ルカの福音書
1
- 初めからの目撃者で、みことばに仕える者となった多くの人々が、私たちの間で事実として完全に確信されている数々の出来事について、
- 私たちに伝えられたとおり、順序正しく編集し、一つの記事に書き上げようと、すでに着手しています。
- 私も、初めから、全てのことを詳しく厳密に追跡して調べてありますので、あなたのために順序正しく書いて差し上げるべきであると思いました。尊敬するテオピロ殿。
- それは、あなたに伝えられた事柄の正確さをあなたに認めていただくためです。
- それは、ユダヤの国のヘロデ王の時代のことであった。その時の祭司は、アビヤの組のザカリヤという名の人であり、その人の妻はアロンの娘〔子孫〕の一人であった。そして彼女の名はエリサベツであった。
- 二人とも、神の御前に正しく、主の全ての戒めに従って歩んでいる落度のない人々であった。
- しかし、エリサベツが不妊であったので、彼らには子がなかった。そして二人ともすでに歳をとっていた。
- さて、ザカリヤが、彼の組が当番で、神の御前で祭司の務めを行っている最中のことであった。
- 彼は、祭司職の習慣に従って、主の宮の中に入って香をたくためのくじを引き当てた。
- そして、国民の中からの大勢の者たちが、香のたかれている間、外で祈っていた。
- その時、主の御使いが彼に現れ、香壇の右に立った。
- それを見たザカリヤは動揺し、恐怖に襲われた。
- それで、その御使いが彼に言った。「ザカリヤよ。恐れていてはならない。なぜならば、あなたの祈りが聞かれたからだ。それで、あなたの妻エリサベツはあなたに男の子を産む。あなたは、その子にヨハネという名を付けなければならない。
- その子はあなたにとって喜びとなり、非常な喜びを与える者となる。多くの者が彼の誕生を喜ぶようになる。
- それは、彼が主の御前で偉大な者になるからである。彼はぶどう酒と強い酒を決して飲まず、彼の母の胎内にいるときから、常に聖霊に満たされているからである。
- そして、イスラエルの多くの子たちを彼らの主である神に立ち返らせる。
- 実に彼こそエリヤの霊と力をもって主の前ぶれをなし、父たちの心を子供に向けさせ、不従順な者たちの心を正しい者たちの分別に立ち戻らせ、十分に整えられた民を主のために用意する。」
- そこで、ザカリヤは御使いに言った。「私は何によればそれを承認できるだろうか。私は老人であり、私の妻も歳をとってしまっているのに。」
- 御使いは答えて彼に言った。「私は神の御前に立つガブリエルである。あなたに語り、これらの喜びのおとずれを伝えるようにと遣わされたのだ。
- それゆえ、見よ。これらのことが成就される日まで、あなたはものが言えず、語ることもできない。あなたが、時が来れば必ず成就されるべき私のことばを信じなかった報いである。」
- 人々はザカリヤを待っていたが、彼が聖所の中で手間取っているので不思議に思っていた。
- 彼は出て来たが、人々に話すことができなかった。それで彼らは、彼が聖所の中で幻を見たのだと分かった。そして、彼は彼らに合図をし続け、ものが言えないままであった。
- 彼は祭司の務めの期間が終わったので、家に帰った。
- これらの日々が過ぎた後、彼の妻エリサベツはみごもった。それで、彼女は五ヶ月間、家の中に引きこもっていた。彼女は次のように言った。
- 「主は、こうしている間も人中での私の恥を取り除こうと心にかけて、私にこのようにすばらしいことをなしてくださいました。」
- さて、その六ヶ月目に御使いガブリエルが、ガリラヤのナザレという町の一処女のところに遣わされた。
- 彼女は、ダビデの家系に属するヨセフと呼ばれる男と婚約していた。この処女の名はマリヤであった。
- 御使いは彼女のところに入って来て、言った。「喜べ。〈こんにちは。〉恵まれた女よ。主があなたと共におられる。」
- しかし、彼女はそのことばに非常に当惑した。そしてこの挨拶が何を意味しているのかと考え込んでいた。
- するとその御使いは彼女に言った。「マリヤよ。恐れていてはいけない。あなたは神から恵みを受けている。
- 見よ。あなたは身ごもる。そして男の子を産む。そしてその子をイエスと名付けよ。
- その子は偉大な者になり、いと高き方の子と呼ばれるようになる。また主なる神は彼に彼の父ダビデの王座を与えられる。
- 彼はヤコブの家をとこしえに治める。そしてその王国は終わることがない。」
- それでマリヤはその御使いに「私はまだ男の人を知らないのに、どうしてそのようなことがあり得るでしょうか。」と言った。
- 御使いは彼女に答えて言った。「聖霊があなたの上に臨み、いと高き方の力があなたの上を被う。それゆえ、生まれる者も聖なる者であり、神の子と呼ばれる。
- 見よ。あなたの親類のエリサベツも、あの歳で男の子を胎内に宿している。不妊と言われていた彼女は、今六ヶ月目である。
- 神にとって不可能なことは一つもない。」
- マリヤは言った。「見てください。私は主のはしため〔女奴隷〕です。あなたのことばどおり、私の身になりますように。」そしてその御使いは彼女から去って行った。
- その頃、マリヤは立って、山地にあるユダの一つの町に急いで行った。
- そして彼女はザカリヤの家の中に入って、エリサベツに挨拶した。
- そして、エリサベツがマリヤの挨拶を聞いた時、エリサベツの胎内の胎児が踊り、エリサベツも聖霊に満たされた。
- そして、大きな声で叫んで言った。「あなたは女の中で(最も)祝福されています。あなたの胎の実も祝福されています。
- 私の主の母が私のところに来るとは、何ということでしょうか。
- 見なさい。あなたの挨拶の声が私の耳に入った時、私の胎内で胎児が喜んで踊りました。
- 主から自分に語られたことが必ず実現すると信じた女は、ほんとうに祝福されています。」
- マリヤは言った。
- 「私の心は主を賛美します。また私の霊は私の救い主、私の神を喜び踊ります。
- なぜならば、主が、ご自分のこのはしための卑しさに目を留めてくださったからです。見なさい。今から後、全ての世代の人々が私を祝福された者と考えます。
- 力ある方が、私に大きなことをしてくださったからです。その御方の御名は聖です。
- 主の憐れみは、代々の終わりまで、主を恐れかしこむ者のためにあります。
- 主は、ご自分の腕をもって力強い業をなし、心の思いの高ぶっている者を追い散らしてしまわれました。
- 主は、権力のある者たちを王位から引き降ろされました。そして身分の低い者たちを高く引き上げ、
- 飢えている者たちを良いもので満ち足らせられました。富んでいる者たちを手ぶらで送り返されました。
- 主は、憐れみを忘れないで、ご自分のしもべイスラエルをお助けになりました。
- 主が私たちの父祖たちに、またアブラハムとその子孫に語られたとおりです。」
- マリヤは三ヶ月ほどエリサベツのところに留まっていた。そうして後、自分の家に帰った。
- さて、みごもりの日数が満ち、エリサベツは男の子を産んだ。
- 近所の人々と彼女の親族たちは、主が彼女に大きな憐れみをお与えになったと聞いた。そして彼女と共に喜んでいた。
- さて八日目になり、人々がその幼子に割礼をするためにやって来た。そしてその幼子を彼の父の名にちなんでザカリヤと名付けようとした。
- しかし、幼子の母は答えて、「いいえ、そうではなくヨハネでなければなりません。」と言った。
- それで、彼らは「あなたの親族の中に、その名の人は一人もいません。」と彼女に言った。
- それで、彼らは手振りでその子の父に、幼子に何という名を付けたいのかと、尋ねた。
- すると、彼は書き板を求め、「彼の名はヨハネである。」と書いた。それで、人々はみな驚いた。
- すると、たちまち彼の口が開かれ、彼の舌も解かれ、神を誉め讃え始めた。
- それで、その近所の全ての人々に恐れが生じた。そして、これらのことについての事実がユダヤの山地全域にくまなく次々と語り伝えられて行った。
- それを聞いた全ての者たちは、(それを)心の中の記憶に留めた。そして、「いったい、その子は何になるのだろう。」と心の中で言っていた。実に、主の御手がその子の上にいつも留まっていたからである。
- 父ザカリヤも、聖霊に満たされて、預言して言った。
- 「イスラエルの神である主を誉め讃えよ。なぜならば、主がその御民を顧みて、贖いをなされたからだ。
- そして、ご自分のしもべダビデの家の中に、我々のために、救いの角を上げられた。
- 主が、ご自分の聖なる、古くからの預言者たちの口を通して、約束されたとおりに。
- 我々の敵どもからの救い、実に我々を憎む全ての者の手からの救いを(我々に与えられた)。
- 主は我々の父祖たちに憐れみを施し、ご自分の聖なる契約を覚えておられた。
- 主が、我々の父アブラハムに誓われた契約を。
- それは我々を敵どもの手から救い出し、恐れなく主に仕えさせるためであり、
- 我々が全生涯を通して、敬虔さと、義とをもって主の御前で仕えるためである。
- 幼子よ。お前もまた、いと高き方の預言者と呼ばれるようになる。それは、お前が主の前を歩き、主の道を備えるからである。
- 主の御民に、罪の赦しによる救いの知識を与えるためである。
- これは我々の神の深い憐れみによる。その憐れみにより、いと高き所からの『(義の太陽の)日の出』が我々に(必ず)訪れる。
- 暗黒と死の陰に座っている者たちを照らし出し、我々の足を平和の道に導くために。」
- さて、その幼子はますます成長していき、その霊的力がますます強くされ、イスラエルの民の前に公に出現する日まで荒野にいた。
2
- ちょうどその頃、皇帝アウグストから全住民に住民登録をせよとの命令が出された。
- その住民登録は、クレニオがシリアの総督になる前のものであった。
- そのために、全ての者が住民登録をするために、各々自分の町に向かって行った。
- ヨセフもダビデ王の家系の者であり、その氏族の出であったので、ガリラヤのナザレの町を出て、ユダヤ地方のベツレヘムと呼ばれるダビデの町に上った。
- それは、婚約しているマリヤが妊娠中であったので、マリヤも共に登録するためであった。
- しかし、彼らがその所に滞在している間に、彼女の出産の時が来た。
- そして、彼女は男の子の初子を産んだ。そして彼女はその子を産着にくるんで、飼い葉桶の中に寝かせた。それは、その宿屋には彼らのための場所がなかったからであった。
- 一方、同じ地域で、羊飼いたちが野宿しながら、夜通し羊の群れの番をしていた。
- その時、主の使いが彼らの上に現れた。そして主の栄光が彼らの周りを照らした。それで彼らは非常に恐れた。
- その御使いは、彼らに言った。「恐れていてはいけない。見よ。私はあなたがたに御民全てにとって大きな喜びとなる良い報せを語ろうとしているからだ。
- 今日、ダビデの町で、あなたがたのために、主なるキリストであられる救い主がお生まれになられた。
- これがあなたがたのためのしるしである。あなたがたは、産着に包まれて飼い葉桶に寝かされている赤子を見つける。」
- すると突然、その御使いと共に、天の大軍勢が現れ、神を誉め讃えて言った。
- 「いと高き所で栄光が神にあるように。地の上では平和がみこころにかなう人々にあるように。」
- そして御使いたちが羊飼いたちから離れて天に帰って行った時、彼らは、「さあ、ベツレヘムに行って、主が私たちに知らせてくださった出来事を見ようではないか。」とお互いに言い出した。
- 彼らは急いでやって来た。そして彼らはマリヤとヨセフと飼い葉桶に寝かされている赤子を見つけ出した。
- 彼らは、それを見てから、その幼子について彼らに告げられた言葉のとおりであったと言い広めた。
- それを聞いた人々は全て、羊飼いたちが彼らに語ったことに驚いた。
- 他方、マリヤはこれらの言葉の意味を、よく考えた上で、彼女の心の中に記憶しておいた。
- 羊飼いたちも、彼らに告げられたとおりのことを聞き、また見たので、それらのことについて神に栄光を帰し、神を讃えながら帰って行った。
- 幼子に割礼を施すための八日が過ぎたので、彼らは、幼子を胎内に宿す前に御使いから彼らに告げられたとおり、幼子をイエスと名付けた。
- モーセの律法に従ってきよめのための日数が過ぎたので、彼らは幼子を主にささげるためにエルサレムに連れて来た。
- それは、主の律法に、「母の胎を最初に開いた男児は全て、主に対して聖なる者と呼ばれなければならない。」と書かれてあるからである。
- そして、主の律法の中に、「山鳩の一つがい、または家鳩の雛二羽」と語られているところに従っていけにえをささげるためであった。
- 見よ。エルサレムにシメオンという名の人がいた。この人は、正しく敬虔で、イスラエルの慰めの時を待っていた。そして、聖霊がその人の上に留まっておられた。
- そして、彼は、聖霊によって、彼が主なる神のキリストを目で見るまでは、決して死ぬことはないという御告げを受けていた。
- そして御霊に捕らえられて宮の中に入って来た。その時、幼子イエスの両親が、幼子のために律法の慣例に従って行うために幼子を連れて入って来た。
- それで彼は幼子を両腕に受け入れ、神を誉め讃えた。そして言った。
- 「今こそ、主よ。あなたはあなたの約束に従ってあなたのしもべ《奴隷》を安らかに去らせてくださる。
- 私の目はあなたの御救いを見たゆえに。
- あなたが諸々の民の面前に備えられた御救いを。
- 私の目は、異邦人を照らす啓示の光を、そして御民イスラエルの栄光を見た。」
- そして、その幼子の父と母とは、幼子について語られた事について驚いていた。
- またシメオンは彼らを祝福し、そして幼子の母マリヤに向かって言った。「見よ。この子は、イスラエルの多くの者を倒し、また立ち上がらせる者になるために、また反対を受けるしるしとなるように定められている。
- やがて剣があなたの心をも刺し通す。それは多くの人の心にある反抗的な思いが明らかにされるためである。」
- また、アセル族にパヌエルの娘、女預言者ハンナがいた。この人は非常に年をとっていた。処女の時代のあと七年間、夫と共に生活した。
- その後、やもめとなり、八十四歳になっていた。そして宮を離れず、夜も昼も、断食と祈りをもって神に仕えていた。
- ちょうどこの時、彼女もそこにいて、神に感謝をささげ、そして、エルサレムの贖いを待ち望んでいる全ての人々に、この幼子のことを語り始めた。
- さて、彼らは主の律法による定めを全て完了したので、ガリラヤの自分たちの町ナザレに帰った。
- 幼子は成長して行き、そして知恵に満たされ、ますます力を増していった。そして、神の恵みがいつもその〈幼子の〉上にあった。
- 幼子の両親は、過越の祭りにはエルサレムに毎年行くことにしていた。
- その子が十二歳になったときも、彼らは祭りの慣習に従って都に上った。
- そして、彼らが祭りの期間を過ごした後、帰路についた時、少年イエスはエルサレムに留まられた。しかし少年イエスの両親はそれに気づかなかった。
- 彼らはイエスが旅の一行の中におられるものと思って、一日の道のりを行った。それから、親族や知人の中を回り、捜し始めた。
- しかし、見つからなかったので、イエスを捜しながら、エルサレムに戻った。
- その三日の後であった。彼らは、宮の中で教師たちの真ん中に座って、聞いたり質問したりしておられるイエスを見つけた。
- 聞いている人々はみな、イエスの知恵とお答えに愕然としていた。
- 両親は彼を見て唖然とした。そして母は彼に向かって、「坊や、なぜこんなことを私たちにしたのです。見なさい。あなたのお父さんも私も、心配してあなたを捜していたのです。」と言った。
- するとイエスは両親に、「なぜわたしを捜し回っていたのですか。わたしが自分の父の家にいるはずだということを知らなかったのですか。」と言われた。
- しかし、イエスが両親に話された言葉の意味を彼らは理解できなかった。
- そしてイエスは彼らと共に下り、ナザレに行かれた。そしてイエスは両親に服従しておられた。母は、これらの言葉を全て彼女の心の中に記憶しておいた。
- そしてイエスは知恵にも背丈にも、また神と人々との前での恵みによる力にもますます進歩して行かれた。
3
- 皇帝テベリオの治世の第十五年、ポンテオ・ピラトがユダヤの総督、ヘロデがガリラヤの国主、その兄弟ピリポがイツリアとテラコニテ地方の国主、ルサニヤがアビレネの国主であり、
- アンナスとカヤパが大祭司であった期間中に、神のことばが、荒野でザカリヤの子ヨハネに下った。
- そこでヨハネは、ヨルダン川のほとりの全ての地方に行って、罪の赦しに至る悔い改めに基づくバプテスマを説いた。
- そのことは預言者イザヤのことばの書に書かれてあるとおりである。「荒野で叫ぶ者の声がする。
- 『主の道を直ちに備えよ。主の歩まれる道を真っ直ぐにせよ。
- 全ての谷はうずめられ、全ての山と丘とは低くされ、曲がった所は真っ直ぐに、でこぼこ道は平らにされなければならない。
- こうして、全ての人が、神の救いを見るようになる。』」
- それで、ヨハネは、彼からバプテスマを受けようとして出て来た群衆に向かって言い続けた。「毒蛇のすえたち。だれがお前たちに来ようとしている御怒りから逃れるように教えたのか。
- それでは、悔い改めにふさわしい実を結べ。そして『我々の父はアブラハムだ。』などと心の中で言っていてはならない。なぜならば、神は、これらの石ころからでも、アブラハムの子孫を起こすことがおできになるからである。
- 斧はすでに木の根元に置かれている。だから、良い実を結ばない木は、全て切り倒されて、火に投げ込まれる。」
- 群衆はヨハネに次々と尋ねて言った。「それでは、我々は何をすべきなのだろうか。」
- 彼は答えて、「下着を二枚持っている者は、持っていない者に分け与えよ。そして食べ物を持っている者も、そのようにせよ。」と言っていた。
- 取税人たちも、バプテスマを受けるために出て来て、「先生。私たちは何をすべきなのですか。」と尋ねた。
- それで、ヨハネは彼らに、「決められたもの以上に、何も取り立ててはならない。」と言った。
- 兵士たちも、彼に、「私たちも何をなすべきなのか。」と言って、尋ね始めた。それで、ヨハネは彼らに、「だれからも、ゆすったり、恐喝してはならない。自分の給料で満足しておれ。」と言った。
- 民衆は、(キリストが来られるのを)待ち望んでいた。それで、全ての者が、心の中でヨハネについて、もしかしてヨハネがキリストではないかと思いめぐらしていた。
- それでヨハネが全ての者に答えて言った。「私はあなたがたを水でバプテスマしている。しかし、私より強い方が来られる。私はその御方の靴の紐を解く資格もない。その御方はあなたがたを聖霊によってバプテスマされる。また火によってもバプテスマされる。
- またその御手には箕があり、ご自分の脱穀場を徹底的にきよめ、麦を御自分の倉に納められるが、殻は消えない火で焼き尽くされる。」
- それで、ヨハネは他にも多くの奨励を与えながら、群衆に福音を語っていた。
- さて、国主ヘロデは、彼の兄弟の妻ヘロデヤのことで、また、彼の行った全ての悪事のことで、ヨハネに厳しく責められた。
- 彼は、ヨハネを牢に閉じ込めて、すでに行った全ての悪事の上に、この悪事をもう一つ加えた。
- 群衆が皆バプテスマを受けていた時のことであった。イエスもバプテスマをお受けになり、祈っておられた。すると天が開けた。
- そして聖霊が鳩の姿のような形を取って、イエスの上に下って来られた。また、「あなたはわたしの子、愛する子である。わたしはあなたに(十分に)満足している。」という声が天から聞こえた。
- さて、イエスは、(教えを)始められた時、およそ三十歳であられた。人々はイエスをヨセフの子と思っていた。このヨセフは、ヘリの子であり、
- さらにマタテの子、レビの子、メルキの子、ヤンナイの子、ヨセフの子、
- マタテヤの子、アモスの子、ナホムの子、エスリの子、ナンガイの子、
- マハテの子、マタテヤの子、シメイの子、ヨセクの子、ヨダの子、
- ヨハナンの子、レサの子、ゾロバベルの子、サラテルの子、ネリの子、
- メルキの子、アデイの子、コサムの子、エルマダムの子、エルの子、
- ヨシュアの子、エリエゼルの子、ヨリムの子、マタテの子、レビの子、
- シメオンの子、ユダの子、ヨセフの子、ヨナムの子、エリヤキムの子、
- メレヤの子、メナの子、マタタの子、ナタンの子、ダビデの子、
- エッサイの子、オベデの子、ボアズの子、サラの子、ナアソンの子、
- アミナダブの子、アデミンの子、アルニの子、エスロンの子、パレスの子、ユダの子、
- ヤコブの子、イサクの子、アブラハムの子、テラの子、ナホルの子、
- セルグの子、レウの子、ペレグの子、エベルの子、サラの子、
- カイナンの子、アルパクサデの子、セムの子、ノアの子、ラメクの子、
- メトセラの子、エノクの子、ヤレデの子、マハラレルの子、カイナンの子、
- エノスの子、セツの子、アダムの子。このアダムは神の子である。
4
