ヨハネの福音書
1
- 初めからことばがおられた。そしてそのことばは神とともにおられた。そしてそのことば(の本質)は神であられた。
- この方は初めから神とともにおられた。
- 全てのものはこの方を通して造られた。そして、今、造られて存在しているもののうちの一つとして、この方なしで造られたものはない。
- この方の中にいのちがあった。そしてそのいのちは人々の光であった。
- そしてその光は闇の中に輝いている。しかし、闇はそれに勝てなかった。
- 神から遣わされた一人の人がいた。その人の名はヨハネであった。
- その人は証のために来た。それはその光について証をするためであり、全ての者が彼を通して(その光を)信じるためであった。
- この人はその光ではなかった。しかし、その光について証するために(来たのである)。
- 全ての人を照らす光、しかも真の光が世に来ようとしていた。
- その方は世の中におられた。実に世はこの方を通して造られたのに、世はこの方を認めなかった。
- この方はご自分の所有の国の中に来られた。しかし、そのご自分の所有の国民はこの方を受け入れなかった。
- しかし、この方は、だれでもこの方を(決定的に)受け入れる者に、すなわちこの方の御名を信じる者に、神の子どもとなる権利を(決定的に)お与えになる。
- この人たちは、血筋によらず、肉的な欲求にもよらず、また男性の欲にもよらず、ただ神から〔神の御意志に基づいて〕(神の家族の中に)生まれるのである。
- 実に、そのことばは一人の人となられた。そして私たちの間に(一時的に)住まわれた。それで私たちはこの方の栄光を見とどけた。それは御父の側におられるひとり子としての栄光であり、恵みと真理で満ちておられた。
- ヨハネはこの方について証言し、「この方は、私が、『私の後に来る方は私より優れた地位についておられる。なぜならば、その方は、私より早くからおられたからである。』と語った御方である。」と大声で語った。
- それゆえ、私たち全ては、この方の、その満ち満ちた豊かさの中から、実に恵みの上になお恵みを受けた。
- なぜならば、律法はモーセを通して与えられたが、恵みと真理はイエス・キリストを通して実現したからである。
- 神(がどのような御方であられるか)を見て知った者は、未だかつて一人もいない。御父の懐におられるひとり子の神が解き明かしてくださったのである。
- そして、これは、エルサレムのユダヤ人たちが祭司たちとレビ人たちをヨハネのもとに遣わし、「あなたはだれですか。」と尋ねさせたときのヨハネの証言である。
- 彼は明言し、(証言を)拒否しなかった。そして、「私はキリストではない。」と明言した。
- そして彼らは彼〈ヨハネ〉に、「では、あなたはだれですか。エリヤですか。」と尋ねた。すると彼は、「私はエリヤではない。」と言った。「あなたはあの預言者ですか。」すると彼は、「違う。」と答えた。
- それで彼らは彼に、「あなたはだれですか。私たちを遣わした者たちに答えを与えることができるようにしてください。あなたはあなた自身について何と言っているのですか。」と言った。
- 彼は、「私は、預言者イザヤが語ったように、主の道を真っ直ぐにせよ、と荒野で叫んでいる声である。」と言った。
- そして、遣わされて来ていた者たちはパリサイ人であった。
- また、彼らは彼に尋ねて言った。「もしあなたがキリストでもなく、エリヤでもなく、またあの預言者でもないならば、なぜあなたはバプテスマしているのですか。」
- ヨハネは彼らに答えて言った。「私は水でバプテスマをしている。あなたがたの間に、あなたがたの知らない方が(すでに)立っておられる。
- その方は私の後に来られる方である。私はその方のサンダルのひもを解く値打ちもない。」
- これらのことはヨルダン川の対岸のベタニアで起きた。その所でヨハネはバプテスマしていた。
- その翌日、彼はイエスが彼に向かって来られるのを見た。そして彼は言った。「見よ。世の罪を負う神の小羊。
- この方こそ、私が、その方について『私の後から一人の人が来られる。その方は私より優れた地位に着いておられる。なぜならば、その方は、私より早くからおられたからである。』と語った方である。
- 私はこの方を知らなかった。しかし、この方がイスラエル人に明らかに知らされるために、実にそのために、私は来たのであり、水でバプテスマしているのである。」
- そしてヨハネは証言して言った。「私は御霊が鳩のように天から下って来られ、その方の上に留まられたのを見とどけた。
- 実に私は(それまで)この方を(全く)知らなかった。しかし、水でバプテスマさせるために私を遣わされた御方が、『あなたが、御霊が下って来られて、ある人の上に留まられるのを見たならば、その人こそ聖霊によってバプテスマする方である。』と私に仰せられた。
- そして、私は見て分かったので、この方が神の御子であられると証して来たのである。」
- その翌日、再び、ヨハネと彼の弟子の中の二人が立ち続けていた。
- 彼〈ヨハネ〉は、歩いておられるイエスに注視し、そして、「見よ。神の小羊。」と言った。
- そして、その彼の二人の弟子たちは、彼がそう言うのを聞いて、イエスに従って行った。
- それでイエスは振り向かれ、彼らが付いて来るのをご覧になり、彼らに言われた。「何を探し求めているのか。」それで彼らは答えた。「ラビ(訳すと先生)。どこに泊まっておられるのですか。」
- 彼〈イエス〉は彼らに、「来い。そうしたら必ず分かる。」と言われた。それで彼らは行った。そしてイエスが泊まっておられる場所を見た。そして、その日、彼〈イエス〉のおられるところに泊まった。時は、およそ第十時であった。
- ヨハネから聞いて、主に従った二人の中の一人は、シモン・ペテロの兄弟アンデレであった。
- この人は、真っ先に、自分の兄弟シモンを捜し出し、彼に、「私はメシヤ(これは訳すとキリストである)を見つけ出した。」と言った。
- そして、彼をイエスのところに連れて行った。イエスは彼を注視し、そして、「お前はヨハネの子シモンである。お前をこれからケパ(訳すとペテロ)と呼ぼう。」と言われた。
- その翌日、彼〈イエス〉はそこを出てガリラヤ地方に向かって行くことを望まれた。そしてピリポを見つけられた。そして彼に、「わたしに従い続けよ。」と言われた。
- ピリポはアンデレとペテロの町の出身で、ベツサイダの人であった。
- ピリポはナタナエルを捜し出し、彼に言った。「私たちは、モーセと預言者たちが律法の中に(その方について)書き記した方を見つけた。その方はナザレ人、ヨセフの子イエスだ。」
- それでナタナエルは彼に、「ナザレから、だれか良い者が現れ得るのだろうか。」と言った。ピリポは彼に、「来て、そして見よ。」と言った。
- イエスはナタナエルがご自分の方に向かって来るのをご覧になった。そして彼について、「見よ。彼は真実にイスラエル人だ。彼の中には欺瞞がない。」と言われた。
- ナタナエルはイエスに、「あなたはどうして私を知っておられるのですか。」と答えた。イエスは彼に答えられた。そして、「ピリポがお前を呼ぶ前に、わたしはお前がイチジクの木の下にいるのを見た。」と言われた。
- ナタナエルは彼〈イエス〉に、「ラビ。あなたは神の御子です。あなたはイスラエルの王です。」と答えた。
- イエスは彼に答えて、「わたしが、お前がイチジクの木の下にいるのを見たと言ったので、お前は信じるのか。お前はこれらのことよりももっと大きなことを見るのだ。」と言われた。
- さらに彼に、「わたしは真実に、真実に、お前たちに言う。お前たちは天が開かれていて、神の御使いたちがこの人の子の上に上り下りしているのを必ず見る。」と言われた。
2
- そしてその三日目にガリラヤのカナで婚礼があった。そしてイエスの母がそこにいた。
- それで、イエスと彼の弟子たちもその婚礼に招待された。
- そして、ぶどう酒が足りなくなったので、イエスの母は彼〈イエス〉に向かって、「ぶどう酒がなくなりました。」と言った。
- イエスは彼女に、「女よ。あなたはわたしと何の係わりがあるのか。わたしの時は、まだ来ていない。」と言われた。
- 彼の母は給仕人たちに、「あの人があなたがたに命じることは、何でも行いなさい。」と言った。
- それで、そこにユダヤ人のきよめの習慣に従って、各々八十リットルから百二十リットル入る石の水瓶が六つ横たえてあった。
- イエスは彼らに、「水瓶を水で満たせ。」と言われた。それで彼らは水瓶を縁まで水で満たした。
- そして、彼〈イエス〉は彼らに、「今、汲んで、宴会の世話役のところに持って行け。」 と言われた。そこで彼らは持って行った。
- 世話役は、ぶどう酒に変えられた水を味わったとき、彼はそれがどこから来たのかを知らなかったが、──しかし、その水を汲んだ給仕人たちは知っていた。──世話役は花婿を呼んだ。
- そして、彼に言った。「全ての人は最初に良いぶどう酒を出すものだ。そして、皆が酔ってから悪いのを出す。しかしあなたは、今まで、良いぶどう酒を〔よくぞ〕取って置いた。」
- イエスは、ガリラヤのカナで、このことを最初の奇蹟として行われた。そしてご自身の栄光を現された。それで、彼の弟子たちは彼を信じた。
- このことの後、彼〈イエス〉と彼の母、兄弟たちと彼の弟子たちは、カペナウムに下って行った。しかし、彼らはそこには多くの日数留まらなかった。
- ユダヤ人の過越の祭りが間近に迫っていた。それでイエスはエルサレムに上って行かれた。
- そして、宮の中に牛や羊や鳩を売っている者たちや両替人らが座っているのをご覧になった。
- それで縄で鞭を作り、全ての羊と牛を宮から追い出された。そして両替人の金銭をばらまき、机をひっくり返された。
- そして、鳩を売っている者たちに言われた。「ここから全てを持ち去れ。わたしの父の家を商売人の家にするな。」
- 彼の弟子たちは、「あなたの家のための熱心さが私を食い尽くすことになる。」と書かれてあることを思い出した。
- それでユダヤ人らは、それに答えて、彼〈イエス〉に言った。「これらのことをするからには、あなたはどんなしるしを私たちに示すのか。」
- イエスは答え、彼らに言われた。「この宮を壊せ。そうしたら、わたしは三日のうちにそれをよみがえらせる。」
- それでユダヤ人らは言った。「この宮は四十六年かかって建てられた。それなのにあなたは三日のうちにそれを建て上げるのか。」
- しかし、この方はご自分のからだである宮について、語っておられたのである。
- それで、彼〈イエス〉の弟子たちは、彼〈イエス〉が死人たちの中からよみがえらされた時、彼がこのことを語っておられたことを思い出した。そしてその聖句と、イエスが語られたみことばを信じた。
- それで、彼〈イエス〉が過越の祭りの期間、エルサレムの宮の中におられた時、多くの者が、彼〈イエス〉が行っておられた奇蹟を見て、彼〈イエス〉の御名を信じた。
- しかし、イエスご自身は、全てを分かっておられたので、ご自分を彼らに任せようとはされなかった。
- それは、実に、彼〈イエス〉が、人間についてだれからも証言してもらう必要がなかったからである。なぜならば、彼〈イエス〉は、人の心の中に何があるかを知っておられたからである。
3
- さて、パリサイ人の一人で、ニコデモという名の人がいた。その人はユダヤ人の指導者であった。
- この人は夜、彼〈イエス〉のところに来た。そして彼〈イエス〉に、「先生。私たちは、あなたが天から来ておられる教師であることを知っています。なぜならば、神が共におられなければ、あなたが行っておられるようなしるしは、だれも行うことができないからです。」と言った。
- イエスは答え、そして彼に、「真実に、真実に、お前に言う。人は新しく生まれない限り、だれも神の国を見ることができない。」と言われた。
- ニコデモは彼〈イエス〉に、「どうして、人が、歳をとってから、生まれることができるのですか。人は自分の母の胎にもう一度入って生まれることはできないではないですか。」と言った。
- イエスは答えられた。「わたしは真実に、真実に、お前に言う。だれでも水と霊によって生まれない限り、神の国に入ることはできない。
- 肉から生まれている者は肉であり、御霊から生まれている者は霊である。
- わたしが、『お前たちは新しく〔上から〕生まれなければならない。』と言ったことで驚いてはならない。
- 風は、欲する所へ吹く。そして、お前はその音を聞く。しかし、お前はそれがどこから来て、どこに行くのかを知らない。御霊によって生まれている者全てもこのようである。」
- ニコデモは答えて、彼〈イエス〉に言った。「そんなことが、どうしてあり得るのでしょうか。」
- イエスは答えて、彼に言われた。「お前はイスラエルの教師であるのに、これらのことが分からないのか。
- わたしは真実に、真実に、お前に言う。わたしたちは知っていることを話している。そして、わたしたちは見て確認していることを証している。しかし、お前たちはわたしたちの証を受け入れていない。
- わたしがお前たちに地上のことを話しても、お前たちは信じないなら、天上のことを話したところで、どうして信じるだろうか。
- 天から下って来た者、すなわちこの人の子以外に、天に上ったことがある者は、一人もいない。
- 実に、モーセが荒野で蛇を高く上げたように、この人の子も上げられなければならない。
- それは、全て彼を信じている者が永遠のいのちを持っているようになるためである。」
- 実に、神は、世を愛された。そのために神はご自分のひとり子の御子を(世に)与えられたのである。それゆえ、全てその御子を信じている者は、滅びないばかりか、永遠のいのちを持っているのである。
- なぜならば、神が御子を世に遣わされたのは、世をさばくためではなく、御子を通して世が救われるためであったからである。
- 御子を信じている者はさばかれない。信じていない者はすでに有罪の判決を受けてしまっている。なぜならば、その人が神のひとり子の御名を信じないと決めてしまっているからである。
- その判決の基準は、これである。すなわち、光が世の中に来られたが、人々は、行いが悪かったので、その光よりも闇を愛したことである。
- なぜならば、全て悪を行っている者は、その光を憎んでおり、そして、その人は自分の行いが暴露されることを恐れて、その光の方に来ようとしないからである。
- しかし、真理を行っている者は、その人の行いが神によって働き出されたものであることが明らかにされるために、その光の方に来続ける。
- これらのことの後、イエスと彼の弟子たちはユダヤの地に入られた。そして、そこに弟子たちと共に滞在して、バプテスマしておられた。
- そしてヨハネもサリムに近いアイノンでバプテスマしていた。それは、そこには川が多かったからである。人々は次々とやって来て、バプテスマされていた。
- なぜならば、ヨハネは、まだ牢に入れられていなかったからである。
- それで、ヨハネの弟子たちの側からユダヤ人たちに対する、きよめについての議論が生じた。
- そして彼らはヨハネのところに来て、「先生。ヨルダン川の向こう側であなたと共におられ、そしてあなたが証された方が、見てください、バプテスマしておられ、皆があの方の所に行っています。」と言った。
- ヨハネは答えて言った。「人は天〔神〕から与えられているのでなければ、何一つ受けることができない。
- お前たちこそ、『私はキリストではない。しかしその方の前に遣わされている者である。』と私が語ったことを証言すべき、私の証人である。
- 花嫁を持つ者は花婿である。それで、花婿の側に立っていて、花婿の声を聞いている花婿の友は、花婿の(喜びの)声を聞いて、喜びに喜ぶ。だから、実に、その私の喜びは今満たされている。
- その方は栄えなければならない。しかし、私は衰えなければならない。」
- 天から来ている御方は、全てのものの上におられる。しかし地から出ている者〈単数〉は地に属している。そして地に属することを語る。天から来ておられる御方は、全てのものの上におられる。
- その御方は、実に知っていること、そして聞いたことそのものを証しておられる。しかし、その御方の証をだれ一人受け入れない。
- その御方の証を受け入れた者は、神が真実であられると確認したのである。
- 神によって遣わされた御方は、神のみことばを語られる。神は御霊を制限なしにお与えになるからである。
- 御父は御子を愛しておられる。そして御子の御手に全ての者を与えておられる。
- 御子を信じている者は永遠のいのちを持っている。しかし、御子に聞き従わない者は決していのちにあずかることがないばかりか、神の怒りがその者の上に留まっている。
4
- イエスは、御自分がヨハネよりも多く弟子をつくってバプテスマしていることをパリサイ人たちが聞いたと、知られたので、
- ──そうは言っても、イエスご自身がバプテスマしておられたのではなく、彼〈イエス〉の弟子たちであったが──
- 彼〈イエス〉はユダヤを去って、再び、ガリラヤへ向かわれた。
- それで、サマリアを通って行かなければならなかった。
- そこで彼〈イエス〉は、ヤコブがその子ヨセフに与えた地所に近いスカルというサマリアの町に来られた。
- さて、そこにはヤコブの井戸があった。それで、イエスは旅のために疲れておられたので、井戸の傍らに腰をおろしておられた。時は第六時頃であった。
