝をささげてからそれを裂き、弟子たちに次々と与えられた。そして、弟子たちは群衆に配った。
- 人々はみな、食べて満腹した。そして、パン切れの余りを取り集めると、七つの編み籠にいっぱいあった。
- 食べた者は、女と子どもを除いて、男の数が四千であった。
- それから、イエスは群衆を解散させて舟に乗り、マガダン地方に行かれた。
16
- パリサイ人やサドカイ人たちがみそばに寄って来て、イエスをためそうとして、天からのしるしを見せてくださいと頼んだ。
- しかし、イエスは彼らに答えて言われた。「お前たちは、夕方には、『夕焼けだから晴れる。』と言うし、
- 朝には、『空が赤く、雲が低く垂れ込んでいるから、きょうは荒れ模様だ。』と言う。お前たちは、実に、空の様子を判断する方法を知っている。ではどうして時のしるしを見分けることができないのか。
- 悪い、姦淫の時代はしるしを求めている。しかし、ヨナのしるしのほかには、しるしは与えられない。」そう言って、イエスは彼らを残して去って行かれた。
- 弟子たちは、向こう岸に向かった時、パンを持って来るのを忘れた。
- イエスは彼らに、「パリサイ人やサドカイ人たちのパン種に注意し、警戒せよ。」と言われた。
- すると、彼らは、「これは私たちがパンを持って来なかったからだ。」と言って、彼らの間で議論していた。
- それを知られたイエスは言われた。「お前たち、信仰の弱い者たち。パンを持っていないことで、なぜ論じ合っているのか。
- お前たちはまだ分からないのか。五千人のための五つのパンと、籠にいくつ集めたかも、
- また、四千人のための七つのパンと、編み籠にいくつ集めたかも覚えていないのか。
- わたしがパンのことについてお前たちに語ったのではないことが、どうして分からないのか。ただ、パリサイ人やサドカイ人たちのパン種に警戒せよ。」
- 彼らはようやく、イエスがパンの種にではなく、パリサイ人やサドカイ人たちの教えに警戒するようにと言われたことを悟った。
- さて、ピリポ・カイザリアの地方に行かれたとき、イエスは弟子たちに、「人々は、この人の子をだれだと言っているか。」と尋ねて言われた。
- 彼らは言った。「バプテスマのヨハネだと言う人もあり、エリヤのような人だと言う人もあります。またほかの人たちはエレミヤのような人だとか、またあの預言者たちの一人だとも言っています。」
- イエスは彼らに、「では、お前たちは、わたしをだれだと言っているのか。」と言われた。
- シモン・ペテロが答えて、「あなたは、生ける神の御子キリストです。」と言った。
- するとイエスは、彼に答えて言われた。「バルヨナ・シモン。お前は幸いだ。このことをお前に明らかに示されたのは血肉〔人間〕ではなく、天にいますわたしの父である。
- では、わたしもお前に言う。お前はペテロだ。わたしはこの岩《ペトラ》の上にわたしの教会を建てる。ハデスの門もそれには決して勝てない。
- わたしは、お前に天の御国のかぎ〈複数〉を与える。何でもお前が地上で結ぶなら、それは天においても必ず結ばれている。お前が地上で解くなら、それは天においても必ず解かれている。」
- そのとき、イエスは、ご自分がキリストであることをだれにも言ってはならない、と弟子たちを戒められた。
- その時から、イエス・キリストは、ご自分がエルサレムに行って、長老、祭司長、律法学者たちから多くの苦しみを受け、殺され、そして三日目によみがえらなければならないことを弟子たちに示し始められた。
- するとペテロは、イエスを引き寄せて、諌め始めた。「主よ。神の御恵みがありますように。そんなことが、あなたに起こるはずはありません。」
- しかし、イエスは振り向いて、ペテロに、「下がれ。サタン。お前はわたしのつまずきの石だ。お前は神のことを思わないで、人のことを思っている。」と言われた。
- それから、イエスは弟子たちに言われた。「だれでもわたしについて来たいと思うなら、直ちに自分を捨て、直ちに自分の十字架を背負え。そしてわたしに従い続けよ。
- なぜならば、自分のいのちを救おうと思う者はそれを必ず失い、わたしのために自分のいのちを失う者は、それを必ず見出すからだ。
- 人が、たとい全世界を手に入れても、自分のいのちを損するならば、何の得があろうか。人は自分のいのちを買い戻すために、何を与えることができようか。
- なぜならば、この人の子は父の栄光を帯びて、御使いたちとともに、必ず来る。そして、その時、各々の行いに応じて必ず報いを与える。
- 真実に、お前たちに言う。ここに立っている人々の中に、死を味わう前に、この人の子が彼の王国(の権威)を帯びて来ようとしているのを見る人々がいる。」
17
- それから六日経って、イエスは、ペテロとヤコブとその兄弟ヨハネを呼び寄せ、密かに彼らを高い山に導いて行かれた。
- そして彼らの目の前で、御姿が変わり、御顔は太陽のように輝き、御衣は光のように白くなった。
- しかも、見よ。モーセとエリヤが現れてイエスと話し合っているではないか。
- すると、ペテロが口出ししてイエスに、「先生。私たちがここにいることは、すばらしいことです。もし、お求めならば、私が、ここに三つの幕屋を造ります。あなたのために一つ、モーセのために一つ、エリヤのために一つ。」と言った。
- 彼がまだ話している間に、見よ。光り輝く雲がその人々を包み、そして、雲の中から声が、「これは、わたしの子、しかも愛する子である。わたしはこの者に(十分に)満足している。彼の言うことを聞け。」と語った。
- 弟子たちは、この声を聞くと、倒れ伏した。そして非常に恐れた。
- すると、イエスが来られて、彼らに手を触れて、「立て。恐れているな。」と言われた。
- それで、彼らが目を上げて見ると、イエスおひとり以外にはだれも見えなかった。
- 彼らが山を降りるとき、イエスは彼らに、「この人の子が死人の中からよみがえらされるまでは、いま見た光景をだれにも話してはならない。」と命じられた。
- そこで、弟子たちはイエスに尋ねて、「すると、なぜ律法学者たちはまずエリヤが来るはずだと言っているのですか。」と言った。
- イエスは答えて、「実にエリヤは来る。そして全てのことを必ず立て直す。
- しかし、わたしは言う。エリヤはすでに来たのだ。ところが彼らはエリヤを認めなかった。そればかりか彼に対して好き勝手なことをした。そのように、この人の子もまた、彼らから苦しみを受けようとしている。」と言われた。
- そのとき、弟子たちは、イエスがバプテスマのヨハネのことを言われたのだと気づいた。
- それから、彼らが群衆のところに来ると、一人の人がイエスのそば近くに来て、御前にひざまずいた。
- そして、「主よ。私の息子を憐れんでください。てんかんで、非常に苦しんでおります。何度も火の中に落ち、何度も水の中に落ち続けています。
- そこで、その子をお弟子たちのところに連れて来ましたが、彼らは治すことができませんでした。」と言った。
- イエスは答えて、「ああ、不信仰な、曲がった世代だ。いつまでもお前たちのためにいることができないのだ。いつまでもお前たちを我慢し続けることができないのだ。その子をわたしのところに連れて来い。」と言われた。
- そして、イエスがその子をお叱りになると、悪霊は彼から出て行き、その子はその時から治った。
- そのとき、弟子たちはイエスのもとに来て、「なぜ、私たちには悪霊を追い出せなかったのですか。」と密かに言った。
- それでイエスは、「お前たちの信仰の薄さのゆえだ。だから、真実に、お前たちに言う。もし、からし種ほどの信仰があるなら、この山に、『ここからあそこに移れ。』と言えば移される。何一つお前たちにできないことはない。」と言われた。
- (なし)
- 彼らがガリラヤに集まっている間に、イエスは彼らに、「この人の子は、人々の手に今渡されようとしている。
- そして彼らに殺される。しかし三日目によみがえらされる。」と言われた。すると、彼らは非常に悲しんだ。
- また、彼らがカペナウムに来たとき、宮の納入金を集める者たちが、ペテロのところに来て、「あなたがたの先生は、宮の納入金を納めないのか。」と言った。
- 彼は「納めます。」と言った。そして彼が家に入ると、先にイエスのほうから、「シモン。どう思うか。世の王たちはだれから税や貢を取り立てるのか。自分の子どもたちからか、それともほかの人たちからか。」と言い出された。
- ペテロが「ほかの人たちからです。」と言うと、イエスは、「では、子どもたちにはその義務がないのだ。
- しかし、彼らにつまずきを与えないために、湖に行って釣りをして、最初に釣れた魚を取れ。その口を開けるとスタテル一枚が見つかるから、それを取って、わたしとお前との分として納めよ。」と言われた。
18
- ちょうどその時、弟子たちがイエスのところに来て、「それでは、天の御国では、だれが一番偉いのでしょうか。」と言った。
- そこで、イエスは小さい子どもを呼び寄せ、彼らの真ん中に立たせて、
- 言われた。「真実に、お前たちに言う。お前たちも心を入れ替えて子どもたちのようにならなければ、決して天の御国には入れない。
- だから、だれでもこの子どものように、自分を低くする者が、天の御国で最も偉大である。
- また、だれでも、このような子どもの一人を、わたしの名のゆえに受け入れる者は、わたしを受け入れるのである。
- しかし、わたしを信じているこの小さい者たちの一人にでもつまずきを与えるような者は、重い石臼を首にかけられて、湖の深みでおぼれ死にさせられたほうがましである。
