使徒の働き

1

  1.  テオピロへ。私は、イエスが行い始め、また教え始められた(時からの)こと全てを、
  2. またご自身の選ばれた使徒たちに聖霊によって命令された後、天に引き上げられた日までのこと全てについて、最初の書簡に記した。
  3. イエスは苦しみを受けた後、実に使徒たちに四十日にわたって現れ、また彼らに神の国について語り、多くの決定的証拠をもって、ご自身が生きていることを立証された。
  4. イエスは、(彼らと)一緒におられる間に、彼らに命じられた。「エルサレムを離れずに、わたしから聞いた御父の命令を待て。
  5. そのわけは、ヨハネは水でバプテスマしたが、幾日も経たぬうちに、お前たちは聖霊によってバプテスマされるからである。」
  6.  それで、彼らは、ともに集まった時、イエスに、「主よ。あなたは、その時に、イスラエルのために王国を立て直してくださるのですか。」と尋ねた。
  7. それでイエスは彼らに言われた。「お前たちは、その期間と時期を知らなくてもよい。それらは御父がご自身の権威をもって定めておられる。
  8. しかし、聖霊がお前たちの上に臨まれる。その時、お前たちは力を受ける。それでお前たちはエルサレム、ユダヤとサマリアの全土、および地の果てにまで、わたしの証人となる。」
  9. そして、イエスは、これらのことを言われた後、彼らが見ている間に、引き上げられた。すると雲がイエスを受け入れて人々の目から見えなくした。
  10. イエスが天に向かって昇って行かれる間、彼らは天を見つめ続けていた。すると、白い衣を着た二人の男が彼らの側に立っていることに気付いた。
  11. そして彼らは言った。「ガリラヤの人たち。なぜ天を見上げながら立ち続けているのか。お前たちを離れて天に引き上げられた御方、このイエスは、天に昇って行かれるのをお前たちが見たとおりの様子で、また必ず来られるのだ。」
  12.  さっそく彼らはオリーブ園と呼ばれる山からエルサレムに帰った。この山は、安息日に歩くことができるほど、エルサレムに近かった。
  13. そして彼らは町に入って、泊まっていた屋上の間に上った。その人たちとは、ペテロとヨハネとヤコブとアンデレ、ピリポとトマス、バルトロマイとマタイ、アルパヨの子ヤコブと熱心党員シモンとヤコブの子ユダたちであった。
  14. この全ての人々は、婦人たちとイエスの母マリヤ、そしてイエスの兄弟たちと共に、心を一つにして祈りに専念していた。
  15.  その頃、ある時ペテロが兄弟たちの真ん中に立って次のように言った。約百二十名の兄弟たちが一群れとなって一つ所に集まっていた。
  16. 「兄弟たち。聖霊がダビデの口を通して前もって語られた、イエスを捕らえた者どもの手引きとなったユダに関する聖書の預言は、成就されるのが当然なのである。
  17. なぜならば、ユダは私たちの仲間として数えられていた。そして、彼もこの奉仕の務めの割り当てを受けた。
  18. しかし、この男は不正行為の報酬によって土地を手に入れたが、うつ伏せになって落ち、腹が破裂し、内臓が全て流れ出た。
  19. そしてそれがエルサレムの住民全てに知れ渡った。それでその土地が彼らの方言によってアケルダマ──その意味は「血の地所」である。──と呼ばれるようになった。
  20. それは、(聖書の中の)詩篇の書に、『彼の住まいは荒れ果てよ。そこには住む者がいなくなれ。』と書かれてあるからである。また、『彼の監督の職を他の人に取らせよ。』とも書かれているのである。
  21. だから、主イエスが私たちのところに出入りしておられた全期間中、私たちと共に行動していた男たちの中から、
  22. すなわち、バプテスマのヨハネの時から始まり、彼〈イエス〉が私たちを離れて天に引き上げられた日までの期間中、行動を共にしていた者たちの中から一人が、私たちと共に彼〈イエス〉の復活の証人にならなければならないのである。」
  23. そこで、彼らは、バルサバと呼ばれ、別名をユストというヨセフと、マッテヤの二人を立てた。
  24. そして彼らは祈って言った。「あなたは、全ての人の心の中を知っておられる主です。あなたがこれら二人の中からお選びになった者を示してください。
  25. ユダが脱落して彼にふさわしい所に行ったために、彼から取り上げられた奉仕の働きと使徒の地位を、その者に取らせてください。」
  26. そして彼らはこの二人のためにくじを与えた。くじはマッテヤの上に落ちた。それで、彼は十一人の使徒たちの仲間に数えられた。