- 一人のサマリアの女が水を汲みに来た。イエスは彼女に、「わたしに飲み水を与えよ。」と言われた。
- 弟子たちが食物を買うために、町へ出かけていたからである。
- そこで、そのサマリアの女は、「あなたはユダヤ人なのに、どうしてサマリアの女である私に、飲み水を求めるのですか。」とイエスに言った。──それはユダヤ人がサマリア人と交際しないからである。──
- イエスは答えて彼女に言われた。「もしお前が神の賜物と、また、『わたしに飲み水を与えよ。』と言っている者がだれであるかを知っていたなら、きっとお前がその人に(神の賜物を)求めたことだろう。そうしたら、その人はお前に生ける水を与えたはずだ。」
- その女は言った。「ご主人さま。あなたは汲む物を持っておられません。その上この井戸は深いのです。それなのに、その生ける水を、どこから手に入れて来られたのですか。
- まさかあなたは、私たちの先祖ヤコブよりも偉い方ではないでしょう。ヤコブは私たちにこの井戸を与え、彼自身も、彼の子たちも家畜も、この井戸から飲んだのです。」
- イエスは答えて彼女に言われた。「この水を飲む者はだれでも、必ずまた渇く。
- しかし、だれでもわたしが与えようとしている水を(一度)飲んだ者は、いつまでも決して渇くことがない。しかも、わたしが与えようとしている水は、その人のうちで、永遠のいのちへの水を湧き出し続ける泉となる。」
- その女は彼〈イエス〉に向かって言った。「ご主人さま。私が渇くことがなく、もうここまで汲みに来なくてもよいように、その水を私に下さい。」
- 彼〈イエス〉は彼女に言われた。「直ちに行って、お前の夫を呼んで、ここに連れて来い。」
- その女は答えて言った。「私は夫を持っていません。」イエスは彼女に言われた。「私は夫を持っていないと、お前は正直に言った。
- なぜならば、お前は夫を五人持ったが、今お前といっしょにいるのは、お前の夫ではないからだ。本当のことをお前は言ったのだ。」
- その女は彼〈イエス〉に、「ご主人さま。私は、あなたを預言者だと認めます。
- 私たちの先祖は、この山で礼拝しました。しかし、あなたがたは、礼拝すべき場所はエルサレムだと言っています。」と言った。
- イエスは彼女に言われた。「女よ。わたしを信じよ。なぜならば、お前たちが、この山でもなく、エルサレムでもない所で父を礼拝する時が来ようとしているからだ。
- お前たちは知らない方を礼拝しているが、わたしたちは知っている方を礼拝している。なぜならば、救いはユダヤ人から出るからだ。
- しかし、真の礼拝者たちが霊と真理によって父を礼拝する時が来ようとしている。そして、今がその時である。父はこのような礼拝者を求めておられる。
- 神は霊(的存在)であられる。それで、神を礼拝する者は、霊と真理によって礼拝しなければならない。」
- その女は彼〈イエス〉に言った。「私は、キリストと呼ばれるメシヤが来られることを知っています。その方が来られたならば、私たちに全てのことを知らせてくださるはずです。」
- イエスは彼女に、「お前と話しているこのわたしがそれだ。」と言われた。
- ちょうどこのとき、彼〈イエス〉の弟子たちが帰って来た。彼が一人の女性と話しておられたので、驚いていた。しかし、だれも、「何を求めておられるのですか。」とも、「何を彼女と話しておられるのですか。」とも言わなかった。
- それで、その女は、自分の水瓶を残して、町へ行った。そしてその人々に言った。
- 「(今すぐ)ある人を見に来てください。その人は、私のしたこと全部を言い当てました。この方がキリストではないでしょうか。」
- そこで、彼らは町を出て、彼〈イエス〉のところに続々とやって来た。
- ちょうどその間、弟子たちは彼〈イエス〉に、「先生。食事を取られたらどうでしょうか。」と言って訊ねた。
- そこで、彼〈イエス〉は彼らに、「わたしには、お前たちの知らない食物がある。」と言われた。
- そこで、弟子たちは、「だれかが食べ物を持って来たのだろうか。」と、互いに言っていた。
- イエスは彼らに言われた。「わたしの食物とは、わたしを遣わした方のみこころを行い、その方の業を成し遂げることである。
- お前たちは、『刈り入れの時までなお四ヶ月ある。』と言っていないか。見よ。わたしはお前たちに言う。目を上げて畑を見よ。麦はすでに、収穫に近づいて、色づいている。
- 刈る者は報酬を受けている。そして、永遠のいのちへの実を集めている。それで蒔く者と刈る者が共に喜んでいる。
- なぜならば、このことにおいて、『一人が種を蒔き、他の者が刈り取る。』ということわざが、真実となるからだ。
- わたしは、お前たちが労苦しなかったものを刈り取らせるために、お前たちを遣わす。他の人々がすでに労苦したのだ。そしてお前たちはその収穫にあずかっているのだ。」
- さて、その町のサマリア人の多くが、「あの方は、私がしたこと全部を私に言い当てた。」と証したその女のことばによって、彼〈イエス〉を信じた。
- さて、サマリア人たちが彼〈イエス〉のところに来て、自分たちのところに滞在してくださるようにしきりに願ったので、彼はそこに二日間滞在された。
- そして、一層多くの人々が、彼〈イエス〉のことばによって信じた。
- そして彼らはその女に、「私たちは、もう今、あなたが話したことばによって信じているのではない。私たちは、自分自身で聞いて、この方が真実に世の救い主であられると分かったのだ。」と言っていた。
- さて、その二日の後、彼〈イエス〉はそこを去って、ガリラヤへ行かれた。
- それは、イエスご自身が、「預言者は自分の故郷では尊ばれない。」と証言しておられたからである。
- それで、彼〈イエス〉がガリラヤに来られたとき、ガリラヤ人たちは、エルサレムで祭りの間に彼が行われた全てのことを見ていたので、彼を歓迎した。彼ら自身も祭りに行っていたからである。
- それで、彼〈イエス〉は再びガリラヤのカナに行かれた。そこは、彼〈イエス〉が水をぶどう酒に変えられた所である。さて、カペナウムに、王室のある役人がいて、その時、その人の息子が病気を患っていた。
- この人は、イエスがユダヤからガリラヤに来ておられると聞いて、彼〈イエス〉のところへ行った。そして、下って来て息子を癒してくださるようにしきりに願った。彼の息子が死にかかっていたからである。
- そこで、イエスは彼に言われた。「お前たちは、しるしと不思議を見ないかぎり、決して信じない。」
- その役人は彼に言った。「主よ。私の子どもが死なないうちに下って来てください。」
- イエスは彼に、「行け。お前の息子は生きている。」と言われた。その人は、イエスが自分に言われたことばを信じた。そして帰って行った。
- 彼が下って行く途中、彼のしもべたちが彼に出会って、彼の息子が生きていることを告げた。
- そこで子どもが快方に向かった時刻を彼らに尋ねた。すると、彼らは、「きのうの第七時〔午後一時〕に熱がひきました。」と言った。
- それでその父親は、イエスが、「お前の息子は生きている。」と言われた時刻が、その時刻であったことを知った。そして彼自身と彼の家の者がみな信じた。
- これは、イエスがユダヤを出て、ガリラヤに入ってから行われた、第二のしるしであった。
5
- それらのことの後、ユダヤ人の祭りがあった。それで、イエスはエルサレムに上られた。
- さて、エルサレムには、羊の門の近くに、ヘブル語でベテスダと呼ばれる池があった。その池には五つの柱廊があった。
- それら〈柱廊〉の中に大勢の病人、盲人、足のなえた者、やせ衰えた者が臥せっていた。
- (なし)
- そこに、ある人がいたが、三十八年間病気であった。
- イエスは、寝ているこの人を見て、彼がすでに長年病気であったことを知って、彼に、「治りたいか。」と言われた。
- その病人は彼〈イエス〉に、「主よ。私には、水がかき回されたとき、池の中に私を入れてくれる人がいません。私が行く間に、他の人が先に降りて行くのです。」と答えた。
- イエスは彼に言われた。「立ち上がり、床を取り上げよ。そして歩いて行け。」
- すると、その人は直ちに治った。そして自分の床を担いで、歩き始めた。
しかし、その日は安息日であった。 - それでユダヤ人たちは、その癒された人に、「今日は安息日だ。だから床を担ぐことは正しくない。」と言い出した。
- それで、その人は彼らに、「私を治してくださった方が、『お前の床を取り上げて歩け。』と言われたのです。」と答えた。
- 彼らは、「『取り上げて歩け。』とお前に言ったのはだれか。」と彼に尋ねた。
- しかし、癒された人は、それがだれであるかを知らなかった。イエスが、そこに大勢の人々がいたので、そっと離れて行かれたからである。
- それらのことの後、イエスは宮の中で彼を見つけられた。そして彼に、「見よ。お前は治っている。もはや罪を犯し続けてはならない。何か一層悪いことがお前に起こらないためだ。」と言われた。
- その人は行って、ユダヤ人たちに、自分を治した人はイエスだと報告した。
- それで、イエスが安息日にこれらのことをしておられるということで、ユダヤ人たちは、イエスを責め始めた。
- それで、彼〈イエス〉は彼らに答えられた。「わたしの父は今に至るまで働いておられる。だからわたしも働いているのだ。」
- それで、彼〈イエス〉が安息日を無視しておられただけでなく、ご自身を神と等しくして、神を自分の父と呼んでおられたので、ユダヤ人たちは、彼を殺すことを一層激しく求め始めた。
- そこで、イエスは彼らに答え、そして語り始められた。「わたしは真実に、真実に、お前たちに言う。子は、父がしておられることを見ない限り、自分からは何一つ行うことができない。なぜならば、父がなさることは何でも、子も同様に行うからだ。
- それは、父が子を愛しておられ、ご自分のなさることをみな、子に明らかに示されるからである。そして、これらよりも一層大きな業〈複数〉を子に指示しようとしておられる。それは、お前たちが驚き怪しむためだ。
- なぜならば、ちょうど、父が死人らを生かし、いのちをお与えになるように、子も与えたいと思う者にいのちを与えるからである。
- また、父はだれをもさばかれない。しかし、全てのさばきを子にゆだねておられる。
- それは、全ての者が、父を敬うように、子を敬うようになるためである。子を敬わない者は、子を遣わされた父をも敬わない。
- わたしは真実に、真実に、お前たちに言う。わたしのことばを聞いて、わたしを遣わされた方を信じている者は、永遠のいのちを持っており、さばきに至ることがなく、すでに死からいのちに移ってしまっているのである。
- わたしは真実に、真実に、お前たちに言う。死人たちが神の子の声を聞く時が来ようとしている。実に、今がその時だ。そして、聞き入れた者たちは(必ず)生き続ける。
- それは、父がご自分のうちにいのちを持っておられるように、子にも、自分のうちにいのちを持つことを許されたからだ。
- そして、父はさばきを行う権威も子に与えられた。なぜならば、子は人の子だからである。
- このことに驚いていてはならない。墓の中にいる全ての者が、子の声を聞く時が来る。
- そして、善を行った者たちは、いのちのよみがえりのために出て来る。悪を行った者たちは、さばきのよみがえりのために出て来る。
- わたしは、自分からは何一つ行うことができない。ただ聞くとおりにさばくのである。そして、わたしのさばきは正しい。なぜならば、わたしは、わたし自身の望むことを(行うことを)求めておらず、わたしを遣わされた方のみこころを求めているからだ。
- もし、わたしが自分自身の(利益の)ために証言しているなら、わたしの証言は真実ではない。
- わたしのために証言する方が他におられる。そして、わたしは、その方がわたしのために証言される証言が、真実であることを知っている。
- お前たちは、ヨハネのところに(人を)遣わし(てヨハネが現れた目的を訊ね)たことがあった。実に、彼は真理のために証したのだ。
- しかし、わたしは人の証言を必要としていない。実に、わたしがこれらのことを語っているのは、お前たちが救われるためだ。
- 彼〈ヨハネ〉は燃えて輝くともしびであった。そして、お前たちは、彼の光が輝いているしばらくの間、大いに喜び楽しむことを願った。
- しかし、わたしはヨハネの証言よりも優れた証言を持っている。わたしが成し遂げるようにと父がわたしにお与えになった業〈複数〉、すなわちわたしが今行っている業そのものが、父がわたしを遣わされたことを、わたしのために証言している。
- 実に、わたしを遣わした父ご自身がわたしのために証されたのだ。お前たちは、いまだかつてその御声を聞いたこともなく、御姿を見たこともない。
- また、お前たちは、その方のみことばをお前たちのうちにとどめてもいない。なぜならば、父が遣わされた者を、お前たちが信じていないからだ。
- お前たちは、聖書の中に永遠のいのち(を与える力)があると思っているなら聖書を調べよ。その聖書こそ、わたしについての証言なのだ。
- それなのに、お前たちは、いのちを得るためにわたしのもとに来ようとしていない。
- わたしは人からの栄誉を受けない。
- しかし、わたしは、お前たちのうちに、神を愛する愛がないことを(以前から)知っている。
- わたしは、わたしの父の御名によって来ている。しかし、お前たちはわたしを受け入れない。他の者〈単数〉がその者自身の名において来れば、お前たちはその者を(必ず)受け入れる。
- 互いの栄誉は受けても、唯一の神からの栄誉を求めていないお前たちは、どうして(わたしを)信じることができるだろうか。
- わたしが、父の前にお前たちを訴えようとしていると思ってはならない。お前たちを訴える者は、お前たちが望みを置いて来たモーセである。
- だから、もしお前たちがモーセを信じているなら、わたしを信じるはずだ。なぜならば、モーセはわたしについて書いたのだからだ。
- しかし、お前たちがモーセの書を信じないのであれば、どうしてわたしのことばを信じることができようか。(決してできない。)」
6
- これらのことの後、イエスはガリラヤの湖、すなわち、テベリアの湖の向こう岸へ行かれた。
- 大勢の群衆が彼〈イエス〉につき従っていた。それは、彼らが、彼〈イエス〉が病人たちのためになさっておられるしるしを見たがっていたからである。
- それで、イエスは山に登られた。そしてそこに弟子たちと共に座られた。
- さて、ユダヤ人の祭りである過越が間近になっていた。
- その時、イエスは目を上げて、大勢の人の群れがご自分のほうにやって来るのをご覧になった。そしてピリポに、「この人々に食べさせるために、どこからパンを買って来ようか。」と言われた。
- しかし、ピリポをためすためにこれを言われたのであって、ご自分は、何をしなければならないかを承知しておられた。
- ピリポは彼〈イエス〉に、「めいめいが少しずつ取るにしても、二百デナリのパンでは足りません。」と答えた。
- 弟子の一人シモン・ペテロの兄弟アンデレが彼〈イエス〉に言った。
- 「ここに、大麦のパンを五つと小さい魚を二匹持っている少年がいます。しかし、こんなに大勢の人々のためには、それが何になりましょう。」
- イエスは、「人々を座らせよ。」と言われた。その場所には草が多かった。そこで男たちは座った。その数はおよそ五千人であった。
- そこで、イエスはパンを取られた。そして感謝をささげてから、座っている人々に分配された。また、同じようにして小さい魚も彼らに欲しいだけ与えられた。
- そして、彼らが満腹したとき、弟子たちに、「余ったパン切れを、一つもむだにならないように集めよ。」と言われた。
- それで、彼らは集めた。そして、彼らは、大麦のパン五つから出て来たパン切れの中から、食べた人たちが余らせたもので十二の籠をいっぱいにした。
- それで、彼〈イエス〉が行われたしるしを見た人々は、「確かに、この方こそ世に来られるはずの、あの預言者だ。」と言っていた。
- そこで、イエスは、人々がやって来て、ご自分を王にするために強引に捉まえようとしているのを知り、再び、一人で山に退かれた。
- 夕方になったので、彼の弟子たちは湖の岸に降りて行った。
- そして、舟に乗り込み、湖の向こうのカペナウムに向かって行った。(その時、)すでに暗くなっていた。しかし、イエスはまだ彼らのところに来ておられなかった。
- その上、湖も、強風が吹いて、荒れ始めた。
- しかし、すでに二十五、または三十スタディオン〔四、五キロメートル〕ほど漕ぎ出した時、彼らは、湖の上を歩いて舟に近づいて来られるイエスを見た。それで、彼らは恐れた。
- しかし、イエスは彼らに、「わたしだ《エゴー エイミ》。恐れていてはいけない。」と言われた。
- そこで彼らは、すすんで彼〈イエス〉を舟の中に迎え入れた。すると舟はすぐに彼らが行こうとしていた地に着いた。
- その翌日、湖の向こう岸で立ち続けていた群衆は、そこには一艘の小舟以外に他に小舟がなかったこと、また、その小舟にイエスが弟子たちといっしょに乗られなかったこと、そして弟子たちだけが行ったということを認めた。
- しかし、テベリアから数艘の小舟が、人々が主の感謝の後にパンを食べた場所の近くに来た。
- それで、群衆は、そこにイエスも弟子たちもいないことを知った時、彼らもその小舟に乗り込んで、イエスを捜してカペナウムに来た。