- さて、イエスは聖霊に満たされてヨルダンから帰られた。そして御霊によって導かれて荒野におられた。
- その間の四十日間、イエスは悪魔による試みを受けられた。その間、イエスは何一つ食することはなかった。イエスは、その期間を終えられた時、空腹になられた。
- そこで、悪魔はイエスに、「あなたは神の御子であるのだから、この石にパンになるように言え。」と言った。
- それで、イエスはその悪魔に向かって、「『人はパンだけによって生きてはならない。』と書かれている。」と答えられた。
- 悪魔はイエスを(高い山の)上に導き、一瞬のうちに世界中の全ての王国を見せた。
- そして悪魔はイエスに言った。「私はあなたにこれらの権威と、その栄光とを与えよう。なぜならば、それらは私に委ねられており、だれにでも私が与えようと思う者に、それを与えることができるからである。
- だから、もしあなたが私の前にひれ伏すならば、それら全てはあなたのものとなる。」
- イエスは悪魔に答えて、「『あなたの神である主を礼拝せよ。そしてその方にのみ仕えよ。』と書かれてある。」と言われた。
- 悪魔はイエスをエルサレムに連れて来て、宮の屋根のひさしに立たせた。そしてイエスに言った。「あなたは神の御子であるのだから、ここから下へ身を投げよ。
- なぜならば、(聖書に)『神は、あなたのためにご自分の御使いたちに命じて、その手にあなたを必ず支えさせ、
- あなたの足が石に打ち当たることのないようにされる。』と書いてあるからだ。」
- しかし、イエスは彼に答えて、「『あなたは、あなたの神である主を試みてはならない。』と語られている。」と言われた。
- 悪魔は、全ての試みを終えて、次の機会までイエスから離れて行った。
- そして、イエスは御霊の力に満たされてガリラヤに帰られた。するとイエスについてのうわさが、その近辺の地域全体に広まった。
- そしてイエスは、それらの地域の会堂を巡って教え始められた。そして、全ての者たちによって崇められた。
- そして、イエスは故郷のナザレに来られた。いつものとおり安息日に会堂に入られた。そして聖書を読むために立たれた。
- すると、イエスに預言者イザヤの書が手渡された。そしてイエスは巻き物を開き、次のように書かれてあるところを捜された。
- 「主の御霊がわたしの上にある。貧しい者たちに良い報せを宣べ伝えさせるために、主はわたしに油を注がれた。主は、囚われ人たちに解放を宣言し、また目の見えない者を再び見えるようにし、打ちひしがれた者たちを解き放すために、わたしを遣わされた。
- わたしに主の喜びの時を宣べ伝えさせるために。」
- そしてイエスは、その巻き物を閉じて下役に返され、座られた。その会堂の中の全ての者の目がイエスに注がれていた。
- それで、イエスは彼らに向かって、「このみことばはあなたがたが聞いたとおり、今日、成就された。」と語り始められた。
- そして、全ての者がイエスの正しさを認め始め、イエスの御口から出る恵みのことばに驚嘆していた。そして、「この人はヨセフの子ではないか。」と言っていた。
- それでイエスは彼らに向かって言われた。「お前たちは、必ずわたしに対してこの喩えを使ってこう言うようになる。『医者よ。自分を癒せ。カペナウムで起きたと我々が聞いた出来事を全て、お前の故郷のここでも行え。』と。」
- そしてイエスは言われた。「真実にわたしはお前たちに言う。預言者はだれ一人自分の故郷では受け入れられない。
- 真実に基づいてお前たちに言う。エリヤの時代に、三年六ヶ月間、天が閉ざされ、全地に大飢饉が起きた時にも、イスラエルには多くのやもめがいた。
- しかし、エリヤはそのうちのどのやもめの所にも遣わされず、ただシドンのサレプタにいたやもめ女の所だけに遣わされた。
- 預言者エリシャの時にイスラエルには多くの重い皮膚病の人がいた。しかし、シリア人ナアマン以外のだれもきよめられなかったのだ。」
- それで、会堂にいて、これらのみことばを聞いた全ての者は怒りに満たされた。
- そして、彼らは立ち上がってイエスを町の外に追い出し、彼らの町が立てられている丘の崖淵までイエスを引いて来た。そこからイエスを突き落とすためであった。
- しかし、イエスは彼らの真ん中を通って歩いて行かれた。
- それからイエスはガリラヤの町カペナウムに下って来られた。そして安息日毎に人々を教えておられた。
- 人々はイエスの教えに非常に驚いていた。なぜならば、イエスのみことばには権威が伴っていたからである。
- その時、会堂に汚れた霊に憑かれた人が一人いた。そして、その人が非常に大きな声で叫んだ。
- 「ああ、ナザレのイエスよ。いったい我々に何をしようというのか。あなたは我々を滅ぼすために来たのか。私はあなたがだれであるかを知っている。あなたは神の聖者だ。」
- それでイエスは彼を厳しく叱って、「黙れ。その人から出て行け。」と言われた。すると悪霊はその人を人々の真ん中に投げ出して、その人から出て行った。しかし、その人を何一つ傷付けなかった。
- そして全ての者に恐怖が襲った。それで彼らは互いに話し合い、「このことばは何だろう。権威と力をもってこの人が悪霊に命じると悪霊どもが出て行くとは。」と言っていた。
- そして、イエスについてのうわさが、その近辺の全地域にいよいよ広まって行った。
- それでイエスは立って、会堂から出られシモンの家に入られた。その時、シモンの姑が高熱を病んでいた。それで彼らは彼女のためにイエスに願った。
- するとイエスは彼女の頭の上側に立って熱に命じられた。すると熱は彼女から去って行った。それで彼女は直ちに立ち上がり、彼らに仕え始めた。
- 太陽が沈む頃、種々の病で苦しんでいる者たちを家族の中に持っている全ての者たちが、彼らをイエスのところに運んで来た。イエスは彼らの一人ひとりの上に御手を置いて、彼らを次々と癒していかれた。
- 悪霊も、大声で叫び、「あなたは神の御子だ。」と言いながら多くの者から次々と出て行った。それでイエスは、霊どもを叱りつけ、語ることを許されなかった。なぜならば、霊どもは、イエスがキリストであられることを、以前から知っていたからである。
- 朝になった時、イエスはそこを出て、荒野に向かって歩いて行かれた。その時、群衆はイエスを捜していた。そしてイエスのところまで来た。そしてイエスが彼らから離れて行かれないようにイエスを引き留めておこうとしていた。
- それでイエスは彼らに向かって、「わたしは他の町々にも行って神の御国の福音を宣べ伝えなければならない。なぜなら、わたしはこのことのために遣わされているのだからだ。」と言われた。
- そしてユダヤ地方の諸会堂においてもみことばを宣べ伝え始められた。
5
- さて、それは群衆が神のみことばを聞こうとしてイエスに押し迫っていた時のことであった。イエスはゲネサレ湖の岸に立っておられた。
- その時、イエスは二艘の小舟が岸の上に置かれてあるのをご覧になった。その漁師たちは舟から下りて網を洗っていた。
- イエスはそれらの小舟の一艘に乗られた。その小舟はシモンのものであった。イエスは彼に小舟を岸から少し漕ぎ出すように頼まれた。そしてイエスは舟の中に座って群衆に教え始められた。
- イエスは話を終えられた時、シモンに向かって、「深みに漕ぎ出し、お前の網を海に降ろし、魚を捕れ。」と命じられた。
- シモンは答え、「主よ。私たちは夜通し労したのですが、何も捕れませんでした。しかしあなたのおことばに従って網を降ろします。」と言った。
- 彼らがこのようにした時、非常に多くの魚を捕らえた。それで網が破れそうになった。
- それで彼らは、仲間の漁師たちに他の小舟で助けに来てくれるようにと合図した。それで彼らは来て、両方の舟を、沈みそうになるまで魚でいっぱいにした。
- シモン・ペテロは、これを見て、イエスの膝元に伏し、「主よ。私から離れてください。私は罪深い男ですから。」と言った。
- それは、彼も、彼と共にいた全ての者も、彼らが捕らえた魚の多さを見て、非常に驚いたからである。
- シモンの仲間である、ゼベダイの子らのヤコブもヨハネも同様であった。そしてイエスはシモンに、「恐れていてはならない。今から後、お前は人を生け捕る漁師になるのだ。」と言われた。
- それで彼らは、舟を岸に引き上げて、全てを捨ててイエスに従った。
- また、イエスが町の一つにおられた時のことであった。見よ。そこに全身重い皮膚病に罹っている男がいた。彼はイエスを見て、イエスの前に倒れ伏して願って、「主よ。お望みくだされば、あなたは私をきよめることがおできになります。」と言った。
- するとイエスは御手を伸ばし、彼に触れて、「わたしの願いだ。きよくなれ。」と言われた。するとその重い皮膚病は、直ちに彼から去って行った。
- そしてイエスは、「だれにも言ってはならない。ただ祭司に自分を見せ、人々への証のためにモーセが命じたようにお前のきよめのためのいけにえをささげよ。」と彼に命じられた。
- しかし、イエスについてのうわさは、より一層広まって行った。そして多くの群衆がイエスのことばを聞こうとして、また持っている病苦から癒されようとして、ますます集まって来た。
- しかし、イエスは荒野に退き、祈ることを常としておられた。
- その頃のある日、イエスが教えておられた時のことであった。そこにパリサイ人たちと律法の教師たちが座っていた。彼らはガリラヤ、ユダヤ地方のあらゆる村々から、またエルサレムから出て来ていたのであった。そして主の御力がイエスの癒しの御業の中に現れていた。
- その時、男たちが身体の麻痺してしまっている一人の人を、床に乗せたまま運んで来た。そして彼らはその人を家の中に運び込み、イエスの御前に置こうと願っていた。
- しかし、群衆のために、どうしてもその人を運び込む方法が見つからなかったので、屋根に登って、瓦をはいだ穴から彼を床に乗せたまま吊り降ろし、人々の真ん中のイエスの前に置いた。
- イエスは彼らの信仰を見て、「人よ。お前の罪は赦されている。」と言われた。
- すると律法学者たちとパリサイ人たちが、「神への冒涜を語るこの人は何者か。神おひとり以外にだれが罪を赦すことができようか。」と言って文句を言い始めた。
- しかし、イエスは彼らの文句を知られて、彼らに答えて、「なぜお前たちは心の中で文句を言っているのか。
- 『お前の罪は赦されている。』と言うのと、『立ち上がって歩け。』と言うのと、どちらが容易か。
- お前たちは、この人の子が地上で罪を赦す権威を持っていることを知るべきだ。」と言われた。そして、イエスは身体の麻痺している人に向かって、「お前にわたしが言っている。立ち上がり、お前の床を担いで、お前の家に向かって歩いて行け。」と言われた。
- するとその人は彼らの目前で、すぐに立ち上がり、寝ていた床を担ぎ上げ、神を誉め讃えながら家へ帰って行った。
- すると全ての者が驚愕し、神を誉め讃え始めた。そして、「我々は今日、驚くべき奇蹟を見た。」と言って恐れに満たされた。
- これらのことの後、イエスはそこから去って行き、レビという名の取税人が収税所に座っているのをご覧になった。そしてイエスは彼に「わたしについて来い。」と言われた。
- すると彼は全てを後ろに残して、イエスに従い始めた。
- そしてレビは彼の家でイエスのために盛大な宴会を催した。それで大勢の取税人と、彼らの仲間たちとの群れが席に着いていた。
- するとパリサイ人たちと彼らの仲間の律法学者たちとがイエスの弟子たちに向かってつぶやいて、「なぜあなたがたは取税人たちや罪人たちと共に飲み食いするのか。」と言った。
- それでイエスは彼らに答えて言われた。「健康な者たちは医者を必要としていない。それを必要としているのは病人たちである。
- わたしは正しい者たちを招くためにではなく、罪人たちを悔い改めへと招くために来ている。」
- それで彼らはイエスに、「ヨハネの弟子たちは、パリサイ人の仲間の者たちと同じように、しばしば断食し、祈りを行っている。しかし、あなたに属する者たちは、食べたり飲んだりしている。」と言った。
- それでイエスは彼らに答えて言われた。「お前たちは、花婿の友人たちに、花婿が彼らと共にいる間に断食させることができないではないか。
- しかし、花婿が彼らから取り去られる時が必ず来る。その時代には、彼らは必ず断食するのだ。」
- イエスはまた喩えを彼らに話し始められた。「だれでも新しい着物から端切れを切り取って、それを古い着物の破れの当て布にはしない。そんなことをすれば、その新しい着物からの当て布が古い着物を引き裂いてしまうのだ。それはその古い着物には合わないのだ。
- まただれも新しいぶどう酒を古い皮袋には入れない。もしそうすれば、新しいぶどう酒はその皮袋を張り裂き、ぶどう酒は流れ出し、その皮袋もだめになる。
- だから、新しいぶどう酒は新しい皮袋に入れなければならない。
- まただれでも古いぶどう酒を飲んでから、新しいものを欲しがらない。『古いものが良い。』と言うからだ。」
6
- ある安息日にイエスが麦畑を通って歩いておられるときのことであった。イエスの弟子たちは麦の穂を摘み、それを手で揉んで食べていた。
- それで、パリサイ人たちのうちのある者が、「なぜあなたがたは安息日にしてはならないことをしているのか。」と言った。
- それでイエスは彼らに答えて言われた。「お前たちはダビデと、彼と共にいた者たちが飢えた時、ダビデが行ったことを読んだことがないのか。
- 彼は神の家に入り、祭司以外の者は食してはならない供えのパンを取って食べ、彼の供の者たちにも与えたのだ。」
- そして、イエスは彼らに「この人の子は安息日の主である。」と言われた。
- ある別の安息日のことであった。イエスは、みことばを教えるために会堂に入られた。そこに右手の萎えた人がいた。
- それで、律法学者たちとパリサイ人たちは、イエスを告訴する理由を得るために、イエスが安息日に人を癒されるかどうかを見守っていた。
- イエスは、彼らの理屈をすでに知っておられた。それでイエスは、右手の萎えているその男の人に向かって、「起き上がって、皆の真ん中に立て。」と言われた。するとその人は起き上がって、真っ直ぐに立った。
- それから、イエスは彼らに向かって、「わたしはお前たちに尋ねる。安息日に善を行うことが正しいのか。それとも悪を行うことか。いのちを救うことか、それとも滅ぼすことか。」と言われた。
- そしてイエスは、彼ら全ての者を見回してから、その人に、「お前の手を伸ばせ。」と言われた。その人はそのとおりにした。すると彼の手は元通りになった。
- 彼らは逆上した。そして彼らはイエスをどのようにすべきかと互いに話し合い始めた。
- その頃のある日、イエスは祈るために山に登られた。そしてイエスは夜通し神に祈り続けられた。
- そして朝になったとき、イエスは弟子たちを呼び寄せられた。そして彼らの中から十二人を選び出し、彼らを使徒と名付けられた。
- イエスがペテロという名を与えたシモンと、その兄弟アンデレと、ヤコブと、ヨハネと、ピリポと、バルトロマイと、
- マタイと、トマスと、アルパヨの子ヤコブと、熱心党員と呼ばれたシモンと、
- ヤコブの子ユダと、裏切り者となったイスカリオテ・ユダである。
- そしてイエスは、彼らと共に下って来て、平地の上に立たれた。そこにはイエスに従う大勢の弟子たちの群れと、ユダヤ地方全体とエルサレムから、そしてツロとシドンの沿岸地方から出て来た非常に多くの人々の集団が集まって来ていた。
- 彼らはイエスの話を聞くために、そして彼らの病苦から癒されるために来ていた。そして汚れた霊によって悩まされて来た者たちが、次々と癒されていた。
- そして群衆の全てがイエスに手を触れたいと願っていた。それはイエスから力が出て来て、全ての人を癒していたからである。
- そしてイエスは目を上げ、弟子たちを見ながら話し始められた。「貧しい者たちは幸いである。神の国は彼らのためにあるからだ。
- 今、飢えている者たちは幸いである。彼らはやがて必ず満たされるからだ。今、泣いている者たちは幸いである。彼らは必ず笑うようになるからだ。
- この人の子のために、人々がお前たちを憎む時、そしてお前たちを追放し、非難し、悪者として除名する時、お前たちは幸いである。
- その時、お前たちは喜び、喜び踊れ。見よ。天で受けるお前たちの報いは大きいからだ。彼らの先祖たちも、預言者たちに対して同じように行って来た。
- しかし、悲しいことだ。お前たち富んでいる者たちよ。お前たちは、今すでに慰めを受けてしまっている。
- 悲しいことだ。お前たち、今、満たされてしまっている者たちよ。なぜならば、お前たちはやがて必ず飢えるからだ。悲しいことだ。今、笑っている者たちよ。お前たちは今に必ず嘆き悲しみ、泣くからだ。
- 全ての人々がお前たちを誉める時、お前たちは悲しめ。彼らの先祖たちも偽預言者たちに同じようにして来たからだ。
- しかし、わたしは聞いているお前たちに言う。お前たちの敵を愛せよ。お前たちを憎む者たちに善を行え。
- お前たちを呪う者たちに祝福のことばを与えよ。お前たちを罵る者たちのために幸いを祈れ。
- お前たちの頬を打つ者に、もう一方の頬を向けよ。お前たちの上着を奪う者には下着も与えよ。
- お前に求める全ての者に与えよ。お前の物を奪う者に返還を求めるな。
- お前たちが人々に、自分のためにして欲しいことと同じことを、お前たちも(人々のために)せよ。
- お前たちを愛する者たちをお前たちが愛しても、お前たちにとってどれほどの美徳になろうか。なぜならば、罪人たちでさえ、彼らを愛する者たちを愛しているからだ。
- そしてお前たちに善を行っている者たちにお前たちが善を行っても、それがお前たちにとってどれほどの美徳であろうか。罪人たちでも同じことを行っている。
- お前たちが返してもらえる者に貸したとしても、それがお前たちにとってどれほどの美徳であろうか。罪人たちでも同じだけを返してもらうために貸している。
- しかし、お前たちはお前たちの敵を愛し、善を行え。そして返してもらうことを考えずに貸し与えよ。そうすればお前たちの報酬は大きく、いと高き御方の子となる。なぜならば、いと高き御方は恩知らずの者や悪人に対しても恵み深くあられるからである。
- お前たちの父が憐れみ深い方であられるように、お前たちも憐れみ深くあれ。
- お前たちは、人をさばくのをやめよ。人をさばかなければ、お前たちもさばかれない。お前たちは、人を罪に定めることをやめよ。人を(習慣的に)罪に定めなければ、お前たちも決して罪に定められない。人を赦せ。そうすれば、お前たちも(必ず)赦される。
- (人々に習慣的に)与え続けよ。そうすれば、お前たちも(必ず)与えられる。人々は、いっぱい枡に詰め込み、揺すり入れ、溢れこぼれるほど盛り上げて、お前たちのふところに入れてくれる。お前たちが人に量る量りで、お前たちも量られる。」
- イエスは、また彼らに喩えでも語られた。
- 「盲人が盲人の道案内をできるはずがない。両者とも穴に落ち込まないだろうか。
- 弟子が師匠より優れることはない。どの弟子も、(十分に)修業が与えられても、師匠のようになれるだけである。
- なぜお前たちは、自分の兄弟の目の中に入った木くずは見えても、自分自身の目の中の丸太に気が付かないのか。
- お前自身の目の中の丸太を見ることができないのに、どうしてお前は自分の兄弟に向かって、『兄弟。あなたの目の中の木くずを私に取らせてくれ。』と言えようか。偽善者よ。まず初めに、お前の目の中から丸太を取り出せ。そうすれば、お前はお前の兄弟の目の中の木くずをよく見て取り出すことができるようになる。
- 実に、良い木は悪い実を実らせることができない。また悪い木が良い実を実らせることもできない。
- 全ての木は、それ自体が実らせる実によって判定される。茨からいちじくは収穫できない。棘のある草からぶどうを摘み取ることはできない。
- 良い人は、心の中の良い宝庫から良いことばを(習慣的に)語る。しかし悪い人は、悪い心から悪いことばを(習慣的に)語る。お前の口は、お前の心から溢れ出ることを語るのである。
- なぜお前たちは、わたしを『主よ。主よ。』と呼びながら、わたしが言うことを実行しないのか。
- 全てわたしのところに来て、わたしのことばを聞き、それらを実行する者がどのような人に喩えられるかを示そう。
- その人は、地に穴を掘り、深く掘り下げ、岩の上に基礎を据え、その上に家を建てる人に喩えられる。洪水が起こり、水がその家に激しくぶつかって来ても、その家は頑丈に建てられているので、びくともしない。
- 聞いても実行しない人は、基礎なしに、地面の上に家を建てた人に喩えられる。その家に洪水が押し寄せると、直ちに倒れてしまい、その家の倒壊は非常に激しい。」
7
- イエスは群衆の耳に向けてみことばを語り終えた後、カペナウムに行かれた。
- その時、ある百人隊長のしもべ《奴隷》が病気で死にかけていた。その人はその百人隊長によって尊敬されていた。