- つまずきを与えるこの世は忌まわしい。つまずきが起こることは避けられない。しかし、つまずきをもたらす者は忌まわしい者である。
- それで、もし、お前の手か足の一つがお前につまずきを起こさせるなら、それを切って捨てよ。片手片足でいのちに入るほうが、両手両足そろっていて永遠の火に投げ入れられるよりは、お前にとってよいことなのだ。
- また、もし、お前の一方の目が、お前につまずきを起こさせるなら、それをえぐり出して捨てよ。片目でいのちに入るほうが、両目そろっていて燃えるゲヘナに投げ入れられるよりは、お前にとってよいことなのだ。
- お前たちは、これらの小さい者たちを、一人でも見下げないように気をつけよ。真実に、お前たちに言う。彼らの天の御使いたちは、天におられるわたしの父の御顔をいつも見ているからだ。
- (なし)
- お前たちはどう思うか。もし、だれかが百匹の羊を持っていて、そのうちの一匹が迷い出たとしたら、その人は九十九匹を山に残して、出かけて行って迷った一匹を捜し続けないだろうか。
- そして、もし、いたとなれば、真実に、お前たちに言う。その人は迷わなかった九十九匹の羊以上にこの一匹を喜ぶのだ。
- このように、これらの小さな者たちの一人でも滅びることは、天にいますお前たちの父のみこころではない。
- それで、もし、お前の兄弟が(お前に対して)罪を犯したなら、行って、ふたりだけの所で直ちに責めよ。もし彼がお前の言うことを聞き入れたなら、お前は兄弟を得たのである。
- もし聞き入れないなら、ほかに一人か二人をいっしょに連れて行け。二人か三人の証人の口によって、全ての事実が確認されるためである。
- それでもなお、言うことを聞き入れようとしないなら、教会に告げよ。教会の言うことさえも聞こうとしないなら、彼を異邦人か取税人のように扱え。
- 真実に、お前たちに言う。何でもお前たちが地上で結ぶなら、それは天においても必ず結ばれており、お前たちが地上で解くなら、それは天においても必ず解かれている。
- 真実に、お前たちにもう一度、言う。もし、お前たちのうち二人が、どんな事についても、地上で心を一つにして祈り求めるなら、天におられるわたしの父は、それを必ずかなえてくださる。
- なぜならば、二人また三人が、わたしの名にまで集められている所には、わたしもその真ん中にいるからである。」
- そのとき、ペテロがみもとに来て、「主よ。何度まで兄弟が私に対して罪を犯しても、私は彼を赦すべきでしょうか。七度まででしょうか。」と言った。
- イエスは言われた。「七度まで、などとわたしは言わない。七度を七十倍するまでと言う。
- このゆえに、天の御国は、しもべたちと清算をしたいと思った地上の王にたとえることができる。
- 清算が始まると、まず一万タラントの借りのあるしもべが、王のところに連れて来られた。
- しかし、彼が返済することができなかったので、その主人は彼に、自分の妻子も持ち物も全部売って返済するように命じた。
- それで、このしもべは、その主人の前にひれ伏して、『どうかご猶予ください。そうすれば必ず全部お払いいたします。』と言って、懇願し続けた。
- それで、しもべの主人は、彼を哀れに思って、彼を赦し、借金を免除してやった。
- ところが、そのしもべは、出て行くと、同じしもべ仲間で、彼から百デナリの借りのある者に出会った。彼はその人を捉まえ、首を絞めて、『借金を全て返せ。』と言った。
- 彼の仲間のしもべは、ひれ伏して、『猶予してくれ。必ず返すから。』と言って願った。
- しかし彼は承知せず、連れて行って、借金を返すまで牢に投げ入れた。
- それで、彼の仲間たちは事の成り行きを見て、非常に悲しんだ。そして彼らは主人の所に行き、その一部始終を説明した。
- そこで、主人は彼を呼びつけて、『悪いしもべだ。お前が願ったからこそ借金全部を免除してやったのだ。
- 私がお前を憐れんでやったように、お前も仲間を憐れんでやるべきではなかったのか。』と言った。
- こうして、主人は怒って、借金を全部返すまで、彼を拷問役人に引き渡した。
- お前たちもそれぞれ、心から兄弟を赦さないなら、天のわたしの父も、お前たちに、必ずこのようにされる。」
19
- そして、イエスはこれらの話を終えてから、ガリラヤから去られた。そしてヨルダンの向こうにあるユダヤ地方に入られた。
- すると、大勢の群衆がイエスについて来た。その所で彼らをお癒しになった。
- この時、パリサイ人たちがイエスのところに来た。そしてイエスを試みて、「どんな理由によってでも妻を離別することは律法に照らして正しいことでしょうか。」と言った。
- イエスは答えて言われた。「お前たちは読んだことがないのか。創造者は、初めから人を男と女に造られた。
- 『それゆえ、人はその父と母を離れて、その妻と結ばれ、ふたりが一体になるのだ。』と言われたのだ。
- それで、もはやふたりではなく、ひとりである。こういうわけで、人は、神が結び合わせたものを引き離してはならない。」
- 彼らはイエスに、「では、モーセはなぜ、離婚状を渡してから妻を離別せよ、と命じたのですか。」と言った。
- イエスは彼らに言われた。「モーセは、お前たちの心のかたくなさのゆえに、お前たちが妻を離別することを許したのだ。しかし、初めからそうだったのではない。
- 真実に、お前たちに言う。不倫以外の理由で自分の妻を離別し、別の女と結婚する者はだれでも、姦淫を犯している。」
- 弟子たちはイエスに、「もし夫の妻との関係がそんなものなら、結婚することは利益になりません。」と言った。
- しかし、イエスは、「そのことばを、だれでもが受け入れることができるのではない。ただ、そうなるようにされている者だけができる。
- というのは、母の胎内から、そのように生まれついた独身者がいる。また、人々によって独身者にならせられた者もいる。また、天の御国のために、自分から独身者になった者もいる。それを受け入れることができる者はそれを受け入れよ。」と言われた。
- そのとき、イエスに手を置いて祈っていただくために、子どもたちが連れられて来た。ところが、弟子たちは彼らを叱った。
- しかし、イエスは、「子どもたちが来るのを許せ。わたしのところに来るのを妨げてはならない。天の御国はこのような者たちの国なのだ。」と言われた。
- そして、手を彼らの上に置いてから、そこを去って行かれた。
- すると、一人の人がイエスに近づいて来て、「先生。永遠のいのちを得るためには、どんな良いことをなすべきでしょうか。」と言った。
- イエスは彼に、「なぜ、良いことについて、わたしに尋ねるのか。良い方は、唯一である。もし、いのちに入ることを願うなら、戒めを守れ。」と言われた。
- 彼は「どの戒めですか。」と言った。そこで、イエスは、「殺してはならない。姦淫してはならない。盗んではならない。偽証してはならない。
- 父と母とを敬え。あなたの隣人をあなた自身のように愛せよ。」と言われた。
- この青年はイエスに、「そのようなことはみな、守って来ました。何がまだ欠けているのでしょうか。」と言った。
- イエスは、彼に、「もし、お前が完全になりたいなら、帰って、お前の持ち物を売り払って貧しい者たちに与えよ。そうすれば、お前は天に宝を持つことになる。そして、直ちに来て、わたしに従い続けよ。」と言われた。
- ところが、青年はこのことばを聞くと、悲しんで去って行った。この人は多くの財産を持っていたからである。
- それから、イエスは弟子たちに言われた。「真実に、お前たちに言う。金持ちが天の御国に入ることはむずかしいのだ。
- 真実に、お前たちにもう一度言う。金持ちが神の国に入るよりは、らくだが針の穴を通るほうがもっとやさしいのだ。」
- 弟子たちは、これを聞くと、非常に驚いて、「それでは、だれが救われることができるのでしょう。」と言った。
- イエスは彼らをじっと見て、「それは人にはできないことだ。しかし、神にはどんなことでもできる。」と言われた。
- そのとき、ペテロはイエスに答えて、「ご覧ください。私たちは、何もかも捨てて、あなたに従いました。では、その私たちへの報酬は何ですか。」と言った。
- そこで、イエスは彼らに言われた。「真実に、お前たちに言う。世が改まってこの人の子がその栄光の座に着く時、わたしに従って来たお前たちも、必ず十二の座に着いて、イスラエルの十二の部族をさばくのだ。
- また、わたしの名のために、家、兄弟、姉妹、父、母、子、あるいは畑を捨てた者は全て、その百倍も必ず受け、また永遠のいのちを必ず受け継ぐ。
- ただ、先の者があとになり、あとの者が先になることが多いのだ。」
20
- 「天の御国は、自分のぶどう園で働く労務者を雇いに朝早く出かけた家の主人に似ている。
- 彼は、労務者たちと一日一デナリの約束ができると、彼らをぶどう園に送った。
- それから、第三時〈九時〉頃に出かけてみると、彼は別の人たちが何もせずに市場に立ち続けているのを見た。
- そこで、彼はその人たちに、『あなたがたも、ぶどう園に行きなさい。あなたがたに何でもふさわしいものを与えよう。』と言った。
- そこで彼らは行った。それから再び、第六時〈十二時〉頃と第九時〈三時〉頃に出かけて行って、同じようにした。
- また、彼は、第十一時〈五時〉頃に出かけてみると、別の人たちが立ち続けているのを見た。それで彼らに、『なぜ、一日中無駄に立ち続けていたのか。』と言った。