- そして湖の向こう側で彼〈イエス〉を見つけたとき、彼らは彼〈イエス〉に、「先生。いつからここにおられるのですか。」と言った。
- イエスは彼らに答えて言われた。「わたしは真実に、真実に、お前たちに言う。お前たちは、しるしを見たからわたしを捜しているのではなく、パンを食べて満腹したからだ。
- 腐って行く食物を得るためではなく、永遠のいのちに至らせるいつまでも残る食物を得るために働け。それこそ、この人の子がお前たちに与えようとしているものである。この人の子の上に御父、すなわち神が確認の印を押されたからである。」
- すると彼らは、「私たちは、神の業を働き出すために、何を行うべきですか。」と彼〈イエス〉に言った。
- イエスは答えて、「お前たちが、神によって遣わされた者を信じること、実にそれこそが神の業である。」と彼らに言われた。
- そこで彼らは彼〈イエス〉に言った。「それでは、私たちが見てあなたを信じるために、どんなしるしを行ってくれるのですか。あなたは何をなさるのですか。
- 『彼は彼らに天からパンを与えて食べさせた。』と書かれているとおり、私たちの先祖は、荒野でマナを食べました。」
- それで、イエスは彼らに言われた。「わたしは真実に、真実に、お前たちに言う。モーセがお前たちに天からのパンを与えたのではない。しかし、わたしの父が、お前たちに天からのまことのパンを与えられるのだ。
- なぜならば、実に、その神のパンとは、天から下って来て、世にいのちを与えるパンであるからだ。」
- そこで彼らは彼〈イエス〉に、「主よ。常にそのパンを私たちにお与えください。」と言った。
- イエスは彼らに言われた。「わたしこそがそのいのちのパンである。わたしに来る者は決して飢えない。わたしを信じている者は、いつまでも決して渇かない。
- しかし、わたしはお前たちが、たといわたしを見ても信じないとお前たちに言った。
- 父がわたしにお与えになる者はみな、わたしのところに必ず来る。そしてわたしのところに来る者を、わたしは決して外に投げ捨てない。
- なぜならば、わたしが天から下って来ているのは、自分の欲することを行うためではなく、わたしを遣わされた方のみこころを行うためであるからだ。
- わたしを遣わされた方のみこころは、ご自分がわたしに与えておられる全ての者を、わたしが、その中から一人も失わないことであり、そしてその全ての者を終わりの日によみがえらせることである。
- 実に、この子を見、そして信じる者が全て永遠のいのちを持つことが、わたしの父のみこころである。わたしはその全ての人を終わりの日に必ずよみがえらせる。」
- それで、ユダヤ人たちは、彼〈イエス〉が、「わたしは天から下って来たパンである。」と言われたので、彼〈イエス〉についてつぶやきだした。
- 彼らは、「あれはヨセフの子のイエスではないか。我々は彼の父も母も知っている。どうしていま彼は『わたしは天から下って来た。』と言うのか。」と言っていた。
- イエスは彼らに答えて言われた。「互いにつぶやくのを止めよ。
- わたしを遣わした父が引き寄せられないかぎり、だれもわたしのところに来ることはできない。わたしも終わりの日にその人を必ずよみがえらせる。
- 預言者の書に、『実に、彼らは全て神によって教えられた者となる。』と書かれている。父から聞いて学んだ者はみな、わたしのところに来る。
- 神から来ている者の他に父〔神〕を見た〈知っている〉者はいない。この者が、父を見た〈知っている〉のである。
- わたしは真実に、真実に、お前たちに言う。信じている者は永遠のいのちを持っている。
- わたしがいのちのパンである。
- お前たちの先祖は荒野でマナを食べたが、死んだ。
- この者は、誰でも食べる者が決して死ぬことがないようにと、天から下って来たパンである。
- わたしこそが、天から下って来たパンであり、しかも生きているパンである。だれでもこのパンを(一度)食べるなら、永遠に生き続ける。またわたしが与えようとしているパンとは、世のいのちのために与えるわたしのからだである。」
- すると、ユダヤ人たちは、「この人は、どのようにしてそのからだを私たちに与えて食べさせることができるのか。」と言って、仲間の中で論争が始まった。
- それで、イエスは彼らに言われた。「わたしは真実に、真実に、お前たちに言う。お前たちは、この人の子の肉を(一度も)食べたことがなく、またその血を(一度も)飲んだことがないならば、自分自身の中にいのちを持っていない。
- わたしの肉を(習慣的に)食べており、わたしの血を(習慣的に)飲んでいる者は、永遠のいのちを持っている。わたしは終わりの日にその人を必ずよみがえらせる。
- なぜならば、わたしの肉はまことの食物であり、わたしの血はまことの飲み物であるからだ。
- わたしの肉を(習慣的に)食べており、わたしの血を(習慣的に)飲んでいる者は、わたしのうちに留まっており、わたしも彼のうちに留まっている。
- 生ける父がわたしを遣わされ、わたしが父によって生きているように、わたしを食べている者も、わたしによっていつまでも生きる。
- この者は、天から下って来たパンである。しかし、お前たちの先祖が食べて死んだようなパンではない。このパンを食べている者は永遠に生き続ける。」
- 彼〈イエス〉は、これらのことをカペナウムの会堂で教えている時に話された。
- そこで、これを聞いた弟子たちのうちの多くの者が、「このことばは理解できない。だれが彼の言うことを聞くことができようか。」と言った。
- しかし、イエスは、弟子たちがこうつぶやいているのを知っていて、彼らに言われた。「このことにお前たちはつまずくのか。
- それで、もしこの人の子が、もといた所に上るのをお前たちが見たならば(どうなるのか)。
- 御霊が、いのちを与える方である。肉は何にも役立たない。わたしが、お前たちに語って来たことばは、霊(的力を持っているもの)であり、またいのち(を与える力を持っているもの)である。
- しかし、お前たちの中に信じていない者たちがいる。」──イエスは初めから、信じていない者たちがだれであるか、またご自分を裏切る者がだれであるかを知っておられたのである。──
- それで彼〈イエス〉は「それだから、わたしはお前たちに、『父によって許されていないならば、だれもわたしのところに来ることはできない。』と言ったのだ。」と言っておられたのである。
- この時から、弟子たちのうちの多くの者が離れ〔後ろへ〕去って行き、もはや彼〈イエス〉と共に歩こうとしなくなった。
- それで、イエスは十二弟子に、「お前たちも離れたいと思っているのか。」と言われた。
- すると、シモン・ペテロが彼〈イエス〉に答えた。「主よ。私たちはだれのところに向かって(あなたから)離れて行けましょうか。あなたは、永遠のいのちのことばを持っておられます。
- 私たちは、あなたが神の聖者であられることを確信しており、またはっきりと知っています。」
- イエスは彼らに答えられた。「わたしがお前たち十二人を選んだのではないか。しかし、そのうちの一人は(その性格が)悪魔である。」
- イエスはイスカリオテ・シモンの子ユダのことを言っておられたのである。なぜならば、十二弟子の一人であるこの者が、彼〈イエス〉を裏切ろうとしていたからである。
7
- そしてそれらのことの後、イエスはガリラヤの地方を巡回しておられた。なぜならば、ユダヤ人たちが彼〈イエス〉を殺そうとしていたので、彼〈イエス〉はユダヤ地方を歩くことを欲しておられなかったからである。
- さて、ユダヤ人の祭りである仮庵の祭りが近づいていた。
- そこで、彼〈イエス〉の兄弟たちは彼〈イエス〉に向かって言った。「あなたの弟子たちもあなたがしている業を見ることができるように、ここを去ってユダヤに行きなさい。
- 密かに事を行いながら、自分が公になることを求める人はいません。あなたがこれらの事を行い続けるのなら、自分を(今すぐ)世に現しなさい。」
- なぜならば、彼〈イエス〉の兄弟たちも彼〈イエス〉を信じていなかったからである。
- それでイエスは彼らに言われた。「わたしの時はまだ来ていない。しかし、お前たちの時は常に手はずが整っている。
- 世はお前たちを憎むことができないが、わたしを憎んでいる。それは、わたしが、世の行いが悪であると、世について証しているからである。
- お前たちは祭りに上って行け。わたしはこの祭りに(今)上って行こうとしていない。それはわたしの時がまだ満ちていないからだ。」
- これらのことを言って、彼〈イエス〉はガリラヤに滞在された。
- しかし、兄弟たちが祭りに上って行った後で、彼〈イエス〉ご自身も、公にではなく、密かに上って行かれた。
- それでユダヤ人たちは、祭りの間、彼〈イエス〉を捜しながら、「あの男はどこにいるのか。」と言っていた。
- そして群衆の間でも、彼〈イエス〉についての多くのひそひそ話がなされていた。ある者たちは、「彼は良い人だ。」と言い、他の者たちは、「違う。彼は群衆を騙している。」と言っていた。
- しかし、ユダヤ人たちを恐れていたので、だれも彼〈イエス〉についてあからさまに語っていなかった。
- しかし、祭りもすでに中ごろになったとき、イエスは宮に上って、教え始められた。
- それで、ユダヤ人たちは驚いていた。そして言った。「この人は(全く)学んだことがないのに、どうして(このように)学識があるのか。」
- そこでイエスは彼らに答えて言われた。「わたしの教えは、わたしのものではない。しかし、わたしを遣わされた方のものである。
- だれでもその御方のみこころを行おうと願うなら、その人は、この教えが神から出たものか、あるいはわたしが自分から語っているのかが分かるはずだ。
- 自分(の考え)から語る者は、自分の栄光を求める。しかし自分を遣わされた御方の栄光を求める者は真実であり、その人の(思いの)中に不正がない。
- モーセはお前たちに律法を与えたではないか。しかし、お前たちの中のだれも、律法を行っていない。お前たちは、なぜわたしを殺そうと思っているのか。」
- 群衆は答えた。「お前は悪霊に憑かれている。だれがお前を殺そうとしているものか。」
- イエスは彼らに答えて言われた。「わたしは一つの業を行った。それでお前たちはみな驚いている。
- モーセがお前たちに割礼を与えたために、──ただし、それはモーセから始まったのではなく、先祖たちからである。──お前たちは安息日にも人に割礼を施している。
- モーセの律法が破られないようにと、人が安息日に割礼を受けているのに、わたしが安息日に人の全身を健やかにしたことで、どうしてお前たちはわたしに腹を立てているのか。
- うわべで人をさばくな。そうではなく、正しい判断でさばけ。」
- そこで、エルサレムのある人たちが言い出した。「この人は、彼らが殺そうと思っている人ではないか。
- 見よ。彼は公然と語っているのに、彼らは彼に何も言わない。まさか議員たちは、この人がキリストであることを、ほんとうに知ったのではないか。
- しかし、我々はこの人がどこから来たかを知っている。だが、キリストが来る時は、どこから来るのかだれも知らないのだ。」
- それで、イエスは、宮の中で教えながら、大声で叫んで言われた。「実に、お前たちはわたしを知っており、また、わたしがどこから来ているかも知っている。しかし、わたしは自分(の意志)から来ているのではない。しかも、わたしを遣わされた方は真実な御方である。しかしお前たちはその方を知らない。
- わたしはその方を知っている。なぜなら、わたしはその方から来ているのであり、その方がわたしを遣わされたからだ。」
- そこで人々は彼〈イエス〉を捕らえようとしたが、だれも彼〈イエス〉に手をかけることができなかった。なぜならば、彼〈イエス〉の時が、まだ来ていなかったからである。
- けれども、群衆のうちの多くの者が彼〈イエス〉を信じた。そして、「キリストが来られても、この方が行ったより多くのしるしを行うだろうか。」と言っていた。
- パリサイ人は、群衆の、彼〈イエス〉についてのこのようなひそひそ話を聞いた。それで祭司長たちとパリサイ人たちとは、彼〈イエス〉を逮捕するために、役人たちを送った。
- そこでイエスは言われた。「まだしばらくの間、わたしはお前たちと共にいる。それから、わたしを遣わされた方のもとに行く。
- お前たちはわたしを捜すが、見つからない。そして、お前たちは、わたしのいる所に来ることができない。」
- そこで、ユダヤ人たちは互いに言った。「この人は、我々が彼を見付けることができないほど遠くの、どこに行こうとしているのだろうか。まさかギリシア人の中に離散している人々のところへ行って、ギリシア人を教えようとしているのではないのか。
- 『お前たちはわたしを捜すが、見つからない。』また『お前たちは、わたしのいる所に来ることができない。』と言ったこの人のこのことばは、どういう意味なのか。」
- さて、祭りの最後の大いなる日に、イエスは立ち続けておられた。そして叫んで言われた。「だれでも渇いているなら、わたしのもとに来て飲み続けよ。
- わたしを信じている者は、聖書が言っているとおりに、その人の腹から、生きている水の川が流れ出続けるのだ。」
- イエスはご自分を信じる(と決断した)者が受けようとしていた御霊についてこのように語られたのである。なぜならば、イエスがまだ栄光を受けておられなかったので、御霊(の働き)がまだなかったからである。
- それで、群衆のうちのある者は、このことばを聞いて、「あの方は、確かにあの預言者だ。」と言っていた。
- またある者たちは、「この方はキリストだ。」と言い、またある者たちは、「まさか、キリストはガリラヤからは出ないだろう。
- キリストはダビデの子孫から、そしてダビデがいたベツレヘムの村から出る、と聖書は語っていないのか。」と言っていた。
- そこで、群衆の間に彼〈イエス〉のことで分裂が起こった。
- その中のある者たちは、彼〈イエス〉を捕らえたいと思っていた。しかしだれも彼〈イエス〉に手をかけることができなかった。
- それで役人たちは祭司長、パリサイ人たちのもとに帰った。彼らは役人たちに、「どうして彼を連れて来なかったのか。」と言った。
- 役人たちは、「いまだかつてあのように話した人はいなかった。」と答えた。
- すると、パリサイ人が彼らに答えた。「お前たちも騙されてしまったのか。
- 議員とかパリサイ人のうちのだれが彼を信じたか。
- だが、律法を知らないこの群衆は、のろわれている。」
- 彼らのうちの一人で、彼〈イエス〉のもとに来たことのあるニコデモが彼らに言った。
- 「私たちの律法は、まずその人から聞き、その人が何をしているのか知らなければ、人をさばかないのではないか。」
- 彼らは彼に答えて、「まさか、あなたもガリラヤの出ではないだろうな。調べてみよ。ガリラヤから預言者は起こらないことを知れ。」と言った。
- そして人々はそれぞれ家に帰った。
8
- しかし、イエスはオリーブ山に帰って行かれた。
- そして、夜明けに、彼〈イエス〉は再び宮に入られた。民衆がそろって、次々とみもとに近づいて来ていた。それで、彼〈イエス〉は座り、彼らを教え始められた。
- すると、律法学者とパリサイ人が、姦淫の理由で捕らえられていた一人の女を連れて来た(原語は、歴史記述に従った現在形=連れて来る)。そして彼女を真ん中に立たせた。
- そして彼らは彼〈イエス〉に言った。「先生。この女は、姦淫を行っている現場で捕らえられた女です。
- 律法の中でモーセは、このような女を石打ちにして殺せと私たちに命じています。ところで、あなたは何と言いますか。」
- 彼らは、彼〈イエス〉を告発する理由を得るために、彼〈イエス〉をそそのかしてこのように言っていたのである。しかし、イエスは身をかがめ、指で地面に書いておられた。
- しかし、彼らが問い続けてやめないので、彼〈イエス〉は身を起こし、彼らに、「お前たちのうちで罪のない者が、最初に彼女に石を投げよ。」と言われた。
- そして彼〈イエス〉は、もう一度身をかがめ、地面に書いておられた。
- 彼らはそれを聞くと、年長者たちから始めて、一人ずつ次々に出て行った。そして彼〈イエス〉は一人残された。そして真ん中にいる女も。
- イエスは身を起こして、その女に言われた。「女よ。彼らはどこにいるのか。一人もお前を罪に定めなかったのか。」
- それで彼女は、「だれも。主よ。」と言った。それで、イエスは、「わたしもお前を罪に定めない。行け。たった今から、もはや罪を犯し続けてはならない。」と言われた。
- さて、再びイエスは彼らに語り、「わたしは、世の光である。わたしに従っている者は、決して闇の中を歩まない。そしていのちの光を(いつまでも)持ち続ける。」と言われた。
- そこでパリサイ人は彼〈イエス〉に、「あなたは自分のために証言している。あなたの証言は正しくない。」と言った。
- イエスは答えて、彼らに言われた。「たとえわたしが自分のために証言しているとしても、わたしの証言は正しい。なぜならば、わたしは、わたしがどこから来たか、また、どこへ行くかを知っているからだ。しかしお前たちは、わたしがどこから来ているのかも、またわたしがどこへ行こうとしているのかも知らない。
- お前たちは肉に従ってさばいている。わたしはだれをも(肉に従っては)さばかない。
- そして、わたしがさばくならば、そのわたしのさばきは真実である。なぜなら、(さばく者が)わたしひとりではなく、わたしとわたしを遣わされた父だからである。