- しかし、その百人隊長はイエスのことを聞いたので、イエスのところにユダヤ人の長老たちを送り、イエスに彼のところに来て、彼のしもべを癒してくださるように頼んだ。
- 彼らはイエスのところに着いた時、さっそくイエスに、「この百人隊長には、あなたが彼のためにこのことをしてくださるだけのふさわしさがあります。
- なぜならば、彼は私たちの国民を愛しており、私たちのために会堂を建ててくれたからです。」と言ってイエスに急いで来てくださいとしきりに懇願した。
- それでイエスは彼らと共に歩き始められた。ところが、イエスが彼の家からさほど遠くないところまで来られた時、彼は彼の友人たちをイエスのところに送って、イエスにことばを伝えた。「主よ。ご足労くださらないように。私には、あなたを私の家の屋根の下にお入れする資格がありません。
- それで、私自身でさえ、あなたに近づく資格がないと思ったのです。ただみことばをお与えください。そうすれば私のしもべは必ず癒されます。
- なぜなら、私も権威の下に服している人間です。しかし、私の下にも兵士たちがいます。その一人に私が『行け。』と言えば、彼は行きます。また他の者に『ここに来い。』と言えば、その者は来ます。また私のしもべに『これをせよ。』と命じると彼はそれをします。」
- イエスはそれらのことばを聞いて、彼を非常に誉めた。そしてイエスに従っていた群衆に振り返って、「わたしはお前たちに言う。イスラエル人の中にもこのような信仰を見たことがない。」と言われた。
- それで遣わされて来ていた者たちが家に帰った時、そのしもべが全く健康になっているのを見出した。
- その次の日のことであった。イエスはナインという町に向かって歩いて行かれた。イエスの弟子たちと大勢の群衆がイエスと共に歩いていた。
- イエスがその町の門に近づかれた時、見よ、母親のひとり息子が死んで、(埋葬のために)運び出されて来た。彼女はやもめであった。そしてその町の大勢の群衆が彼女と共にいた。
- すると、主は彼女を見て、深く憐れみ、彼女に、「泣くことはない。」と言われた。
- 主《彼》は近づいて棺に手を触れられた。それで棺を担いでいた者たちは立ち止まった。そして主《彼》は、「若者よ。わたしがお前に言っているのだ。起き上がれ。」と言われた。
- すると、その死人がからだを起こして座った。そして話し始めた。それで、主《彼》は彼を彼の母に返された。
- それで恐怖が全ての者を捕らえた。そして彼らは、「偉大な預言者が我々の間に起こされたのだ。」、また「神がご自分の民を顧みてくださったのだ。」と言って神を誉め讃えていた。
- それでイエスについてのうわさがユダヤの全地方とその近辺の全ての地方に広まった。
- ヨハネの弟子たちは、これらのこと全てをヨハネに報告した。それで、ヨハネは弟子の中から二人を呼び寄せた。
- ヨハネは彼らを主のおられるところに遣わして、「来るべき御方はあなたですか。それとも、我々はもうひとり別の方を待つべきですか。」と言わせた。
- その男たちはイエスのところに来て、「バプテスマのヨハネは私たちをあなたのところに遣わして言っています。『あなたが来たるべき御方ですか。それとも私たちはもうひとり別の方を待つべきでしょうか。』」と言った。
- ちょうどその時、イエスは、多くの人々を病気と激しい痛みと悪霊から癒し、多くの盲人に視力を与えられたところであった。
- イエスは彼らに答えて言われた。「行ってヨハネに、お前たちが見たことと聞いたこととを報告せよ。盲人たちは再び見えるようになり、足なえたちは歩いており、重い皮膚病の人々がきよめられ、そして耳の聞こえない者たちも聞こえるようになり、死人たちは生き返らされ、貧しい人々が喜びのおとずれを聞かされている。
- だからわたしにつまずかない者は幸いである。」
- ヨハネの使いたちが帰った後、イエスは群衆にヨハネについて語り始められた。「お前たちは何を見に荒野に出て行ったのか。風に揺られる葦(ではあるまい)。
- では何を見るためだったのか。柔らかい着物を着た人(でもあるまい)。見よ。きらびやかな着物を着て、贅沢に暮らしている者たちならば王宮にいるのだ。
- そうでなければ何を見にか。預言者をか。そのとおりだ。わたしはお前たちに言う。実にお前たちは預言者よりはるかに優る者を見に行ったのだ。
- この人こそ、聖書にこのように書かれてある人なのだ。
- 『見よ。わたしはわたしの使いをあなたの先に遣わす。その者はあなたの道をあなたの前に必ず備える。』
- わたしはお前たちに言う。女から生まれた者たちの中に、ヨハネより偉大な者は一人もいない。しかし、神の王国の中の最も小さい者でも彼より偉大である。
- (ヨハネの教えを聞いた全ての民は、取税人たちでさえ、ヨハネのバプテスマを受け入れて、神を正しいとした。
- しかし、パリサイ人たちと律法学者たちは、ヨハネによるバプテスマを受けないことによって、自分たち自身のための神のみこころを拒絶した。)
- それで、わたしはこの時代の者たちを何に喩えようか。彼らは何に似ているか。
- 彼らは、広場に座って、『我々はお前たちのために笛を吹いてやったのにお前たちは踊らず、弔いの歌を歌ってやったけれど泣きもしなかった。』と互いに言い合っている子どもたちに似ている。
- そのわけはこうだ。バプテスマのヨハネが来た。そしてパンを食せず、ぶどう酒も飲まなかった。するとお前たちは『彼は悪霊憑きだ。』と言っていた。
- そして、この人の子が来て、食べ、また飲んでいると、お前たちは『見よ。彼は大飯食いで大酒飲みで、取税人と罪人たちの仲間だ。』と言っている。
- だが、知恵の正しさを証明するのは、その知恵の子どもたち全ての行動である。」
- さて、あるパリサイ人が、一緒に食事をしたいと(言って)、イエスをしきりに招いた。それでイエスはそのパリサイ人の家に入り、食卓に着かれた。
- すると見よ、その町に一人の罪深い女がいた。彼女はイエスがパリサイ人の家で食卓に着いておられることを知って、香油の入ったローマングラス製の瓶を持って来た。
- そして泣きながらイエスの足のそばの後ろに立った。そして涙でイエスの足を濡らし始めた。それで彼女は自分の髪の毛で(御足を)拭っていた。さらにイエスの御足に(幾度も)口づけしてから、香油を塗り始めた。
- それで、イエスを招いたパリサイ人はそれを見て、「この人がもし預言者であるならば、自分に触っている女がだれで、どのような女か分かるはずだ。彼女は罪深い女なのだから。」と心の中でつぶやいた。
- それでイエスは彼に向かって答えて、「シモン。わたしは、お前に言いたいことがある。」と言われた。それで彼は「先生。お話しください。」と言った。
- 「ある金貸しに二人の負債者がいた。一人は五百デナリ、もう一人は五十デナリ借りていた。
- 彼らは返すことができなかったので、金貸しは二人とも赦してやった。それで、彼らの中のどちらが金貸しを、より多く愛するだろうか。」
- シモンは答えて、「より多く赦してもらった方だと私は思います。」と言った。それでイエスは彼に、「お前は正しく判断した。」と言われた。
- そしてイエスはその女のほうに顔を向けられ、シモンに言われた。「お前はこの女を見ているか。わたしがお前の家に入った時、お前は、わたしに、足に掛ける水をくれなかった。しかし彼女は涙でわたしの足を濡らし、彼女の髪の毛で拭ってくれた。
- お前はわたしに挨拶の口づけを一つも与えなかった。しかし、彼女はわたしが入って来た時から、わたしの足に口づけし通しである。
- お前はわたしの頭に油を塗ってくれなかった。しかし、彼女はわたしの足に油を塗ってくれた。
- そのためにわたしはお前に、『彼女の罪、しかも多くの罪は赦されてしまっている。だから彼女は多く愛している。』と言うのだ。少ししか赦しが与えられていない者は、少ししか愛さない。」
- イエスは彼女に、「お前の罪は赦されてしまっているのだ。」と言われた。
- すると、共に食卓に着いている者たちが、心の中で、「罪をも赦すこの者は何者だ。」と言い始めた。
- しかし、イエスはその女に向かって、「お前の信仰がお前を救ったのだ。安心して行け。」と言われた。
8
- その後、すぐにイエスは、みことばを宣言し、また神の国の福音を宣べ伝えるために全ての町と村を巡回し始められた。十二弟子も同行していた。
- また悪霊憑きと病気から癒された幾人かの女たちも(同行していた)。その中には、七つの悪霊を追い出してもらったマグダラの女と呼ばれたマリヤもいた。
- ヘロデの執事クーザの妻ヨハンナと、スザンナ、それにその他大勢の女たちが共にいた。彼女たちは自分たちの財産をもって皆に奉仕していた。
- 大勢の人々が群れをなして集まり、また全ての町々から人々が続々とイエスのところに集まって来るので、イエスは喩えによって話された。
- 「種を蒔く人が種を蒔くために出て行った。その人が種を蒔いている時、ある種は道の端に落ちた。そして人に踏みつけられ、空の鳥たちに食べられてしまった。
- また別の種は岩の上に落ちた。それは芽を出したが、水分がないので枯れてしまった。
- また別の種は茨の中に落ちた。しかし茨も共に伸びたために、覆われて枯れてしまった。
- また別の種は良い地に落ちた。そして成長し、百倍の実を結んだ。」これらのことを語りながらイエスは、大声で「聞く耳のある者は聞け。」と叫んでおられた。
- それで弟子たちは、イエスにその喩えが何を意味しているのかと質問し始めた。
- それでイエスは言われた。「お前たちには神の御国の奥義を知ることが許されている。しかし、他の者たちには、見てはいても見えないように、聞いてはいても分からないように喩えで語るのである。
- その喩えはこのことである。種とは神のみことばのことである。
- 道の端に落ちた種とは、みことばを聞いたが、聞いた後に、悪魔がやって来て、その人が信じて救われることがないようにと、その心からみことばを取り去ってしまう人々のことである。
- 岩の上に落ちた種とは、みことばを聞いた時、それを喜んで受け入れたが、根がなく、しばらく信じているが、試練が来ると離れてしまう人のことである。
- 茨の中に落ちた種とは、みことばを聞いたが、しばらく続くだけで、生活上の心配事、あるいは贅沢、あるいは遊び事によって(信仰の)息が詰まらせられ、実を結ぶに至らない人たちのことである。
- しかし、良い地に落ちた種とは、正しく、良い心をもってみことばを聞き、それをしっかりと捉まえ、忍耐して実を結ぶ人たちのことである。
- だれでもランプに火を点してから、それを鉢で隠したり、寝台の下に置いたりはしない。部屋に入って来る人たちが光を見るように燭台の上に置く。
- 隠されているもので、やがて明らかにならないものはない。秘密のもので、やがて知られもせず、また明らかにされもせずにすむものはない。
- だから、お前たちは、自分がどのように聞いているかにいつも注意せよ。なぜならば、だれでも持っている者には、さらに与えられ、持っていない者は、自分のものと思っているものまで、さらに取り上げられるからだ。」
- イエスの母と兄弟たちがイエスのところに到着したが、群衆のためにイエスに会えずにいた。
- その時、ある者がイエスに、「あなたの母と兄弟たちが、あなたに会おうとして外に立っている。」と告げた。
- それでイエスは彼らに答えて、「神のみことばを聞き、それを行う人々こそ、わたしの母であり、兄弟である。」と言われた。
- その頃のある日のことであった。イエスと弟子たちは一艘の舟に乗った。イエスは彼らに「湖の対岸に行こう。」と言われた。それで彼らは出帆した。
- ところがイエスは航海中にぐっすり眠り込まれた。その時、突風が湖に吹き下ろして来た。それで、彼らの舟は水で一杯になって来た。そのために彼らは危険になっていた。
- 彼らはイエスに近寄り、起こして、「先生。先生。我々は死にそうです。」と言った。それでイエスは起き上がり、風と荒波とを叱りつけられた。すると波は止み、凪になった。
- イエスは彼らに、「お前たちの信仰はどこにあるのか。」と言われた。弟子たちは恐れて、驚いた。そして互いに向かって、「何という御方だ。この方が風と水とに命じると、この方に従うとは。」と言っていた。
- そして彼らはガリラヤ湖の対岸のゲラサ人の地に渡った。
- イエスがその地に上陸されたその時、その町の者で、悪霊に憑かれた一人の男がイエスに会いに来た。彼は、かなりの期間、着物を付けず、家の中にではなく、墓場に留まっていた。
- 彼はイエスに会い、叫びながらイエスの足もとに倒れ伏し、大声で、「いと高き方の子イエスよ。私にかまわないでください。お願いです。私を苦しめないでください。」と言った。
- それは、イエスがその汚れた霊にその人から出るように命じられたからであった。幾度も幾度もその霊が彼を捕らえてしまったことがあった。(その度に)人々は彼を保護しようとして、彼を鎖と足かせで縛りつけたのだが、彼は鎖を引きちぎって、いつも悪霊によって荒野に追いやられていた。
- それでイエスはその男に、「お前の名は何だ。」と尋ねられた。彼は、「レギオンです。」と答えた。それは多くの悪霊が彼の中に入っていたからである。
- 悪霊どもはイエスに、自分たちに底知れぬ所に行けと命じないようにしきりに願った。
- その地の山地に非常に多くの豚の一群が飼われていた。悪霊どもはその豚の中に入ることを許してくれるようにイエスに願った。それでイエスはそれを許された。
- 悪霊どもはその人から出て豚の中に入った。すると豚の群れは崖を雪崩のように湖に向かって駆け下り、おぼれ死んだ。
- この出来事を見て(豚を)飼っている者たちは逃げ出した。そしてその町と村々の人々に知らせた。
- 人々はその出来事を見に出て来た。そしてイエスのところに来て、悪霊が出て行った人が、イエスの足もとに着物を着て、正気になって座っているのを見た。それで、彼らは恐れた。
- それを見た人々は、悪霊に憑かれていた人がどのように救われたかを人々に報告した。
- それでゲラサ地方の人々は全て、イエスに彼らから離れて出て行ってくださいと願った。なぜならば彼らは非常な恐怖に捕らわれていたからであった。それでイエスは舟に乗って帰られた。
- 悪霊を出してもらったその人は、イエスと一緒におらせてくださいとイエスにしきりに懇願した。しかしイエスは彼を次のように言って家に帰らせられた。
- 「お前の家に帰れ。そして神がお前のためにどんなに大きなことをされたかを語って聞かせよ。」それで彼は全ての町々に行って、イエスが彼のためになさった全てのことを宣べ伝えた。
- イエスが帰って来られた時、群衆はイエスを歓迎した。全ての人々がイエスを待ちわびていたからである。
- 見よ。その時、ヤイロという名の人が来た。その人は会堂の管理者であった。彼は、イエスの足もとにひれ伏し、イエスに彼の家に来てくださるようにとしきりに懇願した。
- なぜならば、彼に十二歳ほどのひとり娘がいて、彼女が死にかかっていたからである。
イエスが行こうとされた時、群衆がイエスに押し迫って来ていた。 - そこに、十二年間出血し続けてきた婦人がいた。彼女は医者たちに全財産を使い尽くしてしまっていた。彼女はだれからも癒してもらえなかった。
- 彼女はイエスの後ろに近づき、イエスの着物の房に触った。するとすぐに血の流れが止まった。
- するとイエスは「わたしに触れたのはだれか。」と言われた。みなが自分ではないと言ったので、ペテロは「先生。群衆があなたに押し迫って、押し合っています。」と言った。
- しかしイエスは、「だれかがわたしに触れた。わたしはわたしから力が出て行くのが分かったのだ。」と言われた。
- それで、彼女は、隠すことができないと知って、震えながらイエスに近づき、ひれ伏して、群衆全員の前で、イエスに触った理由を、そして直ちに癒されたことを報告した。
- それでイエスは彼女に、「娘よ。お前の信仰がお前を(完全に)死から解放したのだ。安心して生きよ。」と言われた。
- イエスがなお話しておられる時、会堂管理者の家からある者が来て、「あなたの娘は死んでしまっている。もはや先生にご足労をかけることはない。」と(会堂管理者に)言った。
- しかし、イエスはそれを聞いて彼に、「恐れてはならない。ただ信じ続けよ。娘は(必ず)癒される。」と答えられた。
- それで、イエスはその家に入る時、ペテロとヨハネとヤコブとその娘の父と母以外の者に、一緒に入ることを許されなかった。
- 全ての者がいて、彼女のために胸を打って悲しんでいた。それでイエスは、「お前たちは泣いていてはいけない。彼女は死んだのではない。ただ眠っているのだ。」と言われた。
- しかし、彼らは彼女が死んだことを知っていたので、イエスを馬鹿にして笑っていた。
- しかし、イエスは彼女の手を取り、「子よ。起きよ。」と大声で言われた。
- すると彼女の霊が戻った。そして彼女はすぐに起き上がった。それでイエスは彼女に食べ物を与えるように指図された。
- すると彼女の両親は驚嘆した。しかしイエスは彼らにその出来事をだれにも知らせないように命じられた。
9
- イエスは、その十二人〈使徒たち〉を呼び集め、彼らに、全ての悪霊を追い出し、病気を治す力と権威とをお与えになった。
- それから、神の国を宣べ伝え、病人を癒すために、彼らを遣わされた。
- またイエスは彼らに向かって言われた。「旅のために何も持って行くな。杖も袋もパンも金も持って行くな。また下着を二枚持って行くな。
- どのような家にも、もし入ったならば、そこにとどまれ。またそこから出発せよ。
- 人々がお前たちを歓迎しないならいつでも、彼らに対する証としてお前たちの足の塵を払い落としてその町を出よ。」
- それで彼らは全ての村々を回り、至る所で福音を宣べ伝え、病人を癒した。
- さて、国主ヘロデは、この全ての出来事を聞いた。そして、「ヨハネが死人の中からよみがえったのだ。」と言うある人々の言葉によってすっかり当惑していた。
- またある者たちが、「エリヤが現れたのだ。」と言い、別の者たちも、「昔の預言者の一人がよみがえったのだ。」と言っていたからである。
- しかし、ヘロデは、「ヨハネは私が斬首した。このようにうわさされているこの人は、何者なのだ。」と言った。そして彼はイエスに会いたがっていた。
- さて、使徒たちは帰って来て、なしたこと全てをイエスに報告した。それでイエスは彼らを連れて密かにベツサイダと呼ばれる町へ退かれた。
- しかし、群衆はそれを知ってイエスについて来た。それでイエスは彼らを受け入れ、彼らに神の御国について話し始められた。そして癒しを必要としている者たちを癒し始められた。
- 陽が傾き始めた時、十二弟子たちはイエスのところに来て、「群衆を解散させて、周辺の村や部落に行って宿を取らせ、食物を手に入れさせてください。私たちはこの人里離れた所にいるのですから。」と言った。
- それでイエスは彼らに、「お前たちが彼らに食べ物を与えよ。」と言われた。それで彼らは、「この群衆全員のために私たちが行って食物を買って来ない限り、今私たちには五つのパンと二匹の魚以外に何もありません。」と言った。
- なぜならば、そこには男の数がおよそ五千人であったからである。それでイエスは弟子たちに、「彼らを約五十人ずつを一群れにして座らせよ。」と言われた。
- それで、彼らはそのようにして、全てを座らせた。
- それでイエスは五つのパンと二匹の魚を取り上げ、天を見上げ、それらを祝福してから裂き、群衆に分配するように弟子たちに渡し始められた。
- それで全ての者が食べて、満腹した。そして、彼らが余らせたパン切れを集めると、十二籠にいっぱいになった。
- ある日、イエスが一人だけで祈っておられた。弟子たちもイエスと共にいた。その時、イエスは彼らに「人々はわたしをだれだと言っているか。」と尋ねられた。
- 彼らは答えて、「ある者は、バプテスマのヨハネだ、と言い、他の者はエリヤだと言い、さらに他の者は、昔の預言者の一人がよみがえったのだ、とも言っています。」と言った。
- それでイエスは彼らに、「ではお前たちは、わたしをだれだと言うか。」と言われた。ペテロは答えて、「神のキリストです。」と言った。
- それでイエスは、このことをだれにも言わないように彼らに厳しく命じられた。
- そして言われた。「この人の子は、非常な苦しみに遭わせられ、長老、祭司長、律法学者たちによって不適と判定されて捨てられ、殺される。そして三日目によみがえることに定められている。」
- それからイエスは彼ら全てに、次のように言い始められた。「だれでもわたしについて来たいと思うなら、自分を捨ててしまい、日々自分の十字架を取り上げ、わたしに従い続けよ。
- なぜならば、だれでも、自分のいのちを救おうと思う者は、それを必ず滅ぼす。しかし、だれでもわたしのために自分のいのちを捨てる者こそ、そのいのちを必ず救うのである。
- なぜならば、人がたとい全世界を手に入れても、自分自身を滅ぼし、損失するならば、何の得になろうか。
- だれでもわたしと、わたしのことばを恥とするならば、この人の子も、自分と御父と聖なる御使いたちとの栄光を帯びて来る時、その者を必ず恥とする。