- 彼らは彼に、『だれも雇ってくれないからです。』と言った。彼は彼らに、『あなたがたも、ぶどう園に行け。』と言った。
- こうして、夕方になったので、ぶどう園の主人は、監督に、『労務者たちを呼び、最後に来た者たちから始めて、最初に来た者たちにまで、賃銀を払え。』と言った。
- そこで、五時頃に雇われた者たちが来て、それぞれ一デナリもらった。
- 最初の者たちが来た時、もっと多くもらえるだろうと思った。しかし彼らも同様に一デナリずつもらった。
- そこで、彼らはそれを受け取ると、主人に対してつぶやいて、
- 『この最後の連中は一時間しか働かなかった。それなのに彼らを、あなたは一日中、労苦と焼けるような暑さを辛抱した私たちと同じにしました。』と言った。
- しかし、彼はその一人に答えて、『友よ。私はあなたに悪いことはしていない。あなたは私に一デナリで同意したではないか。
- あなたはあなたの分を受け取って帰れ。私は、この最後の人にも、あなたと同じだけ与えたいのだ。
- 私が自分に関する物事で自分が決めたことを行うことが不法なのか。それとも、私が善良なので、あなたの目にねたましく見えるのか。』と言った。
- このように、必ずあとの者が先になり、先の者があとになるのだ。」
- さて、イエスは、エルサレムに上られるところであった。それで十二弟子だけを側に引き寄せ、歩きながら彼らに、
- 「見よ。わたしたちはエルサレムに向かっている。この人の子は、祭司長、律法学者たちに引き渡される。彼らはこの人の子を死刑に定める。
- そして、嘲り、むち打ち、十字架につけるため、彼を異邦人たちに引き渡す。しかし、この人の子は三日目に必ずよみがえる。」と話された。
- そのとき、ゼベダイの子たちの母が、息子たちといっしょにイエスのもとに来て、ひれ伏して、イエスに聞いていただきたいことがあると言った。
- イエスが彼女に、「何をして欲しいのか。」と言われると、彼女は、「私のこの二人の息子が、あなたの御国で、一人はあなたの右に、一人は左に座れるようにお約束してください。」と言った。
- イエスは答えて、「お前たちは自分が何を求めているのか、分かっていない。わたしがこれから飲まなければならない杯を飲むことができるか。」と言われた。彼らは「できます。」と言った。
- イエスは、「お前たちは、必ずわたしの杯を飲む。しかし、わたしの右と左に座ることは、わたしが許すことではなく、わたしの父によってそれに備えられている者たちに父がお許しになることだ。」と言われた。
- このことを聞いたほかの十人は、この二人の兄弟のことで腹を立てた。
- そこで、イエスは彼らを呼び寄せて、言われた。「異邦人の支配者たちは彼らを支配し、偉い者たちは彼らの上に権力をふるっていることをお前たちは知っている。
- しかし、お前たちの間では、そうであってはならない。お前たちの間で偉くなりたいと思う者は、お前たちの奉仕者になれ。
- お前たちの間で人の先に立ちたいと思う者はだれでも、お前たちのしもべになれ。
- それは、この人の子が来たのが、奉仕されるためにではなく、反対に奉仕するためであり、そして多くの者のための、贖いの代価として、自分のいのちを与えるためであるのと同じである。」
- 彼らがエリコを出ようとしていた時、大勢の群衆がイエスに従って来た。
- すると、見よ。道ばたに座っているふたりの目の見えない人が、イエスが通っておられると聞いて、叫んで、「主よ。私たちに、今すぐ、憐れみを。ダビデの子よ。」と言った。
- そこで、群衆は彼らを(直ちに)黙らせようとして叱った。しかし、彼らは一層大声で、「主よ。私たちに、今すぐ、憐れみを。ダビデの子よ。」と叫んだ。
- すると、イエスは立ち止まって、彼らを呼ばれた。そして、「わたしに何をして欲しいのか。」と言われた。
- 彼らはイエスに、「主よ。私たちの目を開けてくださることです。」と言った。
- イエスは憐れんで、彼らの目に触られた。すると、すぐさま彼らは再び見えるようになり、イエスに従った。
21
- それから、彼らはエルサレムに近づき、オリーブ山の近くのベテパゲまで来た。そのとき、イエスは、二人の弟子を送り出された。
- そして彼らに、「向こうに見える村へ行け。そうするとすぐに、繋がれている雌ロバと、それといっしょにいるロバの仔が見つかる。それをほどいて、わたしのところに連れて来い。
- もしだれかが何か言ったなら、『主がお入用なのだ。』と言え。そうすれば、すぐにそれらを渡してくれる。」と言われた。
- これは、預言者を通して言われた事が成就するために起こったのである。
- 「シオンの娘に言え。『見よ。あなたの王があなたのところに来られる。柔和な方で、しかも雌ロバの背に乗られる。実にロバの仔に乗っておられる。』」
- そこで、弟子たちは行って、イエスが指示されたとおりにした。
- そして、その雌ロバと、仔ロバとを連れて来て、自分たちの上着をそれらの上に掛けた。そしてイエスはその〈着物〈複数〉の〉上に座られた。
- すると、大群衆が、自分たちの上着を道の上に敷いた。また、ほかの人々は、木の枝を切って来て、次々と道に敷いた。
- そして、群衆は、イエスの前を行く者も、あとに従う者も、「ダビデの子にホサナ。主の御名によって来られる方に祝福あれ。いと高き所にホサナ。」と言って叫んでいた。
- こうして、イエスがエルサレムに入られた時、都全体が震え上がった。そして「この方は、どういう方なのか。」と言った。
- しかし、群衆は、「この方は、ガリラヤのナザレの、預言者イエスだ。」と言っていた。
- それから、イエスは宮に入られた。そして宮の中で売り買いしている者たちをみな追い出し、両替人のテーブルや、鳩を売る者たちの椅子を倒された。
- そして彼らに、「『わたしの家は祈りの家と呼ばれる。』と書かれている。それなのに、お前たちはそれを強盗どもの巣にしている。」と言われた。
- また、宮の敷地で、目の見えない人たちや足の萎えた人たちがみもとに来たので、イエスは彼らを癒された。
- ところが、祭司長、律法学者たちは、イエスのなさった奇蹟を見、また宮の中で子どもたちが大声で、「ダビデの子にホサナ。」と言って叫んでいるのを見て憤慨した。
- そしてイエスに、「あなたは、子どもたちが何を言っているか聞いているのか。」と言った。イエスは、「聞いている。お前たちは『あなたは幼子と乳飲み子たちの口に賛美を用意された。』ということを全く読んだことがないのか。」と言われた。
- イエスは彼らをあとに残し、都を出てベタニアに行き、そこに泊まられた。
- (翌)朝早く、イエスは都に上られる時、空腹になられた。
- 道端に一本のいちじくの木が見えたので、その木に近づいて行かれた。しかし、葉のほかは何も見つからなかった。それで、イエスはその木に「お前からは、もういつまでも、実がならないように。」と言われた。すると、そのいちじくの木は直ちに枯れた。
- 弟子たちは、これを見て、驚いて言った。「どうして、そのいちじくの木が直ちに枯れたのですか。」
- それでイエスは答えて、「真実に、お前たちに言う。もし、お前たちが、信仰を持ち、疑うことがなければ、いちじくの木になされたようなことができるだけでなく、たとい、この山に向かって、『持ち上げられて、海の中に投げ込まれよ。』と言っても、必ずそのとおりになる。
- お前たちが何でも信じて祈りをもって求めるものは、必ず与えられる。」と言われた。
- それから、イエスが宮に入られ、教えておられた時、祭司長、民の長老たちが、みもとに来て、「何の権威によって、これらのことをしているのか。だれが、あなたにその権威を授けたのか。」と言った。
- それでイエスは答えて言われた。「わたしも一言お前たちに尋ねよう。もし、お前たちがそれに答えるなら、わたしも何の権威によって、これらのことをしているかを話そう。
- ヨハネのバプテスマは、どこから来たのか。天からか。それとも人からか。」すると、彼らはこう言って、互いに論じ合い始めた。「もし、天から、と言えば、それならなぜ、彼を信じなかったのか、と言うだろう。
- しかし、もし、人から、と言えば、群衆がこわい。彼らはみな、ヨハネを預言者と認めているからだ。」
- そこで、彼らはイエスに答えて、「わからない。」と言った。イエスもまた彼らにこう言われた。「それではわたしも、何の権威によってこれらのことをしているのかをお前たちに話さない。
- ところで、お前たちは、どう思うか。ある人にふたりの息子がいた。その人は兄のところに来て、『きょう、ぶどう園に行って働いてくれ。』と言った。
- 兄は答えて『行きたくありません。』と言ったが、後で後悔して行った。
- それから、弟のところに来て、同じように言った。ところが、弟は答えて『行きます。父上。』と言ったが、行かなかった。
- ふたりのうちどちらが、父の願ったことをしたか。」彼らは言った。「先の者です。」イエスは彼らに言われた。「真実に、お前たちに言う。取税人や遊女たちが、お前たちより先に神の国に入るのだ。
- なぜならば、ヨハネが義の道によってお前たちのところに来た。しかしお前たちは彼を信じなかった。しかし、取税人や遊女たちは彼を信じた。しかも、お前たちはそれを見ながら、あとになって彼を信じるために悔い改めることもしなかったからだ。