- 実にお前たちの律法に、ふたりの証言は真実であると書かれている。
- わたしが自分自身のための証人であり、そして、わたしを遣わされた父が、わたしのために証しておられる。」
- それで、彼らは、「あなたの父はどこにいるのですか。」と彼〈イエス〉に尋ねた。イエスは、「お前たちは、わたしをも、わたしの父をも知らない。もし、お前たちがわたしを知っていたなら、わたしの父をも知っていたはずである。」と答えられた。
- 彼〈イエス〉はこれらのことばを宮の献金箱がある所で教えながら語られた。しかし、彼〈イエス〉の時がまだ来ていなかったので、だれも彼〈イエス〉を捕らえなかった。
- それで、彼〈イエス〉は再び彼らに言われた。「わたしは去って行こうとしている。お前たちはわたしを捜す。しかし、お前たちは(必ず)自分の罪の中で死ぬ。わたしが行く所に、お前たちは来ることができない。」
- そこで、ユダヤ人たちは、「あの人は、『わたしが行く所に、お前たちは来ることができない。』と言うが、まさか自殺しようとしているのではないのか。」と言っていた。
- それで彼〈イエス〉は彼らに次のように(繰り返し)言っておられた。「お前たちは下から出たものであるが、わたしは上から来ている。お前たちはこの世のものであり、わたしはこの世のものではない。
- それでわたしは、お前たちに、お前たちは必ず自分の罪の中〔罪の支配下〕で死ぬ、と言ったのだ。もし、お前たちが、わたしがそれである《エゴー エイミ》ことを信じなければ、お前たちは必ず自分の罪の中〔罪の支配下〕で死ぬ。」
- そこで、彼らは彼〈イエス〉に、「あなたはだれですか。」としきりに尋ねた。イエスは、「いったいなぜそれをわたしがお前たちに(今さら)言わなければならないのか。
- わたしには、お前たちについて言うべきこと、またさばくべきことがたくさんある。しかし、わたしを遣わされた方は真実であられる。そしてわたしはその方から聞いたことをそのまま世に語っている。」と言われた。
- 彼らは、彼〈イエス〉が彼らに御父のことを語っておられるとは知らなかった。
- それでイエスは言われた。「お前たちがこの人の子を上げた時、その時、お前たちは、わたしがそれである《エゴー エイミ》ことを(必ず)知る。また、わたしがわたし自身からは何事もしていないことを、しかし父がわたしに教えられたとおりに、これらのことを話していることを(必ず)知る。
- わたしを遣わした方はわたしとともにおられる。わたしをひとり残されることはない。わたしがいつも、その方に喜ばれることを行っているからである。」
- 彼〈イエス〉がこれらのことを話しておられる間に、多くの者が彼〈イエス〉を信じた。
- そこでイエスは、ご自分を信じたユダヤ人たちに次のように言い始められた。「もしお前たちが、わたしのことばにとどまるなら、お前たちは真実にわたしの弟子である。
- そして、お前たちは真理を知るようになる。そしてその真理がお前たちを自由にする。」
- 彼らは彼〈イエス〉に答えた。「私たちはアブラハムの子孫です。そして今までだれの奴隷になったこともありません。あなたはどうして、『お前たちは自由になる。』と言うのですか。」
- イエスは彼らに答えられた。「わたしは真実に、真実に、お前たちに言う。罪を行っている者はみな、罪の奴隷である。
- 奴隷はいつまでも家に留まっていない。しかし、息子はいつまでも留まっている。
- だから、もし子がお前たちを自由にするなら、お前たちは本当にいつまでも自由であるのだ。
- わたしは、お前たちがアブラハムの子孫であることを知っている。しかし、お前たちはわたしを殺そうとしている。わたしのことばが、お前たちのうちに占める場所がないからである。
- わたしは父のそばで見たことを語っている。しかし、お前たちは、(お前たちの)父親から聞いたことを行っている。」
- 彼らは彼〈イエス〉に答えて、「私たちの父はアブラハムです。」と言った。イエスは彼らに言われた。「もしお前たちがアブラハムの子どもなら、アブラハムの業を行っているはずだ。
- ところが今、お前たちは、神から聞いた真理をお前たちに話してきた人であるこのわたしを、殺そうとしている。アブラハムはそのようなことはしなかった。
- お前たちは、お前たちの父の業を行っている。」それで彼らは、「私たちは不品行によって生まれた者ではありません。私たちは神をひとりの父として持っています。」と言った。
- イエスは彼らに言われた。「神がもしお前たちの父であるなら、お前たちはわたしを愛するはずである。なぜなら、わたしは神から出て来て、ここにいるからだ。また、わたしは自分(の意志)から来ているのではなく、神がわたしを遣わされたからだ。
- なぜお前たちは、わたしの話していることが分からないのか。それは、お前たちがわたしのことばを聞き入れることができないからだ。
- お前たちは、お前たちの父、すなわち悪魔から出て来たのだ。そして、お前たちの父の欲望を行いたいと願っている。悪魔は初めから人殺しであり、真理には立っていない。だから、彼の中には真実さなどはない。彼が偽りを言うときは、自分の本性から話しているのである。なぜなら彼は嘘つきであり、また偽りの父であるからだ。
- しかし、このわたしが真理を話しているために、お前たちはわたしを信じない。
- お前たちのうちのだれが、わたしに罪があると責めることができるか。わたしが真理を話しているのに、なぜお前たちはわたしを信じないのか。
- 神から出た者は、神のみことばを聞き入れる。しかし、お前たちは、神から出て来た者ではないので、聞けないのだ。」
- ユダヤ人たちは答えて、彼〈イエス〉に言った。「私たちが、お前はサマリア人で、悪霊に憑かれていると言うのももっともではないか。」
- イエスは答えられた。「わたしは悪霊に憑かれていない。わたしはわたしの父を敬っている。しかしお前たちは、わたしを軽蔑している。
- しかし、わたしはわたしの栄誉を求めていない。(それを)お求めになり、さばきをなさる方がおられる。
- わたしは真実に、真実に、お前たちに言う。だれでもわたしのことばを守るならば、その人はいつまでも決して死を見ることがない。」
- それでユダヤ人たちは彼〈イエス〉に言った。「お前が悪霊に憑かれていることが、今はっきりと分かった。アブラハムは死に、預言者たちも死んだ。しかし、お前は、『だれでもわたしのことばを守るならば、その人はいつまでも決して死を味わうことがない。』と言っている。
- まさか、お前は、私たちの父アブラハムよりも偉大ではないだろう。そのアブラハムでさえ死んだのだ。預言者たちもまた死んだ。お前は、自分自身をだれだと思っているのか。」
- イエスは答えられた。「もしわたしが自分自身に栄光を帰するなら、わたしの栄光は虚しい。わたしの父がわたしに栄光をお与えになるのだ。お前たちはその方を自分たちの神であると言っている。
- しかし、お前たちはその方を全く知らない〔関係がない〕のだ。だが、わたしはその方を知っている。もしわたしがその方を知らないと言うなら、わたしはお前たちと同じ嘘つきとなってしまう。しかし、わたしはその方を知っており、そのみことばを守っている。
- お前たちの父アブラハムは、わたしの日を見る時のことを思って大いに喜んだ。そして、彼はそれを見た。そして喜んだのだ。」
- そこで、ユダヤ人たちは彼〈イエス〉に向かって言った。「お前はまだ五十歳になっていないのにアブラハムを見たことがあるのか。」
- イエスは彼らに言われた。「わたしは真実に、真実に、お前たちに言う。アブラハムが生まれる前から、わたしはいるのだ。」
- すると彼らは彼〈イエス〉に投げつけようとして、石を取った。しかし、イエスは身を隠された。そして宮から出て行かれた。
9
- また彼〈イエス〉は道を進んで行かれた時、生まれつきの盲人を見られた。
- 弟子たちはイエスに質問して、「先生。彼が盲目に生まれついたのは、だれが罪を犯したからですか。この人ですか。それとも彼の両親ですか。」と言った。
- イエスは答えられた。「この人が罪を犯したのでもなく、両親でもない。しかし、神の業がこの人において現れるためだ。
- わたしたちは、わたしを遣わした方の業を、昼の間に行わなければならない。だれも働くことのできない夜が来る。
- わたしが世にいる間、わたしが世の光である。」
- これらのことを言ってから彼〈イエス〉は、地面につばきをし、そしてそのつばきで泥を作られた。そしてその泥を盲人の両目に塗られた。
- そして彼に、「シロアム(訳して言えば、遣わされた者)の池に行って洗え。」と言われた。それで、彼は行って、洗った。すると、見えるようになって、帰って行った。
- それで、近所の人たちや、前に彼が乞食であったのを見ていた人たちは、「この人は座って、乞食をしている人ではないのか。」と言っていた。
- ある人たちは、「これはその人だ。」と言い、また他の人たちは、「そうではない。ただ彼に似ているだけだ。」と言っていた。当人は、「私です。」と言っていた。
- そこで、彼らは、「それでは、お前の目はどのようにして開けられたのか。」と彼にしつこく言った。
- 彼は答えた。「イエスと呼ばれる人が、泥を作って、私の目に塗り、そして、『シロアムの池に行け。そして洗え。』と私に言われたのです。それで、行って洗うと、見えるようになりました。」
- また彼らは彼に、「その人はどこにいるのか。」と言った。彼は「私は知りません。」と言った。
- 彼らは、前に盲目であったその人を、パリサイ人たちのところに連れて行った。
- ところで、イエスが泥を作り、彼の目を開けられたのは、安息日であった。
- それで、再び、そのパリサイ人らも彼に、どのようにして見えるようになったのかと尋ね始めた。彼は彼らに、「あの方が私の目に泥を塗られました。それで私は洗いました。そして、私は今見えます。」と言った。
- すると、パリサイ人の中のある者たちが、「その人は神から(遣わされて)来た者ではない。なぜなら彼は安息日を守っていないからだ。」と言い出した。しかし、他の者たちは、「どうして罪ある者がこのようなしるしを行うことができるだろうか。」と言っていた。そして、彼らの間に、分裂が生じた。
- そこで彼らはもう一度、盲人に、「あの人が目を開けてくれたことで、お前はあの人をだれだと言うか。」と言った。彼は、「あの方は預言者です。」と言った。
- しかしユダヤ人たちは、彼について、以前盲人であったが、今見えているということを信じなかった。それでついに、この見えるようになった人の両親を呼び出した。
- そして彼の両親に尋ねて、「この人は、お前たちが盲目で生まれたと言っている、お前たちの息子か。それでは、どうして今見えるのか。」と言った。
- そこで彼の両親は答えて言った。「私たちは、これが私たちの息子で、盲目に生まれついたことをも知っています。
- しかし、どのようにして今見えるのかは知りません。また、だれが彼の目を開けたのかも知りません。彼に聞いてください。彼はもう大人です。彼に自分自身のことを話させてください。」
- 彼の両親は、ユダヤ人たちを恐れていたので、そのように言ったのである。すでにユダヤ人たちは、彼〈イエス〉をキリストと認める者はだれでも、会堂から追放されなければならないと取り決めていたからである。
- そのために彼の両親は、「彼はもう大人です。彼に聞いてください。」と言ったのである。
- そこで彼らは、盲目であったその人をもう一度呼び出して、「神に栄光を帰せ。我々はあの人が罪人であることを知っているのだ。」と言った。
- それで彼は、「あの方が罪人かどうか、私は知りません。ただ一つのことだけ知っています。私は盲目であったのに、今は見えるということです。」と答えた。
- そこで彼らは、「あの人はお前に何をしたのか。どのようにしてお前の両目を開けたのか。」と彼に言った。
- 彼は彼らに、「すでに話しました。けれどもあなたがたは聞きませんでした。なぜもう一度聞こうとするのですか。まさか、あなたがたも、あの方の弟子になりたいのでは。」と答えた。
- すると彼らは彼をののしって言った。「お前はあれの弟子だが、我々はモーセの弟子なのだ。
- 我々は、神がモーセにお語りになったことは知っている。しかし、あの者がどこから来たのか我々は知らない。」
- 彼は彼らに答えて言った。「あなたがたが、あの方がどこから来られたのかを知らないとは、実に驚きです。あの方は私の目を開けたのです。
- 神は、罪人の言うことはお聞きになりませんが、だれでも神を敬い、そのみこころを行っているならば、その人の言うことは聞いてくださると、私たちは知っています。
- だれかが盲目に生まれついた者の目を開けたなど、昔から聞いたことがありません。
- もしあの方が神から来られた方でなかったら、何もできなかったはずです。」
- 彼らは彼に答えて、「お前は全身罪によって生まれたのだ。そのお前が私たちを教えるのか。」と言った。そして、彼を外に追い出した。
- イエスは、彼らが彼を追放したことを聞き、彼を捜し出して、「お前はこの人の子〔メシヤ〕を信じているか。」と言われた。
- その人は、「主よ。その方がどなたか教えてください。私はその方を信じたいのです。」と答えた。
- イエスは彼に、「実に、お前はその者を今見ている。お前と話している者がその人だ。」と言われた。
- 彼は、「主よ。私は信じます。」と言った。そして彼は彼〈イエス〉を礼拝した。
- そこで、イエスは、「わたしはさばきのためにこの世に来た。それは、見えない者が見えるようになり、見える者が盲目になるためである。」と言われた。
- パリサイ人で彼〈イエス〉とともにいた者たちが、このことを聞いて、彼〈イエス〉に、「まさか私たちまで盲人ではないでしょう。」と言った。
- イエスは彼らに、「もしお前たちが盲人であったなら、お前たちに罪はなかったのだ。しかし、お前たちは今、『私たちは見える。』と言っている。お前たちの罪は留まっているのだ。」と言われた。
10
- 「わたしは真実に、真実に、お前たちに言う。羊の囲いに、門から入らないで、他の所を乗り越えて来る者は、盗人で強盗である。
- しかし、門から入る者は、その羊の牧者である。
- 門番は彼のために開き、羊はその声に聞き従う。彼は自分の羊をその名で呼んで連れ出す。
- 彼は、自分の羊をみな引き出すと、彼らの先頭を歩く。すると羊は、彼の声を知っているので、彼に聞き従う。
- しかし、他の人には決して従って行かない。かえって、その人から逃げ出す。それは彼らがその者たちの声を知らないからである。」
- イエスがこのことわざを彼らにお話しになったが、彼らは、彼〈イエス〉の話されたことが何のことか理解できなかった。
- そこで、イエスは再び言われた。「わたしは真実に、真実に、お前たちに言う。わたしが羊の門である。
- わたしの前に来た者はみな、盗人で強盗である。だから(わたしの)羊は彼らの言うことに聞き従わなかった。
- わたしは門である。だれでも、わたしを通って入るなら、必ず救われ、また出たり入ったりし、牧草を見つけ続ける。
- 盗人は、ただ盗み、殺し、滅ぼすだけのために来る。わたしが来たのは、羊がいのちを持ち、しかもそれを溢れるほど豊かに持つためである。
- わたしは牧者であり、しかも良い牧者である。良い牧者は羊のために自分のいのちを捨てる。
- 羊が自分の所有でなく、ただの雇われ人で牧者ではない者は、狼が来るのを見ると、羊を置き去りにして、逃げて行く。それで、狼は羊を奪い、また追い散らす。
- それは、彼が雇われ者であって、羊のことを心にかけていないからである。
- わたしは牧者であり、しかも良い牧者である。わたしはわたしのものを知っている。また、わたしのものは、わたしを知っている。
- それは、父がわたしを知っておられ、わたしが父を知っているのと同様である。また、わたしは羊のためにわたしのいのちを捨てる。
- また、わたしは、この囲いに属さない他の羊を持っている。わたしはそれらをも導かなければならない。彼らはわたしの声に(必ず)聞き従う。そして彼らは(必ず)ひとりの牧者の(下にある)一つの群れとなる。
- わたしが自分のいのちを再び得るために自分のいのちを捨てるからこそ、父はわたしを愛してくださる。
- だれも、わたしからいのちを取る者〔わたしを殺すことができる者〕はいない。わたしが自分からいのちを捨てるのである。わたしは、それを捨てる権威を持っており、それをもう一度得る権威を持っている。わたしはこの命令をわたしの父から受けた。」
- これらのみことばのゆえに、ユダヤ人たちの間にまた分裂が起こった。
- 彼らのうちの多くの者は、「あれは悪霊憑きで、気が狂っている。どうしてあなたがたは、あれの言うことを聞くのか。」と言っていた。
- 他の者たちは、「これらは悪霊に憑かれている者のことばではない。悪霊は盲人の目を開けることができない。」と言っていた。
- そのころ、エルサレムで、宮きよめの祭りがあった。それは冬であった。
- イエスは、宮の中のソロモンの廊を歩いておられた。
- それでユダヤ人たちは、彼〈イエス〉を取り囲んだ。そして彼〈イエス〉に向かって「あなたは、いつまで私たちに気をもませるのか。もしあなたがキリストであるなら、我々にはっきりとそう言ってくれ。」と言い出した。