2

  1.  五旬節の祭りの日が真っ盛りになろうとしていた、ちょうどその時、皆は一つ所に集まっていた。
  2. その時、突然、猛烈な突風が吹き付けてくるような大きな音が天から響いて来て、彼らの座っていた建物全体に満ちた。
  3. そして、炎のような分かれた舌が彼らのところに現れ、彼ら一人ひとりの上に留まった。
  4. すると、彼らは皆、聖霊によって満たされて、御霊が彼らに語らせられるとおりに、他国の言語で語り始めた。
  5.  さて、(その当時)エルサレムには、世界中の諸国から、敬虔なユダヤ人たちが来て住み着いていた。
  6. この音が響いたので、大勢の人々が集まって来た。そして、その人々の各々が、自分たちの国言葉で弟子たちが語っているのを聞いて仰天した。
  7. 彼らは、驚きに打たれ、不思議がって言っていた。「この人々は皆、ガリラヤの方言を語っている者たちではないのか。
  8. それなのに、我々の各々が、生まれた国の国言葉で彼らが語っているのを聞くことができるということは、どうしてなのか。
  9. 我々は、パルテア人、メジア人、エラム人、またメソポタミア、ユダヤ、カパドキア、ポントとアジア、
  10. フルギアとパンフリア、エジプトとクレネに近いリビア地方などに住む者たち、また滞在中のローマ人たちだ。
  11. ユダヤ人もいれば改宗者もいる。またクレテ人とアラビア人もいる。それなのに、我々は、あの人たちが我々の国言葉で、神の大いなる御業を語るのを聞いているではないか。」
  12. 彼らは皆、平常心を失っていた。そして、それをどのように判断してよいか分からずに、互いに向かって「いったいこれはどういうことになるのか。」と言っていた。
  13. しかし、別の者たちは嘲って、「彼らは今、甘いぶどう酒で酔っぱらっているのだ。」と言っていた。
  14.  それで、ペテロは十一人と共に(皆を代表して)立ち、声を張り上げ、人々に向かって熱を込めて語った。「ユダヤの人々とエルサレムに住む全ての人々。このことをあなたがたに知らせたい。私の言うことに耳を傾けて聞いていただきたい。
  15. この人々は、あなたがたが想像しているように酒に酔っているのではない。なぜなら、今は日中の第三時〈午前九時〉であるからだ。
  16. しかし、これは預言者ヨエルを通して語られた事柄である。
  17. 『実に神は言われる。終わりの日に、わたしの霊を全ての者の上に注ぐことが起きる。するとあなたがたの息子たちと娘たちは預言する。そして、あなたがたの若者たちも、幻を見、老人たちは夢を見る。
  18. そして、それらの日に、わたしのしもべたちの上に、またわたしのはしためたちの上に、わたしは、わたしの霊を注ぐ。すると彼らは預言する。
  19. また、わたしは、上は天に、驚くべき現象を起こし、下は地に、しるしとしての奇蹟を示す。それは、血と炎と立ち上る煙である。
  20. 偉大なる輝かしい主の日が来る前に太陽は闇となり、月は血に変わる。
  21. そして、だれでも主の御名を呼び求める者は全て、救われる。』
  22.  イスラエルの男たちよ。これらの言葉を聞いていただきたい。それは、ナザレのイエスのことである。あなたがたが知っているとおり、神はあなたがたの間で、この方を通して御力による業と奇蹟としるしを行われた。神はそれらによってあなたがたにこの御方が神からの人であられることを立証されたのだ。
  23. しかし、この御方が引き渡されたのは、神によって決定された御計画と予定によったことではあったが、あなたがたはこの御方を無法者の手によって十字架に釘付けにして殺したのだ。
  24. しかし、神は、この御方を死の苦しみから解放し、よみがえらされた。この御方が死によって支配されたままであることは不可能であるからだ。
  25. ダビデはこの御方について、次のように語っている。
    『私は常に、自分の目の前に主を見続けていた。なぜならば、主が、私が動揺させられないように、私の右におられるからである。
  26. それゆえ、私の心は喜び楽しみ、私の舌は喜び踊った。その上さらに私の肉体も、望みをもって宿る。
  27. なぜならば、あなたは私のたましいをハデスに置き去りにせず、あなたの聖者に腐れを見ることをお許しにならないからである。
  28. あなたは、私にいのちの道を知らせ、あなたの御顔をもって私を喜びで満たされる。』
  29.  兄弟たち。父祖ダビデについては、あなたがたに大胆に、『彼は死んで葬られた。そして彼の墓は、今日も我々のところにある。』と言って差し支えない。
  30. 実に、彼は預言者であり、神が彼の子孫のひとりを彼の王座に着かせると彼に誓いをもって約束されたことを知っていたのだ。
  31. それで、彼は先見して、キリストの復活について、『彼はハデスに置き去りにされず、彼の肉体も腐れを見ることはない。』と語ったのである。
  32. このイエスを神は、よみがえらされた。我々の全てがその証人である。
  33. それで、神の右に上げられたイエスが、御父の御前から約束のものである聖霊を受けて、今あなたがたが見ており聞いている、その聖霊を注がれたのだ。
  34. だからダビデが天に昇ったのではない。それで彼は次のように言っている。『主は、私の主に言われた。「わたしの右に着座しておれ。
  35. わたしがあなたの敵をあなたの足の足台とするまで。」』
  36. それで、全てのイスラエルの民よ。あなたがたが十字架に付けたこのイエスを、神が、主またキリストとしてお立てになったことを、はっきりと知れ。」
  37.  それで、これを聞いた者たちは、心を突き刺され、ペテロと他の使徒たちに、「兄弟たちよ。我々は何をすべきなのか。」と言った。
  38. そこで、ペテロは彼らに向かって言った。「悔い改めよ。そしてあなたがたの罪の赦しに基づいて、各々イエス・キリストの御名によってバプテスマを受けよ。そうすれば、あなたがたは聖霊の賜物を受ける。
  39. なぜならば、この約束は、あなたがたと、その子どもたちとに、すなわち、我々の主なる神がご自分へとお召しになる御声の届く限りの所にいる、全ての者に与えられているのである。」
  40. 彼は、このほかにも多くのことばをもって、十分に証をし、彼らに熱心に説いて、「この曲がった時代から直ちに救い出されよ。」と言った。
  41. それで、彼のことばを受け入れた者たちはバプテスマを受けた。その日、三千人ほどが(群れに)受け入れられた。
  42. そして、彼らは使徒たちの教えと、交わりと、パンを裂くことと、祈りとを着実に実行していた。
  43.  そして、全ての者に恐れが生じていた。また多くの不思議な業としるしとしての奇蹟が使徒たちを通して次々と行われていた。
  44. 信じている者たちは皆、一つ所にいて、全ての物を共有していた。
  45. そして、土地や持ち物を次々と売り払っては、それらを、それぞれの必要に応じて、全ての者に分配していた。
  46. そして、彼らは、毎日、心を一つにして宮の中に留まり続け、また各々の家でパンを裂き、大きな喜びと純真な心をもって食事を共にしていた。
  47. 彼らは神を賛美し続け、また全ての民に好意を持たれていた。主も毎日救われている者たちを仲間に加え続けられた。
14.*「(皆を代表して)立ち」の原文は「立った」の受動態。直訳は「立たせられた。」しかしその意味は「推されて立つ、推薦されて立つ、代表とされて立つ」です。
23.*「予定」=「予知」
25.詩16:8-11
26.*「宿る」の原文は、「テントを張る、(一時的に)住む、宿る」の未来時制。
30.*「彼の子孫のひとり」の原文は「彼の腰からの果実の一つ」
34.詩110:1
38.*「罪の赦しに基づいて」の「基づいて」の原語は前置詞εἰςです。この前置詞は、「…に至る、…のために」とも訳しえますが、人は罪を悔い改めて、信仰を告白したときに罪の赦しを得たのですから、バプテスマは、「正しい良心の神への要求」(Iペテロ3章21節)であるべきであって、罪の赦しを得るためのものではありませんから、この節の訳は「罪の赦しに基づいて」でなければなりません。
14.*「(皆を代表して)立ち」の原文は「立った」の受動態。直訳は「立たせられた。」しかしその意味は「推されて立つ、推薦されて立つ、代表とされて立つ」です。
23.*「予定」=「予知」
25.詩16:8-11
26.*「宿る」の原文は、「テントを張る、(一時的に)住む、宿る」の未来時制。
30.*「彼の子孫のひとり」の原文は「彼の腰からの果実の一つ」
34.詩110:1
38.*「罪の赦しに基づいて」の「基づいて」の原語は前置詞εἰςです。この前置詞は、「…に至る、…のために」とも訳しえますが、人は罪を悔い改めて、信仰を告白したときに罪の赦しを得たのですから、バプテスマは、「正しい良心の神への要求」(Iペテロ3章21節)であるべきであって、罪の赦しを得るためのものではありませんから、この節の訳は「罪の赦しに基づいて」でなければなりません。