- もう一つの喩えを聞け。ある家の主人がいた。彼は園にぶどうを植え、その周りに垣を巡らし、その中に酒ぶねを掘り、やぐらを建て、それを農夫たちに賃貸しして、旅に出かけた。
- さて、収穫の時が近づいた時、主人は自分の分を受け取ろうとして、農夫たちのところへしもべたちを遣わした。
- すると、農夫たちは、そのしもべたちを捕らえて、一人は袋叩きにし、もう一人は殺し、もう一人は石で打った。
- 主人はもう一度、前よりももっと多くの別のしもべたちを遣わした。しかし彼らはしもべたちに対して同じようにした。
- しかし、そのあと、その主人は息子を遣わして、『私の息子なら、敬ってくれるだろう。』と言った。
- すると、農夫たちは、その子を見て、『あれは跡取りだ。さあ、あれを殺して、あれが受け継ぐはずの財産を手に入れようではないか。』と話し合った。
- そして、彼を捉まえて、ぶどう園の外に追い出して殺してしまった。
- それでは、ぶどう園の主人が来た時、彼はその農夫たちにどうするだろうか。」
- 彼らはイエスに、「その悪党どもを情け容赦なく殺して、そのぶどう園を、季節には収穫を主人に納める別の農夫たちに必ず賃貸しする。」と言った。
- イエスは彼らに、「お前たちは、聖書の中の次のことばを今までに一度も読んだことがないのか。『家を建てる者たちの見捨てた石。それが隅の頭石になった。これは主によってなされたことだ。私たちの目には、驚きである。』
- だから、わたしはお前たちに言う。神の国はお前たちから取り去られ、神の国の実を結ぶ人々に与えられる。
- また、この石の上に落ちる者は、粉々に砕かれ、この石が人の上に落ちれば、その人を粉みじんに飛ばしてしまう。」と言われた。
- 祭司長たちとパリサイ人たちは、イエスのこれらの喩えを聞いたとき、自分たちのことについて話しておられることを知った。
- それでイエスを捕らえようとしたが、群衆を恐れた。群衆はイエスを預言者と認めていたからである。
22
- イエスはもう一度、喩えをもって語り、彼らに話された。
- 「天の御国は、王子のために結婚の披露宴を設けた王に喩えられる。
- 王は、招待しておいた者たちを呼ぶために、しもべたちを送ったが、彼らはどうしても来ようとしなかった。
- それで、もう一度、別のしもべたちに、『招待しておいた人たちに、このように言え。「見なさい。食事の用意がすでにできています。雄牛も太った家畜もほふられ、全てが整っています。宴会に来てください。」』と言って送り出した。
- ところが、彼らは知らぬ顔をして、ある者たちは畑に、別の者たちは商売に出て行った。
- その他の者たちは、王のしもべたちを捉まえて恥をかかせ、そして殺した。
- 王は怒って、兵隊を出して、その人殺しどもを滅ぼし、彼らの町を焼き払った。
- それから、王はしもべたちに、『宴会の用意はできている。しかし、招待しておいた人たちはふさわしくなかった。
- だから、田舎に通じる道の出口に行って、出会った者をみな宴会に招け。』と言った。
- それで、そのしもべたちは、通りに出て行って、良い人でも悪い人でも出会った者をみな集めた。それで婚宴の会場は列席者で満たされた。
- ところで、王が客を見ようとして入って来ると、そこに婚礼の礼服を着ていない一人の人を見つけた。
- そこで、王は、『あなたは、どうやって礼服を着ずに、ここに入って来たのか。』と言った。しかし、その人は黙っていた。
- そこで、王は給仕たちに、『あれの手足を縛って、外の暗やみに放り出せ。そこで泣いて歯ぎしりするのだ。』と言った。
- 実に、招待される者は多いが、選ばれる者は少ないのだ。」
- そのころ、パリサイ人たちが出て来て、どのようにしたらイエスをことばでわなにかけることができるかと相談した。
- 彼らは、その弟子たちを、ヘロデ党の者たちといっしょにイエスのもとに遣わして、こう言わせた。「先生。私たちは、あなたが真実な方で、真理に基づいて神の道を教えておられ、だれをもはばからないことを知っています。あなたは、人の顔色を見られないからです。
- それで、どう思われるのか言ってください。税金をカイザルに納めることは、律法にかなっていることでしょうか。かなっていないことでしょうか。」
- イエスは彼らの悪意を知って、「偽善者たち。なぜ、わたしをためすのか。
- 税金の金をわたしに見せよ。」と言われた。そこで彼らは、デナリを一枚イエスのもとに持って来た。
- そこで彼らに、「これは、だれの肖像か。だれの銘か。」と言われた。
- 彼らは、「カイザルのです。」と言った。そこで、イエスは、「それなら、カイザルのものはカイザルに、神のものは神に返せ。」と言われた。
- 彼らは、これを聞いて驚嘆し、イエスを残して立ち去った。
- ちょうどその日、復活はないと言っているサドカイ人たちが、イエスのところに来て、質問して、
- 言った。「先生。モーセは『もし、ある人が子のないままで死んだなら、その兄弟は死んだ者の妻をめとって、兄弟のために子孫を起こさなければならない。』と言いました。
- ところで、私たちの間に七人兄弟がありました。長男は結婚しましたが、死んで、子がなかったので、その妻を弟に残しました。
- 次男も三男も、そして七番目まで同じようになりました。
- そして、最後に、その女も死にました。
- すると復活の際には、その女は七人のうちだれの妻であるのでしょうか。彼らはみな、その女を妻にしたのです。」
- しかし、イエスは彼らに答えて言われた。「聖書も神の力も知らないので、お前たちは誤りを犯している。
- 復活の時には、人々はめとることも、とつぐこともない。人々は天にいる御使いたちのようである。
- それに、死人の復活については、神がお前たちに語られた事を、お前たちは読んだことがないのか。
- 聖書は、『わたしは、アブラハムの神、イサクの神、ヤコブの神である。』と語っている。神は死んでいる者の神ではない。生きている者の神である。」
- 群衆はこれを聞いて、イエスの教えに驚嘆していた。
- パリサイ人たちもイエスがサドカイ人たちを黙らせたと聞いて、その所に集まった。
- そして、彼らのうちの一人の法律家が、イエスを吟味して、
- 「先生。律法の中で、大切な戒めはどれですか。」と尋ねた。
- そこで、イエスは彼に言われた。「『心を尽くし、思いを尽くし、知力を尽くして、あなたの神である主を愛せよ。』
- これが大切な第一の戒めである。
- 『あなたの隣人をあなた自身のように愛せよ。』という第二の戒めも、それと同じように大切である。
- 律法全体と預言者とが、この二つの戒めにかかっている。」
- パリサイ人たちが集められていたので、イエスは彼らに質問されて、
- 「お前たちは、キリストについて、どう思うか。彼はだれの子か。」と言われた。彼らはイエスに、「ダビデの子です。」と言った。
- イエスは彼らに言われた。「それでは、どうしてダビデは、御霊によって、彼を主と呼び、
- 『主は私の主に言われた。「わたしがあなたの敵をあなたの足の下に従わせるまでは、わたしの右の座に着いていなさい。」』と言っているのか。
- ダビデがキリストを主と呼んでいる以上、どうして彼がダビデの子でありえようか。」
- それで、だれもイエスに一言も答えることができなくなっていた。また、その日以来、もはやだれも、イエスにあえて質問をする者はなかった。
23
- そのとき、イエスは群衆と弟子たちに話をして、
- こう言われた。「律法学者、パリサイ人たちは、モーセの座に座っている。
- だから、彼らがお前たちに命じることはみな、(素直に)行い、守り続けよ。けれども、彼らの行いをまねてはいけない。なぜならば、彼らは、言うだけで、実行しないからだ。
- また、彼らは重く負い難い荷を縛り合わせて、人々の肩に載せるが、その荷を動かすために、指一本触れようともしない。
- 彼らのしていることはみな、人々に見せるためである。だから彼らは経札の幅を広くし、衣のふさを長くしている。
- また、彼らは、宴会の上座や会堂の上席が大好きだ。
- 広場で挨拶されたり、人から先生と呼ばれたりすることを好んでいる。
- しかし、お前たちは先生と呼ばれるな。お前たちの教師はただひとりしかなく、お前たちはみな兄弟だからだ。
- お前たちは地上のだれかを、われらの父と呼ぶな。お前たちの父はただひとり、すなわち天にいます父だけであるからだ。
- また、師と呼ばれるな。お前たちの師は、キリストひとりだけであるからだ。
- お前たちのうちの一番偉大な者は、お前たちの給仕人でなければならない。
- だれでも、自分を高くする者は低くされ、自分を低くする者は高くされる。」
- 「しかし、ああ、お前たちは哀れだ。律法学者、パリサイ人の偽善者たちよ。なぜならば、お前たちは、人々の前で(天の御国の扉に)鍵をかけているからだ。それで自分も入れないばかりか、入ろうとしている人々をも入らせない。
- (なし)
- ああ、お前たちは哀れだ。律法学者、パリサイ人の偽善者たちよ。なぜならば、お前たちは改宗者を一人つくるために、海と陸とを巡り歩き、そして一人が改宗すると、その人を自分より倍も悪いゲヘナの子にしているからだ。
- ああ、お前たち、目の見えない案内人たちは哀れだ。『だれであっても神殿を指して誓う者には義務は一切ない。しかし、神殿の黄金を指して誓う者はそれを果たす義務を負っている。』とお前たちは言っているではないか。
- 愚かで、目の見えない者たちよ。黄金と、黄金を聖いものにする神殿と、どちらが大切か。