- イエスは彼らに答えられた。「わたしはお前たちに話した。しかし、お前たちは信じていない。わたしが、わたしの父の御名によって行っている業が、わたしについて証言している。
- しかし、お前たちは信じていない。それは、お前たちがわたしの羊に属していないからだ。
- わたしの羊はわたしの声に聞き従う。またわたしは彼らを知っている。そして彼らはわたしについて来る。
- そして、わたしは彼らに永遠のいのちを与える。彼らは永遠に至るまで決して滅びることがない。また、(決して)だれもわたしの手から彼らを奪い去ることはできない。
- わたしに(彼らを)お与えになった父は、全てに優って偉大である。そして、だれもわたしの父の御手から(彼らを)奪い去ることはできない。
- わたしと父とは一つである。」
- ユダヤ人たちは、彼〈イエス〉を石打ちにしようとして、また石を取り上げた。
- イエスは彼らに答えられた。「わたしは、父からの〔父のみこころによる〕多くの良い業を、お前たちに示した。そのうちのどの業のために、わたしを石打ちにしようとしているのか。」
- ユダヤ人たちは彼〈イエス〉に答えた。「良い業のためにお前を石打ちにするのではない。冒涜のためだ。お前は人間でありながら、自分を神としているからだ。」
- イエスは彼らに答えられた。「お前たちの律法の中に、『わたしは言った。お前たちは神々である。』と書かれていないのか。
- もし、神のことばが与えられた人々を、神々と呼んだとすれば、そして聖書は廃棄され得ないのだから、
- 御父が聖別し、世に遣わされた者であるわたしが、『わたしは神の子である。』と言ったことで、なぜお前たちは、わたしに、『お前は神を冒涜している。』と言うのか。
- もしわたしが、わたしの父の御業を行っていないのなら、わたしを信じないでおれ。
- しかし、もしわたしが行っているなら、たといわたしを信じなくても、業を信用せよ。それは、父がわたしにおられ、わたしが父にいることを、お前たちが悟り、また知るためである。」
- そこで、彼らは再び彼〈イエス〉を捕らえようとした。しかし、彼〈イエス〉は彼らの手から離れて行かれた。
- そして、彼〈イエス〉はまたヨルダンを渡って、ヨハネが初めにバプテスマしていた所に行き、そこに滞在された。
- それで、多くの人々が彼〈イエス〉のところに来た。彼らは、「ヨハネは何一つしるしを行わなかったけれども、彼がこの方について話したことはみな真実であった。」と言っていた。
- そして、その地方で多くの人々が彼〈イエス〉を信じた。
11
- さて、ある人が病気にかかっていた。ラザロといって、マリヤとその姉妹マルタとの村の出で、ベタニアの人であった。
- このマリヤは、主に香油を塗り、髪の毛で主の足をぬぐった人である。そして彼女の兄弟ラザロが病気であった。
- そこで姉妹たちは、彼〈イエス〉のところに使いを送って、「主よ。ご覧ください。あなたが愛しておられる者が病気です。」と言った。
- しかし、これを聞いたイエスは、「この病気は死に至るものではなく、神の栄光のためのものであり、その病によって神の子が栄光を受けるためである。」と言われた。
- イエスはマルタとその姉妹と彼〈ラザロ〉とを愛しておられた。
- しかし、彼〈イエス〉は、彼〈ラザロ〉が病気であると聞いてから、そのおられた所になお二日とどまられた。
- その後、「もう一度ユダヤに行こう。」と弟子たちに言われた。
- 弟子たちは彼〈イエス〉に、「先生。たった今ユダヤ人たちは、あなたを石打ちにしようとしていました。それなのに、またそこにおいでになるのですか。」と言った。
- イエスは答えられた。「昼間には十二時間ないのか。だれでも昼間歩けば、つまずくことはない。この世の光を見ているからだ。
- しかし、夜中に歩けばつまずく。光がその人のうちにないからだ。」
- 彼〈イエス〉は、これらのことを話された。そしてその後、「わたしたちの友ラザロは眠ってしまっている。しかし、わたしは彼を眠りから覚ましに行く。」と弟子たちに言われた。
- そこで弟子たちは彼〈イエス〉に、「主よ。彼が、もし眠っているのなら、助かります。」と言った。
- しかし、イエスは、ラザロの死について言われたのであった。しかし、彼らは彼〈イエス〉が睡眠の眠りについて語っておられると思った。
- それで、その時、イエスは、はっきりと彼らに言われた。「ラザロは死んだのだ。
- わたしは、わたしがそこにいなかったことを、お前たちのために喜んでいる。それはお前たちが信じるためである。しかし、彼のところへ行こうではないか。」
- そこで、デドモと呼ばれるトマスが、仲間の弟子たちに、「私たちも行こう。そして彼〈イエス〉と共に死のうではないか。」と言った。
- それで、イエスが来られた時、ラザロはすでに墓の中に四日間入れられていた。
- ベタニアはエルサレムに近く、十五スタディオン〔約三キロメートル〕ほど離れた所にあった。
- 大勢のユダヤ人がマルタとマリヤのところに来ていた。その兄弟のことで彼女たちを慰めるためであった。
- その時、マルタは、イエスが来られると聞いて、彼〈イエス〉を迎えに出て行った。しかし、マリヤは家で座ったままであった。
- マルタはイエスに向かって言った。「主よ。もしあなたがここにおられたならば、私の兄弟は死ななかったはずです。
- しかし、今でも、あなたが神にお求めになることは何でも、神があなたにお与えになることを私は知っています。」
- イエスは彼女に、「お前の兄弟はよみがえる。」と言われた。
- マルタは彼〈イエス〉に、「私は、終わりの日のよみがえりの時に、彼がよみがえることを知っています。」と言った。
- イエスは彼女に、「わたしは、よみがえりであり、いのちである。わたしを信じている者は、たとい死んでも(必ず)生きる。
- そして、生きていてわたしを信じている者は、決して永遠に死ぬことがない。お前はこれを信じているか。」と言われた。
- 彼女は彼〈イエス〉に、「はい。主よ。私は、あなたが世に来られる神の御子キリストである、とはっきりと信じています。」と言った。
- そして、彼女は、こう言ってから、帰って行って、姉妹マリヤを呼び、「先生が来ておられます。そしてあなたを呼んでおられます。」とそっと言った。
- マリヤはそれを聞くと、すぐに立ち上がった。そして、彼〈イエス〉のおられるところに向かって行った。
- さてイエスは、まだ村に入らないで、マルタが彼〈イエス〉を出迎えた場所におられた。
- それで、マリヤと共に家にいて、彼女を慰めていたユダヤ人たちは、マリヤが急いで立ち上がって出て行くのを見て、マリヤが墓に泣きに行くのだろうと思い、彼女について行った。
- それで、マリヤは、イエスのおられた所に来た時、イエスを見るやいなや、その足もとに倒れ伏した。そして彼〈イエス〉に、「主よ。もしあなたがここにいてくださったなら、私の兄弟は死ななかったはずです。」と言った。
- そこでイエスは、彼女が泣き、彼女といっしょに来たユダヤ人たちも泣いているのをご覧になって、霊において深く嘆き、ご自分を動揺させられた。
- そして、「彼をどこに置いたのか。」と言われた。彼らは彼〈イエス〉に、「主よ。来てご覧ください。」と言った。
- イエスは涙を流された。
- そこで、ユダヤ人たちは、「ご覧。何と彼〈イエス〉はラザロを愛していたことか。」と言っていた。
- しかし、彼らの仲間のある者たちは、「盲人の目を開けたこの人が、なぜこの人〈ラザロ〉を死なせないようにはできなかったのか。」と言った。
- そこでイエスは、またも心のうちで深く嘆きながら、墓に来られた。墓はほら穴であって、石がそこに立てかけてあった。
- イエスは、「その石を取り除け。」と言われた。死んだ人の姉妹マルタは彼〈イエス〉に、「主よ。もう臭くなっています。今日で四日目ですから。」と言った。
- イエスは彼女に、「もしお前が信じるなら、お前は神の栄光を見る、とわたしは言ったではないか。」と言われた。
- そこで、彼らは石を取り除けた。それで、イエスは目を上げて、言われた。「父よ。わたしの願いを聞いてくださったことを感謝します。
- わたしは、あなたがいつもわたしの願いを聞いてくださることを知っています。しかし、わたしは、周りに立っている群衆のために、この人々が、あなたがわたしをお遣わしになったことを信じるようにと、こう申したのです。」
- そして、そう言われてから、「ラザロよ。出て来い。」と大声で叫ばれた。
- すると、その死んでいた人が、手と足を長い布で巻かれたまま出て来た。彼の顔は布切れで包まれていた。イエスは彼らに、「ほどいてやって、帰らせよ。」と言われた。
- そこで、マリヤのところに来ていて、彼〈イエス〉がなさったことを見た多くのユダヤ人が、彼〈イエス〉を信じた。
- しかし、そのうちの幾人かは、パリサイ人たちのところへ行って、イエスのなさったことを彼らに語った。
- そこで、祭司長とパリサイ人たちは議会を召集し、そして次のように言っていた。「我々は何をしているのか。あの人が多くのしるしを行っているというのに。
- 我々が、もしあの男をこのまま放っておくなら、全ての人があの男を信じるようになる。そうなると、ローマ人がやって来て、我々の土地も国民も奪い取ることになる。」
- しかし、彼らのうちの一人で、その年の大祭司であったカヤパが、彼らに言った。「あなたがたは全然何も分かっていない。
- 一人の人が民の代わりに死んで、国民全体が滅びないほうが、あなたがたにとって得策だということも、考えに入れていない。」
- ところで、このことは彼が自分から言ったのではなくて、その年の大祭司であったので、(その時、)イエスが国民のために死のうとしておられること、
- また、ただ国民のためだけでなく、散らされている神の子たちを一つに集めるためにも死のうとしておられることを、預言したのである。
- そこで彼らは、その日から、彼〈イエス〉を殺すための計画を立てた。
- そのために、イエスはもはやユダヤ人たちの間を公然と歩くことをしないで、そこから荒野に近い地方に去り、エフライムと呼ばれる町に入り、弟子たちと共にそこに滞在された。
- さて、ユダヤ人の過越の祭りが間近になっていた。多くの人々が、身をきよめるために、過越の祭りの前に田舎からエルサレムに上って来た。
- それで彼らはイエスを捜し、宮の中に立って、互いに、「あなたがたはどう思うか。あの人は祭りには決して来ないのではなかろうか。」と言っていた。
- さて、祭司長、パリサイ人たちは彼〈イエス〉を捕らえるために、彼〈イエス〉がどこにいるかを知っている者は届け出なければならないという命令を出していた。
12
- それで、イエスは過越の祭りの六日前にベタニアに来られた。そこには、イエスが死人の中からよみがえらせたラザロがいた。
- 彼らは彼〈イエス〉のために、そこに晩餐を用意した。そしてマルタは給仕していた。ラザロは、彼〈イエス〉と共に食事をする人々の中の一人であった。
- その時、マリヤは、非常に高価な、純粋なナルドの香油一リトラ〔約三百二十七・五グラム〕を取って、イエスの足に塗り、彼女の髪の毛で彼〈イエス〉の足をぬぐった。それで、家は香油の香りで満たされた。
- その時、彼〈イエス〉の弟子の一人で、彼〈イエス〉を裏切ろうとしているイスカリオテ・ユダが言った。
- 「なぜ、この香油を三百デナリに売って、貧しい人々に施さなかったのか。」
- しかし、彼が貧しい人々のことを心にかけていたからこのように言ったのではなく、彼は盗人であって、金入れを預かっていたので、その中に入れられたものを、いつもこっそり盗んでいたからである。
- イエスは言われた。「わたしの葬りの日までそれを取って置くことができるように、彼女の思いのままにさせよ。
- なぜなら、貧しい人々はいつもお前たちといっしょにいるが、わたしはいつもお前たちといっしょにはいないからだ。」
- さて、大勢のユダヤ人が、彼〈イエス〉がそこにおられることを知った。彼らは、ただイエスのゆえだけではなく、彼〈イエス〉が死人の中からよみがえらせたラザロをも見るためにやって来たのである。
- それで、祭司長たちはラザロも殺そうと相談した。
- それは、多くのユダヤ人が彼〈ラザロ〉のゆえにますます離れて行き、次々とイエスを信じるようになっていたからである。
- その翌日、祭りに来ていた大勢の群衆は、イエスがエルサレムに来ようとしておられると聞いた。
- それで、彼らはしゅろの木の枝を取って、出迎えのために出て行った。そして大声で、「ホサナ。祝福あれ。主の御名によって来られる方に。イスラエルの王に。」と叫んでいた。
- それで、イエスは、一頭のロバの仔を見つけて、それに乗られた。それは次のように書かれているとおりである。
- 「恐れるな。シオンの娘。見よ。あなたの王が来られる。ロバの仔に乗って。」
- 初め、彼〈イエス〉の弟子たちにはこれらのことが分からなかった。しかし、イエスが栄光を受けられた時、これらのことが彼〈イエス〉について書かれていたのであることを、そして人々がそのとおりに彼〈イエス〉に対して行ったことを思い出した。
- それで、彼〈イエス〉がラザロを墓から呼び出し、死人の中からよみがえらせたときに彼〈イエス〉といっしょにいた群衆は、(そのことが真実であると)証していた。
- 群衆は、彼〈イエス〉がこのしるしを行われたということを聞いたので、彼〈イエス〉に会いに行った。
- それで、パリサイ人たちは互いに、「見よ。何をやっても無駄だ。ほら、世界があの男のあとについて行ってしまった。」と言った。
- さて、祭りの時に礼拝しようと上って来た人々の中に、ギリシア人が幾人かいた。
- それで、この人たちがガリラヤのベツサイダの人であるピリポのところに来た。そしてピリポに、「ご主人。私たちはイエスにお会いしたいのです。」と言って頼んだ。
- ピリポは行って、アンデレに話した。アンデレとピリポとは行って、イエスに話した。
- すると、イエスは彼らに答えて言われた。「この人の子が栄光を受ける時がすでに来ている。
- わたしは真実に、真実に、お前たちに言う。一粒の麦が地に落ちて死ななければ、一粒のままである。しかし、もし死ねば、多くの実を結ぶ。
- 自分のいのちを愛する者はそれを失い、この世でそのいのちを憎む者はそれを保って永遠のいのちに至る。
- もし、だれでもわたしに仕えたいなら、わたしに従い続けよ。わたしがいる所に、わたしに仕える者もいるべきである。もしだれでもわたしに仕えるなら、父はその人に(必ず)報いてくださる。
- 今わたしの心は(非常に)騒いでいる。何と言おうか。『父よ。この時からわたしをお救いください。』と言おうか。いや。このためにこそ、わたしはこの時に至ったのである。
- 父よ。あなたの御名の栄光を現してください。」その時、「実に、わたしは栄光を現した。実に、再び栄光を現そう。」という声が天から聞こえた。
- それで、そばに立っていて、それを聞いた群衆は、雷が鳴ったのだと言っていた。他の人々は、「御使いがあの方に話したのだ。」と言っていた。
- イエスは答えて、言われた。「この声が聞こえたのは、わたしのためにではなく、お前たちのためにである。
- 今が、この世のさばきの時である。今、この世を支配する者が追い出されるのだ。
- 実に、わたしが地上から上げられるなら、わたしは全ての人をわたしのところに引き寄せる。」
- 彼〈イエス〉はご自分がどのような死に方で死のうとしておられるのかを示して、このように言っておられたのである。
- そこで、群衆は彼〈イエス〉に答えた。「私たちは、キリストがいつまでも生きていると律法の中に記されていると聞いたことがあります。どうしてあなたは、その人の子が上げられなければならない、と言うのですか。その人の子とはだれのことですか。」
- そこで、イエスは彼らに言われた。「まだしばらくの間、この光はお前たちの間にいる。暗闇がお前たちを征服してしまわないように、その光がある間に(光の中を)歩け。暗闇の中を歩いている者は、自分がどこに行こうとしているのか分からない。
- お前たちは、その光がある間に、光の子どもとなるために、その光を信じよ。」
イエスは、これらのことをお話しになった。そして立ち去って、彼らから身を隠された。 - 彼〈イエス〉が彼らの目の前でこのように多くのしるしを行われたのに、彼らは彼〈イエス〉を信じようとしなかった。
- それは、「主よ。だれが私たちの知らせを信じたのか。また主の御腕はだれに現されたのか。」と言った預言者イザヤのことばが成就するためであった。
- またイザヤが次のように語ったとおりの理由で、彼らは信じることができなかったのである。
- 「主は彼らの目を盲目にしてしまわれた。また、彼らの心をかたくなにされた。それは、彼らが目で見、心で理解し、回心し、そしてわたしが彼らを癒す、ということがないためである。」
- イザヤは彼〈イエス〉の栄光を見たので、これらのことを語ったのであり、彼〈イエス〉について語ったのである。
- しかし、それにもかかわらず、指導者たちの中の多くの者が彼〈イエス〉を信じた。ただ、会堂から追放されたくなかったので、パリサイ人たちをはばかって、告白しようとしなかった。
- それは、彼らが、神からの栄誉よりも、人からの栄誉を愛したからである。
- しかし、イエスは大声で叫び、そして言われた。「わたしを信じている者は、わたしではなく、わたしを遣わした方を信じているのである。