3

  1.  ペテロとヨハネは第九時〈午後三時〉の祈りの時に宮に上って行くところであった。
  2. その時、生まれた時から足のきかないある男が運ばれて来た。この人は、毎日、「美しの門」と呼ばれる宮の門のところに、宮に入って来る人々に施しを求めるために、置いてもらっていた。
  3. 彼は、まさに宮に入ろうとして歩いてくるペテロとヨハネを見て、施しを得ようとしきりに求めた。
  4. ペテロは、ヨハネとともに、その男を見つめ、「我々を見よ。」と言った。
  5. 彼は、彼らから何かもらえると思い、彼らに注目していた。
  6. それでペテロは言った。「私には金も銀もない。しかし、私が持っている物をお前に与える。ナザレのイエス・キリストの御名によって立ち上がれ。そして歩け。」
  7. そして、彼の右手を取って立たせた。すると即座に、彼の両脚と足首が強められた。
  8. それで、彼は跳び上がるように立ち上がって歩き出した。そして歩いたり、踊ったりしながら、神を賛美しつつ彼らと共に宮に入って行った。
  9. それで、群衆は皆、彼が歩きながら、神を賛美しているのを見た。
  10. そして彼らは、その人が宮の「美しの門」のところで、施しを求めて座っていた男であることが分かり始めた。それでその人の身に起きたことを見て、恐怖に満たされ、非常な衝撃を受けた。
  11.  この人がペテロとヨハネにしっかりと離れずに付き従っている時、非常に驚いた群衆が皆そろって、ソロモンの廊と呼ばれる柱廊にいる彼らのところに走って来た。
  12. ペテロはこれを見て、人々に向かって言った。「イスラエルの男たち。なぜこれを見て驚いているのか。また、なぜ、我々が自分の力とか信仰深さとかによって彼を歩けるようにしたかのように、我々を見つめるのか。
  13. アブラハム、イサク、ヤコブの神、すなわち、我々の父祖たちの神は、ご自分のしもべイエスに栄光をお与えになった。しかし、あなたがたはこの方を、ピラトが釈放すると決めていたのに、その面前で死刑執行人に引き渡し、(この方のメシヤであられることの)承認を拒否した。
  14. しかも、あなたがたはこの聖また義なる御方を拒んだ上に、人殺しの男を赦免するように要求した。
  15. そして、あなたがたは、いのちの君を殺したのだ。しかし、神はこの御方を死者たちの中からよみがえらせられた。我々はそのことの証人である。
  16. そして、イエスの御名を信じる信仰に基づいて、イエスの御名が、あなたがたがいま見ており知っているこの人をしっかりとならせたのだ。彼〈イエス〉を通して与えられた(神への)信仰が、あなたがた全ての目の前で、この人にこのような完全な健康を与えたのだ。
  17. さて、兄弟たちよ。私は、あなたがたが、あなたがたの指導者たちと同様に、無知のゆえにそのことを行ったことを知っている。
  18. 神は、全ての預言者たちの口を通して、神のキリストは苦しまれなければならないと予告しておられたが、そのことをこのように成就されたのだ。
  19. だから、あなたがたは、あなたがたの罪を拭い去っていただくために、悔い改めて、神に立ち返れ。
  20. それは、神の御前から安息の時が来た時、神が自らあなたがたのために前もってキリストとして定めておられるイエスを(あなたがたに)遣わしてくださるためである。
  21. このイエスは、神が昔から、ご自分の聖なる預言者たちの口を通して語られた、万物の改新の時まで、天にとどめられていなければならない。
  22. それで、モーセは、次のように言った。『あなたがたの神であられる主は、あなたがたの兄弟たちの中から、あなたがたのために、私のようなひとりの預言者をお立てになる。この方があなたがたに語られることは、全て聞き入れよ。
  23. だれでもその預言者の語ることを聞き入れない者は、民の中から全て滅ぼし尽くされる時が必ず来る。』
  24. また、サムエルから始まり、彼の後に次々と起こされた預言者たちの最後の者に至るまで、神のみことばを語った者は全て、実にこれらの日について宣言したのである。
  25. あなたがたは預言者たちの子である。そして、あなたがたは、神がアブラハムに、『あなたの種〔子孫〕・〈単数〉によって、地の全ての民族は祝福を受ける。』と語られて、そのことばによってあなたがたの先祖たちと結ばれた契約の子である。
  26. 神は、あなたがたにまず、ご自分の御子をよみがえらせて、彼を遣わされた。それは、あなたがた一人ひとりを邪悪な生活から立ち返らせることによって、祝福するためである。」

4

  1.  彼らが民に話をしている時、祭司たち、宮の守衛長、またサドカイ人たちが彼らのところにやって来た。
  2. 彼らは、ペテロとヨハネが民を教えており、またイエスのことで、死人たちの中からの復活(の教理)を公に宣言していることに憤慨して、
  3. それで、彼らを捕らえたが、すでに夕刻であったので、その翌日まで(彼らを)留置所に保管した。
  4. しかし、みことばを聞いた多くの者たちが信じた。そしてその男の数が約五千人になった。
  5.  翌日、民の指導者たち、長老たち、学者たちと、
  6. 大祭司アンナス、カヤパ、ヨハネ、アレキサンデル、そのほか大祭司の一族に属する者の全てがエルサレムに集まった。
  7. そして、彼ら〈使徒たち〉を真ん中に立たせて、「あなたがたは何の力によって、あるいは、だれの名によってこのことを行ったのか。」と言って、尋問し始めた。
  8. その時、ペテロは聖霊に満たされて、彼らに向かって言った。「民の指導者たち、ならびに長老の方々。
  9. もし、今日、我々が、病人に行った良い業に関して、その人が何によって癒されたのかということについて取り調べを受けているのであるならば、
  10. あなたがたの全ての者も、またイスラエルの民の全ても、よく知らなければならない。あなたがたが十字架につけたが、神が死者たちの中からよみがえらせたナザレのイエス・キリストの御名によって、この人は健全なからだにされて、あなたがたの目の前に立っているのである。
  11. この方こそ、『あなたがた家造りたちによって見捨てられた石』であり、『礎の石』となられたのである。
  12. そして、救いは、この方の御名による以外にはない。我々を救う名は、世界中の何処にも、この名以外にどのような名も、人間には与えられていないからである。」
  13. 彼らは、ペテロとヨハネとの大胆さを見、また彼らが無学であり、凡人であることを知って驚いていた。そして、彼らがイエスの仲間であったことが分かり始めた。
  14. また、癒されたその人が彼らと一緒に立っているのを見て、全く反論の言葉がなかった。
  15. 彼らはその三人に議場から外に出るように命じてから、彼らの間で討論を始めた。
  16. そして言った。「あの人たちに対して我々は何をなすべきなのか(が分からない)。なぜならば、彼らを通して著しいしるしが行われたことは、エルサレムの住民全部に知れ渡っているので、我々は否定もできないからだ。
  17. ただ、それがこれ以上民の間に広められないように、これ以上だれにもその名によって語ってはならないと、彼らを脅そうではないか。」
  18. それで、彼らはこの人々を呼んで、イエスの御名によって一切発言しても教えてもならないと命じた。
  19. それで、ペテロとヨハネは彼らに向かって答え、「神のみことばに聞き従うよりも、あなたがたの言うことに聞き従うほうが、神の御前において正しいのか。正しく判断せよ。
  20. 我々は自分が見たこと、聞いたことを語らないわけにはいかない。」と言った。
  21. 民もみな、この出来事を見て神をあがめていた。それで、彼らは、この人たちを、処罰する方法を見つけることができず、民衆の手前、一層厳しく脅しただけで釈放した。
  22. その奇蹟で癒された人は、年齢が四十歳より上であった。
  23.  この二人は釈放された後、自分たちの仲間のところに行き、祭司長たちや長老たちが彼らに言ったことを全て報告した。
  24. それで、これを聞いた人々は、心を一つにして、神に向けて声を大きくし、そして言った。「主よ。あなたは、天と地と海とその中の全てのものを造られた方です。
  25. 私たちの先祖〈ダビデ〉の神よ。あなたは、あなたのしもべであるダビデの口を通して、聖霊によって語られました。『なぜ異邦人たちは騒ぎ立ち、諸国民はむなしいことを計るのか。
  26. 地の王たちは立ち上がり、指導者たちは、主に反抗し、また主のキリストに反抗して、集合した。』
  27. 実際にこのみことばのとおり、ヘロデもポンテオ・ピラトも、あなたが油を注がれた、あなたの聖なるしもべイエスに反抗して、異邦人とイスラエル人と共にこの都に集まりました。
  28. そのようにして、彼らは、あなたの御手と(あなたの)みこころが起きるようにとあらかじめ定められたことを全て行いました。
  29. ですから、主よ。今、彼らの脅かしを見てください。そして、あなたのしもべたちに、あなたのみことばをあらゆる大胆さをもって語らせてください。
  30. あなたが、ご自分の御手を伸ばされることによって、ご自分の聖なるしもべイエスの御名を通して、癒しとしるしと不思議な業を行ってください。」
  31. そして、彼らが祈願をささげている時、彼らが集まっていた場所が揺り動かされた。そして、彼らの全てが聖霊に満たされ、大胆に神のみことばを語り出した。
  32.  信じた者たちの群れの心と思いは一つであった。そして、だれ一人、持ち物を自分だけの物と言わず、全ての物を共有にしていた。
  33. そして、大いなる恵みが彼ら全ての上に留まっていたので、使徒たちは、主イエスの復活を非常に力強く証し続けた。
  34. 彼らの中には、乏しい者が一人もいなかった。それは、地所や家を持っている者が、それらを売り、売った代金を持って来て、
  35. 全てを使徒たちの足もとに次々と置いたからであり、なんでも必要に従って各々に分け与えられていたからである。
  36. キプロス生まれのレビ人で、使徒たちによってバルナバ(訳すと、慰めの子)と呼ばれたヨセフは、
  37. 自分の所有の畑を売り、その代金を持って来て、使徒たちの足もとに置いた。