- わたしは真実にお前たちに言う。ここに立っている者たちの中に、神の国を見ない限り、決して死を味わわない者たちがいる。」
- これらのみことばが語られた後、八日ほどのことであった。イエスは、ペテロとヨハネとヤコブとを連れて、祈るために、山に登られた。
- イエスが祈っておられる間に、御顔の様が変わってしまい、イエスの御衣が白く閃光を発し輝き始めた。
- しかも、見よ、二人の人がイエスと話し合っていた。それはモーセとエリヤであった。
- その三人は栄光のうちに現れ、イエスがエルサレムで成就しようとしておられた死について話していた。
- ペテロと彼の仲間たちは、眠くてたまらなかったが、はっきり目が覚めると、イエスの栄光と、イエスと一緒に立っている二人の人が見えた。
- それから、二人がイエスから離れようとしていたその時、ペテロはイエスに、「先生。私たちがここにいられることはすばらしいことです。私たちは仮庵を三つ作ります。一つはあなたのため、もう一つはモーセのため、もう一つはエリヤのためにです。」と、自分が語っていることの意味を分からずに言った。
- 彼がこう言っている間に、雲がわき起こってその人々を覆い始めた。そして、彼らは、その雲に包まれたので、恐れた。
- すると雲の中から、「これはわたしの子、わたしが選んだ者である。お前たちは彼の言うことを聞け。」と言う声が聞こえた。
- この声が聞こえた時には、イエスだけがそこにおられた。彼らは口を閉ざし、その当時、彼らが見たこのことについて何一つ、だれにも知らせなかった。
- その翌日、彼らが山から下りて来た時、大勢の人の群れがイエスを迎えた。
- すると、見よ、群衆の中から、一人の人が大声で言った。「先生。お願いです。私の息子を見てやってください。私の大事なひとり息子です。
- 見てください。霊がこの子に取り憑くと、彼は突然叫び出し、霊は彼を引き付けさせて泡を吹かせ、傷め続けてなかなか去りません。
- それで、あなたの弟子たちに、この霊を追い出してくれるように頼んだのです。しかし彼らはできませんでした。」
- それで、イエスは答えて、「ああ、何と不信仰でひねくれた世だ。わたしがお前たちと共にいて、お前たちの言うことに耳を傾けることができるのはいつまでだろうか。お前の息子をここに連れて来い。」と言われた。
- その子が近づいて来る間にも、悪霊は彼を打ち倒し、激しい痙攣を起こさせた。それで、イエスはその汚れた霊を叱りつけられた。そしてその子を癒し、父親に返された。
- それで、人々はみな、神の偉大な御業に仰天していた。
- そこで、イエスは、人々が、ご自分の行われた全てのことを見て驚いているので、弟子たちに次のように言われた。
- 「お前たちはこれらのことばをしっかりと耳に入れておけ。なぜならば、この人の子は、今、人々の手に売り渡されようとしているからだ。」
- しかし、彼らは、このことばの意味が分からなかった。それは、彼らには、まだ理解できないように、その意味が隠されてしまっていたからである。さらに、彼らは、このみことばについてイエスに尋ねることを恐れていた。
- さて、弟子たちの間に、自分たちの中で、だれが一番偉いかという議論が始まった。
- しかし、イエスは、彼らの心の中の考えを知っておられたので、一人の子どもの手を取り、ご自分のそばに立たせられた。
- そして彼らに言われた。「だれでも、わたしの名のゆえに、このような子どもを受け入れる者は、わたしを受け入れているのである。また、だれでもわたしを受け入れる者は、わたしを遣わされた方を受け入れているのである。お前たち全ての中で一番小さい者が、一番偉いのである。」
- それでヨハネが、「先生。私たちは、ある者があなたの名によって悪霊を追い出しているのを見ました。しかし、彼が私たちの仲間ではないので、やめさせました。」と言った。
- しかしイエスは、彼に、「やめさせることはない。なぜなら、お前たちに反対しない者は、お前たちの味方であるからだ。」と言われた。
- さて、イエスが天に引き上げられるまでの日数が満了しようとしていた時のことであった。イエスは、ご自分の顔をエルサレムの方向にはっきりと向けられた。
- そしてイエスは、ご自分の先に使いを出された。彼らは行って、イエスのために準備するために、サマリア人の町に入った。
- しかし、イエスの御顔がエルサレムに向けて、進んでおられたので、サマリア人はイエスを受け入れなかった。
- 弟子のヤコブとヨハネが、これを見て、「主よ。私たちが天から火を呼び下して、彼らを焼き滅ぼすことをお望みではないですか。」と言った。
- しかし、イエスは振り向いて、彼らを叱られた。
- そして彼らは別の村に行った。
- さて、彼らが道を進んで行くと、ある者がイエスに、「私はあなたが行かれる所なら、どこへでも、あなたに従って行きます。」と言った。
- すると、イエスは彼に言われた。「狐は巣を持っている。空の鳥も巣を作っている。しかし、この人の子は枕する所も持っていない。」
- イエスは別の人に、「わたしに従い続けよ。」と言われた。しかしその人は、「主よ。まず私の父を葬りに行くことをお許しください。」と言った。
- すると彼に、「死人たちに彼らの仲間の死人たちを葬らせよ。お前は直ちに出て行き、神の国を言い広め続けよ。」と言われた。
- 別の人はこう言った。「主よ。あなたに従い続けます。ただその前に、家の者に別れを告げることを許してください。」
- するとイエスは彼に、「手を鋤の上に置いてから、後ろを見る者はだれも、神の国にふさわしくない。」と言われた。
10
- それで、これらのことの後、主は他の七十二人を任命し、彼らを二人ずつ二人一組を二組ずつ、主が行こうとしておられる全ての町と村に前もって遣わされた。
- 主は彼らにこのように言い始められた。
- 「実に収穫は大きいのだが、働き人が少ない。だからお前たちは収穫の主に働き人を、主の収穫のために遣わしてくださるように願え。
- お前たちは行き続けよ。見よ。狼の中に小羊を送り込むようではあるが、わたしはお前たちを遣わす。
- 財布、旅行用の袋、(余分の)サンダルを持って行くな。途上でだれにも挨拶するな。
- どの家に入っても、まず『この家に平安あれ。』と言え。
- もしそこに平安の子がいるならば、お前たちからの平安はその者の上にいつまでも留まる。もし、いないならば、それはお前たちの上に戻って来る。
- お前たちは、その同じ家に留まり、彼らが出す物を食し、また飲め。働き人は、働きにふさわしい報酬を受けるべきである。家から家へと場所を変えるな。
- お前たちがどの町に入っても、もし彼らがお前たちを受け入れるならば、お前たちの前に出されている物を食べよ。
- そして、その町の中の病人たちを癒し続けよ。そして、彼らに『神の御国は、すでにお前たちの近くに来ている。』と言え。
- お前たちがどの町に入っても、もし彼らがお前たちを受け入れないならば、その町の大通りに出て行き、次のように言え。
- 『我々の足にくっついている、お前たちの町の塵でさえも、振り払ってお前たちに返す。だがこのことを知っておけ。神の御国が近づいていることを。』
- わたしはお前たちに言う。その日には、ソドム(の受ける苦しみ)の方が、その町の(受ける苦しみ)よりも耐え易いのだ。
- 悲しいことだ。コラジンよ。悲しいことだ。ベツサイダよ。もしツロとシドンの町の中で、お前たちの中で起きた奇蹟が起こされていたならば、ずっと昔に彼らは荒布を着て灰の中に座って、悔い改めていたことだろう。
- だから、さばきの日には、ツロとシドンの方が、お前たちよりも耐え易いのだ。
- カペナウムよ。どうしてお前が天まで引き上げられようか。それどころかハデスにまで落とされるのだ。
- お前たちのことばを聞いている者は、わたしのことばを聞いているのだ。お前たちを拒んでいる者は、わたしを拒んでいるのだ。わたしを拒んでいる者は、わたしを遣わされた御方を拒んでいるのだ。」
- あの七十二人が喜びながら帰って来て、「主よ。悪霊どもでさえ、あなたの御名によって命じると我々に服従します。」と言った。
- それでイエスは彼らに言われた。「わたしはサタンが稲妻のように天から落ちることを知っているのだ。〔わたしにはサタンが稲妻のように落ちることが分かっているのだ。〕
- 見よ。わたしはお前たちに毒蛇とさそりを、またあらゆる敵の力を踏みつける権威を与えている。だから何者もお前たちを、決して損なえないのだ。
- だから悪霊どもがお前たちに服従するからと言って喜んでいてはいけない。むしろお前たちの名が天に記されていることを喜べ。」
- ちょうどその時、イエスは聖霊によって非常に喜んで言われた。「天と地の主であられる父よ。わたしはあなたに感謝します。それは、あなたがこれらのことを賢者、知者たちに隠し、幼子たちに明らかにされたからです。そうです。父よ。それがあなたの御前でみこころにかなったことであったからです。
- 全ての者が、わたしの父によってわたしに委ねられています。そして御父の他に子がだれであるかを知っている者はありません。また子の他に、そして子が御父を明らかに知らせようと決めた者の他に、御父がだれであられるかを知っている者はありません。」
- そしてイエスは、弟子たちの方に向きを変えて、密かに言われた。
- 「お前たちが今見ていることを見ている目は、幸いである。
- わたしはお前たちに言う。多くの預言者と王たちが、お前たちが今見ていることを見たいと願った。しかし、見ることができなかったのだ。また、お前たちが今聞いていることを聞きたいと願ったが、聞くことができなかったのだ。」
- そして見よ。ある一人の律法学者が、イエスを試そうとして立ち上がって言った。「先生。一つ何を行えば、私は永遠のいのちを受け継ぐことができるでしょうか。」
- イエスはその人に向かって、「律法に何と書かれているか。お前はどう読んでいるのか。」と言われた。
- すると彼は答えて、「『あなたの心全てから、あなたの全精神をもって、あなたの全力を尽くして、あなたの思い全てをもってあなたの主なる神を愛し続けよ。』、また…『あなたの隣人をあなた自身のように愛し続けよ。』」と言った。
- それでイエスは彼に、「お前は正しく答えた。これを行え。そうすればお前は(いつまでも)生きる。」と答えられた。
- しかし、彼は自分を正当化しようとして、イエスに向かって、「私の隣人とはだれのことですか。」と言った。
- イエスは、(逃げる隙を与えないように)彼のことばを取り上げて、言われた。「ある人がエルサレムからエリコに向かって下って行った。そして強盗に襲われた。彼らはその人から着物をはぎ取り、その人を殴りつけ、半殺しのまま置き去りにし、行ってしまった。
- ちょうどその時、ある一人の祭司がその道を下って来た。しかし彼を見て、道の反対側を通り過ぎて行った。
- また同じように、一人のレビ人もその場所に来合わせ、彼を見ると反対側を通り過ぎて行った。
- しかし、ある一人のサマリア人が、旅の途中、彼のいた所に下って来た。そして彼を見て深く憐れんだ。
- そしてその人は彼に近寄り、彼の傷にオリーブ油とぶどう酒を注いでから包帯で包んだ。そして彼を自分の家畜に乗せ、宿屋に連れて行った。そして彼を介抱した。
- 次の日、彼はデナリ二つを取り出して宿屋の主人に渡し、そして、『この人を介抱してください。余分にかかった費用は全て、私が帰りに必ず払います。』と言った。
- あなたは、この三人の中のだれが、強盗に襲われた人の隣人になったと思うか。」
- それで彼は、「その人に憐れみをかけた人です。」と言った。それでイエスは、「行って、お前も同じようにせよ。」と言われた。
- 彼らが旅を続けている時、イエスはある村に入られた。マルタと呼ばれる女性がイエスを喜んで家に受け入れた。
- 彼女にマリヤと呼ばれる姉妹がいた。その姉妹はイエスの足もとに座って、イエスのみことばに聞き入っていた。
- しかしマルタはもてなしのための多くの働きのために心が落ち着かず、イエスの側に来て立って、「主よ。私の妹が私だけにもてなしの働きをさせていることを、何ともお思いにならないのですか。妹に、私を助けるように命じてください。」と言った。
- 主は答えて、「マルタ、マルタ。お前は多くのことを心配して、取り乱している。
- しかし、どうしてもしなければならないことは一つだけである。それで、マリヤは良い方を選んだのだ。それはマリヤから取り上げられるべきではない。」と言われた。
11
- さて、イエスがある所で祈っておられた時のことであった。イエスが祈り終えられた時、弟子のうちの一人がイエスに言った。「主よ。ヨハネが彼の弟子に教えたように、私たちに祈り方を教えてください。」
- それでイエスは彼らに言われた。「お前たちが祈る時、このように言え。『父よ。あなたの御名の聖さを現してください。あなたの御国を来させてください。
- 日ごとに、私たちに、一日の必要分のパンを与え続けてください。
- 私たちの罪をお赦しください。それは私たちが、私たちに負い目のある者全てを赦すからです。そして、私たちを試練に決して遭わせないでください。』」
- またイエスは彼らに言われた。「お前たちの中のだれかが友を持っているとする。その人が夜中にその友の所に行って、『友よ。パンを三つ貸してくれ。
- 私の友が旅の途中に私のところに立ち寄ったのだ。だが彼に食べさせる物がないのだ。』と言ったとする。
- すると、彼の友が家の中から答えて、『私に面倒を掛けないでくれ。戸も閉めてしまったし、子どもたちも私と一緒に寝ている。君に与えるために起きることはできない。』と言ったとしよう。
- わたしはお前たちに言う。彼の友は、彼が自分の友であるということで、起き上がって彼に与えることはしないにしても、彼の厚かましさのゆえに、起き上がって、彼が必要としている物を彼に与えるのだ。
- 実にわたしはお前たちに言う。求め続けよ。そうすれば、お前たちに(必ず)与えられる。探し続けよ。そうすれば(必ず)見つける。叩き続けよ。そうすればお前たちのために(必ず)開かれる。
- だれでも求め続ける者は、受け続ける。探し続ける者は、見つけ続ける。叩き続ける者に、(必ず)開かれる。
- お前たちの中に、父親に子どもが魚を求めているのに、その子に、魚の代わりに蛇を与える父親がいるだろうか。
- あるいは、卵を求めているのに、さそりを与えるだろうか。
- それで、たといお前たちが悪い者であっても、自分の子どもには良い物を与えるということを、お前たちは知っている。まして天にいます父が、求める者に聖霊をお与えになることはなおさらである。」
- さて、イエスは、悪霊を追い出しておられた。その霊は聾唖の悪霊であった。その霊が出て行った時、その口のきけなかった人が語り出したので、群衆は驚いた。
- しかし、彼らの中のある者たちは、「彼は、悪霊どものかしら、ベルゼブルによって悪霊どもを追い出しているのだ。」と言った。
- また、ある者たちは、天からのしるしを見せてくれと、イエスを試してしきりに求めた。
- しかし、イエスは彼らの魂胆を見抜いておられたので、彼らに向けて次のように言われた。「どんな国でも、内部で分裂したならば、荒廃する。家も家族内で分裂すれば倒れる。
- サタンも内部で分裂するならば、どうして彼の国が立ち行けるだろうか。それなのに、お前たちは、わたしがベルゼブルによって悪霊どもを追い出していると言っている。
- それで、もしわたしがベルゼブルによって悪霊どもを追い出しているならば、お前たちの子どもたちは、だれによって追い出しているのか。このことのゆえに彼らがお前たちをさばく者になるのだ。
- しかし、わたしが神の指によって悪霊どもを追い出しているのだから、神の国が、すでにお前たちの所に来ているのだ。
- 強い人が完全武装で自分の屋敷を守っているなら、その人の財産は安全である。
- しかし、彼より強い者が彼に襲いかかり、制圧すると、彼の頼みにしていた武具を奪い、分捕り品を仲間に分け与える。
- わたしと行動を共にしていない者は、わたしに逆らっている。またわたしと共に集めていない者は、散らしている。
- 汚れた霊が人から出て行った時、その霊は、休み場を探しながら水のない所をさ迷う。ところが見つからない。それで『出て来た自分の家に帰ろう。』と言う。
- 彼が帰ってみると、家はきれいに掃除され、飾り付けられていた。
- そこで、その霊は出かけて行き、自分よりも一層悪い他の霊を七つ連れて来て、みなで入り込み、そこに住み着いてしまう。そうすると、その人の後の状態は、初めのよりも一層悪くなる。」
- イエスが、これらのことを話しておられたちょうどその時、群衆の中から、一人の女が声を張り上げてイエスに、「あなたを生んだ腹、あなたが吸った乳房は祝福されています。」と言った。
- しかし、イエスは、「いや、祝福されているのは、神のことばを聞いて、それを守っている人たちである。」と言われた。
- さて、群衆がますます押し寄せて来ているので、イエスは話し始められた。「この世代は悪い世代である。彼らはしるしを求めている。しかし、ヨナのしるしの他には、しるしは決して与えられない。
- なぜならば、ヨナがニネベの人々のためにしるしとなったように、実に、この人の子がこの世代のためにしるしとなるからである。
- 南の女王が、さばきの日に、この世代の者たちに対して立ち上がり、彼らを罪に定める。なぜなら、彼女は、ソロモンの知恵を聞くために地の果てから来たからだ。しかし、見よ。ここにソロモンに優る者がいる。
- ニネベの人々が、さばきの時、この世代の者たちに対して立ち上がり、それを罪に定める。なぜなら、ニネベの人々は、ヨナの説教によって悔い改めたからである。しかし、見よ。ここにヨナに優る者がいる。
- だれも、ランプに火を点してから、それを穴蔵(や枡の下)に置くことはせず、入って来る人々に光が見えるように燭台の上に置く。
- からだの灯りは、お前の目である。お前の目が健全なら、お前の全身が明るい。しかし、目が悪いならば、お前のからだは暗い。
- だからお前の中にある光が、闇にならないように気を付けよ。
- だから、もし、お前の全身が明るく、何の暗い部分も持っていないなら、稲妻の光がお前を輝かす時のように、お前全体が輝く。」
- イエスの話が終わった時、一人のパリサイ人が、一緒に食事を取っていただきたいとイエスに願った。それでイエスは家に入って食卓に着かれた。
- ところがそのパリサイ人は、イエスが食事に先立って、まずきよめの洗いをされなかったのを見て驚いた。
- それで主は彼に向かって言われた。「ところでお前たちパリサイ人たちは、いつも杯や大皿の外側はきよめている。しかし、お前たちの内側は、強奪と邪悪で満ちている。
- 愚か者たちよ。外側を造られた御方は、内側も造られたのではないか。
- だから、お前たちの(手の)内の物全てを施し物として与えよ。そうすれば、見よ。お前たちにとって全てがきよくなる。
- しかし、悲しいかな。パリサイ人たちよ。なぜならば、お前たちは、はっか、うん香、あらゆる野菜などの十分の一を納めているが、公義と神への愛を無視しているからだ。これらこそしなければならないことである。十分の一を納めることも軽視してはならない。
- 悲しいかな。パリサイ人たちよ。なぜならば、お前たちは会堂の最上座を愛し、市場で挨拶されることを愛しているからだ。
- 悲しむべき者たちよ。なぜならば、お前たちは、人々がその上を歩いても気が付かない、人目に隠れた墓のようだからだ。」
- それである一人の律法学者が、それに答えて、「先生。あなたはそのようなことばを言って、実に我々をも侮辱しているのです。」と言った。
- しかし、イエスは言われた。「お前たち律法学者たちも、悲しむべき哀れな者たちだ。なぜならば、お前たちは人々に負いきれない重荷を負わせているが、自分はその重荷に指一本触れようとしていないからだ。
- お前たちは悲しむべき者たちだ。なぜならば、お前たちは預言者たちの墓を建てているが、お前たちの先祖が彼らを殺したのだ。
- だからお前たちは、自分の先祖たちの業の証人であり、しかもその業に同意しているのだ。なぜならば、彼らが預言者たちを殺し、お前たちが墓を建てているからだ。
- このことのゆえに、実に神の知恵は、『わたしは彼らに預言者たちや使徒たちを遣わす。しかし、彼らは、そのうちのある者を殺し、ある者を迫害する。』と語っているのだ。
- それで、この世の初め以来、流されて来た全預言者の血の代価の支払いが、今の世代に要求されるのだ。
- アベルの血から、祭壇と神の家との間で殺されたザカリヤの血に至るまでの、実に、わたしは言う、全ての血の復讐がこの世代に対して必ず行われる。
- 悲しむべき哀れなお前たち律法学者たちよ。なぜならば、お前たちは知識の鍵を取り上げてしまい、自分自身が入らないばかりか、入ろうとしている者を阻止してしまっているからだ。」