- また、わたしを見ている者は、わたしを遣わした方を見ているのである。
- わたしは、わたしを信じている全ての者が、暗闇の中にとどまらないように、世に来ている光である。
- そして、もし、だれかが、わたしのことばを聞き入れず、またそれを守らなくても、わたしはその人をさばかない。それは、わたしが世をさばくために来たのではなく、世を救うために来たからである。
- わたしを拒み、わたしのことばを受け入れない者を、さばく方がおられる。わたしが話したことばが、終わりの日にその者を(必ず)さばく。
- なぜならば、わたしは、自分の意思から話したのではない。そうではなく、わたしを遣わされた父ご自身が、わたしが何を言い、何を話すべきかをお命じになっておられるのである。
- そして、わたしは、父の命令が永遠のいのち(を与える力を持っているもの)であることを知っている。それゆえ、わたしが今話していることは、父がわたしに命じられたとおりのことであり、わたしは、父が命じられたことをそのまま話しているのだ。」
13
- さて、イエスは、過越の祭りの前に、この世を去って父の御許に行くべきご自分の時が来たことを知っておられ、また世にいる自分の者たちを愛していたので、その者たちを徹底的に愛された。
- 彼らが夕食を取っている間にも、悪魔はすでにシモンの子イスカリオテ・ユダの心に、彼〈イエス〉を裏切る思いを入れていた。
- その時、彼〈イエス〉は、父が全ての者をご自分の手に渡されたこと、そしてご自分が父から来て父の御許に行くことを知っておられるので、
- 夕食の席から立ち上がり、上着を脱ぎ、手ぬぐいを取って、ご自分に巻き付けられた。
- それから、たらいに水を入れ、弟子たちの足を洗い、腰に巻いておられる手ぬぐいで拭い始められた。
- こうして、彼〈イエス〉はシモン・ペテロのところに来られた。ペテロは彼〈イエス〉に、「主よ。あなたが、私の足をお洗いになるのですか。」と言った。
- イエスは答えて、「わたしが今していることは、お前には今はまだ分からない。しかし、あとで分かるようになる。」と彼に言われた。
- ペテロは彼〈イエス〉に、「決して私の足をお洗いにならないでください。」と言った。イエスは、「もしわたしがお前を洗わないなら、お前はわたしと何の関係もない。〔お前がわたしと関係がないならば、わたしはお前を洗わないのだ。〕」と答えられた。
- シモン・ペテロは彼〈イエス〉に、「主よ。私の足だけでなく、手も頭も(洗ってください)。」と言った。
- イエスは彼に、「全身洗われてしまっている者は、足以外に洗う必要がない。全身きよいのだ。お前たちはきよいのだが、皆がそうではない。」と言われた。
- 彼〈イエス〉はご自分を裏切る者を知っておられたのである。それで、「皆がきよいのではない。」と言われた。
- それで、彼〈イエス〉は、彼らの足を洗い、そして上着を着け、再び食卓に着いてから、彼らに言われた。「わたしがお前たちに何をしたか分かるか。
- お前たちはわたしを師とも主とも呼んでいる。それは正しいことである。実にわたしはそうなのだから。
- それで、主であり師であるわたしが、お前たちの足を洗ったのだから、お前たちも互いの足を洗い合うべきである。
- わたしがお前たちにしたとおりに、お前たちもするようにと、わたしはお前たちに模範を与えた。
- わたしは真実に、真実に、お前たちに言う。しもべ《奴隷》はその主人に優らず、遣わされた者は遣わした者に優るものではない。
- もしお前たちがこれらのことを知って、それらを行うなら、お前たちは幸いである。
- わたしは、お前たちの全員について言っているのではない。わたしは、自分がどのような者たちを選んだのかを知っている。しかしそれは、聖書に『わたしのパンを食べている者が、わたしに向かってかかとを上げた。』と書かれていることが成就されるためである。
- そのことが起きたとき、わたしがそれである〈エゴーエイミ〉ことをお前たちが信じるために、わたしは、それが起こる前に、今からお前たちに話す。
- わたしは真実に、真実に、お前たちに言う。わたしが遣わす者を受け入れている者はだれでも、わたしを受け入れているのである。それで、わたしを受け入れている者は、わたしを遣わした方を受け入れているのである。」
- イエスは、これらのことを話されたとき、霊によって激動された。そして、証言して、言われた。「わたしは真実に、真実に、お前たちに言う。お前たちのうちの一人が、わたしを裏切る。」
- 弟子たちは、だれのことを言っておられるのかと戸惑って、互いに顔を見合わせていた。
- 弟子の一人で、イエスが愛しておられた者が、彼〈イエス〉の右側の席に着いていた。
- そこで、シモン・ペテロは、彼〈イエス〉がだれのことについて語っておられるのかを尋ねるように彼に合図した。
- それでその弟子は、着座したままイエスの胸の方に向きを変えて、彼〈イエス〉に、「主よ。それはだれですか。」と言った。
- イエスは、「それはわたしがパン切れを浸して与える者である。」と答えられた。それから彼〈イエス〉は、パン切れを浸し、取って、イスカリオテ・シモンの子ユダにお与えになった。
- 彼がパン切れを受けると同時に、その時、サタンが彼に入った。そこで、イエスは彼に、「お前がしようとしていることを、今すぐせよ。」と言われた。
- 席に着いている者で、彼〈イエス〉が何のためにユダにそう言われたのかを分かった者は、だれもなかった。
- なぜならば、ある者たちは、ユダが金入れを持っていたので、イエスが彼に、「祭りのために我々が必要としている物を買え。」と言われたのだとか、あるいは、「貧しい人々に何か与えよ。」と言われたのだと思っていた。
- それで、ユダは、パン切れを受けるとすぐ、外に出て行った。すでに夜であった。
- それで、ユダが出て行ったとき、イエスは言われた。「今こそこの人の子は栄光を受ける。また、神はこの人の子によって栄光をお受けになる。
- 神が、この人の子によって栄光をお受けになるのであれば、神も、ご自身によってこの人の子に栄光を(必ず)お与えになる。しかも、直ちに栄光をお与えになる。
- 子たちよ。わたしはいましばらくの間、お前たちと共にいる。お前たちはわたしを捜す。そして、『わたしが行く所へは、お前たちは来ることができない。』とわたしがユダヤ人たちに言ったように、今はお前たちにも言う。
- お前たちが互いに愛し合うように、お前たちに新しい戒めを与える。その戒めとは、わたしがお前たちを愛したように、お前たちも互いに愛し合うべきことである。
- もしお前たちの互いの間に愛があるなら、それによって、お前たちがわたしの弟子であることを、全ての人が知るのだ。」
- シモン・ペテロが彼〈イエス〉に、「主よ。どこにおいでになるのですか。」と言った。イエスは、「わたしが行く所に、お前は今はついて来ることができない。しかし後にはついて来る。」と答えられた。
- ペテロは彼〈イエス〉に言った。「主よ。なぜ今はあなたについて行くことができないのですか。あなたのためにはいのちも捨てます。」
- イエスは答えられた。「お前はわたしのために自分のいのちを捨てるのか。わたしは真実に、真実にお前に言う。(明朝、)鶏が鳴く前に、お前は必ず三度わたしとの関係を否定する。」
14
- 「お前たちは心をかき乱されていてはならない。神を信じ続け、そしてわたしを信じ続けよ。
- わたしの父の家には、住まいがたくさんある。もしなかったら、お前たちに、そう言ったはずだ。なぜなら、わたしはお前たちのために、場所を備えに行こうとしているからだ。
- そして行って、お前たちのために場所の備えができたとき、わたしはお前たちをわたしのところに迎えるために、再び必ず来る。わたしのいる所に、お前たちをもおらせるためである。
- 実に、お前たちは、わたしが今行こうとしているところへの道を知っている。」
- トマスは彼〈イエス〉に、「主よ。あなたがどこへ行こうとしておられるのか、私たちは知りません。私たちは、どうしたら、その道を知ることができますか。」と言った。
- イエスは彼に言われた。「わたしが道であり、真理であり、いのちである。わたしを通らなければ、だれひとり父の御許に来ることができない。
- もしお前たちが、わたしを(すでに)知っているなら、わたしの父をも(自ら)知るようになる。そして今からお前たちはその方〈父〉を知るようになる。また、彼〈父〉を熟知するようになる。」
- ピリポは彼〈イエス〉に、「主よ。私たちに父を示してください。そうすれば満足します。」と言った。
- イエスは彼に言われた。「ピリポ。わたしがこんなに長い間お前たちといっしょにいるのに、お前はわたしを全く知らないのか。わたしを見た者は、父を見たのだ。どうしてお前は、『私たちに父を示してくれ。』と言うのか。
- お前は、わたしが父におり、父がわたしにおられることを信じていないのか。わたしがお前たちに語っていることばは、わたしが自分から話しているのではない。わたしのうちにおられる父が、ご自分の業を行っておられるのだ。
- お前たちは、わたしが父におり、父がわたしにおられると言うわたしのことばを信じ続けよ。もしそれができなければ、(わたしがしている)業によって信じ続けよ。
- わたしは真実に、真実に、お前たちに言う。わたしを信じている者は、わたしが行っている業を行い、またそれよりもさらに大きな業を(やがて)行う。わたしが父のもとに行くからである。
- また、お前たちがわたしの名によって求めることは何でも、そのとおりわたしは必ず行う。それは、父が子によって栄光をお受けになるためである。
- もし、何かをお前たちが、わたしの名によってわたしに求めるなら、わたしはそれを必ず行う。
- もし、お前たちがわたしを愛しているなら、お前たちはわたしの戒めを守るべきである。
- わたしは父に願おう。そうすれば、父はもうひとりの助け主をお前たちに(必ず)お与えになる。そうすれば、彼〈助け主〉は、いつまでもお前たちと共におられるようになる。
- それは、真理の御霊のことである。世はその方を受け入れることができない。世はその方を見もせず、知りもしないからだ。お前たちはその方を知っている。なぜならば、その方はお前たちの傍らに留まり続けておられ、お前たちのうちに(いつまでも)おられるからである。
- わたしは、お前たちを見捨てて孤児にはしない。わたしはお前たちのところに戻って来る。
- いましばらくで、世は、もはやわたしを見なくなる。しかし、お前たちはわたしを見る。なぜならば、わたしが生きているから、お前たちも(いつまでも)生き続けるのである。
- その日には、わたしがわたしの父におり、お前たちがわたしの中におり、わたしがお前たちの中にいることを、お前たちは(必ず)知る。
- わたしの戒めを保ち、それを守っている者は、わたしを愛している者である。それで、わたしを愛している者はわたしの父によって(いつまでも)愛される。わたしもその者を(いつまでも)愛し、わたし自身をその者に(必ず)明らかに現す。」
- イスカリオテでないユダが彼〈イエス〉に、「主よ。あなたは、私たちにはご自分を明らかに現そうとしながら、世には現そうとしておられないのは、どうしたわけですか。」と言った。
- イエスは彼に答えて言われた。「だれでも、もし、わたしを愛しているなら、わたしのことばを守るべきである。そうすれば、わたしの父はその人を(いつまでも)愛される。そして、わたしたちはその人のところに(必ず)来て、その人の所に住居を定める。
- わたしを愛していない人は、わたしのことばを(習慣的に)守らない。お前たちが聞いていることばは、わたしのものではなく、わたしを遣わされた父のみことばである。
- これらのことをわたしは、お前たちといっしょにいる間に、お前たちに話してきた。
- しかし、助け主、すなわち、父がわたしの名によってお遣わしになる聖霊は、お前たちに全てのことを教え、また、わたしがお前たちに話した全てのことばを思い起こさせてくださる。
- わたしは、お前たちに平安を残す。わたしの平安をお前たちに与える。わたしは、世が与えるようなものを、お前たちに与えない。お前たちは、心を動揺させていてはいけない。また、怖じけていてはいけない。
- お前たちは、『わたしは去って行こうとしている。そして、お前たちのところに来る。』とわたしが言ったのを聞いた。お前たちは、もし、わたしを愛しているなら、わたしが父のもとに行くことを喜ぶはずだ。なぜなら、父はわたしよりも偉大な方だからである。
- そして今わたしは、そのことが起きる前にお前たちに話した。それは、それが起こったときに、お前たちが信じるためである。
- わたしは、もう、お前たちとは多くは話さない。この世を支配する者が来ようとしているからだ。しかし彼はわたしに対して何もすることができない。
- しかし、それは、わたしが父を愛しており、わたしが父の命じられたとおりを行っていることを世が知るためである。立て。さあ、ここから行くのだ。」
15
- 「わたしはぶどうの木、しかもまことのぶどうの木である。そして、わたしの父は農夫である。
- 彼〈父〉は、わたしの中にある枝で実を結ばないものを全て取り除き、そして実を結ぶものを全て、もっと多く実を結ぶように、刈り込み(剪定)をされる。
- お前たちは、わたしがお前たちに話したことばによって、すでにきよいのだ。
- お前たちはわたしの中に(決定的に)留まれ。そうすれば、わたしも、お前たちの中に留まる。枝が、ぶどうの木に留まり続けていなければ、自分からは実を結ぶことができないように、お前たちも、わたしに留まり続けていなければ、実を結ぶことができない。
- わたしはぶどうの木であり、お前たちはその枝である。人がわたしの中に留まり続けており、わたしもその人の中に留まり続けているなら、そういう人は多くの実を結び続ける。なぜならば、お前たちはわたしを離れては、何一つすることができないからだ。
- もし、だれでも、わたしの中に留まり続けていなければ、その枝のように投げ捨てられて枯れる。すると人々はそれらを寄せ集めて、火に投げ込む。そしてそれらは燃やされてしまう。
- お前たちがわたしの中に留まり、わたしのことばがお前たちの中に留まるなら、何でもお前たちの欲しいものを求めよ。そうすれば、お前たちのためにそれが(必ず)かなえられる。
- お前たちが多くの実を結び続け、わたしの弟子となることによって、わたしの父は栄光をお受けになる。
- 父がわたしを(決定的に)愛しておられるように、わたしもお前たちを(決定的に)愛している。わたしの、その愛の中に(決定的に)留まれ。
- それは、ちょうど、わたしがわたしの父の命令を守って来たために、わたしの父の愛の中に留まり続けているように、お前たちもわたしの命令を守り、わたしの愛の中に(いつまでも)留まり続けるべきである。
- わたしがこれらのことをお前たちに話して来たのは、わたしの喜びがお前たちのうちにあり、お前たちの喜びが満たされるためである。
- わたしの命令は、わたしがお前たちを(決定的に)愛しているように、お前たちも互いに愛し合うことである。
- 人がその友のためにいのちを捨てるという、これよりも大きな愛はだれも持っていない。
- お前たちはわたしがお前たちに命じていることを行っているのだから、お前たちはわたしの友である。
- わたしはもはや、お前たちをしもべ《奴隷》とは呼ばない。なぜなら、しもべ《奴隷》は、自分の主人が何をしているのかを知らないからである。わたしはお前たちを友と呼んだ。なぜなら、わたしは父から聞いたことをみな、お前たちに知らせたからである。
- お前たちがわたしを選び出したのではない。わたしがお前たちを選び出し、お前たちを任命した。それは、お前たちが出かけて行き、そして実を結び続け、そのお前たちの実が残り続けるためである。また、お前たちがわたしの名によって父に求めるものを何でも、父がお前たちにお与えになるためである。
- お前たちは互いに愛し合うようにと、わたしはお前たちにわたしの命令を与えている。
- もし、世がお前たちを憎んでいるなら、世がお前たちよりもわたしを先に憎んでいることを知っておけ。
- もし、お前たちがこの世のものであるなら、世は自分のものを愛したことだろう。しかし、お前たちはこの世のものではない。かえってわたしが世からお前たちを選び出したのだ。それで世はお前たちを憎んでいるのだ。
- しもべ《奴隷》はその主人に優るものではない、とわたしがお前たちに言ったことばを覚えておれ。もし彼らがわたしを迫害したのなら、お前たちをも(必ず)迫害する。もし彼らがわたしのことばを守っているなら、お前たちのことばをも守るはずである。
- しかし、彼らは、わたしの名のゆえに、お前たちに対してそれらのこと〈迫害〉を(必ず)みな行う。それは彼らがわたしを遣わした方を知らないからだ。
- もしわたしが来て彼らに話さなかったなら、彼らに罪はなかったことだろう。しかし今では、その罪について言い訳はできない。
- わたしを憎んでいる者は、わたしの父をも憎んでいる。
- もしわたしが、他のだれも行ったことのない業を、彼らの間で行わなかったならば、彼らには罪がなかったことだろう。しかし、今、彼らはわたしとわたしの父とを見たのであり、憎んでいるのだ。
- しかし、それは、『彼らは理由なしにわたしを憎んだ。』と彼らの律法の書に書かれていることばが成就されるためである。