5

  1.  さて、あるアナニヤという名の男が、彼の妻サッピラと共に土地を売った。
  2. そして、彼は、彼の妻と共謀して、その代金から一部を自分のために取りのけておき、ある部分を持って来て、使徒たちの足もとに置いた。
  3. それで、ペテロは言った。「アナニヤよ。なぜお前は、サタンに心を満たさせて、聖霊を騙し、土地の代金から一部を自分のために取りのけておいたのか。
  4. それは、売らずに残しておけば、お前のものであったのであり、売られても、それ(の代金の使い方)はお前の自由であったはずではないか。なぜそのような行動(を行う思い)がお前の心の中に起きたのか。お前は人をではなく、神を欺いたのだ。」
  5. アナニヤはこれらのことばを聞くと、倒れて死んだ。そして、これを聞いた全ての人々に、非常な恐れが生じた。
  6. 青年たちは立って、彼を包み、運び出して葬った。
  7.  三時間ほどの合間があってから、彼の妻が、この出来事を知らずに入って来た。
  8. ペテロは彼女に、「お前たちはこの値段で土地を売ったのか。私に言え。」と訊ねた。それで、彼女は、「はい。その値段です。」と言った。
  9. それで、ペテロは彼女に言った。「なぜお前たちは、共謀して主の御霊を試みたのか。見よ。お前の夫を葬った者たちの足が戸口に来ている。そして、彼らはお前を運び出す。」と言った。
  10. すると彼女は、直ちにペテロの足もとに倒れ、そして死んだ。青年たちは、家に入って来た時、死んでいる彼女を見た。それで、彼らは彼女を外に運び出し、夫の側に葬った。
  11. それで、教会全体に、またそのことを聞いた全ての人々に非常な恐れが生じた。
  12.  また、使徒たちの手によって、多くのしるしと不思議な業が人々の間で行われた。そして、全ての者が一つ心になってソロモンの柱廊に一緒にいた。
  13. 外部の者は、だれ一人、彼ら(の交わり)にあえて加わろうとはしなかったが、民衆は彼らを称賛していた。
  14. さらに、主を信じる男と女の群れの数がますます増えていった。
  15. そして、人々は、ペテロが道を通るとき、彼の影にでも触れればと、病人たちを大通りに運び出し、寝台や寝床の上に寝かせて置くほどになった。
  16. それで、エルサレムの周辺の町々からも大勢の人々が病人や、汚れた霊によって悩まされている者たちを、次々と運んで集まって来た。その人々の全てが、次々と癒されていった。
  17.  そこで、あの大祭司が立ち上がり、そして彼の仲間の全てが、サドカイ派ぐるみで、ねたみに燃えた。
  18. 彼らは使徒たちを捕縛し、公共の留置所に入れた。
  19. しかし、夜の間に、主の使いが牢の戸を開き、彼らを連れ出して言った。
  20. 「行け。そして宮の中で立って、民にこのいのちのことばを全て語り続けよ。」
  21. それで、彼らはこれを聞いて、夜明け頃、宮に入って、教え始めた。一方、大祭司と彼の仲間の者たちがやって来て、議会とイスラエルの民《子たち》の長老たち全員を招集した。そして使徒たちを連れて来させるために人を牢に遣わした。
  22. しかし、役人が行ったところ、彼らが牢の中に見当たらなかった。それで、彼らは帰って来て報告して言った。
  23. 「牢は完全に閉じられており、戸口には番人が立っていました。戸を開けたところ、中にはだれ一人見当たりませんでした。」
  24. 宮の守衛長や祭司長たちは、(使いが語った)このことばを聞いて、使徒たちのことで、何が起きようとしているのかと恐れて、すっかり途方に暮れていた。
  25. その時、ある者が来て、「見よ。あなたがたが牢に入れた人たちが、今、宮の中に立っており、民衆に教えている。」と報告した。
  26. そこで、宮の守衛長は役人たちといっしょに出て行き、使徒たちを丁寧に連れて来た。人々に石で打ち殺されるのではないかと恐れていたからである。
  27.  それで、彼らは使徒たちを連れて来て議会の中に立たせた。そして、大祭司が使徒たちを問いただして
  28. 言った。「我々は、お前たちに絶対にあの名を使って教えてはならないと、厳命したではないか。それなのに、お前たちは、エルサレムをお前たちの教えで満たしてしまっている。その上、あの男の血(の責任)を我々に負わせようと企んでいる。」
  29. ペテロと使徒たちは答えて言った。「人間に服従するより、神に服従すべきである。
  30. 私たちの父祖たちの神は、あなたがたが十字架にかけて殺したイエスを、よみがえらされた。
  31. そして、この方〈イエス〉を神は、イスラエルに悔い改めと罪の赦しを与えるために、君主、また救い主として、ご自分の右に上げられたのだ。
  32. 実に、我々はこの事実の証人である。そして、神がご自分に従う者たちにお与えになった聖霊も証人であられる。」
  33.  彼らはこれを聞いて激怒し始めた。そして、使徒たちを殺すことを図り始めた。
  34. しかし、全ての人に尊敬されている律法学者で、ガマリエルというパリサイ人が議会の中に立ち、使徒たちをしばらく外に出させるように命じた。
  35. それから、彼は議員たちに向かって言った。「あなたがたイスラエルの民よ。あなたがたがこの人々に対して何をしようとしているかについては、自分に注意せよ。
  36. なぜならば、先頃、チュウダが立ち上がり、自分を何か偉い者であるかのように言いふらし、その男に従った者の数が約四百人あった。しかし、その男は殺されてしまい、彼に従っていた者たちは散らされ、消えてしまった。
  37. その後、人口調査のとき、ガリラヤ人ユダが立ち上がり、民衆を扇動して反乱を起こした。しかし、その男は殺されて、彼に従った者も全て、完全に散らされてしまった。
  38. そこで今、私はあなたがたに言う。あの人々から手を引き、放っておくべきだ。なぜならば、もし、その計画や行動が人間から出たものならば、必ず自滅してしまうからだ。
  39. しかし、神から出たものであるとすると、あなたがたは、決して彼らを滅ぼすことはできない。もしかすると、あなたがたは自分を神に敵対する者にするかも知れない。」それで、彼らは彼のことばを受け入れた。
  40. それで彼らは使徒たちを呼んで、彼らを鞭で打った上、イエスの名によって語ってはならないと命じた。そして彼らを釈放した。
  41. そこで、使徒たちは、御名のためにはずかしめられるにふさわしい者とされたことを喜びながら、議会の面前を出て行った。
  42. そして、彼らは、毎日、宮や家々の中で、休むことなく、教え続け、イエスがキリストであることを宣べ伝え続けた。