- また、『だれでも、祭壇を指して誓う者には義務は一切ない。しかし、祭壇の上の供え物を指して誓う者はその誓いを果たす義務を負っている。』と言っている。
- 目の見えぬ者たちよ。供え物と、その供え物を聖いものにする祭壇と、どちらが大切か。
- だから、祭壇を指して誓う者は、祭壇をも、その上の全ての物をも指して誓っているのだ。
- また、神殿を指して誓う者は、神殿をも、その中に住まわれる方をも指して誓っているのだ。
- 天を指して誓う者は、神の御座とそこに座しておられる方を指して誓っているのだ。
- ああ、お前たちは哀れだ。律法学者、パリサイ人の偽善者たちよ。なぜならば、お前たちは、はっか、いのんど、クミンなどの十分の一を納めているが、律法の中でそれよりはるかに重要なもの、すなわち正義と憐れみと信仰とを無視しているからだ。お前たちは、これらこそ行っていなければならないのだ。だが、それら〈十分の一を納めること〉を無視してはならない。
- 目の見えない案内人たちよ。お前たちは、ぶよを漉して除くが、らくだは呑み込んでいる。
- ああ、お前たちは哀れだ。律法学者、パリサイ人の偽善者たちよ。なぜならば、お前たちは、杯や皿の外側をきよめているが、内側を強奪と放縦でいっぱいにしているからだ。
- 盲目のパリサイ人たちよ。まず、杯の内側をきよめよ。そうすれば、外側もきよくなる。
- ああ、お前たちは哀れだ。律法学者、パリサイ人の偽善者たちよ。なぜならば、お前たちは白く塗った墓そっくりだからだ。墓は、その外側が実に美しく見えても、内側は死人の骨やあらゆる汚れたもので満ちている。
- そのように、お前たちも、外側は人々に正しいと見えているが、内側は偽善と無法で満ち溢れている。
- ああ、お前たちは哀れだ。律法学者、パリサイ人の偽善者たちよ。なぜならば、お前たちは預言者たちの墓を建て、また義人たちの記念碑を飾り、
- そして、『もし、私たちが先祖の時代に生きていたら、預言者たちの血を流した先祖の仲間にはならなかっただろうに。』と言っている。
- こうして、お前たちは、自分たちが預言者を殺した者たちの子孫であることを自分で証言している。
- お前たちは自分の先祖の升目の足りない所を満たせ。
- お前たち蛇ども、毒蛇の子たちよ。お前たちは、ゲヘナの刑罰をどうして逃れることができようか。
- それゆえ、見よ。わたしはお前たちに預言者、知者、律法学者たちを遣わす。するとお前たちはそのうちのある者を必ず殺し、十字架につけ、またある者を会堂でむち打ち、町から町へと追いかけ回す。
- それで、義人アベルの血からこのかた、神殿と祭壇との間で殺されたバラキヤの子ザカリヤの血に至るまで、地上で流される全ての義人の血(の報復)がお前たちの上に来るのだ。
- 真実に、お前たちに言う。これらの報いはみな、この世代の上に必ず来る。
- エルサレム、エルサレム。預言者たちを殺し、わたしがお前に遣わした者たちを石で打つ者よ。わたしは、めんどりがひなを翼の下に集めるように、お前の子らを幾たび集めようとしたことか。それなのに、お前たちはそれを好まなかった。
- 見よ。お前たちの家は荒れ果てたままに残される。
- わたしはお前たちに言う。『祝福あれ。主の御名によって来られる方に。』とお前たちが言うときまで、お前たちは今後決してわたしを見ることはない。」
24
- それから、イエスは宮を出て行き、歩いておられた。すると弟子たちがイエスに近寄って来て、宮の建物を指し示した。
- そこで、イエスは彼らに答えて、「お前たちは、これら全ての物に見入っているのだろう。真実に、お前たちに言う。ここで一つの石も崩されずに、他の石の上に残されることは決してないのだ。」と言われた。
- イエスがオリーブ山で座っておられると、弟子たちが、密かにみもとに来て、「いつ、それらのことが起こるのでしょうか。また何があなたのお現れの前兆、すなわちこの時代の終わりの前兆であるのかをお話しください。」と言った。
- そこで、イエスは彼らに答えて言われた。「だれもお前たちを惑わすことがないように見張っておれ。
- なぜならば、多くの者がわたしの名を名乗って現れ、『私がキリストだ。』と言って、多くの人を惑わすからだ。
- また、お前たちは、戦争のことを、また戦争のうわさを聞くようになる。しかし狼狽させられないように気をつけよ。なぜならばこれらは必ず起こらねばならないことであるからだ。しかし、まだ終わりではない。
- 民族は民族に、国は国に敵対して立ち上がり、方々に飢饉と地震が起こる。
- しかし、これらのことは全て、陣痛の始まりである。
- その時、人々は、お前たちを苦しみに会わせ、また殺す。また、お前たちはわたしの名のゆえに、全ての国の人々によって憎まれる。
- また、その時、大勢の人々が罪に引き込まれ、互いに裏切り合い、憎み合う。
- また、多くの偽預言者が立ち上がり、多くの人々を惑わす。
- また無法がはびこるので、多くの人たちの愛は冷える。
- しかし、最後まで耐え忍ぶ者は、必ず救われる。
- この御国の福音は、必ず全世界に宣べ伝えられ、全ての国民にあかしされる。それから終わりが来る。
- それゆえ、預言者ダニエルによって語られたあの『荒らす憎むべき者』が、聖なる所に立っているのを見たならば、──読者は悟れ。──
- そのときは、ユダヤにいる人々は山へ逃げよ。
- 屋上にいる者は、家の中から自分の物を持ち出そうとして下に降りるな。
- 畑にいる者は着物を取りに戻ってはいけない。
- だが、それらの日、悲惨なのは身重の女と乳飲み子を持つ女だ。
- ただ、お前たちの逃げるのが、冬や安息日にならぬように祈っておれ。
- なぜならば、その時、世の初めから、今に至るまで、いまだかつてなかったような、またこれからもないような、ひどい苦難があるからだ。
- そして、もし、その日数が限られていなかったなら、一人として救われる者はないだろう。しかし、選民のために、その日数は必ず限られる。
- その時、だれかがお前たちに『そら、キリストがここにいる。』とか、『そこにいる。』とか言っても、信じてはいけない。
- なぜならば、偽キリストたちや偽預言者たちが必ず立ち上がり、できれば選民をも惑わそうとして、大きなしるしや不思議なことをして見せるからだ。
- 見よ。わたしは、お前たちに(このことを)すでに語っておいた。
- それで、もし、彼らが『そら、荒野にいる。』と言っても、出て行くな。『そら、部屋の中に。』と言っても、信じるな。
- なぜならば、この人の子の現れは、いなずまが東から出て、西にひらめくようであるからである。
- 死体のある所には必ず、はげたかが集まるのである。
- だが、これらの苦難の期間の直後、太陽は暗くなり、月は光を放たず、星は天から落ち、天の万象は揺り動かされる。
- 実に、そのとき、この人の子のしるしが天に現れる。すると、地上のあらゆる種族は胸を打って悲しむ。そして彼らは、この人の子が大能と大いなる栄光を伴って天の雲に乗って来るのを見る。
- そして、この人の子は、大いなるラッパの響きとともに、御使いたちを遣わす。すると御使いたちは、天の果てから果てまでの地の四隅から彼の選民を集める。
- だから、いちじくの木から、喩えを学べ。枝が柔らかになり、葉が出て来ると、夏の近いことが分かる。
- そのように、お前たちもこれらのことの全てに気付いたなら、それが戸口まで来ていると知れ。
- 真実に、お前たちに言う。これらのことが全部起こってしまうまで、この時代は決して過ぎ去らない。
- この天地は過ぎ去る。しかし、わたしのことばが(成就せずに)過ぎ去ることは決してない。
- しかし、その(成就の)日と時がいつであるかは、だれも知らない。天の御使いたちも子も知らない。ただ父だけが知っておられる。
- なぜならば、この人の子の現れの日も、ちょうど、ノアの日のようであるからだ。
- 大洪水の前の日々、ノアが箱舟に入った日に至るまで、人々は、食べたり、飲んだり、めとったり、とついだりしていた。
- そして、大洪水が来て全ての物をさらってしまうまで、彼らは分からなかったのだ。実に、この人の子の現れ(の日)も、そのようになる。
- そのとき、畑に二人いたとする。すると、一人は取り去られ、一人は残される。
- 二人の人が臼をひいていたとする。すると、一人は取り去られ、一人は残される。
- だから、目を覚ましておれ。お前たちは、自分の主がいつ来られるか、知らないからだ。
- しかし、お前たちはこのことを知っている。家の主人は、泥棒が夜の何時に来ると分かっていたなら、眠らずに見張っていることだろう。また、自分の家が破られることを許しはしないだろう。
- このことのゆえに、お前たちも備えておれ。なぜならば、お前たちが考えもしない時に、この人の子が来るからである。
- では、家の主人が自分の家の召使いたちの上に任命して、彼らに適時、食事を与えさせる忠実な、そして思慮深いしもべとは、どのような者だろうか。
- 主人が帰って来た時、そのようにしているのを見られるしもべは幸いである。
- 真実に、お前たちに言う。その主人は彼に自分の全財産を任せるようになる。
- ところが、もし悪いしもべが心の中で、『私の主人は遅れている。』と言い、
- そのしもべ仲間を打ちたたき始め、酔っぱらいたちと飲んだり食べたりするならば、
- そのしもべの主人が、思いがけない日の思わぬ時間に帰って来て、
- 必ず、彼を厳罰に処し、その報いを偽善者たちと同じにする。そこには、必ず、泣き悲しみと歯ぎしりとがある。