- わたしが父のもとから遣わす助け主、すなわち父の傍らから来られる真理の御霊が来るとき、その御霊がわたしについて証される。
- そして、お前たちも証する。なぜならば、お前たちは初めからわたしといっしょにいるからである。」
16
- 「わたしが、これらのことをお前たちに話しておいたのは、お前たちをつまずかせないためである。
- 人々はお前たちを会堂から追放する。事実、お前たちを殺す者がみな、そうすることで自分が神に奉仕しているのだと思う時が来る。
- 彼らがこういうことを行うのは、父をもわたしをも知らないからである。
- しかし、わたしがこれらのことをお前たちに話しておいたのは、彼らの時が来た時、わたしが(彼らについて)このように語ったことを、お前たちが思い出すためである。
わたしが初めからこれらのことをお前たちに話さなかったのは、わたしがお前たちといっしょにいたからである。 - 今わたしは、わたしを遣わされた方のもとに行こうとしている。しかし、お前たちの中の一人も、『あなたはどこに行くのですか。』と尋ねようともしていない。
- そればかりか、わたしがこれらのことをお前たちに話したために、お前たちの心は悲しみでいっぱいになっている。
- しかし、わたしはお前たちに真実を言う。わたしが去って行くことは、お前たちにとって益なのだ。それは、もしわたしが去って行かなければ、助け主がお前たちのところに来られないからである。しかし、もし行けば、わたしは彼〈助け主〉をお前たちのところに遣わす。
- その方が来ると、罪について、義について、さばきについて、世に判断の誤りを認めさせる。
- すなわち罪について(の判断の誤り)は、彼らがわたしを信じないことである。
- また、義について(の判断の誤り)は、わたしが父のもとに行き、お前たちがもはやわたしを見なくなることである。
- さばきについて(の判断の誤り)は、この世を支配する者がすでにさばかれてしまっていることである。
- わたしには、お前たちに話すべきことがまだたくさんあるが、今お前たちはそれを受け入れることができない。
- しかし、その方、すなわち真理の御霊が来られたならば、お前たちを全ての真理に導き入れられる。彼〈御霊〉はご自分(の意思)から語られずに、聞かれること全てを語られ、また、やがて起こるべきことをお前たちに知らされる。
- その方はわたしの栄光を現される。なぜならば、その方は、わたしのものの中から受け、そして(それを)お前たちに知らされるからである。
- 父が持っておられるものは全て、わたしのものである。それゆえわたしは、その方がわたしのものの中から受けて、お前たちに知らされると言ったのだ。
- しばらくすると、もはやお前たちはわたしを見ることができなくなる。しかし、またしばらくすると再び、わたしを見ることができる。」
- そこで、弟子たちのうちのある者は、「『しばらくするとお前たちは、わたしを見ることができなくなる。しかし、またしばらくすると再びわたしを見ることができる。』、また『わたしは父のもとに行くからだ。』と主が言われるのは、何のことなのか。」と互いに言った。
- そこで、彼らは、「主が言われるその『しばらくすると』とは何のことだろうか。私たちには、主が語っておられる意味が分からない。」と言っていた。
- イエスは、彼らがご自身に質問したがっていることを知られた。そして彼らに言われた。「『しばらくするとお前たちは、わたしを見ることができなくなる。しかし、またしばらくすると再びわたしを見ることができる。』とわたしが言ったことについて、互いに論じ合っているのか。
- わたしは真実に、真実に、お前たちに言う。お前たちは泣き、嘆き悲しむ。しかし、世は喜ぶ。お前たちは悲しむが、お前たちの悲しみは(必ず)喜びに変わる。
- 女が子を産む時、出産の時が来たので苦しむ。しかし、彼女は、子を産んでしまうと、一人の人が世に生まれた喜びのために、もはやその苦痛を覚えていない。
- それで、お前たちも、今は悲しんでいる。しかし、わたしは再び、お前たちに会う。そうすれば、お前たちの心は喜ぶ。そして、だれもその喜びをお前たちから奪い去ることはできない。
- 実にその日、お前たちは、わたしに何も問わない。わたしは真実に、真実に、お前たちに言う。お前たちがわたしの名によって父に求めるものは何でも、父は、お前たちに(必ず)お与えになる。
- お前たちは今まで、わたしの名によって何一つ求めたことがなかった。求め続けよ。そうすれば(必ず)受ける。それはお前たちの喜びが満ち満ちたままであり続けるためである。
- これらのことを、わたしはお前たちに喩えで話して来た。もはや喩えでは話さないで、父についてお前たちにはっきりと知らせる時が来る。
- その日には、お前たちはわたしの名によって求める。わたしは、わたしがお前たちのために父に願うとは言わない。
- なぜならば、父御自身がお前たちを愛しておられるからである。そして、お前たちがわたしを(真実に)愛しているからであり、また、わたしを神から出て来た者と(真実に)信じているからである。
- わたしは父から出て、世に来た。再び、わたしは世を去って父の御許に行こうとしている。」
- 彼〈イエス〉の弟子たちは言った。「ああ、今、あなたははっきりと話しておられます。そして何一つ喩えを話されません。
- いま私たちは、あなたが全てのことを知っておられるので、あなたが誰かに尋ねる必要がないことが分かりました。これゆえ、私たちは、あなたが神から来られたことを信じています。」
- イエスは彼らに答えられた。「お前たちは今、信じているのか。
- 見よ。お前たちが、それぞれ自分の家に追い散らされ、そしてわたしをひとり残す時が来る。いや、実に、すでに来ているのだ。しかし、わたしは一人ではない。父がわたしと共にいつもおられるからだ。
- わたしは、お前たちがわたしにあって平安を持つようにと、これらのことをお前たちに話しておいた。お前たちは、世にあっては患難がある。しかし、勇敢であり続けよ。わたしはすでに世に勝っているのだ。」
17
- イエスはこれらのことを語られた。そして目を天に向けられ、言われた。「父よ。時がすでに来ています。あなたの子の栄光を現してください。それは子があなたの栄光を現すためです。
- それは、あなたが、子に全ての者を支配する権威をお与えになったので、その、あなたが子に与えられた全ての者に、子が永遠のいのちを与えるためです。
- 永遠のいのちとは、彼らが唯一のまことの神であるあなたと、あなたの遣わされたイエス・キリストとを知る(との交わりに入る)ことです。
- わたしは、あなたがわたしに行わせるためにお与えになった業を成し遂げて、地上であなたの栄光を現します。
- それで今、父よ、世界が存在する前に、あなたの側でわたしが持っていたあの栄光で、ご自身と共に、わたしを栄光ある者にしてください。
- わたしは、あなたが世から取り出してわたしにお与えになった人々に、あなたの御名を明らかに知らせました。彼らはあなたのものでした。そして、あなたは彼らをわたしに下さいました。そして、彼らはあなたのみことばを守りました。
- 今、彼らは、あなたがわたしに与えて下さった者たちが全て、あなたから(出たもの)であることを(はっきりと)知っています。
- それは、あなたがわたしにお与え下さったみことばを、わたしが彼らに与えたからです。彼らはそれを受け入れ、わたしがあなたから出て来たことを真実に知り、また、あなたがわたしを遣わされたことを信じました。
- わたしは彼らのためにお願いします。世のためにではなく、あなたがわたしにお与えになった者たちのためにお願いします。なぜなら、彼らはあなたのものだからです。
- そして、わたしのものは全て、あなたのものであり、あなたのものはわたしのものです。そして、わたしは彼らによって栄光を受けました。
- そして、もうわたしは世にいなくなります。しかし、彼らは世におります。そして、わたしはあなたの御許に行こうとしています。聖なる父よ。あなたがわたしに与えておられるあなたの御名によって、彼らを保ってください。それは、わたしたちがそうであるように、彼らも一つであり続けるためです。
- わたしは、彼らといっしょにいた間、あなたがわたしに与えて下さっている御名によって彼らを保護していました。そしてわたしは彼らを守りました。彼らのうちの滅びの子以外に、だれ一人滅びませんでした。それは、聖書が成就されるためでした。
- わたしは今御許にまいります。わたしが今世にいる間にこれらのことを語っているのは、彼らが、わたしの喜びを彼らの(心の)中で満ち満ちたものとして持ち続けるためです。
- わたしは彼らにあなたのみことばを与えました。そして、世は彼らを憎んでいます。それは、わたしがこの世のものでないように、彼らもこの世のものでないからです。
- わたしはあなたに、彼らをこの世から取り去ってくださるようにと願っているのではなく、彼らを悪い者から守ってくださるように願っています。
- わたしがこの世のものでないように、彼らもこの世のものではありません。
- 真理によって彼らを聖別してください。あなたのみことばは真理です。
- あなたがわたしを世に遣わされたように、わたしも彼らを世に遣わしました。
- わたしは、彼らのため、わたし自身を聖別しています。それは彼ら自身も真理によって聖別されているためです。
- わたしは、この者たちだけのために願っているのではありません。そうではなく、彼らのことばによってわたしを信じる人々のためにもお願いしています。
- わたしの願いは、彼ら全てが一つであることです。父よ、あなたがわたしにおられ、わたしがあなたにいるように、彼らもわたしたちにあって(一つで)あることです。それは、あなたがわたしを遣わされたことを、世が信じるようになるためです。
- そして、わたしは、あなたがわたしに与えておられる栄光を彼らにも与えています。それは、わたしたちが一つであるように、彼らも一つであるためです。
- わたしは彼らの中におり、あなたはわたしのうちにおられます。それは、彼らが完全に一致に到達した状態であり続けるためです。それは、また、あなたがわたしを遣わされたことを、また、あなたがわたしを愛しておられるように、彼らをも愛しておられることをこの世が知るためです。
- 父よ。あなたがわたしに与えておられる者たちが、わたしのいる所にわたしと共にいるようにしてください。それは、あなたがわたしに与えておられるわたしの栄光を彼らが見るためです。なぜならば、あなたが世界の基の置かれる前からわたしを愛しておられるからです。
- 正しい父よ。この世はあなたを知りません。しかし、わたしはあなたを知っています。そして、これらの人々は、あなたがわたしを遣わされたことを知っています。
- そして、わたしは彼らにあなたの御名を知らせました。また、これからも(必ず)知らせ(続け)ます。それは、あなたがわたしを愛しておられるその愛が彼らの中にあるためであり、またわたしが彼らの中にあるためです。」
18
- これらのことを語られてからイエスは、弟子たちと共に、ケデロンの谷の向こう側に行かれた。そこに園があった。彼〈イエス〉と弟子たちは、その園に入った。
- イエスを裏切ろうとしていたユダもその場所を知っていた。それは、イエスがその所でしばしば弟子たちと集まりを持たれたからである。
- そこで、ユダは一隊の兵士と、祭司長、パリサイ人たちから送られた下役たちを引き連れて、ともしびとたいまつと武器を持ってそこに来た。
- それで、イエスはご自分の身に起ころうとしている全てのことを知っておられたので、出て来られた。そして、「だれを捜しているのか。」と彼らに言われた。
- 彼らは、「ナザレ人イエスを。」と答えた。彼〈イエス〉は彼らに、「わたしである。《エゴー エイミ》」と言われた。しかし、イエスを裏切ろうとしていたユダは彼らといっしょに立ったままでいた。
- そして、彼〈イエス〉が彼らに、「わたしである。《エゴー エイミ》」と(もう一度)言われたとき、彼らは後ろに逃げた。それで地面に倒れた。
- そこで、彼〈イエス〉が再び彼らに、「だれを捜しているのか。」と問われた。彼らは、「ナザレ人イエスを。」と言った。
- イエスは答えられた。「わたしは、わたしである《エゴー エイミ》と、お前たちに言った。それで、お前たちは、わたしを捜しているのだから、この人たちに去るがままにさせよ。」
- それは、「わたしは、あなたがわたしに与えられた者たちの、だれ一人をも失いませんでした。」と彼〈イエス〉が言われたことばが成就されるためであった。
- シモン・ペテロは、剣を持っていたので、それを抜き、大祭司の奴隷に斬りかかり、彼の右の耳を切り落とした。その奴隷の名はマルコスであった。
- しかし、イエスはペテロに言われた。「剣をさやに納めよ。わたしは、父がわたしに与えておられる杯をどうしても飲まなければならないのだ。」
- そこで、一隊の兵士と千人隊長、それにユダヤ人の下役たちは、イエスを捕らえて縛った。
- そして、彼らは初めにアンナスのところに連れて行った。それは、彼が、その年の大祭司カヤパの義父であったからである。
- カヤパは、一人の人が民衆のために死ぬほうが得である、とユダヤ人たちに助言した人であった。
- それで、シモン・ペテロともう一人の弟子は、イエスについて行った。この弟子はその大祭司の知人であった。それで彼はイエスと共に大祭司の邸宅の中庭に入った。
- しかし、ペテロは門の外に立っていた。それで、大祭司の知人である、もう一人の弟子が出て来て、門番の女に話し、ペテロを中に連れて入った。
- すると、その門番の女奴隷がペテロに、「あなたも、あの人の弟子の一人ではないのですか。」と言った。ペテロは、「違う。」と言った。
- そこに立っていた奴隷たちや役人たちは、寒かったので、炭火をおこし、暖まり始めた。それで、ペテロも彼らといっしょに立ったまま暖を取っていた。
- そこで、大祭司はイエスに、弟子たちについて、また、彼〈イエス〉の教えについて尋問した。
- イエスは彼に答えられた。「わたしは世に向かってあからさまに話して来た。わたしはいつも、全てのユダヤ人たちが集まる会堂や宮で教えた。そして、密かに話したことは一つもない。
- なぜ、あなたはわたしに聞くのか。わたしが彼らに何を話したのかは、それを聞いた者たちに聞け。見よ。彼らはわたしが話した事を知っている。」
- 彼〈イエス〉がこのように言われたとき、そばに立っていた役人の一人が、「お前は、大祭司に向かってそのように答えるのか。」と言って、平手でイエスを打った。
- イエスは彼に、「もしわたしの答え方が悪かったのなら、何が悪いのか証明せよ。しかし、もし正しいなら、なぜ、わたしを打つのか。」と答えられた。
- それでアンナスは彼〈イエス〉を、縛ったまま大祭司カヤパのところに送った。
- さて、シモン・ペテロは立ったままで暖を取っていた。すると、人々は彼に、「まさか、お前もあの男の弟子ではないだろうな。」と言った。ペテロは否定して、「いや違う。」と言った。
- 大祭司の奴隷の一人で、ペテロに耳を切り落とされた者の親類の者が、「私は、お前が園であの男といっしょにいるのを見たではないか。」と言った。
- それで、再びペテロは否定した。するとすぐに鶏が鳴いた。
- さて、彼らはイエスを、カヤパのところから総督官邸に連れて行った。時は明け方であった。彼らは、身を汚して過越の食事が食べられなくならないようにと、官邸に入らなかった。
- そこで、ピラトは彼らのところに出て来た。そして彼らに向かって、「お前たちは、この人に対するどのような告発状を持っているのか。」と言った。
- 彼らはピラトに、「もしこの男が悪を行っていなかったならば、我々がこの男をあなたに引き渡しはしなかったのだ。」と答えた。
- そこでピラトは彼らに、「お前たちがこの人を引き取り、自分たちの律法に従ってさばけ。」と言った。ユダヤ人たちは彼に、「我々は、だれをも死刑にすることが許されていない。」と言った。
- これは、ご自分がどのような死に方で死なれるかを予告して話されたイエスのことばが成就するためであった。
- そこで、ピラトは再び官邸に入った。そしてイエスを呼んで、「お前は、ユダヤ人の王なのか。」と聞いた。
- イエスは、「あなたは、このことを自分から言っているのか。それとも他の人たちが、あなたにわたしのことを話したのか。」と答えられた。
- ピラトは、「まさか私がユダヤ人であるはずがないだろう。お前の同国人と祭司長たちが、お前を私に引き渡したのだ。お前は何をしたのか。」と答えた。
- イエスは、「わたしの王国はこの世界に属してはいない。もし、わたしの王国がこの世界に属するものであったなら、わたしの部下たちは、わたしがユダヤ人たちに引き渡されないように、命懸けで戦ったはずだ。それで分かるように、わたしの王国はこの世のものではない。」と答えられた。
- そこでピラトは彼〈イエス〉に、「つまり、お前は王なのだな。」と言った。イエスは、「あなたの言うとおり、わたしは王だ。わたしは、実に真理を証するために生まれ、世に来たのだ。真理に属する者は皆、わたしの声を聞き、それに従う。」と答えられた。
- ピラトは彼〈イエス〉に、「何が真理なのか。」と言った。