6

  1.  その頃、弟子の数が増して行くにつれ、ヘブル語を使うユダヤ人〈ユダヤ生まれのユダヤ人〉に対する不満が、ギリシア語を使うユダヤ人〈ギリシア語を常用語とする地方出身のユダヤ人〉から生じた。それは彼らのやもめたちが毎日の世話を十分に受けていないということであった。
  2. それで、その十二人は、弟子たち全員を呼び集めて言った。「我々が食卓の奉仕のために神のみことば(のための働き)をなおざりにすることは喜ばしいことではない。
  3. それで、兄弟たちよ。この任務に我々が任命することができるように、あなたがたの中から良い評価を受けている七名の、聖霊と知恵に満たされている者を選び出せ。
  4. そして、我々は祈りとみことばの奉仕に専念することにする。」
  5. このことばは、全員を喜ばせた。そして、彼らは信仰と聖霊に満たされている男であるステパノと、ピリポと、プロコロと、ニカノルと、テモンと、パルメナと、アンテオケの改宗者ニコラオを選び出した。
  6. 彼らはこの七名を使徒たちの前に立たせた。そして、使徒たちは、祈り終えてから、彼らの頭の上に手を置いた。
  7.  その頃、神のことばはますます広まって行った。それでエルサレムの町の弟子の人数が急速に増加していた。また祭司たちの大きな集団が、この信仰に従順に聞き従うようになった。
  8.  ステパノは、恵みの賜物と力とに満たされて、民衆の中で大きな不思議な業としるしを行っていた。
  9. しかし、いわゆる「解放奴隷の会」、すなわちリベルテンの会に属する人々と、クレネの会堂とアレキサンドリアの会堂と、及びキリキアとアジアの会堂に属する人々の中のある者たちが立ち上がり、ステパノと討論し始めた。
  10. しかし、彼らはステパノが語る時の知恵と霊の力に対抗しようにも対抗できなかった。
  11. それで、彼らは、人々を買収して、「我々は彼がモーセと神とを冒涜することばを語っているのを聞いた。」と言わせた。
  12. 彼らは民衆と長老たちと律法学者たちとを扇動して、彼を襲い、力ずくで捕らえ、議会に引いて行った。
  13. また、彼らは偽証人たちを立て、「この男は、この聖なる所と律法に反対することばを語って止めない。
  14. また我々は、このナザレ人のイエスが、このところを破壊し、モーセが我々に与えた習慣を変える、と彼が語るのを聞いた。」と言わせた。
  15. それで、議会に座っている全ての者が彼に注目した。すると、彼の顔が御使いの顔であるかのように見えた。