25
- そこで、天の御国は、それぞれが自分のともしびを持って、花婿を出迎える十人の処女にたとえることができる。
- そのうち五人は愚かで、五人は賢かった。
- 愚かな者たちは、ともしびは持っていたが、油を持っていなかった。
- 賢い者たちは、自分のともしびといっしょに、入れ物に油を入れて持っていた。
- 花婿の来るのが遅れていた間に、みな居眠りし、そして寝込んでしまった。
- ところが、夜中になって、『そら、花婿だ。迎えに出よ。』と叫ぶ声がした。
- 処女たちは、みな起きて、自分のともしびを整えた。
- ところが愚かな者たちは、賢い者たちに、『あなたがたの油の中から、いくらか油を私たちに分けてください。私たちのともしびは消えかかっていますから。』と言った。
- しかし、賢い者たちは答えて、『だめです。自分たちとあなたがた両方のためには絶対に足りません。それよりも店に行って、自分自身のために買いなさい。』と言った。
- それで、彼女らが買いに行っている間に、花婿が来た。用意のできていた者たちは、彼といっしょに婚礼の祝宴に入った。そして戸が閉ざされた。
- そのあとで、残りの処女たちが来た。そして『ご主人さま、ご主人さま。私たちのために開けてください。』と言った。
- しかし、彼は答えて、『真実にお前たちに言う。私はお前たちを知らない。』と言った。
- だから、目を覚まして見張っておれ。なぜならばお前たちは、その日、その時を知らないからだ。
- また、天の御国は、ある人が旅に出る前に自分のしもべたちを呼んで、自分の財産を預けるようである。
- 彼は、各々その能力に応じて、一人には五タラント、もう一人には二タラント、もう一人には一タラントを与えた。それから旅に出て行った。
- 五タラント預かった者は、直ちに出て行って、それを元手にして働き、そしてもう五タラント儲けた。
- 同様に、二タラントの者も、もう二タラント儲けた。
- ところが、一タラント預かった者は、出て行って、地を掘って、その主人の金を隠した。
- さて、長期間の後、これらのしもべたちの主人が帰って来て、彼らと清算をした。
- すると、五タラント預かった者が来て、もう五タラント差し出して、『ご主人さま。あなたは私に五タラント預けてくださいました。ご覧ください。私はさらに五タラント儲けました。』と言った。
- その主人は彼に、『よくやった。良い忠実なしもべだ。お前は、わずかな物に忠実だったから、私はお前にたくさんの物を任せよう。お前の主人と喜びを共にしてくれ。』と言った。
- 二タラントの者も来て、『ご主人さま。あなたは私に二タラントお預けになりました。ご覧ください。私はもう二タラント儲けました。』と言った。
- その主人は彼に、『よくやった。良い忠実なしもべだ。お前は、わずかな物に忠実だったから、私はお前にたくさんの物を任せよう。お前の主人と喜びを共にしてくれ。』と言った。
- ところが、一タラント預かっていた者も来て、『ご主人さま。あなたは、蒔かない所から刈り取り、散らさない所から集めるひどい方だと分かっていました。
- 私はこわくなり、出て行って、あなたの一タラントを地の中に隠しておきました。さあどうぞ、これがあなたの物です。』と言った。
- ところが、主人は彼に答えて言った。『悪いなまけ者のしもべだ。私が蒔かない所から刈り取り、散らさない所から集めることを知っていたのか。
- だったら、お前はその私の金を、銀行に預けておくべきだった。そうすれば私は帰って来た時、利息と共に返してもらえただろうに。
- だから、そのタラントを彼から取り上げよ。それを十タラント持っている者に与えよ。
- なぜならば、持っている全ての者には、ますます与えられ、その人は溢れるばかり豊かになるが、持たない者からは、持っているものまでも取り上げられるからだ。
- 無用のしもべを、外の暗やみに投げ出せ。そこには嘆きと歯ぎしりがある。』
- この人の子が彼の栄光の輝きをまとって来る時、全ての御使いたちも彼と共に来る。その時、この人の子はその栄光の座に着く。
- そして、全ての民族が、その前に集められる。彼は、羊飼いが羊と山羊とを分けるように、彼らをより分ける。
- そして羊を自分の右に、山羊を左に置く。
- そうして、王は、その右にいる者たちに言う。『ここに来い。わたしの父に祝福された人たち。世の初めから、お前たちのために備えられている御国を受け継げ。
- なぜなら、わたしは空腹であった。するとお前たちは、わたしに食べる物を与えてくれた。わたしは渇いていた。するとお前たちはわたしに飲ませてくれた。わたしは宿無しであった。するとお前たちはわたしを家に泊めてくれた。
- わたしは裸であった。するとわたしに着る物を与えてくれた。わたしは病気であった。するとわたしを見舞ってくれた。わたしは牢にいた。するとわたしを訪ねてくれたからだ。』
- すると、その正しい人たちは、次のように言って答える。『主よ。いつ、私たちは、あなたが空腹なのを見て、食べる物を差し上げ、渇いておられるのを見て、飲ませて差し上げたでしょうか。
- いつ、私たちは、あなたが宿を探しておられるのを見て、家にお入れし、裸なのを見て、着る物を差し上げたでしょうか。
- また、いつ、私たちが、あなたのご病気やあなたが牢におられるのを見て、お訪ねしたでしょうか。』
- すると、王は彼らに答えて言う。『真実に、お前たちに言う。お前たちが、これらのわたしの兄弟たちの中の一人に、しかも最も小さい者にしたのは、わたしにしたのだ。』
- それから、王はまた、その左にいる者たちに言う。『のろわれた者ども。悪魔とその使いたちのために用意されている永遠の火に向かってわたしから離れて行け。
- わたしは空腹であったが、お前たちはわたしに食べる物をくれず、渇いていたが、わたしに飲ませなかった。
- わたしは宿無しであったが、お前たちはわたしを泊まらせず、裸であったが、わたしに着る物を与えてくれず、病気で、しかも牢にいたが、わたしを見舞ってもくれなかった。』
- そのとき、彼らも次のように言って答えるに違いない。『主よ。いつ、私たちは、あなたが空腹であり、渇き、宿無しで、裸で、病気で、牢におられるのを見て、お世話をしなかったでしょうか。』
- すると、王は彼らに答えて言う。『真実に、お前たちに言う。お前たちが、これらの最も小さい者たちの一人にしなかったのは、わたしにしなかったのだ。』
- こうして、この人たちは永遠の刑罰に入り、正しい人たちは永遠のいのちに入るのだ。」
26
- イエスは、ここに記されているみことば全てを話し終えられてから、ご自分の弟子たちに次のように言われた。
- 「お前たちの知っているとおり、二日たつと過越の祭りになる。今、この人の子は引き渡され、十字架につけられようとしている。」
- その時、祭司長、民の長老たちは、カヤパという名の大祭司の家の中庭に集まり、
- イエスを騙して捕らえ、殺そうと議決した。
- しかし、彼らは、「祭りの間はいけない。民衆の中に騒動が起こるといけないから。」と話していた。
- さて、イエスがベタニアで、重い皮膚病人(であった)シモンの家におられた時、
- 一人の女が極めて高価な香油の入った細首のローマングラスの瓶を持ってみもとに来て、食卓に着いておられたイエスの頭に注いだ。
- 弟子たちはこれを見て立腹し、そして、「こんな無駄は何のためだ。
- これは高く売れて、貧しい人たちに施しができたはずなのだ。」と言った。
- するとイエスはこれを知って、彼らに言われた。「なぜ、この女に難題を振りかけるのか。わたしのために良い働きをしたのだ。
- なぜならば、お前たちは、貧しい人たちとはいつもともにいるが、わたしとは、いつもおれないからだ。
- 彼女は、わたしのからだに、この香油を注いで、わたしの埋葬の準備をしたのだ。
- 真実に、お前たちに言う。世界中の、この福音が宣べ伝えられる全ての所で、彼女のした事も必ず語られ、彼女の記念となる。」
- そのとき、十二弟子の一人の、イスカリオテ・ユダという名の者が、祭司長たちのところへ行って、
- 「あなたがたは私にいくらくれるか。(金額によっては、)私は彼をあなたがたに引き渡そう。」と言った。それで、彼らは銀貨三十枚を彼に支払った。
- そのときから、彼はイエスを引き渡す機会を狙い始めた。
- さて、種なしパンの祝いの第一日に、弟子たちがイエスのところに来て、「あなたが過越の食事をお取りになるために、私たちはどこに用意をしましょうか。」と言った。
- イエスは、「都にはいって、あの例の人のところに行け。そしてその人に『先生が「わたしの時が近づいている。わたしの弟子たちと共に、あなたのところで過越を守ろうとしている。」と言っている。』と言え。」と言われた。
- そこで、弟子たちはイエスが命じられたとおりにした。そして過越の食事の用意をした。
- さて、夕方になったので、イエスは十二弟子といっしょに食卓に着かれた。
- みなが食事をしている時、イエスは、「真実に、お前たちに言う。お前たちのうちの一人が、わたしを引き渡す。」と言われた。
- すると、弟子たちは非常に悲しんで、「主よ。まさか私ではないでしょう。」とかわるがわるイエスに言い始めた。
- イエスは答えて言われた。「わたしといっしょに鉢に手を浸した者が、わたしを引き渡すのだ。
- 確かに、この人の子は、自分について書かれてあるとおりに、去って行く。しかし、この人の子を引き渡すその人は哀れだ。その人にとっては生まれなかったほうがよかったのだ。」