そして彼はこう言ってから、再びユダヤ人たちのところに出て行って、彼らに言った。「私には、あの人に告訴の理由が何一つ見当たらない。 - しかし、過越の祭りに、私がお前たちのために一人の者を釈放するのがならわしになっている。それで、お前たちは、このユダヤ人の王をわたしが釈放することに同意するか。」
- すると彼らは、再び大声で叫び、「この人ではない。バラバだ。」と言った。このバラバは強盗であった。
19
- そこで、ピラトはイエスを引き受け、むち打ちにした。
- また、兵士たちは、いばらで冠を編んで、彼〈イエス〉の頭にかぶらせ、そして紫色の着物を着せた。
- 彼らは、彼〈イエス〉に近寄って、「ユダヤ人の王よ。ばんざい。」と言っては、彼〈イエス〉に平手打ちを与えていた。
- ピラトは、再び外に出て来た。そして彼らに言った。「見よ。私は、あの人に告訴の理由が全く見当たらないことをお前たちに知らせるために、あの人をお前たちのところに連れて来る。」
- それでイエスは、いばらの冠と紫色の着物を着けて、出て来られた。そしてピラトは彼らに「見よ。この人だ。」と言った。
- 祭司長たちや下役たちは彼〈イエス〉を見ると、大声で叫んで、「十字架につけろ。十字架につけろ。」と言った。ピラトは彼らに、「お前たちがこの人を引き取り、十字架につけよ。私はこの人に告訴の理由を認めない。」と言った。
- ユダヤ人たちは彼に答えた。「私たちには律法があります。この人は自分を神の子としたのですから、それは、律法によれば、死に相当します。」
- ピラトは、このことばを聞いた時、一層恐れた。
- そして、彼は、再び官邸に入って、イエスに、「お前はどこから来たのか。」と言った。しかし、イエスは彼に答えを与えられなかった。
- そこで、ピラトは彼〈イエス〉に言った。「どうしてお前は私に話さないのか。私はお前を釈放する権威を持っており、また十字架につける権威も持っていることを、お前は知らないのか。」
- イエスは答えられた。「あなたは、上から与えられていないなら、わたしに関することでは何の権限も持っていない。それゆえ、わたしをあなたに引き渡した者には、一層大きな罪がある。」
- この時から、ピラトは彼〈イエス〉を釈放しようと努力し始めた。それで、ユダヤ人たちは大声で叫んで、「もしあなたがこの人を釈放するなら、あなたはカイザルの味方ではない。自分を王とする者は全て、カイザルに背いている。」と言った。
- それでピラトは、これらのことばを聞いた時、イエスを外に引き出し、敷石(ヘブル語でガバタ)と呼ばれる場所で、裁判の席に着いた。
- その日は過越の備え日で、時は六時ごろであった。ピラトはユダヤ人たちに言った。「見よ。お前たちの王だ。」
- 彼らは大声で、「除け〔殺せ〕。除け〔殺せ〕。十字架につけろ。」と叫んだ。ピラトは彼らに言った。「お前たちの王を私が十字架につけるのか。」「私たちはカイザルの他に王を持っていません。」と祭司長たちは答えた。
- そこでピラトは、そのとき、彼〈イエス〉を、十字架につけるようにと彼らに引き渡した。
彼らはイエスを受け取った。 - そして、彼〈イエス〉はご自分で十字架を負って、「頭蓋骨の地」と呼ばれている場所(ヘブル語ではゴルゴタと言われる)に向かって出て行かれた。
- 彼らはその所で彼〈イエス〉を十字架につけた。彼〈イエス〉と共に、他の二人の者を両側に、イエスをその真ん中にして磔にした。
- ピラトは罪状書きも書いて、十字架の上の方に付けた。それには「ナザレ人イエス・ユダヤ人の王。」と書かれてあった。
- それで、大勢のユダヤ人がこの罪状書きを読んだ。なぜならばイエスが十字架につけられた場所は都に近かったからである。またそれはヘブル語、ラテン語、ギリシア語で書かれてあったからである。
- それで、ユダヤ人の祭司長たちがピラトに対して、「ユダヤ人の王、と書かないで、彼はユダヤ人の王と言った、と書いてください。」と言い出した。
- ピラトは、「私の書いたことは私が書いたのだ。」と答えた。
- さて、一方、兵士たちは、イエスを十字架につけると、彼〈イエス〉の着物を取り、一人の兵士に一つずつあたるよう四分した。また下着をも取った。しかし、その下着は上から全部一つに織った、縫い目なしのものであった。
- そこで彼らは互いに、「それを裂いてはいけない。だれの物になるか、くじで決めよう。」と言った。それは、「彼らはわたしの着物を分け合い、わたしの下着のためにくじを引いた。」という聖書が成就されるためであった。兵士たちはこのようなことをした。
- 他方、イエスの十字架のそばには、彼〈イエス〉の母と、彼〈イエス〉の母の姉妹、クロパの妻のマリヤとマグダラのマリヤが立ちつくしていた。
- それで、イエスは、母と、愛してこられた弟子がそばに立っているのを見て、母に、「女よ。見よ。あなたの息子だ。」と言われた。
- それからその弟子に、「見よ。お前の母だ。」と言われた。その時から、この弟子は彼女を自分の家に引き取った。
- このことの後、イエスは、全てのことが完了されたことを知られて、聖書が成就するために、「わたしは渇いている。」と言われた。
- そこには酸いぶどう酒が満ちた入れ物が置いてあった。そこで彼らは、酸いぶどう酒を含んだ海綿をヒソプの枝につけて、彼〈イエス〉の口もとに差し出した。
- それで、イエスは、酸いぶどう酒をお受けになり、「完了された。」と言われた。そして、頭を垂れて、霊をお渡しになった。
- その日は備え日であったため、しかもその翌日が大いなる安息日であったので、ユダヤ人たちは、安息日に死体が十字架の上に残っていないように、それらのすねを折って(死体を)取りのけてくれとピラトに願った。
- それで、その兵士たちが来て、第一の者のすねと、彼〈イエス〉と共に十字架につけられたもう一人の者のすねを折った。
- しかし、イエスのところに来ると、彼〈イエス〉がすでに死んでしまっておられるのを見たので、そのすねを折らなかった。
- しかし、兵士のうちの一人が彼〈イエス〉の脇腹を槍で突き刺した。すると、直ちに血と水が出て来た。
- それを目撃した者が証している。その人の証は真実である。その人は、あなたがたも信じるようにと、(自分が)真実を話していることを知っている。
- 実に、これらの事が起こったのは、「彼の骨は一つも砕かれない。」という聖書のことばが成就するためであった。
- また別の聖句は、「彼らは自分たちが突き刺した方を見る。」と語っている。
- それらのことの後、ユダヤ人を恐れていたために隠れてイエスの弟子であったアリマタヤのヨセフが、イエスのからだを引き取りたいとピラトに願った。それで、ピラトは許可を与えた。そこで彼は来て、彼〈イエス〉のからだを取り降ろした。
- 以前、夜、彼〈イエス〉のところに来たことがあるニコデモも、没薬とアロエを混ぜ合わせたものをおよそ百リトラ〈約三十二・八キログラム〉ばかり持って、やって来た。
- そこで、彼らはイエスのからだを取り、ユダヤ人の埋葬の備えの習慣に従って、それを香料といっしょに亜麻布で巻いた。
- 彼〈イエス〉が十字架につけられた場所に園があって、そこには、まだだれも葬られたことのない新しい墓があった。
- その日がユダヤ人たちの備え日であったため、墓が近かったので、彼らはイエスをそこに納めた。
20
- さて、週の初めの日に、マグダラのマリヤは、朝早くまだ暗いうちに墓に来た。そして、墓から石が取り除けてあるのを見た。
- それで、走って、シモン・ペテロと、イエスが愛しておられたもう一人の弟子とのところに来た。そして彼らに、「彼らが墓から主を取って行きました。彼らが彼〈主〉をどこに置いたのか、私たちにはわかりません。」と言った。
- そこでペテロともう一人の弟子は外に出て来て、墓のほうへ向かって行った。
- 二人はいっしょに走り出した。しかし、もう一人の弟子がペテロよりも速く走った。それで彼は先に墓に着いた。
- そして、身をかがめて、亜麻布が置いてあるのを見たが、それでも、中には入らなかった。
- 彼に続いて、シモン・ペテロも来て、(彼一人)墓の中に入った。そして亜麻布が置いてあるのを認めた。
- そして、彼〈イエス〉の頭に巻かれていた布切れは、亜麻布といっしょではなく、しかし離れた所に(頭に)巻かれたままの状態で、一所に置かれているのを認めた。
- そのとき、先に墓に着いたもう一人の弟子も入って来た。そして、見て、信じた。
- しかし、彼らは、彼〈イエス〉が死人の中からよみがえらなければならないという聖書を、まだ全く理解していなかったのである。
- それで、その弟子たちは再び自分のところに帰って行った。
- しかし、マリヤは外で墓のそばで泣きながら立ちつくしていた。それで、彼女は泣きながら、腰をかがめて墓の中をのぞき込んだ。
- すると、ふたりの御使いが、イエスのからだが置かれていた場所に、ひとりは頭の近くに、もうひとりは足の近くに、白い衣をまとって座っているのを認めた。
- 彼らは彼女に、「女よ。なぜ泣いているのか。」と言った。彼女は、「彼らが私の主を取って行ったのです。彼らが彼〈主〉をどこに置いたのか、私には分かりません。」と言った。
- 彼女はこう言ってから、うしろを振り向いた。すると、立っておられるイエスを見た。しかし、彼女にはそれがイエスであることが分からなかった。
- イエスは彼女に、「女よ。なぜ泣いているのか。だれを捜しているのか。」と言われた。彼女は、それを園の管理人だと思って、「ご主人。あなたが、あの方を運んだのでしたら、どこに置いたのか言ってください。そうすれば私があの方を引き取ります。」と言った。
- イエスは彼女に、「マリヤよ。」と言われた。彼女は振り向いて彼〈イエス〉に、ヘブル語で、「ラボニ(すなわち、先生)。」と言った。
- イエスは彼女に言われた。「わたしにすがり続けてはいけない。わたしはまだ父のところに上っていないからだ。わたしの兄弟たちのところに行って、彼らに『わたしは、わたしの父またお前たちの父、わたしの神またお前たちの神のもとに上ろうとしている。』と告げよ。」
- マグダラのマリヤは、行って、「私は主にお目にかかりました。」と、また、彼〈主〉が彼女にこれらのことを話されたと弟子たちに報告した。
- その日、すなわち週の初めの日の夕刻のことであった。ユダヤ人たちを恐れていたために、弟子たちがいた所の戸は閉じられていたが、イエスが来て、彼らの真ん中に立たれた。そして彼らに、「平安がお前たちに。」と言われた。
- このことを言われてから彼〈イエス〉は、両手と脇腹を彼らに示された。それで弟子たちは、主を見て喜んだ。
- イエスはもう一度、彼らに、「平安がお前たちに。父がわたしを遣わされたように、わたしもお前たちを遣わす。」と言われた。
- そして、こう言われると、彼らに息を吹きかけ、そして言われた。「聖霊を受けよ。
- お前たちが、人のどのような罪でも赦すなら、その人の罪は赦され、お前たちが、人のどのような罪でも赦さずに置くなら、その罪は赦されずに置かれる。」
- 十二弟子の一人で、デドモと呼ばれるトマスは、イエスが来られたとき、彼らといっしょにいなかった。
- それで、他の弟子たちが彼に、「私たちは主を見た。」としきりに言って聞かせた。しかし、トマスは彼らに、「私は、彼〈主〉の両手の釘〈複数〉の跡を見、私の指を釘〈複数〉の跡に差し入れ、また私の手を彼〈主〉の脇腹に差し入れなければ、決して信じない。」と言った。
- 八日後に、弟子たちは再び室内にいた。トマスも彼らといっしょにいた。戸は閉じられたままであったが、イエスが来て、彼らの真ん中に立たれた。そして、「平安がお前たちに。」と言われた。
- それからトマスに、「お前の指をここに持って来い。そしてわたしの両手を見よ。お前の手を持って来て、わたしの脇腹に差し入れよ。不信仰でいてはいけない。信仰ある者になれ。」と言われた。
- トマスは答えて彼〈イエス〉に、「私の主よ。私の神よ。」と言った。
- イエスは彼に、「お前はわたしを見たから信じているのか。見ずとも信じる者は幸いである。」と言われた。
- イエスは、この書には書かれていないが、まだ他の多くのしるしをも彼〈イエス〉の弟子たちの前で行われた。
- しかし、これらのことが書かれたのは、イエスが神の子キリストであることを、あなたがたが信じるため、また、あなたがたが信じて、彼〈イエス〉の御名によっていのちを得るためである。
21
- これらのことの後、イエスはテベリアの湖畔で、再びご自分を弟子たちに現された。彼〈主〉はこのようにお現れになった。
- シモン・ペテロといっしょに、デドモと呼ばれるトマスとガリラヤのカナ出身のナタナエルとゼベダイの子たちと他に、主の弟子たちが二人いた。
- シモン・ペテロが彼らに、「私は魚を獲りに行く。」と言った。彼らは、「私たちもあなたといっしょに行こう。」と言った。彼らは出かけ、舟に乗り込んだ。しかし、その夜は何も獲れなかった。
- 夜が明け始めた頃、イエスは岸べに立たれた。けれども弟子たちは、それがイエスであられることを知らずにいた。
- それで、イエスは彼らに向かって、「子どもたちよ。おかず〔魚〕を持っていないだろう。」と言われた。彼らは、「ありません。」と答えた。
- イエスは彼らに、「舟の右側に網を投げよ。そうすれば、(必ず)獲れる。」と言われた。そこで、彼らは網を投げた。すると、非常に多くの魚のために、網を引き上げることができずにいた。
- そこで、イエスが愛しておられたあの弟子がペテロに、「あれは主です。」と言った。シモン・ペテロは、主であると聞いて、上着を着ていなかったので、上着をまとって、湖に飛び込んだ。
- しかし、ほかの弟子たちは、陸地から約二百ペーキュース〈百メートル弱〉ほどしか離れていなかったので、小舟で、魚の満ちたその網を引きずりながら来た。
- こうして彼らが陸地に上がった時、そこに炭火がおこしてあり、その上に一匹の魚と、パンが置いてあるのを見た。
- イエスは彼らに、「お前たちが今獲った魚の中から(幾匹か)持って来なさい。」と言われた。
- それでシモン・ペテロは立ち上がって、百五十三匹の大きな魚で満ちた網を陸地に引きずり上げた。それほど多かったけれども、網は破れなかった。
- イエスは彼らに、「さあ来て、朝食を取れ。」と言われた。弟子たちの中のだれもが、その方が主であられることを知っていたので、「あなたはだれですか。」とあえて尋ねなかった。
- イエスは来て、パンを取り、彼らにお与えになった。また、魚も同じようにされた。
- これはすでに、イエスが、死人の中からよみがえられて後、弟子たちにご自分を現された三度目のことであった。
- それで、彼らが食事を済ませた時、イエスはシモン・ペテロに、「ヨハネの子シモン。お前は、これらよりも、わたしを愛している《アガパオの二人称単数》か。」と言われた。ペテロは彼〈イエス〉に、「そうです。主よ。あなたは、私があなたを愛している《フィロー》ことを知っておられます。」と言った。彼〈イエス〉は彼に、「わたしの小羊を養い続けよ。」と言われた。
- 彼〈イエス〉はさらに二度目に、彼に、「ヨハネの子シモン。お前はわたしを愛している《アガパオの二人称単数》か。」と言われた。彼は彼〈イエス〉に、「そうです。主よ。あなたは、私があなたを愛している《フィロー》ことを知っておられます。」と言った。イエスは彼に、「わたしの羊を牧し続けよ。」と言われた。
- 彼〈イエス〉はペテロに、三度目に、「ヨハネの子シモン。お前はわたしを愛している《フィローの二 人称単数》のか。」と言われた。ペテロは、イエスが三度目に、「お前はわたしを愛している《フィローの二人称単数》のか。」と言われたので、悲しんだ。そして彼〈イエス〉に、「主よ。あなたは全てを知っておられます。あなたは、私があなたを愛している《フィロー》ことをよく知っておられます。」と言った。イエスは彼に、「わたしの羊を養い続けよ。」と言われた。
- 「わたしは真実に、真実に、お前に言う。お前は若かった時には、自分自身で帯を締めて、自分の歩きたい所を歩いていた。しかし歳をとった時、お前は自分の手を伸ばし、他の人がお前に帯〔縄〕をかけ、お前の行きたくない所に連れて行く。」(と言われた。)
- 彼〈イエス〉はこのことを、ペテロがどのような死に方で、神に(必ず)栄光を帰するかを予告して、言われたのであった。そしてこう話されてから、ペテロに「わたしに従い続けよ。」と言われた。
- ペテロは振り向いて、イエスが愛してこられたあの弟子が後について来るのを見た。その弟子とは、あの晩餐のとき、彼〈イエス〉の右側にいて、「主よ。あなたを裏切る者はだれですか。」と言った者である。
- ペテロは彼を見て、イエスに、「主よ。この人はどうなるのですか。」と言った。
- イエスはペテロに、「たといわたしが来るまで、彼が生きながらえるのをわたしが望むとしても、それはお前と関わりがない。お前は、わたしに従い続けよ。」と言われた。
- それで、その弟子は死なないという話が兄弟たちの間に行き渡った。しかし、イエスはペテロに、その弟子が死なないと言われたのでなく、「たといわたしが来るまで、彼が生きながらえるのをわたしが望むとしても、それはお前と関わりのないことだ。」と言われたのである。
- これらのことについて証している者、すなわち、これらのことを書いた者は、その弟子である。そして、私たちは、その人の証言が真実であることを、知っている。
- イエスが行われたことは、他にもたくさんあるが、もし一つ一つ全てを書き記すならば、世界も、書かれた書物を入れて置くには足りない、と私は思う。