7

  1.  大祭司が、「これらのことは本当か。」と言った。
  2. それでステパノは言った。「兄弟の方々。ならびに父たちよ。聞いて欲しい。栄光の神は、我々の父アブラハムがカランに住む前、まだ、メソポタミアにいた時、彼に現れ、
  3. 『お前の地と親族から離れ、わたしがお前に示す地に行け。』と命じられた。
  4. それで、彼はカルデアの地を出て、カランの地に住んだ。そして、彼の父の死後、神は彼をその地から、今あなたがたが住んでいるこの地に移された。
  5. しかし、神はその地で彼に足の裏が踏むほどの相続地もお与えにならなかった。しかし、まだ彼には子がいないのに、その地を彼に、また彼の子孫に所有地として与えると約束された。
  6. それで、神は、彼の子孫が他国人の地に寄留者となり、その地の者たちが、彼らを奴隷とし、四百年間苦しめる、と語られた。
  7. しかし、『彼らを奴隷とする国民を、それがどの国であろうと、わたしは必ずさばく。そしてそれらのことの後、彼らはその国から出て来て、この地でわたしに仕える。』と神は約束された。
  8. そして、神は彼に割礼の契約を与えられた。そのようにして、彼はイサクを生み、その生後八日目に彼に割礼を行った。そして、イサクはヤコブを、さらにヤコブは十二名の族長たちを生んだ。
  9.  しかし、族長たちはヨセフを妬み、彼をエジプトに売り渡した。しかし、神はヨセフと共におられた。
  10. 神は彼をあらゆる困難から救い出し、エジプトの王パロの前で、恵みの賜物と知恵とを与えられた。パロは彼をエジプトとその全家を治める支配者に任命した。
  11. その時、エジプト全土とカナンの地に飢饉が来た。そして、その苦しみは大きかった。我々の先祖たちは、食料を見つけることができないでいた。
  12. その時、ヤコブはエジプトに麦があると聞いたので、初めに我々の父たちを遣わした。
  13. そして、二回目の時、ヨセフは、彼の兄たちに自分を知らせた。そして、ヨセフの素性がパロに明らかになった。
  14. ヨセフは、兄たちを遣わして、父ヤコブと親族全員七十五名を呼び寄せた。
  15. それで、ヤコブはエジプトに下って来た。そして、彼も我々の父たちも死んだ。
  16. 彼らの死体は、シェケムにまで運ばれ、アブラハムがシェケムに、ハモルの子たちから銀をいくらか払って買っておいた墓に葬られた。
  17.  神がアブラハムに誓われた約束の時が近づいた時、民の数がエジプトで大きくなり、増え広がった。
  18. 遂に、ヨセフを知らない別の王が立ち上がり、エジプトを治めるに至った。
  19. この王は、我々の民族を計略にかけ、我々の父たちを虐待し、彼らに赤子を捨てさせ、生かしておかないようにさせた。
  20. ちょうどその時、モーセが生まれた。そして彼は神によって非常に美しかった。彼は三ヶ月間、彼の父の家で育てられた。
  21. しかし、彼は捨てられた時、パロの娘によって拾い上げられた。そして、彼女は彼を自分の息子として育てた。
  22. そして、彼はエジプトの全ての知恵を教えられた。それで、彼は言葉においても、また業においても力があった。
  23.  彼が四十歳に達した時、彼の心の中に、自分の兄弟たち、すなわちイスラエルの子たちを顧みる思いが起こった。
  24. そして、彼は、ある者が虐待されているのを見た時、その男をかばった。そして、そのエジプト人を打ち殺し、虐待されていた者の復讐をした。
  25. それで、彼は、神が彼の手を通して、彼の兄弟たちに救いを与えようとしておられると、彼らが理解してくれるものと考えたのである。しかし、彼らは理解しなかった。
  26. その次の日、彼は喧嘩している(イスラエル人の)二人のところに現れた。そして、二人を仲裁し、和解させようとして、『君たちよ。あなたがたは兄弟同士だ。どうして互いに傷つけ合うのか。』と言った。
  27. 隣人を傷つけていた者が彼を突き飛ばして言った。『だれがお前を我々の支配者に、また裁判官に任命したのか。
  28. お前は、昨日エジプト人を殺したように、私を殺したいのではないのか。』
  29. モーセはこの言葉を聞いて、逃げた。そしてミデアンの地で寄留者となった。そして、彼はその地で二人の子を生んだ。
  30.  そして、四十年が満ちた時、御使いが彼に、シナイ山の荒野で茨の燃えている炎の中で現れた。
  31. モーセはこの見物を見て、不思議に思った。モーセがそれを確かめたいと近づいた時、主の御声が聞こえた。
  32. 『わたしはあなたの父たちの神である。アブラハムの神、イサク、またヤコブの神である。』モーセは震え上がり、確かめる勇気がなくなった。
  33. 主は彼に言われた。『お前の足の靴を脱げ。それは、お前が立っている場所が、聖なる地であるからだ。
  34. わたしはエジプトでのわたしの民が受けている虐待を確かに見た。そしてわたしは彼らのうめきを聞いた。それで、彼らを救うために下って来たのだ。さあ、今、来たれ。わたしはお前をエジプトに遣わすのだ。』
  35. 神は、彼らが、『だれがお前を支配者や裁判官に任命したのか。』と言って、拒んだこの人、モーセを、指導者、また救出者として、茨の中で彼に現れた御使いの手と共に遣わされたのだ。
  36. この人が、エジプトで、紅海で、また荒野で四十年間、不思議な業としるしを行い、彼らを導き出したのだ。
  37. イスラエルの子たちに、『神は、あなたがたの兄弟たちの中から、私のような預言者をあなたがたのためにお起こしになる。』と語ったのは、この人、モーセである。
  38. この人が、荒野の集会で、シナイ山の上でモーセに語った御使いと、我々の父たちと共にいたのであり、生けるみことばを受け、それを(我々に)与えたのである。
  39. 私たちの父たちは、この人に従順になって服従することを好まなかった。さらに、彼らは、彼を退け、心の中ではエジプトに向きを変えてしまい、
  40. アロンに、『我々の前を行く神々を造ってくれ。なぜなら、我々をエジプトから導き出したモーセが、どうなってしまったのか分からないからだ。』と言った。
  41. それで、彼らは、その時、子牛の像を造った。そして、偶像にいけにえをささげ、彼らは自分の手で造った物を喜んでいた。
  42. そのために神は、彼らから御顔を背けられ、彼らが天の星座《軍勢》を拝むままに見放してしまわれた。それは、聖書に書かれているとおりである。『イスラエルの家よ。四十年の間、お前たちは、荒野でわたしにいけにえと犠牲とをささげたことがあったのか。
  43. お前たちは、モロクの幕屋とロンパの神の星を担いでいた。それらは、偶像礼拝のためにお前たちが造った像ではないか。それゆえ、わたしはお前たちを遠く、バビロンの彼方に移住させる。』
  44.  荒野にいた我々の父たちのためには、証の幕屋があった。それは、モーセに、『あなたが見たとおりの型に従って造れ。』と語られた御方〈神〉の命令に従って造られていた。
  45. それを私たちの父たちは次々に受け継ぎ、異邦人らの所有地に、ヨシュアの時に運び込んだのだ。神はこの異邦人たちを私たちの父たちの前から追い出された。そしてダビデの時代に至った。
  46. ダビデは神の御前で恵みをいただき、ヤコブの神のための家を建てようと願った。
  47. しかし、神のために家を建てたのはソロモンであった。
  48. しかし、いと高き神は、あの預言者が次のように語っているとおりに人の手が造った物の中にはお住みにならない。
  49. 『主は言っておられる。天はわたしの王座であり、地はわたしの足の足台である。お前はわたしのためにどのような家を建て、あるいはどのような場所をわたしの休み場にしようとしているのか。
  50. わたしの手がこれらの物全てを造ったのではないか。』
  51. 首の強張った、心と耳に割礼を受けていない者たちよ。あなたがたは常に聖霊に逆らっている。あなたがたは、あなたがたの先祖たちと同じである。
  52. あなたがたの父たちが迫害しなかった預言者が一人でもいるだろうか。そして、彼らは、義なる御方が来られることについて前もって宣べ伝えた者たちを殺した。そして、今、あなたがたはその御方を裏切る者、そして殺す者になったのだ。
  53. あなたがたは御使いたちの指示によって律法を(神から)受けた。しかし、守ったことがない。」
  54.  彼らはこれらのことばを聞いた時、心が激怒に満たされ、歯軋りしながら彼に襲いかかって来た。
  55. しかし、彼〈ステパノ〉は聖霊に満たされて、天を見つめていた。そして、彼は神の栄光と神の右の座に立っておられるイエスを見た。
  56. そして彼は、「見よ。私には、天が開かれ、あの人の子が神の右の座に立っておられるのが見える。」と言った。
  57. それで、彼らは耳を塞ぎながら、大声で叫びつつ、心を一つにして、彼に向かって殺到した。
  58. そして、彼らは(彼を)町の外に投げ出し、彼に向けて石を投げ続けた。そして、その者たちは上着をサウロと呼ばれる若者の足もとに脱いで置いた。
  59. 彼らがステパノに石を投げつけている時、ステパノは神を呼び求め、そして、「主イエスよ。私の霊を受け入れてください。」と言った。
  60. 彼はひざまずき、大声で、「主よ。この罪を彼らに負わせないでください。」と叫んだ。このように語った後、彼は死んだ。