- すると、イエスを引き渡そうとしていたユダが答えて言った。「先生。まさか私ではないでしょう。」イエスは彼に、「お前だ。」と言われた。
- また、彼らが食事をしている時、イエスはパンを取り、感謝のことばを述べられた後、これを裂き、弟子たちに与えて言われた。「取って食べよ。これはわたしのからだである。」
- また杯を取り、感謝をささげて後、こう言って彼らにお与えになった。「みな、この杯から飲め。
- これは、罪の赦しを与えるために、多くの人のために流されるわたしの契約の血である。
- それで、わたしはお前たちに言う。わたしの父の御国で、お前たちと新しく飲むその日まで、わたしは決して、ぶどうの実で造った物を飲まない。」
- そして、賛美の歌を歌ってから、みなオリーブ山へ出かけて行った。
- そのとき、イエスは弟子たちに言われた。「お前たちはみな、今夜、わたしに必ずつまずく。『わたしが羊飼いを打つ。すると、羊の群れは散り散りになる。』と書いてあるからだ。
- しかしわたしは、よみがえらされて後、お前たちより先に、ガリラヤへ行く。」
- すると、ペテロがイエスに答えて、「たとい全部の者があなたにつまずいても、どうあっても、私は決してつまずきません。」と言った。
- イエスは彼に言われた。「真実に、お前に言う。今夜、鶏が鳴く前に、お前は三度、わたし(との関係)を否定する。」
- ペテロは、「たとい、ごいっしょに死ななければならないとしても、私は、決してあなた(との関係)を否定しません。」と言った。弟子たちもみなそう言った。
- それからイエスは弟子たちといっしょにゲッセマネと呼ばれる所に来て、弟子たちに、「わたしがあそこに行って祈っている間、ここに座っておれ。」と言われた。
- それから、ペテロとゼベダイの子ふたりとをいっしょに連れて行かれてから、イエスは悲しみもだえ始められた。
- そのとき、イエスは彼らに言われた。「わたしの心は死ぬほどに深く悲しんでいる。ここに留まって、わたしといっしょに目を覚まして見張っておれ。」
- それから、イエスは少し進んで行き、顔を地に付けて祈り、そして、「わが父よ。できますならば、この杯をわたしから過ぎ去らせてください。しかし、わたしの願うようにではなく、あなたのみこころのように、なさってください。」と言われた。
- それから、イエスは弟子たちのところに戻って来られた。そして彼らが眠っているのを見つけ、ペテロに言われた。「お前たちは、ただの一時間も、わたしといっしょに目を覚まして見張っていることができなかったのか。
- 目を覚まして見張っておれ。そしてお前たちが誘惑に陥らないように、祈っておれ。心が熱心であっても、肉体は弱いのだ。」
- 再びイエスは二度目に離れて行き、祈って言われた。「わが父よ。わたしが飲まない限り過ぎ去らない杯である以上、あなたのみこころが成りますように。」
- イエスは再び戻ってきて、彼らが眠っているのをご覧になった。それは彼らの目が重たかったからである。
- イエスは、彼らをそのままにして置いて、再び行かれた。そして、もう一度同じことをくり返して三度目の祈りをされた。
- それから、イエスは弟子たちのところに来て、「まだ眠り足りなくて休んでいるのか。見よ。時が近づいた。この人の子は罪人たちの手に渡される。
- 立て。さあ、行くのだ。見よ。わたしを引き渡す者がすぐ近くに来ている。」と言われた。
- イエスがまだ話しておられるうちに、見よ、十二弟子の一人であるユダがやって来た。彼といっしょに剣や棒を手にした大勢の群衆が、祭司長や民の長老たちから差し向けられて来た。
- イエスを裏切る者は、彼らに、「私が口づけする者が、それだ。その人を捉まえろ。」と言って合図を決めていた。
- それで、彼はすぐにイエスに近づき、「ようこそ、先生。」と言って、情熱的に口づけした。
- イエスは彼に、「友よ。何のためにここにいるのか。」と言われた。そのとき、群衆が来て、イエスに手をかけて捕らえた。
- すると、イエスといっしょにいた者の一人が、手を伸ばして自分の剣を抜き、大祭司のしもべに撃ってかかり、その耳を切り落とした。
- そのとき、イエスは彼に言われた。「剣をもとに納めよ。剣を取る者はみな剣で(必ず)滅びる。
- それとも、わたしが父にお願いして、御使いの十二以上の軍団を、今わたしの側に置いていただくことができないとでも思うのか。
- それでは、どうして、こうならなければならないと書いてある聖書が成就されようか。」
- そのとき、イエスは群衆に言われた。「お前たちは、わたしを捕らえるために、強盗を捕らえるかのように剣や棒を持って来たのか。わたしは毎日、宮で座って教えていた。しかし、お前たちはわたしを捕らえなかった。
- しかし、このこと全ては、預言者たちの書が成就されるため起きたのだ。」そのとき、弟子たちはみな、イエスを見捨てて、逃げて行った。
- イエスを捉まえた者たちは、イエスを大祭司カヤパのところへ連れ去って行った。そこには、律法学者、長老たちが集められていた。
- しかし、ペテロは遠くからイエスのあとについて歩き始めた。そして大祭司の家の中庭にまでついて行った。そして中に入って、結果を見ようと下役たちといっしょに座っていた。
- さて、祭司長たちと全議会は、イエスを死刑にするために、イエスに対する偽証を探していた。
- 偽証者が大勢進み出て来たが、(使えそうな偽証が)一つも見つからなかった。しかし、最後に二人の者が進み出て、
- 「この者は、『わたしは神の神殿を壊して、それを三日で建てることができる。』と言いました。」と言った。
- そこで、大祭司は立ち上がってイエスに、「何も答えないのか。あなたに関することをこの人たちが不利に証言しているではないか。」と言った。
- しかし、イエスは黙っておられた。それで、大祭司はイエスに、「私は、生ける神にかけてあなたに命じる。あなたが神の子キリストならば、そうだと私たちに言え。」と言った。
- イエスは彼に言われた。「お前の言うとおり〔わたしは神の子キリスト〕だ。なお、お前たちに言っておく。今からのち、お前たちは、この人の子が力ある方の右に座しているのを、また天の雲に乗って来るのを、必ず見ることになる。」
- すると、大祭司は、自分の衣を引き裂いて、「彼は神を冒涜した。これでもまだ、証人が必要だろうか。お前たちは、今、神を冒涜することばを聞いたのだ。
- お前たちはどう思うか。」と言った。それで、彼らは答えて、「彼は死刑に当たる。」と言った。
- その時、彼らはイエスの顔につばきをかけ、こぶしで殴りつけた。また、他の者たちは、イエスを平手で打って、
- 「キリスト。お前を打ったのはだれか当ててみろ。」と言った。
- さて、ペテロは中庭に入る戸の外に座っていた。その時、女中の一人が来て、「あなたも、ガリラヤ人イエスといっしょにいました。」と言った。
- しかし、ペテロはみなの前でそれを否定して、「私にはお前が言っていることが分からない。」と言った。
- それで、ペテロが外に通じる通路に出た時、他の女中が彼を見た。そしてそこにいた人々に、「この人はナザレ人イエスといっしょにいました。」と言った。
- それで、ペテロは、またもそれを否定し、誓いを立てて、「その人とは関係がない。」と言った。
- しばらくすると、立っていた人々が近寄って来てペテロに、「確かに、お前も彼らの仲間だ。お前のなまりがそれを証明している。」と言った。
- するとペテロは自分にのろいをかけて誓い始め、「私はその人と関係がない。」と言った。するとすぐに、鶏が鳴いた。
- そこでペテロは、「鶏が鳴く前に、お前は、わたし(との関係)を三度否定する。」とイエスの言われたあのことばを思い出した。そうして、彼は外に出て行って、激しく泣いた。
27
- さて、早朝、祭司長、民の長老たち全員は、会議を開き、イエスを死刑にすることを決めた。
- そして、イエスを縛って連れ出し、総督ピラトに引き渡した。
- そのとき、イエスの裏切り者ユダは、イエスが有罪を宣告されたことを知って後悔し、銀貨三十枚を、祭司長、長老たちに返した。
- そして、「私は罪のない人の血を売るという罪を犯した。」と言った。しかし、彼らは、「私たちとは関係がない。自分で始末することだ。」と言った。
- それで、彼はその銀貨を神殿に投げ込んで立ち去った。そして、外に出て行って、首をつった。
- 祭司長たちは銀貨を集めて、「これを神殿の金庫に入れることは正しくない。血の代価だから。」と言った。
- 彼らは相談して、その金で、旅人たちの墓地にするために陶器師の畑を買った。
- それで、その畑は、今でも血の畑と呼ばれている。
- そのとき、預言者エレミヤを通して言われた事が成就した。「彼らは銀貨三十枚を取った。それは、イスラエルの人々によって値積もりされたその人の値段である。
- 彼らは、主が私にお命じになったように、その金を払って、陶器師の畑を買った。」
- さて、イエスは総督の前に立たれた。すると、総督はイエスに「あなたは、ユダヤ人の王か。」と尋ねた。イエスは彼に「そのとおりだ。」と言われた。
- しかし、祭司長、長老たちからの訴えの間は、何もお答えにならなかった。
- そのとき、ピラトはイエスに、「彼らがお前のことをあれだけ多く不利に証言しているのが聞こえないのか。」と言った。
- それでも、イエスは、総督が非常に驚くほど、どのような(訴えの)ことばに対しても全くお答えにならなかった。