- イエスがそこから出て行かれたので、律法学者たちとパリサイ人たちとは、激しい憎しみを抱き、イエスを陥れるために多くのことについて悪意ある質問を矢継ぎ早に投げかけることを始めた。
- それは、イエスを陥れるためにイエスの言葉尻を捉えるためであった。
12
- その時、何千人もの群衆が集まって来たために、とうとう足を踏みつけ合うほどになった。それで、イエスは、まず弟子たちに話し始められた。「パリサイ人の、偽善というパン種に警戒せよ。
- 明らかにされずに、覆い被せられたままであり続けることができるものは一つもない。そして、隠されているものは、いずれ必ず知られる。
- だから、お前たちが暗闇で語ったことが、必ず明るみで聞かれ、奥まった部屋の中で耳にささやいたことが、やがて必ず屋上から大声で宣言されるのだ。
- そこで、わたしは、わたしの友であるお前たちに言う。からだを殺しても、それ以上何もできない者どもを恐れるな。
- わたしは、お前たちがだれを恐れなければならないかを教えよう。殺した後にゲヘナに投げ込む権威を持っておられる御方を恐れよ。そうだ。わたしはお前たちに言う。この御方を恐れよ。
- 五羽の雀は二アサリオンで売られていないか。しかし、そのうちの一羽も神の御前で忘れられてはいない。
- それどころか、お前たちの頭の毛も、全て数えられてしまっている。恐れているな。お前たちは多くの雀よりも価値があるのだ。
- それでわたしはお前たちに言う。だれでも、人々の前でわたしを受け入れていると認める者を、この人の子も神の御使いたちの前で受け入れていると認めよう。
- しかし、人々の前でわたしとの関係を否定する者は、神の御使いたちの前でわたしとの関係がいつまでも否定される。
- そして、だれかがこの人の子に反対することばを語ることがあるとしても、その人は赦される。しかし、聖霊を冒涜する者が赦されることはない。
- それで、人々がお前たちを議会や役人たちや権力者たちの前に引き出すとき、どのように、何を弁明すべきか、何を言うべきかと心配してはならない。
- なぜならば、聖霊が、その時、語るべき事を(必ず)教えてくださるからだ。」
- さて、群衆の中の一人がイエスに向かって、「先生。私の兄弟に、私と遺産を分けるように命じてください。」と言った。
- それでイエスは彼に、「人よ。だれがわたしをお前たちの裁判官や調停官に任命したのか。」と言われた。
- それからイエスは人々に向かって、「あらゆる貪欲に対して注意し、警戒せよ。なぜならば、人に財産がどれほど有り余っている時でも、その人のいのちの長さはその人の財産によって決められていないからだ。」と言われた。
- それから、イエスは人々に向かって、喩えで話された。「ある金持ちの畑が豊作であった。
- それで、彼は心の中で、『どうしようか。私の収穫物を蓄える場所がない。』と言った。
- そして、『このようにしよう。私の幾つかある倉を取り壊そう。そして、一層大きな倉を幾つか建てよう。そしてそこに私の穀物と財宝を全て集めよう。
- そして自分のたましいに言おう。「たましいよ。お前は、これから後の長年のための、莫大な蓄財を持っているのだ。安心せよ。食べて飲んで、楽しみ続けよ。」』と言った。
- しかし、神は彼に、『愚か者よ。今夜、お前のたましいはお前から取り去られるのだ。そうしたら、お前が用意した物はだれのものになるのか。』と言われた。
- 自分のために宝を蓄えているが、神に対して貧しい者は、このようである。」
- それで、イエスは弟子たちに向かって言われた。「このゆえに、わたしはお前たちに言う。いのちのことで何を食べようか、またからだのことで何を着ようか、と心配し続けるな。
- なぜならば、いのちは食物よりも大切であり、からだは着物よりも大切であるからだ。
- 烏のことを考えよ。彼らは種を蒔かない。刈り入れもしない。彼らには納屋も倉もない。しかし、神は彼らに食べ物を与えておられる。お前たちは鳥たちよりも、はるかに優れているのだ。
- お前たちのうちのだれが、心配することによって、自分の身長に一キュビト加えることができようか。
- 実に、最も小さな事さえできないのに、なぜ他のことを心配するのか。
- ゆりの花がどのように育つのかを考えよ。彼らは紡ぎもせず、織りもしない。しかしわたしは言う。栄華の頂点のソロモンでさえ、ゆりの花の一つほどにも着飾れなかった。
- もし、今日、野にあっても、明日、炉に投げ込まれる草をさえ、神がこのように装ってくださるならば、ましてやお前たちを、どれほど恵み深く扱ってくださることだろう。ああ、信仰の薄い者たちよ。
- お前たちも、何を食べ、何を飲もうかと追い求め続けるな。また心配し続けるな。
- なぜならば、これらは全て、世の異邦人が切望している物であり、しかもお前たちの父が、お前たちがこれらの物を必要としていることを知っておられるからだ。
- だからお前たちは神の国を求め続けよ。そうすれば、それらはお前たちに、必ず加えて与えられる。
- 恐れているな。小さな群れよ。お前たちの父はお前たちに御国を与えることを、喜びをもって決めておられる。
- お前たちの財産を売り払い、施しとして与えよ。自分のために古びない財布を作れ。盗人も近づかず、虫が食うこともない天に、尽きることのない財産を(蓄えよ)。
- なぜならば、お前たちの宝のあるところに、お前たちの心もあるからだ。
- お前たちの腰をいつもしっかりと帯で締められたままにしておけ。ランプに火を点しておけ。
- そして、お前たちは、主人が婚礼から帰って来て、門の扉を叩いたなら、すぐに開けようと自分の主人を待ちわびている人たちのようであれ。
- 主人が帰って来たとき、目を覚まして待っていたと見られるしもべたちは幸いである。真実にお前たちに言う。主人は自分から帯を締め、しもべたちを食卓に着かせ、近寄って来てしもべたちに振る舞ってくれるのだ。
- 主人が第二夜警時に帰ってこようが、第三夜警時に帰ってこようが、そのようにしているのを見られるしもべたちは幸いである。
- しかしこのことを知っておけ。もし家の主人が、泥棒がいつ来るか知っていたならば、まさか家に入らせはしないだろう。
- だからお前たちはいつも備えておれ。なぜならば、お前たちはこの人の子がいつ来るか、知らないからである。」
- そこで、ペテロが、「主よ。あなたはこの喩えを私たちに向けて話しておられるのですか。それとも、皆に向けて話しておられるのですか。」と言った。
- 主は言われた。「では、主人が、自分のしもべたちに食事時に食べ物を分配するように、自分のしもべたちの上に任命する忠実で思慮深い執事とは、どのような人であろうか。
- 主人が帰って来た時、そのようにしている姿を見られるしもべ《奴隷》は幸いである。
- わたしは真実をお前たちに言う。主人は彼を自分の全財産の管理人に任命するに違いない。
- しかし、もし、そのしもべ《奴隷》が、『私の主人は、帰りが遅くなる。』と心の中で思い、下男や下女を叩き、食べたり飲んだりし、酒に酔い始めたとする。
- そのしもべ《奴隷》の主人が、思いがけない日の思わぬ時に帰って来たとする。すると主人は彼を鞭で激しく打ち叩き、彼を不忠実な者と同じ目に会わせるに違いない。
- このしもべは、自分の主人の意向を知った上で、用意もせず、働きもしなかったので、厳しく打たれなければならない。
- しかし、知らなかったために鞭打ちのお仕置きにふさわしいことをした者は、軽く打たれる。それで、多く与えられた者には、多くが求められ、多く任せられた者には、一層多くが要求されるのである。
- 火を投げ込むためにわたしは地上に来たのだ。だから(わたしが来る前から)地がすでに燃えていたらと、どんなに願っていることだろうか。
- しかし、わたしには受けなければならないバプテスマがある。それが成し遂げられるまで、わたしは、何と(激しく)苦しむことか。
- お前たちは、わたしが地に平和を与えるために来ていると思っているのではないか。そうではない。わたしは言う。むしろ分裂を、である。
- なぜならば、今から、五人家族が全く分裂してしまい、三人が二人に対抗し、二人が三人に対抗するようになるのだ。
- そして、父は息子に対抗し、息子は父に、母は娘に、娘は母に、義母は嫁に、嫁は義母に対抗し、分裂するようになるのだ。」
- またイエスは群衆に向けて話し始められた。「お前たちは雲が西に起こるのを見ると、直ちに『にわか雨が来る。』と言う。そしてそのようになる。
- また南風が吹くと、お前たちは『暑くなる。』と言う。そしてそのようになる。
- 偽善者たちよ。お前たちは地や空の様子を見分ける仕方を知っているのに、どうしてこの時勢を見分ける方法を知らないのか。
- お前たちは、なぜ自分で、正しいことが何かを判断しないのか。
- だから、お前は、お前を告訴する者といっしょに役人の前に行く時、途中で、その者との問題から解放されるように努力せよ。そうしなければ、その者はお前を裁判官のところに引き連れて行き、裁判官はお前を刑の執行人に引き渡し、執行人は牢に投げ込んでしまう。
- わたしはお前に言う。お前は、最後のレプタを支払うまで、決してそこから出られない。」
13
- ちょうどその時、ある人たちが来て、ピラトがガリラヤ人たちの血を、彼らがささげたいけにえの血と混ぜたと、イエスに報告した。
- そしてイエスは彼らに答えて言われた。「お前たちは、それらのガリラヤ人たちが他の全てのガリラヤ人たちよりも罪が深かったのだ、だからそのような苦しみに遭ったのだ、と思っているのだろう。
- そうではない。わたしはお前たちに言う。お前たち全ても悔い改めなければ、同じように滅びる。
- あるいは、お前たちは、シロアムにある塔が人々の上に倒れ、あの十八人が死んだが、その人々が、エルサレムに住んでいる他の全ての人々よりも罪の負債を負っている者であったと思っているのか。
- そうではない。わたしはお前たちに言う。もしお前たち全ても悔い改めなければ、同じように滅びる。」
- イエスはこのような喩えを話し始められた。
- 「ある人が、自分のぶどう畑にいちじくの木を一本植えていた。そしてその木に実を取りに来たが、見つからなかった。
- それで、彼はぶどう畑の番人に、『見よ。三年間、私はそのいちじくの木から実を得るためにここに来続けているのだが、実が見つからない。だからその木を切り倒せ。なぜ、土地を無駄にしているのか。』と言った。
- 番人は畑の持ち主に答えて、『ご主人様。許してやってください。この木の周りを掘り、肥やしをやってみますから、今年もう一年だけお願いします。
- それで来年、実を結ぶかどうかを見てください。もしだめだったなら、木を切り倒してください。』と言った。」
- 安息日ごとにイエスは、ある会堂の中で教えておられた。
- すると、見よ。十八年間、病気の霊に憑かれていた一人の女がいた。彼女は、からだが曲がったままであり、全く真っ直ぐに伸ばすことができなかった。
- イエスは彼女を見て、声をかけられた。そして、彼女に、「女よ。お前は病気から(すでに)解き放されてしまっている。」と言われた。
- そして、イエスは手を彼女の上に置かれた。すると、彼女は直ちに真っ直ぐに立った。そして神を誉め讃え始めた。
- ところが、イエスが安息日に癒されたために、会堂管理者が腹を立て、群衆に向かって、「働くべき日が六日ある。お前たちはそれらの日に来て癒してもらえ。だが、安息日はだめだ。」と言い出した。
- それで主は彼に答えて、「偽善者たち。お前たちのうちのだれも、安息日に自分の牛、あるいはロバを飼い葉桶から解き、連れ出して水を飲ませていないのか。
- しかし、この女はアブラハムの娘なのに、見よ、十八年間もサタンに縛られていたのだ。彼女が安息日にこの束縛から解放されてはならないわけがあるのか。」と言われた。
- イエスがこれらのことばを語られたので、イエスに反対していた全ての者が恥じ入った。そして全群衆はイエスによってなされた全ての誉れある御業を喜んでいた。
- それでイエスは、次のように語り始められた。
- 「神の国は、何に似ていると、また何に喩えて語ろうか。
- それは芥子菜の種に似ている。人がそれを取って自分の庭に蒔いた。するとそれが成長し、木になった。そうしたら空の鳥たちが、その枝の中に巣を作った。」
- 再びイエスは語られた。「神の国を何に喩えて語ろうか。
- それはパン種に似ている。それを女が取って、三サトンの粉の中に混ぜた。すると粉全体が発酵した。」
- それからイエスは、行く先々の全ての町と村で教えながら、エルサレムに向けて旅を続けられた。
- ある人がイエスに「主よ。もしかして、救われる人は少ないのでは。」と言った。それでイエスは彼らに向けて語られた。
- 「狭い門から入るように一心に努めよ。なぜならば、わたしはお前たちに言うが、多くの者が入ろうと願うが、入ることができないからだ。
- 家の主人が起き上がって、戸を閉めてしまってからは、お前たちが外に立って戸を叩き始め、『ご主人。開けてください。』と言っても、彼はお前たちに、『私はお前たちがどこから来た者か知らない。』と言うに違いない。
- そこでお前たちは、『私たちは、あなた様といっしょに食事を取らせていただきました。またあなた様は私たちの町の広場で教えてくださいました。』と言い始めるに違いない。
- だが彼はお前たちに、『私はお前たちがどこから来た者か知らない。お前たち、全て不正を行う者ども。私から離れよ。』と言うに違いない。
- お前たちが外に投げ捨てられているのに、アブラハム、イサク、ヤコブ、また全ての預言者が神の国に入っているのを見る。その時、お前たちはそこで、泣きわめき、歯ぎしりしているのだ。
- 人々は東、また西から、南、また北からやって来て、神の国で宴席に着く。
- 見よ。今終わりにいる者たちが、そのとき先頭になり、今先頭にいる者たちが、そのとき終わりになる。」
- ちょうどその時、パリサイ人のある者たちがイエスのところに来て、「ここから出て行きなさい。ヘロデがあなたを殺したがっているから。」と言った。
- それで、イエスは彼らに言われた。「お前たちが行って、あの狐に言え。『見よ。わたしは、今日、また明日、悪霊を追い出し続け、癒しを遂行し続ける。そしてわたしは三日目に完成される。
- だが、わたしは、今日と明日と次の日も進んで行かなければならない。なぜならば、預言者がエルサレム以外の所で死ぬことはあり得ないからだ。』
- ああ、エルサレム、エルサレム。預言者たちを殺し、自分に遣わされた者たちを石打ちにする者よ。めん鳥が自分の雛を翼の下に集めるように、わたしは幾度お前の子たちを集めようとしたことか。しかし、お前たちはそれを望まなかった。
- 見よ。お前たちの家は見捨てられる。それで、わたしはお前たちに言う。『主の御名によって来られる方に祝福あれ。』とお前たちが言う時が来るまで、お前たちはわたしを決して見ることができない。」
14
- 安息日に、イエスがパリサイ人の指導者のうちの、ある人の家に入り、パンを食しておられた時のことであった。彼らは(悪意をもって)イエスを見守っていた。
- 見よ。イエスの前に水腫を患っている人がいた。
- それでイエスは律法学者であるパリサイ人たちに向けて、「安息日に癒すことは法に適っているのか、それとも適っていないのか。」と言われた。
- しかし、彼らは黙っていた。それで、イエスはその人に味方して癒された。そしてイエスは彼を去らせられた。
- それからイエスは彼らに、「お前たちの中のだれかの息子、あるいは牛が井戸の中に落ちたとする。そうしたら、安息日であってもすぐに引き上げないか。」と言われた。
- 彼らはそれに答えることができなかった。
- それからイエスは、食事に招かれている者たちに話しておられた。そして彼らが最上席に座りたがっているのに気が付いておられたので、喩えで彼らに話された。
- 「お前は、だれかに結婚披露宴に招待された時、上席に座るな。お前よりも身分の高い人が招待されていて、
- お前とその人との招待主である花婿が来て、『この人に席を譲ってください。』と言うとしよう。その時、お前が恥じ入って、末席に座らなければならないことになる。
- だから、招待された時、お前は末席に座れ。そうすれば、お前の招待主が入って来て、お前に向かって『友よ。もっと上席に進んでください。』と言うことになる。その時、お前は、お前と共に着座している人々全員の前で誉れを受けることにもなる。
- なぜならば、だれでも自分を高くしようとする者は、低くされ、自分を低くする者は、高められるからである。」
- またイエスはご自分を招いた人にも話し始められた。「お前が昼食会や夕食会を催す時、お前の友人たち、兄弟たち、あるいは親類たち、近所の金持ちたちに声をかけるな。それは彼らが、お前をお返しに招待して、お前の報酬とするといけないからだ。
- そうではなく、お前が祝宴を催すなら、貧しい者たち、身体に障害のある者たち、足の萎えた者たち、目の見えない者たちを招け。
- そうすればお前は祝福される。なぜならば、彼らはお前に報いることができないからだ。お前は義人たちの復活の日にその報酬を受ける。」
- その食卓に同席していた者たちの一人が、これらのみことばを聞いて、「神の国で食事する者は幸いです。」とイエスに言った。
- それでイエスはその人に向けて言った。「ある人が盛大な宴会を催そうとした。それでその人は大勢の人を招待した。
- そして、その人は、宴会の時刻に自分のしもべ《奴隷》を送り、招いておいた人たちに、『お越しください。すでに準備はできています。』と言った。
- しかし、全ての者が一致して断り始めた。最初の者は彼に、『私は畑を買ったので、どうしてもそれを見に行かなければならないのです。お願いです。私に断らせてください。』と言った。
- もう一人の者も、『私は五くびきの牛を買ったので、それらを確かめに行くところです。お願いです。私に断らせてください。』と言った。
- そして別の人も『私は嫁をもらったのです。それで私は行くことができません。』と言った。
- そのしもべ《奴隷》は主人のところに帰って来て、これらのことを報告した。それで、その家の主人は怒ってそのしもべ《奴隷》に、『急いで町の広場や街路に行け。そして貧乏人たちや身体に障害のある者たちや盲人たちや足の不自由な者たちをここに連れて来い。』と言った。
- そしてそのしもべ《奴隷》は、『ご主人様。あなたが命令されたことを全て行ってしまいました。しかし、まだ席があります。』と言った。
- それでその主人はそのしもべ《奴隷》に、『街道や垣根に出て行き、人々を強制して来させ、私の家を人で満たせ。』と言った。
- なぜならば、わたしはお前たちに言う。招待しておいた人たちの中のだれ一人、(天の御国での)わたしの食事を味わう者はいないからだ。」
- 多くの群衆がイエスと共に歩いていた。それでイエスは彼らの方に向きを変えて言われた。
- 「たといだれかがわたしのところに来ても、自分の父、母、妻、子、兄弟、姉妹、さらになお自分のいのちまでも憎まないならば、わたしの弟子になることはできない。
- 自分自身の十字架を背負い、わたしに従い続けない者は、わたしの弟子になることはできない。
- なぜならば、お前たちの中のだれでも、塔を建てようと願う者は、まず座り、完成までの十分な金を持っているかどうかを知るために費用を計算しないだろうか。
- それは、その人が基礎は据えたが完成できなかったので、それを見ている全ての者が、
- 『この人は、建て始めたけれど、完成できなかった。』と言って、彼をあざ笑い始めるようなことが、決してあってはならないからだ。
- あるいは、どの王であっても、他の王に対する戦いに入ろうとするなら、まず座って、二万の兵士を引き連れて自分に向かって来ようとしているその王に対して、一万の兵士で対抗できるかどうかを熟慮しないだろうか。
- もしだめならば、敵の王がなお遠くにいる間に、使者を送り、講和を求めるのだ。
- だから、このように自分の財産を全て捨てない者は、わたしの弟子になることができない。
- であるから、塩は良いものであっても、その塩でさえ、もし塩味を失ったならば、他の何によって味付けができるのか。
- それは土地の代わりにするにも肥やしにするにも役立たず、ごみ捨て場に棄てられるだけである。聞く耳のある者は聞け。」
15
- 全ての取税人たちや罪人たちがイエスの話を聞こうとして、イエスに近寄っていた。
- するとパリサイ人たちと律法学者たちが、「この人は罪人たちを受け入れて、一緒に食事をしている。」と言って、不平を鳴らし続けていた。
- それでイエスは、この喩えを彼らに向けて語られた。
- 「お前たちの中のある者が百匹の羊を持っていたが、そのうちの一匹を失った。そうしたら、その人は、九十九匹を野に残し、そして見つけるまで失われた一匹の後を追って行かないか。
- そして見つけたら、喜びながら羊を肩に担ぐ。
- そして、家に帰ると友人たちや近所の人たちを呼び集めて、彼らに、『私と一緒に喜んでください。私の失っていた羊を見つけたからです。』と言う。