8

  1.  サウロは彼を殺すことに賛成していた。
  2. その日、エルサレムにある教会に対して大きな迫害が起こった。使徒たち以外の全ての者がユダヤとサマリアの田舎地方に散らされた。
  3. 敬虔な人々がステパノの遺骸を引き取り(埋葬し)、彼のために大きな哀悼の式を行った。
  4. 一方、サウロは、一軒一軒家々に入り込み、教会を荒らし回り、男も女も引きずって牢に投げ入れていた。
  5.  しかし、ある者たちは、散らされたので、福音を宣べ伝えながら巡り歩いた。
  6. 一方、ピリポは、サマリアの町に下って行き、キリストを宣べ伝えていた。
  7. 民衆は心を一つにしてピリポによって語られることばを聞くことに、そして彼によって行われていたしるしを見ることに熱中していた。
  8. なぜならば、汚れた霊に憑かれた者たちの中から、多くの悪霊が大声を上げながら次々と出て行ったからであった。また、身体の麻痺している多くの人々や足の萎えた人々が癒された。
  9. それで、その町には大きな喜びがあった。
  10.  その町に、シモンという名のある男がいて、以前から魔術を行い、サマリアの人々を驚かせていた。そして、彼は自分が何か偉大な人物であるかのように言っていた。
  11. それで、子どもから大人に至るまで、「この人は、大能者と呼ばれるべき神の力である。」と言って、この男に注目していた。
  12. 彼がかなり長い間、魔術で彼らを驚かせていたので、彼らは彼に注目していた。
  13. しかし、彼らは、神の御国とイエス・キリストの御名についての福音を宣べ伝えているピリポのことばを信じた。そして、男も女も、続々とバプテスマを受けていた。
  14. そして、シモン自身も信じた。そしてバプテスマを受けて後、ピリポに付き従っていた。そして、しるしと大いなる力ある業が行われるのを見て驚いていた。
  15.  さて、エルサレムにいる使徒たちは、サマリア人が神のみことばを受け入れたということを聞いたので、彼らのところにペテロとヨハネを遣わした。
  16. この二人は、(サマリアに)下って行って、彼らが聖霊を受けるように彼らのために祈った。
  17. なぜならば、彼らは主イエスの御名によってバプテスマを受けてはいたが、それだけで、聖霊が彼らのうちのだれ一人の上にも下られたことがなかったからである。
  18. それで、この二人が、彼らの上に手を置いたところ、彼らは続々と聖霊を受け始めた。
  19. シモンは、使徒たちの手が置かれることによって聖霊が与えられるのを見て、使徒たちのところに金を持って来て、
  20. 「私が手を置いた人がだれでも聖霊を受けることができるように、私にもその権威をください。」と言った。
  21. しかし、ペテロは彼に向かって言った。「お前の銀はお前と共に滅びよ。なぜならば、お前は神の賜物が金で買えると考えたからだ。
  22. この問題とお前とは全く関係がないのだ。なぜならば、お前の心がまだ神の御前に正しくないからだ。
  23. だから、このお前の悪意を捨てて、悔い改めよ。そして主に、なんとかお前の心の中の、悪い考えを赦していただけるように、主に願い求めよ。
  24. 実に、私には、お前が苦い胆汁〈悪意〉と不義の縄目の中にいることが見える。」
  25. それで、シモンは答えて、「あなたがたが言われたことが何一つ私の上に降りかからないように、私のために主に祈ってください。」と言った。
  26.  それで、使徒たちは、力を込めて主のことば〔福音〕を立証し、宣べ伝えた後、エルサレムへの帰途についたが、他方、(残った)人々は、サマリア人の多くの村々で福音伝道を続けていた。
  27.  しかし、主の御使いがピリポに、「立って、エルサレムからガザに下る、荒野の道を真昼に下って行け。」と言った。──ガザは今は荒れている。──
  28. それで、彼は立って出かけた。すると、見よ、エチオピア人の女王カンダケの高官で、女王の財産全部を管理していた宦官のエチオピア人がいた。彼は礼拝のためにエルサレムに行っていたのであった。
  29. 彼はその時、(国に)帰るところであった。彼は自分の馬車に座り、預言者イザヤの書を朗読していた。
  30. その時、御霊がピリポに、「近寄れ。そしてあの馬車について行け。」と言われた。
  31. それで、ピリポはそれに向かって走って行った。そして彼は預言者イザヤの書を朗読している人の声を聞いた。それで、「あなたは読んでいることがお分かりになりますか。」と言った。
  32. それで、その人は、「だれかが私を導いてくれなければ、どうして分かり得るでしょうか。」と言った。そして、ピリポに、乗って一緒に座るように頼んだ。
  33. 彼が読んでいた聖書の箇所は、次のものであった。
    「彼は、屠り場に向かう羊のように引かれて行った。そして、小羊が毛を刈る者の前で黙っているように、彼は口を開かない。
  34. 卑しめの中で、彼の裁判が行われた。だれが、彼の生涯について詳しく述べることができようか。なぜならば、彼のいのちが地上から取り去られるからである。」
  35.  宦官はピリポに向かって答えて言った。「この預言者がだれについて語っているのか教えてください。自分自身についてですか。それともだれか別の人についてですか。」
  36. ピリポは彼の口を開き、この聖句から始めて、彼にイエスのことを語って、福音を伝道した。
  37. 彼らが道を進んで行くうちに、ある水のある場所に来た。それで、その宦官は、「見てください。水です。何か、私がバプテスマを受けることを妨げるものがありますか。」と言った。
  38. (なし)
  39. それで、彼は馬車を止めさせた。そしてピリポと宦官の両者とも、水の中に下って行った。そして、ピリポは彼をバプテスマした。
  40. 彼らが水から上がって来た時、主の御霊がピリポを取り去られた。それで宦官はそれからは二度とピリポを見ることがなかった。彼は喜びながら帰って行った。
  41. しかし、ピリポはアゾトに現れ、カイザリアに着くまで、通りがかりの全ての町々に福音を宣べ伝えながら歩いて行った。