- ところで祭り毎に、総督が群衆に、彼らが願う囚人を一人解放することが習わしとなっていた。
- そのころ、バラバと呼ばれる有名な囚人がいた。
- それで、彼らが集まったとき、ピラトが、「お前たちは、だれを釈放してほしいのか。バラバか、それともキリストと呼ばれているイエスか。」と言った。
- それはピラトが、彼らがねたみからイエスを引き渡したことを知っていたからである。
- また、ピラトが裁判の席に着いていたとき、彼の妻が彼のもとに人をやって、「あの正しい人にはかかわり合わないでください。ゆうべ、私はあの人のことの夢で非常に苦しみましたから。」と言わせた。
- しかし、祭司長、長老たちは、バラバのほうを釈放し、イエスを死刑にすることを要求するよう群衆を説得した。
- しかし、総督は彼らに答えて、「お前たちは、ふたりのうちどちらを釈放してほしいのか。」と言った。彼らは、「バラバを。」と言った。
- ピラトは彼らに、「では、キリストと呼ばれているイエスを私はどのようにしようか。」と言った。彼ら全員が、「十字架につけろ。」と言った。
- だが、ピラトは言った。「あの人がどんな悪い事をしたというのか。」しかし、彼らはますます激しく、「十字架につけろ。」と叫び続けた。
- そこでピラトは、自分では手の下しようがなく、かえって暴動になると見て、群衆の目の前で水を取り寄せ、手を洗って、「この人の血については私は潔白だ。自分たちで始末するがよい。」と言った。
- すると、民衆はみな答えて、「その人の血は、私たちや子どもたちの上に(かかれ)。」と言った。
- そこで、ピラトは彼らにバラバを釈放し、イエスをむち打ってから、十字架につけるために引き渡した。
- それから、総督の兵士たちは、イエスを官邸の中に連れて行って、イエスの周りに全部隊〈六百人隊〉を集めた。
- そして、イエスを裸にして、緋色の上着を着せた。
- それから、いばらで冠を編み、イエスの頭にかぶらせ、右手に葦を持たせた。そして、彼らはイエスの前にひざまずいて、嘲って、「ごきげんよう。ユダヤ人の王さま。」と言った。
- また彼らはイエスにつばきをかけ、葦を取り上げ、イエスの頭を次々に叩いた。
- 彼らは、イエスを嘲った後、イエスから着物を剥ぎ取り、もとの着物を着せ、十字架につけるために連れ出した。
- そして、彼らは、出て行くうちに、シモンというクレネ人を見つけたので、この人にイエスの十字架を、むりやりに背負わせた。
- ゴルゴタという所、すなわち「どくろ」と言われている場所に来てから、
- 彼らはイエスに、苦みを混ぜたぶどう酒を与えた。イエスはそれを味わわれたが、飲もうとされなかった。
- 彼らはイエスを十字架につけた。そしてくじを引いて、イエスの着物を仲間の間で分けた。
- 彼らはそこに座って、イエスの番をしていた。
- また、イエスの頭の上に、「これはユダヤ人の王イエス。」と書かれた罪状書きを掲げた。
- そのとき、イエスといっしょに、二人の強盗が、一人は右に、一人は左に、十字架につけられた。
- 道を行く人々は、頭を振りながらイエスをののしっていた。
- そして言った。「神殿を打ち壊して三日で建てる人よ。神の子なのだから、自分を救え。十字架から降りて来い。」
- 同じように、祭司長たちも律法学者、長老たちといっしょになって、イエスを口々に嘲って言った。
- 「彼は他人を救ったが、自分は救えない。彼はイスラエルの王なのだから、今、直ちに十字架から降りよ。そうしたら、我々は彼を信じよう。
- 彼は神により頼んで来た。だから、もし神が彼を好んでおられると言うなら、神に今すぐ救ってもらえ。『わたしは神の子だ。』と言っていたのだから。」
- イエスといっしょに十字架につけられた強盗どもも、同じようにイエスをののしっていた。
- 第六時〈昼の十二時〉から第九時〈午後三時〉まで、全地が真っ暗になった。
- 第九時〈午後三時〉頃、イエスは大声で、「エリ、エリ、レマ、サバクタニ。」と絶叫された。これは、「わが神、わが神。どうしてわたしをお見捨てになったのですか。」という意味である。
- すると、そこに立っている人々のうちのある者たちはそれを聞いて、「この人はエリヤを呼んでいる。」と言っていた。
- また、彼らの一人がすぐ走って行って、海綿を取り、それに酸いぶどう酒を含ませ、葦の棒につけ、イエスに飲ませようとした。
- 他の者たちは、「そのままにしておけ。私たちはエリヤが助けに来るかどうか見ようではないか。」と言っていた。
- そのとき、イエスはもう一度大声で叫んで、息を引き取られた。
- すると、見よ。神殿の幕が上から下まで真っ二つに裂けた。そして、地が揺れ動き、岩々が裂けた。
- また、墓が開かれた。そして眠っていた多くの聖徒たちのからだが生き返った。
- そして、イエスの復活の後に墓から出て来て、聖都に入って来た。そして、多くの人に現れた。
- 百人隊長および彼といっしょにイエスの見張りをしていた人々は、地震や色々の出来事を見て、非常に恐れた。そして彼らは、「この人は真実に神の子であられた。」と言った。
- そこに、多くの女たちがいて、遠くから見ていた。彼女たちはイエスに奉仕するためにガリラヤからついて来たのであった。
- その中に、マグダラのマリヤ、ヤコブとヨセフとの母マリヤ、ゼベダイの子らの母がいた。
- 夕方になった時、アリマタヤの金持ちでヨセフという名の人が来た。この人もイエスの弟子になっていた。
- この人はピラトのところに行って、イエスのからだを求めた。そこで、ピラトは、(それを彼に)渡すように(部下に)命じた。
- ヨセフはイエスのからだを取り降ろして、きれいな亜麻布で包んだ。
- そして彼は、自分のために岩を掘って造った新しい墓にそれを納めた。そして彼は墓の入口に大きな石をころがし寄せた。そして去って行った。
- そこにマグダラのマリヤと他のマリヤとが墓に向かって座っていた。
- さて、次の日、すなわち備えの日の翌日、祭司長、パリサイ人たちはピラトのところに集まった。
- そしてこう言った。「閣下。私たちはあのペテン師がまだ生きていたとき、『自分は三日の後によみがえる。』と言ったことを思い出しました。
- ですから、三日目まで墓をしっかり番をするように命じてください。そうでないと、弟子たちが来て、彼を盗み出して、彼は死人の中からよみがえった、と民衆に言うかも知れません。そうなると、後のペテンのほうが、前のより、一層ひどいことになります。」
- ピラトは「お前たちは番兵を持っている〔番兵を連れて行け〕。行って、できるだけしっかり番をさせよ。」と彼らに言った。
- そこで、彼らは行って、石を封じ込み、番兵で墓を固めた。
28
- さて、その安息日の後、週の初めの日の明け方、マグダラのマリヤと、他のマリヤが墓を見に来た。
- すると、見よ、大きな地震が起こった。それは、主の使いが天から降りて来て、近づいて石をわきへころがして、その上に座ったからである。
- その顔は、いなずまのようであった。そしてその衣は雪のように白かった。
- 番兵たちは、その姿の恐ろしさから震え上がり、死人のようになった。
- すると、御使いは女たちに言った。「あなたがたは恐れていてはいけない。あなたがたが十字架につけられたイエスを捜していることを、私は知っている。
- ここにはおられない。その方は、約束されたように、よみがえられたからだ。来て、その方が置かれてあった場所を見よ。
- だから今すぐ、急いで行って、お弟子たちにあの方が死人の中からよみがえられたことを知らせよ。そして、見よ。あの方はあなたがたより先にガリラヤに行かれ、あなたがたは、そこで、お会いできる。見よ。私はあなたがたに語った。」
- そこで、彼女たちは、恐ろしくはあったが大喜びで、急いで墓を離れ、主の弟子たちに知らせに走って行った。
- すると、見よ。イエスが彼女たちに出会って仰せられた。「喜べ。」彼女たちはイエスに近寄って御足を抱いた。そして礼拝した。
- すると、イエスは言われた。「恐れていてはいけない。行け。わたしの兄弟たちに、ガリラヤに行くように伝えよ。彼らはそこでわたしに会えるのだ。」
- 女たちが向かっている間に、見よ、数人の番兵が都に来て、起こった事を全部、祭司長たちに報告した。
- そこで、祭司長たちは民の長老たちと、集まって協議した。そして、兵士たちに多額の金を与えることを決めた。そして、
- 彼らは、「『夜、我々が眠っている間に、彼の弟子たちがやって来て、彼を盗んで行った。』と言うのだ。
- もし、このことが総督の耳に入っても、私たちが彼を説得し、お前たちには心配をかけないようにする。」と言った。
- そこで、彼らは金をもらって、指図されたとおりにした。それで、この話が広くユダヤ人の間に広まって今日に及んでいる。
- しかし、十一人の弟子たちはガリラヤに行き、イエスが彼らに指示された山に登った。
- そして、彼らは、イエスにお会いし、礼拝した。しかし、ある者たちは疑った。
- イエスは近づいて来て、彼らにこう言われた。「わたしには天における、また地上における、いっさいの権威が与えられている。
- それゆえ、お前たちは行って、あらゆる国の人々を弟子とせよ。そして、彼らに父、子、聖霊の御名によってバプテスマを授け、
- また、わたしがお前たちに命令したこと全てを守るように、彼らを教え続けよ。見よ。わたしは、世の終わりまで、常に、お前たちと共にいる。」