- わたしはお前たちに言う。これと同じように、天には、悔い改めを必要としない九十九人のためによりも優る喜びが、悔い改めている一人の罪人のためにあるのだ。
- あるいは、ある女が銀貨を十枚持っていたが、もし一枚を失ったならば、灯りを点け、家の中を掃き、それを見つけるまで、注意深く捜さないだろうか。
- そして、見つけたなら、友人たちや近所の人たちを呼び集め、『私と一緒に喜んでください。失った銀貨を見つけましたから。』と言う。
- わたしはお前たちに言う。このように、悔い改めている一人の罪人のために、神の御使いたちの前に喜びがあるのだ。」
- それでイエスは次のように話された。「ある人が二人の息子を持っていた。
- すると、彼らのうちの若い方が父に、『父よ。私に、財産の中の(私への)相続分を今、与えて下さい。』と言った。それで、父は身代を彼らに分け与えた。
- すると、弟息子は、幾日も経たぬうちに、全てをまとめて、遠い国に向かって旅立った。そしてその地で放蕩三昧の生活で彼の財産を散逸してしまった。
- 彼が全てを使い果たしてしまった時、その国に大飢饉が起きた。それで彼は窮乏し始めた。
- それで、彼はその国の住民のある人のところに同居させてもらうために行った。それでその人は彼に豚飼いをさせるために農場に送り出した。
- しかし、彼は、豚が食べていたいなご豆で腹を満たしたいと切望するほどであった。しかし、だれ一人(食物を)彼に与えようとしなかった。
- しかし彼は我に返って、言った。「私の父のところのあの大勢の雇い人は皆、パンに有り余っているではないか。それなのに、私はここで飢え死にしかかっている。
- 立ち上がって父のところに行こう。そして父に、『父よ。私は天に対して、またあなたの前で罪を犯しました。
- もはや私はあなたの息子と呼ばれる資格はありません。私をあなたの雇い人の一人にしてください。』と言おう。」
- そして彼は立ち上がって彼の父のところに行った。彼がなおはるか遠くにいたのに、彼の父は彼を認め、深く憐れんで、そして走り寄って彼の首に抱きついた。そして彼に激しく口づけした。
- 彼の息子は言った。『父よ。私は天に対して、またあなたの前で罪を犯しました。もはや私はあなたの息子と呼ばれる資格はありません。』
- しかし、父は彼のしもべ《奴隷》たちに向かって言った。『急いであの最上の着物を持って来て、彼に着せよ。そして彼の手に指輪をはめ、足に靴を履かせよ。
- そして肥えた子牛を引いて来て、屠れ。そして食べて楽しもう。
- 私の、この息子が死んでいたのに、生き返ったのだ。失われていたのに、見つかったからだ。』そして彼らは祝宴を始めた。
- ところが、兄息子は畑にいたが、帰って来て家に近づいた時、音楽と踊りの音を聞いた。
- それで、しもべの一人を呼び、いったいこれは何事かと聞きただした。
- それでしもべは、『あなたの弟さんが帰って来ています。それであなたのお父さんが、無事な姿で息子さんを迎えることができたというので、肥えた子牛を屠られたのです。』と言った。
- すると彼は怒って、家の中に入ろうとしなかった。それで、彼の父は外に出て来て、彼を宥めようとした。
- しかし、彼は彼の父に答えて言った。『見てください。私は、こんなに長い間あなたに仕えています。そして、あなたの戒めを一度も破ったことがありません。それなのに、私には、友だちと宴会を楽しむためにも仔山羊一匹さえくれたことはありません。
- それなのに、このあなたの息子、しかもあなたの身代を遊女と共に食いつぶした息子が帰って来た時、彼のためにはあなたは肥えた子牛を屠られた。(それはなぜですか。)』
- それで父は彼に言った。『子よ。お前はいつも私と一緒にいる。私のものは全部お前のものだ。
- だが、このお前の弟は死んでいたが生き返ったのだ。失われていたのが見つかったのだ。だから皆で食べて楽しみ、喜び祝うのは当然ではないか。』」
16
- またイエスは弟子たちにこのような話を始められた。
「ある金持ちがいた。彼の家には一人の管理人がいた。その管理人が、主人の財産を浪費しているらしいと主人に密告された。 - それで、主人は彼を呼んで言った。『私はお前についてとんでもないことを聞いているぞ。お前が管理している会計帳簿を出せ。もうお前は管理の仕事ができないからだ。』
- その管理人は心の中で言った。『どうしようか。私の主人は私から管理の仕事を取り上げようとしている。土方をする力はない。乞食は恥ずかしい。
- 私が管理の仕事から免職された時、あの人たちが私を家に迎え入れてくれるように、今私が何をしておくべきかが分かった。』
- そこで、彼は自分の主人の債務者を一人ずつ呼んで、最初の者に、『あなたは、私の主人にいくらの借りがありますか。』と言い出した。
- そこでその人は、『油百バテ』と言った。それで、彼は、『このあなたの証文を取りなさい。そして、座ってすぐに五十という証文を書きなさい。』と言った。
- それから、もう一人に、『さて、あなたはいくら借りているのか。』と言った。それで、その人は、『小麦百コル』と言った。彼はその人に、『あなたの証文を取りなさい。そして、八十コルという証文を書きなさい。』と言った。
- そして、主人は、この管理人が賢くやった不正のために、彼を誉めた。なぜならば、この世の子らは、自分たちの世代のことについては、光の子らよりも賢明であるからだ。
- そこで、わたしはお前たちに言う。不正の財宝をもって自分のために友を作れ。そうすれば、それ〈 財宝〉が尽きた時、彼らがお前たちを永遠の住まいに迎え入れてくれる。
- 小さな事に忠実である者は、大きな事にも忠実である。そして、小さな事に不正な者は、大きな事にも不正である。
- だから、もしお前たちが不正の財宝について忠実でないならば、だれがお前たちに真の財宝を任せようか。
- また、お前たちが他人のものに忠実でないならば、だれがお前たちにお前たちのものを与えるだろうか。
- どのような召使いも二人の主人に仕えることはできない。なぜなら、一方を憎んで他方を愛するからであり、あるいは一人に執着して、他方を軽蔑するからである。お前たちは、神に仕え、同時に富にも仕えることはできない。」
- パリサイ人で金銭欲の強い者たちが、これらの全てを聞いていた。そして彼らはイエスを嘲笑し始めた。
- それでイエスは彼らに向けて言われた。「お前たちは、人々の目に自分自身を正しいと見せようとしている者たちだ。しかし、神はお前たちの心を知っておられる。なぜならば、人間の間で高く評価されているものは、神の御目には嫌悪すべきものであるからだ。
- (モーセの)律法と預言者たちはヨハネまでである。その時以来、神の御国が、(喜びのおとずれとして)宣べ伝えられている。そして(それを聞いた)全ての者たちがそれに入ろうと突進している。
- しかし、律法の一画が脱落するよりも、天と地が滅びる方が容易であるのだ。
- だれでも自分の妻を離別し、他の女をめとる男は、姦淫を犯しているのだ。そして、夫から離別された女をめとる男も、姦淫を犯しているのだ。
- ある金持ちがいた。彼は毎日、紫の衣や亜麻布の衣を着て、派手に遊び暮らしていた。
- ところが、ラザロという、腫れ物だらけのある貧乏人が彼の門前に置かれていた。
- そして、彼は、金持ちの食卓から落ちたもので腹を満たしたいと切に願っていたが、(願いに応えて)来てくれたのは、彼の腫れ物を舐め続けてくれる犬たちであった。
- ところが、その貧乏人が死に、御使いたちによってアブラハムのふところの中に運ばれたが、金持ちも死んで、葬られた。
- そして、金持ちがハデスの中で苦しみながら目を上げると、遠くにアブラハムと、そのふところにいるラザロが見えた。
- それで彼は大声で、『父、アブラハムよ。私を憐れんでください。ラザロを遣わして、彼に指を水に浸し、私の舌を冷やさせてください。私はこの炎の中で苦しんでいるからです。』と言った。
- それでアブラハムは、『子よ。思い出せ。お前は生きている間、良い物を受けていた。しかしラザロは生きている間、悪い物を受けていた。しかし、今、彼はここで慰められており、お前は苦しんでいる。
- しかも、その上、私たちとお前たちの間には大きな深い淵が固定されてしまっている。だからそちらから我々の方に越えて来たいとだれかが願っても、できないのだ。またこちらからお前たちの方に渡ることもできない。』
- それで彼は、『それでは、父よ。お願いです。ラザロを私の父の家に遣わしてください。
- 私には五人の兄弟がいます。彼らまでがこんなに苦しい所に来ないように、ラザロが彼らに警告するようにしてください。』と言った。
- しかし、アブラハムは、『彼らにはモーセと預言者たちがいる。彼らに、その人たちの言うことを聞かせよ。』と言った。
- それで、彼は、『いいえ。父アブラハムよ。もしも、だれかが死人たちの中から彼らのところに行ったならば、必ず悔い改めます。』と言った。
- アブラハムは彼に、『もしモーセと預言者たちの言うことを聞かないならば、たといだれかが死人の中からよみがえっても、彼らは決して説得に服さない。』と言った。」
17
- それでイエスは弟子たちに言われた。「つまずきが起こることは不可避である。だが、つまずきの原因となる者は、悲しむべき哀れな者だ。
- そのような者は、(生かされたために)これらの小さい者の一人をつまずかせることになるよりも、石臼がその首に結わえ付けられて、海に投げ込まれてしまっているほうがましである。
- お前たちも自分自身に注意せよ。もしお前の兄弟が罪を犯したなら、お前は彼を戒めよ。そしてもし彼が悔い改めたならば、赦せ。
- たとい彼がお前に対して一日に七度罪を犯しても、お前のところに七度戻って来て、『悔い改めます。』と言うならば、お前は彼を赦せ。」
- 使徒たちがイエスに「私たちの信仰を増し加えてください。」と言った。
- それで主は言われた。「もしお前たちが芥子種ほどの信仰を持っているならば、桑の木に向かって、『根から引き抜かれて、海の中に植えられよ。』と言うとしたら、それはお前たちに従うはずである。
- お前たちの中のだれが、畑を耕すか、羊を飼うかの一人のしもべ《奴隷》を持っていて、そのしもべが野から帰って来た時、そのしもべに『早くここに来て、食卓に着いてくれ。』と言うだろうか。
- その反対に、しもべに向かって、『私が食べるためのものを何か備えよ。帯を締めて、私が食べて飲んでしまうまで給仕せよ。その後で、お前は食事を取れ。』と言わないか。
- 主人は、しもべが命じられたことを行ったからといって、そのしもべに感謝しないではないか。
- お前たちもそのようであれ。お前たちも、お前たちに命じられたことを全て行った時、『私たちは、なすべきだったことを成し遂げただけの役立たずのしもべ《奴隷》です。』と言え。」
- イエスがエルサレムに向かって進んで行かれた時のことであった。イエスはサマリアとガリラヤの間を通って行かれた。
- そして、イエスがある村に入ろうとしておられた時、十人の重い皮膚病の男たちに出会われた。彼らは遠くに立っていた。
- そして声を張り上げ、「イエスよ。先生。私たちを憐れんでください。」と叫んだ。
- それでイエスは彼らを見て、「行って、自分を祭司たちに見せよ。」と言われた。そして、彼らは歩いて行く途中できよめられた。
- しかし、彼らのうちの一人は、自分が癒されたことを知って、大声で神を誉め讃えながら戻って来た。
- そして、イエスの足もとに倒れ伏し、イエスに感謝した。その人はサマリア人であった。
- それでイエスは、「きよめられたのは十人ではなかったのか。九人はどこにいるのか。
- 神に栄光を帰するために戻って来た者は、この外国人以外にいなかったのか。」と言われた。
- そしてイエスは彼に、「立ち上がって、行け。お前の信仰が、お前を癒したのだ。」と言われた。
- 神の国がいつ来るのかとパリサイ人たちによって質問された時、イエスは彼らに答えて言われた。「神の国は、それが来るのを人が観察できる方法で来るのではない。
- 人々は、『見よ。ここにある。』とも、『あそこだ。』とも(決して)言えない。なぜならば、見よ。神の国は、今(すでに)お前たちの真ん中にあるからだ。」
- それで、イエスは弟子たちに言われた。「この人の子の日を一日でも見たいと切に願っても、見られない時が必ず来る。
- 人々がお前たちに、『見よ。そこだ。』とか、『見よ。ここだ。』と言うようになる。しかし、行ってはならない。また彼らの後を追いかけてはならない。
- なぜならば、稲妻が一瞬にひらめいて地上をくまなく照らすように、この人の子も(彼の日には)そのようであるからだ。
- しかし、この人の子はまず、この世代から非常に悪い扱いを受けて、不適と判定されて捨てられなければならない。
- 実に、ノアの時代に起こったことと同じことが、この人の子の時代にも起きる。
- 人々は、ノアが箱船に入ったその日まで、食べたり、飲んだり、めとったり、嫁がせたりしていた。そして、大洪水が来て、全ての人々を滅ぼしてしまったのだ。
- また、それは、ロトの時代にあったことと同じである。人々は食べたり、飲んだり、売ったり、買ったり、植えたり、建てたりしていた。
- ロトがソドムから出て行ったその日に、天から火と硫黄が降って来て、全ての者を滅ぼした。
- 実に、この人の子が現れる日にも、全く同じことがある。
- その日には、屋上にいる者は、家財が家の中にあっても、それを取り出すために下りるな。そして、畑にいる者も、同様に、家に帰るな。
- ロトの妻を思い出せ。
- だれでも自分のいのちを保とうと努める者は、それを失う。しかし、だれでもそれを放棄する者は、(必ず)それを生きたまま保つ。
- わたしはお前たちに言う。その夜、二人の者が一つの寝台で寝ているとしよう。そのうちの一人が取り去られ、もう一人は残されることになる。
- 二人の女が同じ臼をひいているとしよう。一人が取り去られるが、他の一人は残されることになる。
- (なし)
- 弟子たちは答えて言った。「どこに(彼らは取り去られるの)ですか。主よ。」主は彼らに、「死体のある所に。そこには、禿鷹どもも集まる。」と言われた。
18
- さて、イエスは、彼らを常に祈らせ、また失望させないために、喩えを彼らに語り始められた。
- 「ある町に、神を恐れず、他人を見下している裁判官がいた。
- また、その町に一人のやもめがいた。彼女はその裁判官のところにやって来ては、『私を訴えている者から私を守ってください。』と言い続けていた。
- 彼はしばらくの間、この問題に関わろうとしなかった。これらのことの後、彼は心の中で言った。『神を恐れず、他人を見下している私だけど、
- さすがにこのやもめの煩わしさには(まいった)。彼女の権利を守ってやるしかない。それ以外では、彼女は終わりまでしつこくやって来て私を悩ませ続けるに違いない。』」
- それから主は言われた。「お前たちは、この正しくない裁判官の言っていることを聞け。
- 神が、ご自分に日夜助けを叫び求め続けているご自分の選民のために復讐せずに、彼ら〔敵たち〕に対する怒りを遅らせることなどあり得るだろうか。
- わたしはお前たちに言う。神はすみやかに彼らのための報復を行われる。だが、この人の子が(再び)来る時、果たして地上にそういう信仰を見出すことができるだろうか。」
- イエスは、自分が義人であると自分勝手に確信し、自分以外の者たちを軽蔑しているある者たちに対して、次のように喩えを話された。
- 「二人の人が祈るために宮に登って行った。一人はパリサイ人で、もう一人は取税人であった。
- そのパリサイ人は立って、自分を誇って、『神よ。私は、自分が他の人々のように、ゆする者、不正な者、姦淫する者でなく、あるいは特にこの取税人のようではないことを感謝します。
- 私は週に二度断食し、全収入の十分の一をささげ続けています。』と祈っていた。
- しかし、その取税人は遠くに立ち、目を天に向けようとせず、自分の胸を打ちながら、『神よ。罪深い私を憐れんでください。』と言った。
- わたしはお前たちに言う。もう一人の方ではなく、この人の方が義とされて、家に帰った。なぜならば、だれでも自分を高くする者は低くされ、自分を低くする者は高くされるからである。」
- 人々が、イエスに触っていただこうと幼子たちまでをイエスのところに次々と連れて来た。ところが、弟子たちはそれを見て叱っていた。
- しかし、イエスは幼子たちを呼び寄せて言われた。「子どもたちがわたしのところに来ることを許せ。妨げるのを止めよ。なぜならば、神の国はこのような者たちのものであるからだ。
- 真実にお前たちに言う。幼子のように神の国を受け入れない者は、だれも神の国に入れない。」
- さて、ある役人がイエスに質問して、「善良な先生。何を行えば、永遠のいのちを受け継ぐことができますか。」と言った。
- イエスは彼に、「なぜわたしを『善良な者』と呼ぶのか。唯一の神以外に善良な御方はおられない。
- お前は戒めを知っているではないか。『姦淫してはならない。殺してはならない。盗んではならない。偽証を立ててはならない。父と母を敬え。』」と言われた。
- すると彼は、「それら全てを私は若い時から守って来ました。」と言った。
- イエスはそれを聞いて、彼に、「なお一つ、お前はやり残している。お前が持っている物全てを直ちに売り払い、貧しい者に与えてしまえ。そうしたならお前は天に宝を積むことになる。そして直ちに来て、わたしに従い続けよ。」と言われた。
- すると彼は、これらのことばを聞いた時、非常に悲しんだ。それは、彼が大変な富豪であったからである。
- イエスは、非常に悲しんでいるその人を見て、「財産を持っている者たちが神の国に向かって進むことは、何と難しいことか。
- 金持ちが神の国に入るよりも、らくだが針の穴を通る方がもっと容易である。」と言われた。
- それで聞いていた人々が、「では、だれが救われ得るのですか。」と言った。
- それでイエスは、「人にはできないことも、神には可能である。」と言われた。
- するとペテロが言った。「見てください。私たちは、自分の家を捨ててあなたに従って来ました。」
- それでイエスは彼らに言われた。「真実にお前たちに言う。神の国のために、家、妻、兄弟、両親、子どもを捨てた者の中で、
- この世においてその幾倍かを受けずに過ごす者は決してなく、来るべき世においては永遠のいのちを必ず受ける。」
- さて、イエスは十二弟子を側に引き寄せて言われた。「見よ。わたしたちはエルサレムに上ろう。実に、この人の子について預言者たちを通して書かれた全てのことが成就されなければならない。
- なぜならば、この人の子は異邦人に引き渡され、辱められ、そして嘲られ、唾をかけられなければならない。
- そして彼らはこの人の子を鞭打ちにしてから殺す。しかし、この人の子は三日目に(必ず)よみがえる。」
- しかし、彼らはこれらのことを全く理解できなかった。これらの語られたことばの意味が彼らには隠されていた。それで彼らには、その語られたことばの意味が分からなかったのである。
- それからイエスがエリコの町に近づかれた時のことであった。ある一人の盲人が道端に座り、物乞いをしていた。
- その人は、群衆が歩いて行く音を聞き、「これはいったい何事ですか。」と尋ねた。
- 彼らは、「ナザレのイエスが通っておられる。」と彼に告げた。
- すると彼は大声で、「ダビデの子、イエスよ。私を憐れんでください。」と叫んだ。
- すると先頭を歩いていた者たちが、彼に静かにするようにと厳しく戒めようとしたが、彼は一層大声で「ダビデの子よ。私を憐れんでください。」と叫び続けた。
- それで、イエスは立ち止まり、彼を呼ばれ、ご自分のところに連れて来させられた。彼が近くに来た時、イエスは彼に尋ねられた。
- 「お前はわたしに何をして欲しいのか。」それで彼は、「主よ。見えるようになることです。」と言った。
- イエスは彼に「見えるようになれ。お前の信仰がお前を癒したのだ。」と言われた。
- すると彼は直ちに見えるようになり、神を誉め讃えながらイエスに従い始めた。それで、それを見た群衆は全て神に賛美をささげた。
19
- それからイエスはエリコの町の中に入られた。そして町を通り抜けようとしておられた。
- そして、見よ。その町にザアカイと呼ばれる人がいた。彼は取税人の頭で、金持ちであった。
- 彼はイエスがどのような人であるかを見たいと思っていた。しかし、彼の背が低かったので、群衆のために見ることができないでいた。
- しかし、イエスがまさにそこを通り過ぎようとしておられたので、彼は前方に走り出し、イエスを見るために、いちじく桑の木に登った。
- そして、イエスは、その場所に来られた時、上を見上げ、彼に向かって、「ザアカイよ。急いで降りよ。今日、お前の家に泊まることにしているからだ。」と言われた。
- それで彼は急いで下に降り、喜んでイエスをお迎えした。
- 皆の者がこれを見て、「彼は罪人の家に宿を取るために入った。」と言って、文句を言い始めた。
- しかし、ザアカイは立ち上がり、主に向かって言った。「見てください。主よ。私の財産の半分を貧しい者たちに与えます。そして、もしも私がだれかから何かをゆすり取ったことがあったならば、それを四倍にして返します。」と言った。
- それでイエスは彼の方を向いて、「今日、救いがこの家に成就した。それは、彼もアブラハムの子であるからだ。
- なぜならば、この人の子は失われてしまった者を捜して救うために来たからである。」と言われた。
- 人々がこれらのことを聞いている時、イエスは続けて喩えで(彼らに)話された。 それは、その時、イエスがエルサレムの近くに来ておられたので、そのために神の国がすぐに実現されようとしていると彼らが考えていたからであった。
- それで、イエスは語られた。
- 「ある高貴な家柄の人が、遠い国に行った。それは、自分に王位を受けてから帰るためであった。
- それで、彼は自分の十人のしもべたちを呼び、十ミナを預けた。そして彼らに、『私が帰るまで、(これで)商売せよ。』と言った。
- しかし、彼の国民たちは彼を憎んでいた。それで彼らは彼の後から使者を送って、『我々はこの人が我々の王になることを欲しません。』と言った。
- さて、彼が王位を受けて帰って来た時、彼は、金を預けておいたこれらのしもべたちがどれほど儲けたかを知ろうとして、彼らを彼のところに呼び集めるために命令を出した。
- それで、最初のしもべが進み出て、『主よ。あなたの一ミナが十ミナ儲けました。』と言った。
- それで彼はしもべに言った。『よろしい。お前は良いしもべだ。お前は小さな事においても忠実であった。お前を十の町を治める支配者にする。』
- 次に二番目のしもべが来て、『主よ。あなたの一ミナが五ミナになりました。』と言った。
- 彼はこのしもべにも、『お前も五つの町の支配者にする。』と言った。
- その次に、もう一人のしもべが来て、『主よ。見てください。あなたの一ミナです。私はそれを布にくるんでしまっておきました。
- なぜなら、私は、あなたが、預けない物を取り立て、蒔かない物を刈り取る過酷な方であるので恐ろしかったからです。』と言った。
- 彼はそのしもべに、『私はお前の口から出た言葉によってお前をさばく。悪いしもべだ。お前は、私が預けない物を取り立て、蒔かない物を刈り取るような過酷な者であると知っていたのか。
- では、なぜ私の金を銀行に預けなかったのか。そうしておけば、私は帰って来た時、それを利子と一緒に引き出すことができたはずだ。』と言った。
- そして彼は傍らに立っている者たちに言った。『その一ミナを彼から取り上げよ。そして、それを十ミナ持っている者に与えよ。』
- ──すると彼らは彼に、『主よ。彼は十ミナ持っています。』と言った。──
- 『私はお前たちに言う。持っている全ての者に(さらに多くが)与えられ、持っていない者からは、今持っている物さえも取り上げられる。
- しかし、私が、自分たちを治める王になることを欲しなかった、私のこれらの敵どもをここに連れて来い。そして、彼らを私の目の前で殺せ。』」
- そしてイエスはこれらのことを話された後、旅を続け、エルサレムに向かって上って行かれた。
- そして、イエスは、オリーブと呼ばれる山に向かうベテパゲとベタニアの近くに来られた時、二人の弟子を遣わされた。
- そして言われた。「向こうの村に行け。お前たちが村に入ると、まだだれも乗ったことのないロバの仔が繋がれているのを見付けるはずだ。それを解いて、引いて来い。
- もし、だれかがお前たちに、『なぜ解いているのか。』と尋ねるならば、『主ご自身が必要としておられる。』と言え。」
- それで遣わされた者たちが行ったところ、イエスが彼らに言われたとおりであった。
- それで、彼らがロバの仔を解いている時、ロバの仔の持ち主たちが彼らに向かって、「なぜロバの仔を解いているのか。」と言った。
- それで彼らは、「主ご自身が必要としておられる。」と言った。
- そして二人はロバの仔をイエスのところに引いて来た。そして彼らはロバの仔の上に彼らの上着を投げ掛けて、イエスをその上にお乗せした。
- イエスがなお進んで行かれると、人々は自分たちの上着を次々と道の上に敷き出した。
- その時、イエスはオリーブ山のすその下り坂に近づいておられた。弟子たちの全てが、彼らが見たイエスの力ある御業のゆえに喜んで、大声で神を賛美し始めた。
- 彼らは言った。「主の御名によって来られる御方、王に誉れあれ。天には平和。いと高き所には栄光あれ。」
- するとあるパリサイ人たちが、群衆の中からイエスに向かって、「先生よ。あなたの弟子たちを叱れ。」と言った。
- イエスは答えて、「わたしはお前たちに言う。もしこの者たちが黙れば、石が叫び出す。」と言われた。
- そして、イエスは、エルサレムに近づかれた時、都を見て、都のために泣き悲しんで、
- そして言われた。「もし、お前が、この今日にでも平和に関することを知っていたなら。しかし、今、それはお前の目から隠されている。
- それは、お前の敵が、お前に向かって塁を築き、お前を包囲し、四方からお前を攻め立て、
- お前と、お前の中にいるお前の子どもたちを殺戮し、お前の石積の城壁が完全にくつがえされる時が、やがてお前を襲うからだ。なぜならば、お前が神の憐れみある訪れの時を知らなかったからだ。」
- そして、イエスは宮の中に入って、商売人たちを追い出し始められた。
- そして彼らに言われた。「『わたしの家は、祈りの家であれ。』と(聖書に)書かれている。しかし、お前たちはそれを強盗の巣窟にしてしまった。」
- そして、イエスは毎日宮の中で教えておられた。しかし、祭司長たち、律法学者たちは、イエスを殺そうと機会を狙っていた。また民衆の中の有力者たちも同様であった。
- しかし、彼らには、それを実行する手段が見つからなかった。なぜならば、全ての民衆が非常に熱心にイエスのみことばに聞き入っていたからであった。
20
- それらの日々のうちのある日、イエスが宮の中で群衆にみことばを教え、福音を宣べ伝えておられた時のことであった。祭司長たちと律法学者たちが長老たちと共に立ち上がった。
- そして彼らはイエスに向かって、「あなたはどのような権威によってこれらのことを行っているのか。あるいはだれがあなたにこれらの権威を与えたのか、我々に語ってくれ。」と言った。
- それでイエスは彼らに答えて、「わたしもお前たちに一言尋ねる。わたしに答えよ。
- ヨハネのバプテスマは、天からであったのか、それとも人からであったのか。」と言われた。
- それで、彼らは、仲間の間で論じ合って、「もし、我々が、天から、と言えば、『では、なぜお前たちは彼を信じなかったのか。』と言うだろう。
- しかし、もし、『人からだ。』と言えば、民衆が皆で我々を石で打ち殺すに違いない。ヨハネが預言者であるということが全民衆の確信であるからだ。」と言った。
- そこで彼らは、「どこからかは判らない。」と答えた。
- そこでイエスは彼らに、「わたしも、わたしがどのような権威によってこれらのことを行っているかをお前たちには言わない。」と言われた。
- またイエスはこの喩えを民衆に語り始められた。 「ある人がぶどう園を作った。そしてそれを農夫たちに貸して、かなり長期の旅に出た。
- そして、時期が来たので、農夫たちにぶどう畑の収穫の中から彼の取り分を払ってもらうために一人のしもべを農夫たちのところに送った。しかし、農夫たちは彼を鞭で打ち叩き空手で送り返した。
- そこで、彼はさらに別のしもべを送った。しかし、その者たちは(彼を)鞭で打ち叩き、侮辱を加えたうえ、空手で送り返した。
- そして彼はさらに三番目のしもべを送った。しかし、彼らはこの者をも傷付け、追い返した。
- そこで、ぶどう畑の持ち主は、『どうしようか。愛息を送ろう。多分、彼らもこの子なら敬うに違いない。』と言った。
- しかし、彼らはその息子を見て、仲間同士で話し合って、『この子は相続人だ。彼を殺してしまおう。そうしたら遺産は我々のものになるのだ。』と言った。
- そして、彼らは彼をぶどう畑の外に放り出し、殺してしまった。ではぶどう畑の持ち主は、何をするだろうか。
- 彼はやって来て、その農夫たちを殺し、ぶどう畑を他の者に貸すはずである。」それで、聞いていた者たちは、「そんなことはあってはならない。」と言った。
- それでイエスは彼らを注視しながら言われた。「では、(聖書に)『家造りたちに見捨てられた石が隅の頭石となった。』と書かれてあるのは、なぜだ。
- その石の上に倒れた者は全て、粉々に砕かれる。また、その石は、人の上に落ちれば、それがだれであろうと粉みじんにする。」
- 律法学者たちと祭司長たちは、イエスが彼らを指してその喩えを語られたということに気づいたので、イエスを即座に捕らえようとしたが、民衆を恐れて、それができなかった。
- それで、彼らは、イエスの言葉尻を捉えて総督の役所と官権に引き渡そうと、その機会を得るために、義人のふりをした間者たちを送った。
- そして、彼らはイエスに尋ねて言った。「先生。私たちは、あなたが正統的に語り、教えておられ、また人を偏り見ることはなさらず、神の道を真理に基づいて教えておられることも知っています。
- 私たちがカイザルに税金を納めることは差し支えありませんか、それともありますか。」
- イエスは、彼らの悪巧みを見抜いておられたので、彼らに言われた。
- 「デナリ銀貨をわたしに見せよ。これはだれの肖像、また銘か。」彼らは、「カイザルのです。」と言った。
- それでイエスは彼らに向けて、「それでは、カイザルのものはカイザルに返せ。神のものは神に返せ。」と言われた。
- それで、彼らは民衆の前ではイエスの言葉尻を捉えることができなかった。そして彼らはイエスの返答に驚嘆し、黙ってしまった。
- その時、復活がないと言っているサドカイ派に属する者数名がやって来て、イエスに質問して言った。
- 「先生。モーセは、『もし、ある人の兄で、妻を持っていたが子がなかった者が死んだなら、その弟がその女を妻にして、兄のための子をもうけなければならない。』と我々のために記しています。
- ところで、七人の兄弟がいました。長男は妻をめとりましたが、子どもなしに死にました。
- そして、次男も
- 三男もその女を妻にし、その七人とも同じようにして、子を残さずに死にました。
- その後、その女も死にました。
- それで、復活の時には、その女はだれの妻になるのですか。その七人とも同じ女を妻にしたのですから。」
- それで、イエスは彼らに言われた。「この世の子たちはめとったり、嫁いだりする。
- 次の世に入ることが認められ、死人たちの中からのよみがえりを認められた者たちは、めとることも嫁ぐこともしない。
- それは、彼らがもはや死ぬことがなく、彼らの状態が御使いのようであり、そして彼らは神の子ども、すなわち復活の子であるからだ。
- それだから、実にモーセは、死人たちがよみがえらされる時のことを、『柴の箇所』の中で、彼が主を、『アブラハムの神、イサクの神、ヤコブの神』と呼ぶことによって明らかにしたのだ。
- 神は死んでいる者の神ではなく、生きている者の神である。なぜならば、(その時)全ての者が神によって生きているからである。」
- その時、律法学者たちのうちのある者たちがそれに答えて、「先生。すばらしい答えです。」と言った。
- それで、彼らはもはや、どんな質問もあえてしなかった。
- すると、イエスは彼らに言われた。「どうして人々は、キリストのことをダビデの子と言っているのか。
- ダビデ自身が、詩篇の中で、『主は、わたしの主に言われた。「わたしの右に座っておれ。
- あなたの敵をあなたの足の足台とするまでは。」』と言っている。
- このように、ダビデがキリストを彼の主と呼んでいるのだ。だからどうしてキリストがダビデの子であるのか。」
- 民衆の全てがイエスのみことばを聞いている間に、イエスは弟子たちに言われた。
- 「お前たちは、長い衣を着て歩き回ることを好み、広場で挨拶されることや、会堂の上席や宴会の上座に座ることが好きな律法学者たちに警戒せよ。
- また、彼らはやもめの家を食いつぶし、見せかけで長い祈りを唱える。このような者たちは、一層厳しいさばきを受けるのだ。」
21
- イエスは顔を上げ、金持ちたちが献金箱に献金を投げ入れているのを見られた。
- その時、ある貧しいやもめが、そこにレプタ二枚を投げ入れているのを見られた。
- それでイエスは言われた。「真実にお前たちに言う。あの乞食同然のやもめは、だれよりも多く投げ入れたのだ。
- なぜならば、ここにいる全ての者は、彼らの余りの中から献金を投げ入れたのだが、彼女は貧しさの中から、彼女が持っていた生活費全てを投げ入れたからだ。」
- そして、ある人々が、宮が美しい石や奉納物で飾られていることを誉めて語っているので、イエスは語られた。
- 「これら、お前たちが今見ている石について、全ての石が完全に崩されて、今ある石の上になくなる時が必ず来る。」
- それで、彼らは質問して、「先生。では、それらのことはいつあるのですか。それらのことが起きる前に、どんな前兆があるのですか。」と言った。
- それでイエスは言われた。「騙されないように気を付けよ。なぜなら、わたしの名を使って、『私である。』とか、『その時が来た。』とか言う者が大勢現れるからである。決して彼らの後に付いて行くな。
- 戦争と暴動について聞いても、恐れおののくな。なぜならば、これらは初めに必ず起きなければならないことであり、終わりは即座には来ないからだ。」
- それから、イエスは次のように彼らに語り始められた。「民族は民族に、国は国に敵対して立ち上がる。
- 数々の大地震が起こり、あちらこちらに疫病と飢饉が発生する。そして天からの大きな恐ろしい前兆が現れる。
- しかし、これらのこと全ての起きる前に、人々はお前たちを捕らえて迫害し、会堂や牢に引き渡す。そして、彼らは、お前たちをわたしの名のゆえに王たちや総督たちの前に引き出す。
- それはお前たちにとって証する機会となる。
- それで、お前たちは、どのように弁明しようかと前もって考えないと心の中で決めておけ。
- なぜならば、わたしが、お前たちのあらゆる敵対者が抗弁することも反論することもできない言葉と知恵とをお前たちに与えるからである。
- しかし、お前たちは両親、兄弟、親族、友人たちによってさえ裏切られ、彼らはお前たちのある者を殺す。
- そして、お前たちはわたしの名のゆえに全ての者によって必ず憎まれる。
- しかし、お前たちの髪の毛一本も決して滅びない。
- 忍耐によって、お前たちは自分のいのちを獲得せよ。
- それで、エルサレムの町が軍隊によって囲まれるのを見たならば、その時、その滅亡が近づいたことを知れ。
- その時、ユダヤにいる者たちは山地に向かって逃げよ。(エルサレムの)都の中にいる者たちは退去せよ。郊外にいる者たちは、その(町の)中に入ってはならない。
- なぜならば、それは、(聖書に)書かれてあることが全て成就される報復の日だからである。
- 悲しむべき哀れな者たちは、その時、子を宿している女たちと乳飲み子を持っている女たちである。それは、大きな苦難がその地の上に、そして御怒りがこの民に対して臨むからである。
- そして、人々は剣の刃によって斬り殺され、あらゆる異邦の国々に捕虜として連れて行かれる。そして、エルサレムは、異邦人の時が満たされるまで、異邦人によって踏み荒らされ続ける。
- そして、太陽と月と星に前兆が現れる。そして、世界中で異邦人たちが、海と波からの異様な音によって不安に悩まされる。
- 人々は、天の軍隊〈星〉が揺り動かされるので、その住む全ての所を襲おうとしていることを予想して、恐ろしさのあまり気を失う。
- そしてその時、人々は、この人の子が偉大なる力と栄光を伴って、雲に乗って来るのを見る。
- これらのことが起こり始めたなら、しっかりと身を起こし、お前たちの頭を上げて上を見よ。なぜなら、お前たちの贖いの日が近づいているからである。」
- それからイエスは彼らに喩えを語られた。「いちじくの木、及び全ての木を見よ。
- すでに木が芽を出しているならば、お前たちはそれを見て、夏がすでに近くに来ていると自分で悟れ。
- このようにお前たちも、これらの出来事を見たならば、神の国が近くに来ていると悟れ。
- 真実にお前たちに言う。この時代が終わるまでに、これらのこと全ては必ず起きる。
- 天と地は必ず過ぎ去る。しかし、わたしのことばは決して過ぎ去らない。
- お前たちの心が、酩酊と泥酔とこの世の心配事によって意気阻喪してしまい、そのためにその日が、罠のように突如、お前たちを襲うということが決してないように、自分自身に注意せよ。
- それは、全地の表に住んでいる者全ての上に、必ず、突然に襲いかかるからである。
- それで、お前たちは、これらのやがて起こるべき出来事の全てを逃れることができ、この人の子の前に立つことができるように、常に目を覚まして祈っておれ。」
- さてイエスは、日中は宮で教え、夜には外に出て行って、オリーブと呼ばれる山で野宿しておられた。
- そして民衆は全て、朝早くからイエスの教えを聞くために宮におられるイエスのところに来ることにしていた。
22
- その時、過越の祭りと呼ばれる種なしパンの祭りが近づいていた。
- 祭司長たちと律法学者たちは、イエスを殺す方法を探していたが見つからなかった。それは、彼らが民衆を恐れていたからである。
- その時、サタンがあの十二人の一人で、イスカリオテと呼ばれるユダに入った。
- それで、彼は出て行って、祭司長たちと宮の守衛長たちと、イエスを引き渡す方法について相談した。
- それで彼らは喜んだ。そして、ユダに金を払うことに合意した。
- ユダは承知した。そして民衆のいないときにイエスを彼らに引き渡すための良い機会を狙い始めた。
- それで、種なしパンの祝いの期間の中で、過越の小羊を屠るべき日が来た。
- それで、イエスはペテロとヨハネを遣わして、「行って、我々が過越の食事を食することができるように準備をせよ。」と言われた。
- それで彼らはイエスに、「どこに我々が準備することをお望みですか。」と言った。
- するとイエスは彼らに言われた。「見よ。お前たちが町に入ると、水瓶を運んでいる男に出会うことになっている。その人が家に入るまで、その人について行け。
- そして、その家の持ち主に、『わたしが弟子たちと過越の食事を取る客間はどこか、と先生があなたに言っている。』と言え。
- その人は、お前たちに、すでに敷物と食卓が整えられている大きな二階座敷を見せてくれる。そこに準備せよ。」
- それで彼らは出て行った。そして、イエスが彼らに言われたとおりのことを見た。それで彼らは過越の食事を用意した。
- そして、食事の時間が来たので、イエスは食卓に着かれた。そして使徒たちも食卓に着いた。
- それからイエスは彼らに向かって、「わたしは、苦しみを受ける前に、お前たちとこの過越の食事を取ることを切に切に望んで来たのだ。
- なぜならば、お前たちに言う、神の国で過越が成就されるまで、わたしが過越の食事を取ることは決してないからである。」と言われた。
- そしてイエスは、杯を取り、感謝を捧げてから言われた。「これを取れ。そして、お前たちの間で分けて飲め。
- わたしはお前たちに言っておく。今から後、神の国が実現されるまで、わたしは決して、ぶどうの実から作られた物を飲まない。」
- それからイエスはパンを取り、感謝を捧げてからそれを裂き、弟子たちに与えて言われた。「これは、わたしがお前たちのために与える、わたしのからだである。わたしを記念するためにこれを行え。」
- そしてその夕食の後、杯を同じようにしてから言われた。「この杯は、お前たちのために流されるわたしの血による新しい契約である。
- しかし、見よ。わたしを裏切ろうとしている者の手が、今、わたしの手と共に食卓の上にある。
- なぜなら、この人の子は、実に、定められているとおりに去って行くからだ。しかし、その、人の子を裏切る者は、実に悲しむべき哀れな者である。」
- それで、弟子たちは、そんなことをしようとしているのは、彼らの中の、いったいだれだと、彼らの中で議論し合い始めた。
- そして同時に、彼らの中でだれが一番偉いと見なされているかという競争心が彼らの中に生じた。
- それでイエスは彼らに言われた。「異邦人の王たちは人々を支配している。そして、人々の上に権力を持っている者たちは保護官と呼ばれている。
- しかし、お前たちはそのようであってはならない。お前たちの中で一番偉い者は、一番年下の者のようになれ。また治める人は、給仕人のようになれ。
- 食卓に着く者と給仕する者と、どちらが偉いか。食卓に着く者ではないか。しかし、わたしはお前たちの中で給仕人のようにしている。
- しかし、お前たちは、わたしの試練の期間、わたしと共に歩み続けて来た人々である。
- わたしの父がわたしに王国の支配を委ねられたように、わたしもお前たちに王国の支配を委ねる。
- それは、お前たちがわたしの王国において、わたしの食卓に着いて食し、飲むためであり、そしてお前たちが王座に着かせられて、イスラエルの十二部族をさばくためである。
- シモン、シモン。見よ。サタンが(神に)切に求めてお前たちを麦粒のようにふるいにかける許可を得た。
- しかし、わたしは、お前のために、お前の信仰がなくならないように請い求めた。それで、お前は、立ち返った時、お前の兄弟たちを堅く立たせよ。」
- そこでペテロはイエスに、「主よ。私は、牢だろうが、死だろうがあなたと共に行く心の備えができています。」と言った。
- それでイエスは、「ペテロ。わたしはお前に言う。お前は今日、鶏が鳴くまでに、三度、わたしを知らないと言う。」と言われた。
- それからイエスは弟子たちに、「わたしがお前たちを財布も旅行袋も(代わりの)サンダルも持たせずに送り出した時、何にも不足することがなかったではないか。」と言われた。それで彼らは、「何一つ。」と言った。
- それで、イエスは彼らに言われた。「しかし、今は、財布を持っている者はそれを持ち、同じように旅行袋も持て。剣を持っていない者は、上着を売って剣を買え。
- なぜならば、わたしはお前たちに言う、『彼は無法者たちの仲間と見なされた。』と書かれてあることが、わたしに実現されなければならないからである。実に、わたしに関することは、(全て)成就される。」
- それで、彼らは「主よ。見てください。ここに剣が二振りあります。」と言った。それで、イエスは彼らに「それで十分だ。」と言われた。
- それから、イエスは出て行って、習慣どおり、オリーブ山に向かって歩まれた。弟子たちも、イエスについて行った。
- いつもの場所に着かれたとき、イエスは彼らに「誘惑に陥らないように、祈り続けよ。」と言われた。
- そして、イエスは、弟子たちから石を投げて届くほどのところに〈三、四十メートル〉離れて、ひざまづき、祈り始められた。
- 「父よ。もし決断することがおできならば、この杯をわたしから取り除けてください。しかし、わたしの願いではなく、あなたのみこころを行ってください。」
- すると、天からイエスのところに、ひとりの御使いがイエスを力づけるために現れた。
- それから、イエスは苦しみもだえ、ますます切に祈り続けられた。するとイエスの汗が、地に落ちる血のしずくのように見えた。
- イエスは祈りから立ち上がり、弟子たちのところに来ると、彼らが悲しみのあまり眠っているのをご覧になった。
- それで、イエスは彼らに、「なぜお前たちは眠っているのか。起きよ。そして誘惑に陥らないように、祈り続けよ。」と言われた。
- イエスがなお語っておられる間に、見よ、群衆がやって来た。しかも十二弟子の一人であり、ユダと呼ばれる者が、彼らを先導していた。そして彼はイエスに、口づけしようと近づいた。
- それで、イエスは彼に、「ユダよ。お前は口づけで、この人の子を裏切るのか。」と言われた。
- それで、イエスの周りにいた者たちは、起ころうとしている事を見て、「主よ。剣で打ってもよいですか。」と言った。
- そして彼らの中の一人の者が、大祭司のしもべ《奴隷》を斬り付け、その者の右の耳を切り落とした。
- するとイエスは、「手を引け。それまでだ。」と言われた。そして、その耳を掴んで、彼を癒された。
- イエスに襲いかかろうとしてやって来た大祭司たちと宮の守衛長たちと長老たちに向かってイエスは、「お前たちは、強盗を捉まえるかのように、剣と棒を持って出て来たのか。
- 毎日、わたしが宮の中でお前たちと共にいた時、お前たちはわたしに手をかけることができなかった。しかし、今は、お前たちの時なのだ。しかも暗闇の権威が(支配する時なのだ)。」と言われた。
- 彼らはイエスを捕らえて、引いて行った。そして大祭司の家の中に引き入れた。それで、ペテロは遠くからついて行った。
- さて、彼らが中庭の真ん中で火を焚き、そして共に座ったので、ペテロも彼らの仲間になって座っていた。
- その時、ある女中が光に向かって座っている彼を見て、彼を見つめながら、「この人もあの人と一緒にいました。」と言った。
- しかし、彼は否定して、「女よ。私は彼と面識がない。」と言った。
- そして、程なく他の男が彼を見て、「お前も彼らの仲間だ。」と言った。それで、ペテロは、「君。私は違う。」と言った。
- そして、一時間ほど経った時、別のある男が強く断言して、「真実に基づいて言う。この人も彼と共にいた。この人もガリラヤ人だからだ。」と言い張った。
- それで、ペテロは、「君。私は君の言っていることが分からない。」と言った。その時、すぐさま、彼がなお語っている間に鶏が鳴いた。
- その時、主は振り向き、ペテロを見つめられた。それでペテロは、「今日、鶏が鳴く前に、お前は三度、わたしを知らないと言う。」と自分に言われた主のおことばを思い出した。
- それで、彼は外に出て、激しく泣いた。
- その時、イエスを監視している男たちは、イエスを鞭で打ちながら、嘲っていた。
- 彼らはイエスに目隠しをして、「お前を殴ったのはだれか、言い当ててみよ。」と言って質問していた。
- また彼らはイエスに別の多くの侮辱する言葉を次々と浴びせた。
- 夜が明けると、民の長老会、すなわち祭司長たちと律法学者たちが集合した。そして彼らはイエスを彼らの議会に引いて行った。
- そして彼らはイエスに、「もしお前がキリストなら我々にそう言え。」と言った。しかし、イエスは言われた。「たといわたしが言っても、お前たちは決して信じることができない。
- たといわたしが尋ねても、お前たちは決して答えることができない。
- 今から後に、この人の子が、神の大能の右に着座している時が必ず来る。」
- それで、全員が言った。「それでは、お前は神の子なのだな。」それでイエスは彼らに向かって、「そのとおりだ。わたしである《エゴー エイミ》。」と言われた。
- それで、彼らは、「我々にこれ以上の証人が必要だろうか。我々自身が、彼の口から聞いたからだ。」と言った。
23
- そして、彼ら全員が立ち上がり、イエスをピラトの前に連れて行った。
- 彼らは、「我々は、この者が、我々の国民を惑わしていることを見つけました。すなわち彼はカイザルに税を納めることを禁じ、自分が王なるキリストであると言っています。」と言って、イエスを(謀反のかどで)訴え始めた。
- それでピラトはイエスに、「あなたはユダヤ人の王か。」と言って質問した。それでイエスは答えて、「そのとおりだ。」と言われた。
- ピラトは祭司長たちと民衆に向かって、「私は、この人に容疑を何一つ認めない。」と言った。
- しかし、彼らは、「彼は、ガリラヤから始めてここまで、ユダヤ全土で教えて、民衆を扇動しています。」と言って、ますます強硬に主張し出した。
- それで、ピラトはそれを聞いて、「では、この人はガリラヤ人なのか。」と尋ねた。
- そして、イエスがヘロデの領地出身であることを知って、イエスをヘロデのところへ送った。ちょうどその頃ヘロデもエルサレムに滞在していたからである。
- それで、ヘロデはイエスに会えて、非常に喜んだ。なぜならば、彼はイエスについての噂を聞いていたので、かなり以前からイエスに会いたいと願っていたからであり、またイエスが何か奇蹟を行うのを見たいと望んでいたからである。
- それで、彼は多くの言葉でイエスに質問してみたが、イエスは何一つお答えにならなかった。
- その間、祭司長たちと律法学者たちは、イエスを激しく告発しながら立ちつくしていた。
- それで、ヘロデは、自分の兵士たちと一緒になってイエスを侮辱し、嘲った後、イエスに派手な着物を着せ、ピラトのところに送り返した。
- その日、ヘロデとピラトは互いに仲直りした。それまで、彼らは互いに対して敵意を持っていたのである。
- それで、ピラトは祭司長たちと役人たちと民衆を呼び集めた。
- そしてピラトは彼らに言った。「お前たちは、この人を、民衆を惑わす者として私のところに連れて来た。しかし、見よ。私はお前たちの前で詳しく調べたが、お前たちが訴えているような告訴の理由は何一つ見つからなかった。
- しかも、ヘロデも見つけることができなかった。だから彼はこの人を私たちのところに送り返して来たのだ。そして見よ。この人は死刑に値することを何一つしたことがない。
- だから私は、この人を懲らしめた後、釈放する。」
- (なし)
- しかし、彼らは一斉に大声で叫んで、「この人を殺せ。バラバを釈放しろ。」と言った。
- バラバとは、都で起こった一揆と殺人の理由で、牢に投獄させられていた者である。
- しかし、ピラトは、イエスを釈放したかったので、もう一度彼らに呼びかけた。
- しかし、彼らは、「十字架につけろ。彼を十字架につけろ。」と言って叫び続けた。
- それで、ピラトはもう一度、三度目に彼らに向かって、「では、この人がどんな悪事を行ったと言うのか。私は彼に死刑に処する理由を何一つ見つけることができなかった。だから私は彼を懲らしめてから、釈放する。」と言った。
- しかし、彼らはイエスを十字架につけるように大声で要求しながら詰め寄って来た。そして、彼らの声が勝った。
- そしてピラトは彼らの要求に応じることを決定した。
- それで、ピラトは、一揆と殺人のかどで投獄されていた男、すなわち彼らが(釈放を)要求していた男を釈放し、一方イエスは彼らの思いどおりにするに任せた。
- それで、彼らはイエスを引いて行く途中、農場からやって来たクレネ人のシモンという人を捉まえ、この人の肩の上に十字架を乗せ、イエスの後から運ばせた。
- 大きな民の集団とイエスのことを嘆き悲しんでいる女たちの大きな群れがイエスに従って歩いていた。
- その時、イエスは女たちの方を振り向いて言われた。「エルサレムの娘たちよ。私のために泣いているな。むしろお前たち自身と、お前たちの子どもとのために泣いておれ。
- なぜなら、見よ、『不妊の女と、子を産んだことのない胎と、乳を飲ませたことのない乳房は幸いだ。』と人々が言う日が来ようとしているからだ。
- その時、人々は山に向かって、『我々の上に倒れてくれ。』と言い、丘に向かって、『我々を覆い隠してくれ。』と言い出すのだ。
- 彼らがこのようなことを、この生きている木に対してしようとしている以上、枯れ木たちに対して、どのようなことが起きるのだろうか。〈恐ろしいことが起きようとしているのだ。〉」
- 別の二人の犯罪人がイエスと共に死刑に処せられるために引かれて行った。
- そして、彼らは、「頭骸骨」と呼ばれている場所に来てすぐに、その場所でイエスを、またイエスと共にその犯罪人たちとを、一人は右に、もう一人は左に、十字架につけた。
- その時、イエスは、「父よ。彼らをお赦しください。なぜなら彼らは何をしているか分からずに行っているのですから。」と言われた。彼らはイエスの上着を切り分けて、くじを引いた。
- その時、民衆は、見ながら立ちつくしていた。しかし、役人たちは嘲っていた。そして、「やつは他人を救った。こいつが神のキリスト、選ばれた者なら、(神に)自分を救わせよ。」と言っていた。
- 兵士たちもイエスをからかった。そして近寄って来て、イエスに酸いぶどう酒を差し出した。
- そして彼らは、「お前がユダヤ人の王なら、自分を救え。」と言っていた。
- さらに、「この人はユダヤ人の王である。」という罪状書きもイエスの頭上に掲げてあった。
- その時、十字架にかけられた犯罪人の一人が、「お前はキリストではないのか。自分と我々を救え。」と言ってイエスを罵り出した。
- しかし、もう一人の者がそれに答え、彼を叱りつけて言った。「お前は今、(私と)同じ刑を受けているのに、(死も)神も恐ろしくないのか。
- 我々は正当に処罰されている。我々は自分がやったことにふさわしい報いを受けているのだ。だがこの方は、間違ったことは何一つされたことがないのだ。」
- そして、「イエス様。あなたが御国にお入りになるとき、私を思い出してください。」と(答えを求めながら)言った。
- するとイエスは彼に、「真実に、お前に言う。今日、お前は(必ず)わたしと共にパラダイスにいる。」と言われた。
- そして、すでに第六時〈昼の十二時〉であったが、(その時から)第九時〈午後三時〉まで全地が暗闇になった。
- 太陽が光を失ったからである。その時、神殿の幕が真っ二つに裂けた。
- そして、イエスは大声で、「父よ。あなたの手にわたしの霊を委ねます。」と叫ばれた。こう言われて後、イエスは最後の息を吐かれた。
- この出来事を見ていた百人隊長は、神を誉め讃えて、「真実にこの方は義人であられた。」と言った。
- この事を見物に集まっていた群衆も全員、これらの出来事を見たので、胸を打ち、悲しみながら帰って行った。
- しかし、イエスの知人たちと、ガリラヤからイエスに従って来ていた女たちは、これらのことを見ながら、遠方で立ったままでいた。
- そして、見よ、ヨセフという名の、議員の一人で、善良で、正しい人がいた。
- この人は、議員たちの決議と行動に賛成の票を投じたことがなかった。彼はユダヤの町アリマタヤの人であり、神の国を待ち望んでいた。
- この人は、ピラトのところに行って、イエスのからだを求めた。
- そして、彼はイエスのからだを取り降ろして亜麻布に包んだ。そして、彼はイエスを、岩を掘って作られた、それまで一度も使われたことがない墓にイエスを納めた。
- そして、この日は(過越の)準備の日であった。そして、その時、安息日が始まりかけていた。
- ガリラヤからイエスに従って来ていた女たちは、(ヨセフに)ついて行って、墓と、イエスのからだが納められた様子をよく見とどけた。
- そして彼女たちは家に帰ってから、香料と香油とを準備した。そして、彼女たちは戒めに従ってその安息日を休んだ。
24
- 週の初めの日の朝、まだ暗いうちに、女たちは、準備した香料を携えて墓に来た。
- すると、石が墓から脇へ転がされていることが分かった。
- それで、中に入ってみると、主イエスのからだが見当たらなかった。
- このことに女たちが途方に暮れているその時、見よ、光り輝く衣を着た二人の男が女たちの近くに立った。
- 彼女らが恐怖に襲われ、顔を地面に伏せていると、その人たちが彼女たちに向かって言った。「なぜあなたがたは、生きている方を、死人たちの中で捜すのか。
- その方はここにはおられない。よみがえられたのだ。その方がまだガリラヤにおられた時、どのようにあなたがたにお話しになったかを思い出せ。
- この人の子は、必ず罪人らの手に渡され、十字架に付けられ、三日目によみがえらされなければならないと語られたのだ。」
- それで、女たちはイエスのみことばを思い出した。
- そして、彼女らは墓から戻って、これらのこと全てをあの十一人と、その他の者全てに報告した。
- さて、女たちというのは、マグダラのマリヤとヨハンナと、ヤコブの母マリヤとであった。そして彼女たちと共にいたその他の女たちも、使徒たちにこれらのことを報告していた。
- しかし、彼らの判断においてはこれらのことばが作り話のように思えた。それで、彼らは女たちの言うことを信用しようとしなかった。
- しかし、ペテロは立ち上がり、墓まで走って行った。そして、かがんで覗き込んだところ、亜麻布だけが見えた。それで、彼はこの出来事に驚きながら、その場を離れて彼の家に帰った。
- そして見よ。その同じ日に、彼らの中の二人が、エルサレムから六十スタディオン〈約十一キロメートル〉離れたところにあるエマオという名の村に向かって歩いていた。
- そして彼らはこれらの出来事の全てについて、二人で語り合っていた。
- 彼らが語り合ったり、議論し合ったりしている間に、イエスご自身が彼らに近づいて来られ、一緒に歩き始められた。
- しかし、彼らの目はイエスを見分けることができないように、引き止められていた。
- それでイエスは彼らに、「歩きながら、お前たちが語り合っているこれらの話は、何のことなのか。」と言われた。それで、彼らは悲しい顔つきで立ち止まった。
- クレオパという名の人が答えて、イエスに、「エルサレムであなただけが旅人だったので、ごく最近、都で起きた出来事を知らないというのですか。」と言った。
- それで、イエスは彼らに、「どんなことか。」と言われた。彼らはイエスに言った。「ナザレのイエスについてのことです。この方は、神の御前でも、全民衆の前でも、働きとことばにおいて力ある預言者でした。
- また、私たちの祭司長たちや役人たちが、この方をどのように死刑に定め、十字架に付けたかについてです。
- しかし、私たちは、この方がイスラエルの民をやがて贖ってくださると望みをかけていました。このようなことの全ての上に、これらのことが起きてから、今日は三日目になっています。
- しかし、また私たちの仲間のある女たちが私たちを驚かせました。彼女らが朝早く、墓に行ったのです。
- しかし、イエスのからだは見つからなかったのですが、御使いの幻も現れて、イエスが生きておられると告げたということを言うために帰って来たのです。
- それで、私たちと一緒にいる者たちの中の何人かが墓に行きました。そして、女たちが言ったことは、全て本当だったのです。それで、イエスは見つかりませんでした。」
- すると、イエスは彼らに向かって、「ああ、なんと愚かな人たち。預言者たちが語った全てのことを信じるのに心の鈍い者たちよ。
- キリストは、それらの苦しみを受けてから、彼の栄光に入ることが定められていたのではないのか。」と言われた。
- それからイエスは、モーセ(の書)から、また預言書全てから、聖書全体にわたって、ご自分について書かれてあることを彼らに解き明かされた。
- そして、彼らは目指していた村に近づいた。しかし、イエスはなお先へ行かれるかのようであった。
- それで彼らはイエスに無理に願って、「私たちと共にお泊まりください。なぜなら、もう夕暮れに近づいており、日もすでに傾いていますから。」と言った。それでイエスは、彼らと一緒に泊まるために中に入られた。
- イエスは、彼らと共に食卓に着き、パンを取り、感謝を捧げてからパンを裂き、彼らに次々と渡された。
- その時、彼らの目が開かれた。そして、彼らはイエスを認めた。するとイエスは彼らから見えなくなられた。
- そして彼らは、「道で私たちに語っておられる間、聖書を私たちに解き明かしておられる間、私たちの心は内で燃えていたではないか。」と互いに言った。
- その時すぐさま、彼らは立ち上がって、エルサレムに戻った。すると、彼らは、十一人とその仲間たちが集まっているのを見つけた。
- そして彼らは、「真実に主はよみがえられたのだ。そしてシモンにお現れになった。」と言っていた。
- 彼らも、道であったことや、パンを裂かれた時になって、イエスであられることが彼らに分かったことなどを、詳しく話して聞かせた。
- 彼らがこれらのことを話している間に、イエスご自身が彼らの真ん中に立たれた。そして、彼らに、「平安がお前たちにあるように。」と言われた。
- しかし、彼らはおびえてしまい、しかも恐怖に捕らわれ、霊を見ているのだと思っていた。
- すると、イエスは彼らに言われた。「どうして、お前たちは取り乱してしまっているのか。なぜ、お前たちの心の中に、疑いが起き続けるのか。
- わたしの手と、わたしの足を見よ。わたし自身である。わたしに触れ、そしてよく見よ。霊はこのように肉と骨を持っていない。しかし、お前たちが見ているとおり、わたしは持っているのだ。」
- そしてこのように語られてから、彼らに手と足をお見せになった。
- なお彼らが、喜びのあまり信じられず、不思議がっているので、イエスは、「ここに何か食べ物はあるか。」と言われた。
- それで、彼らは焼いた魚を一切れイエスに差し上げた。
- そして、イエスは、彼らが見ているところでそれを取って、食された。
- それで、イエスは彼らに、「わたしがまだお前たちと共にいたとき、わたしがお前たちに語ったことばは、これである。すなわち、わたしについて、モーセの律法と、預言者と、詩篇に書かれてあることは全て、必ず成就されるということである。」と言われた。
- その時、イエスは、聖書を悟らせるために、彼らの心を開かれた。
- そして、イエスは彼らに言われた。「キリストは苦しみを受け、三日目に死人たちの中からよみがえると書かれてある。
- また、その名によって、罪の赦しに至る悔い改めが、エルサレムから始まって、全ての国々に宣べ伝えられると書かれてある。
- お前たちはこれらのことの証人である。
- さあ、わたしはお前たちの上に、わたしの父が約束されたものを送る。それで、お前たちは、いと高きところから力を着せられるまで、都に留まっておれ。」
- それからイエスは、彼らをベタニアの方向に連れて行かれた。そして手を挙げて彼らを祝福された。
- イエスは、彼らを祝福しておられる間に、彼らから離れ、天に昇って行かれた。
- それで、彼らはイエスを礼拝して後、大きな喜びを持ってエルサレムに帰った。
- そして彼らはいつも宮の中で神を誉め讃えていた。