9

  1.  さてサウロは、主の弟子たちに対する脅迫と殺意に息をなお弾ませながら、大祭司のところに行った。
  2. そして、彼は、大祭司に、ダマスコにある諸会堂宛の手紙を書いてくれるように求めた。それは、彼が、どんな男でも、たとい女でも、その道の者であることが分かれば捕縛して、エルサレムに連行するためであった。
  3. しかし、彼が行進している途中、ちょうどダマスコの近くに来た時、突然、天からの光が彼の周りを照らした。
  4. それで、彼は地に倒れ伏した。そして、「サウロ。サウロ。なぜお前はわたしを迫害しているのか。」と彼に語りかける声を聞いた。
  5. それで、彼は、「主よ。あなたはどなたですか。」と言った。主は答えられた。「わたしは、お前が迫害しているイエスである。
  6. 立ち上がれ。そして町に入れ。そうしたら、お前がしなければならないことが、お前に告げられる。」
  7. 彼の同行者たちは、声は聞こえても、だれも見えないので、唖然として一言も言えず、立ち尽くしていた。
  8. それで、サウロは地面から起こしてもらったが、彼の目は開かれていても、何も見えないままであった。それで、人々は彼の手を引いて、ダマスコに連れて行った。
  9. そして、彼は三日間、目が見えないまま、食べも飲みもしなかった。
  10. さて、ダマスコにはアナニヤという名の弟子がいた。主は彼に幻の中で、「アナニヤよ。」と言われた。それで彼は、「主よ。見てください。私です。」と答えた。
  11. それで、主は彼に言われた。「立って、『真っ直ぐ通り』という名の街路を歩いて、ユダの家にいるサウロというタルソ人を尋ね出せ。見よ。彼は今祈っている。
  12. そして、彼は、幻の中で、アナニヤという男が入って来て、自分の上に手を置くと、自分が再び見えるようになるのを、見たのだ。」
  13. しかし、アナニヤは答えて、「主よ。私はこの男について多くの人から、彼がエルサレムであなたの聖徒たちに対して、どれほどひどい悪事を行ったかを聞きました。
  14. そして、ここでも、あなたの御名を唱える者たちを全て捕縛する権限を、大祭司から与えられて持っています。」と言った。
  15. しかし、主は彼に向かって、言われた。「行け。なぜならば、彼は、わたしの名を異邦の諸民族と王たちと、イスラエルの子孫たちとの前に運ぶ、わたしの選びの器であるからだ。
  16. 確かに、わたしは彼に、彼がわたしの名のために、どれほど苦しまなければならないかを必ず指示する。」
  17. それで、アナニヤは出て行った。そして、その家に入り、彼の上に手を置いて、「兄弟サウロ。あなたがこちらに向かって来る途中、あなたに現れてくださった主イエスが、私をあなたに遣わされたのだ。それは、あなたが再び見えるようになり、聖霊に満たされるためである。」と言った。
  18. すると、直ちにサウロの目から鱗のようなものが落ちた。そして彼は再び見えるようになり、立ち上がってバプテスマを受けた。
  19. そして彼は食事を取り、元気を回復した。それで、彼はダマスコの弟子たちと数日間共にいた。
  20. そして、直ちに、いくつかの会堂の中で、イエスが神の御子であられることを宣べ伝え始めた。
  21. 聞いている人々は全て、非常に驚いていた。そして、「この人は、エルサレムで、この御名を呼ぶ者たちを皆殺しにした者ではないのか。そして、彼がここに来ているのは、彼らを縛って、祭司長たちのところへ引いて行くためではないのか。」と言っていた。
  22. しかし、サウロはますます力を増していた。そして、この人〈イエス〉こそキリストであると論証して、ダマスコに住み着いているユダヤ人たちを狼狽させていた。
  23.  かなりの日数が経た時、そこのユダヤ人たちはサウロを殺すことを決議した。
  24. この企てがサウロに知らされた。彼らはサウロを何とかして殺そうと、昼も夜も町の全ての門を厳重に見張り続けていた。
  25. それで、彼の弟子たちは、夜中に、彼を籠に乗せ城壁沿いに吊り降ろした。
  26.  サウロはエルサレムに着いてから、弟子たちの仲間に加わろうと試みた。しかし、全ての者たちは、彼が弟子であることを信じることができず、彼を恐れていた。
  27. しかし、バルナバが彼の側に立ち、使徒たちのところに連れて行った。そして、サウロがどのようにして旅の途上で主にお会いしたかを、そして主が彼に語られたことを、またどのように彼が大胆にダマスコでイエスの御名によって語ったかを、彼らに説明した。
  28. それで、サウロは、エルサレムを自由に出入りしていた。彼は、彼ら〈弟子たち〉と一緒にいて、主の御名によって大胆に語っていた。
  29. そして、彼はギリシア語を使うユダヤ人たちに語りかけ、また討論していた。しかし、彼らは彼を殺すことを企てていた。
  30. 兄弟たちはそれを知ったので、彼をカイザリアに連れて下り、タルソに送り出した。
  31.  一方、教会は、ユダヤ、ガリラヤ、サマリアの全地に渡って、主への恐れによって築き上げられ、また育て上げられて、平和を保っていた。そして、教会は、聖霊による励ましによって満たされていた。
  32.  他方、ペテロは、全地域を巡回している間のある時、ルダ地方に住んでいる聖徒たちのところへも下って行った。
  33. 彼は、その地で、アイネヤという名のある人に出会った。その人は、身体が麻痺しており、八年間床についたままであった。
  34. それで、ペテロは彼に、「アイネヤ。イエス・キリストがあなたを癒してくださる。立ち上がれ。今すぐ自分で寝椅子の敷物を整えよ。」と言った。すると彼は直ちに立ち上がった。
  35. それで、ルダとサロンに住んでいる人々はみな、(癒された)アイネヤを見た。そして彼らは主に立ち返った。
  36.  ヨッパにタビタという名の、あるいは(ギリシア語に)訳されてドルカスと呼ばれているひとりの女弟子がいた。彼女(のそれまでの生涯)は、彼女が行って来た多くの慈善と施しで満ちていた。
  37. ところが、ちょうどその頃彼女は病気になっていたが、遂に死んでしまった。それで、人々はその遺体を洗って、屋上の間に置いた。
  38. ルダはヨッパに近かった。それで弟子たちは、ペテロがそこにいると聞いたので、二人の使いを彼のところに送って、「今すぐ我々のところに来てください。」と頼ませた。
  39. それでペテロは立ち上がって、彼らと一緒に出発した。彼らは、ペテロが到着した時、すぐに屋上の間に案内した。すると、やもめたちはみな泣きながら、彼のそばに来て、彼女〈ドルカス〉がいっしょにいた時に作った下着や上着の数々を彼に見せた。
  40. それで、ペテロは全ての者を外に出し、ひざまずいて祈った。そしてその遺体のほうを向いて、「タビタ。起きよ。」と言った。すると彼女は目を開いた。そしてペテロを見て起き上がって座った。
  41. そこで、ペテロは彼女に手を貸して立たせた。そして聖徒たちとやもめたちとを呼んで、生きている彼女を見せた。
  42. この出来事がヨッパ中に知れ渡った。そして多くの人々が主を信じた。
  43. それで、ペテロは、ヨッパで何日間も、皮なめし工のシモンという人の家に泊まっていた。

10

  1.  カイザリアにコルネリオという人がいた。その人は、イタリア隊と呼ばれる部隊の百人隊長であった。
  2. 彼は敬虔な人であり、家族全員と共に神を恐れていた。そして、彼は(ユダヤの)民衆に多くの慈善を行いながら、常に神に祈りを捧げていた。
  3. ある日の日中の第九時頃〈午後三時頃〉、彼は幻の中で、明瞭に神の御使いを見た。御使いは彼のところに来て、「コルネリオよ。」と言った。
  4. 彼は、その御使いに注目した。そして恐ろしくなって、「主よ。何のことでしょうか。」と言った。すると御使いが彼に言った。「あなたの祈りと施しは天に上って、神の御前に覚えられている。
  5. それで今、ヨッパに使いを送れ。そして、別名をペテロというシモンを招け。
  6. この人は皮なめし工のシモンという人の家に滞在している。その家は海辺にある。」
  7. 彼にこのように語った御使いが去った時、コルネリオは召使いの中から二人と、側近の部下の中から敬虔な兵士を一人呼び寄せた。
  8. そして、彼らに全てを説明して後、ヨッパへ遣わした。
  9.  その翌日、この人たちは旅を続けて、町の近くまで来ていた。ちょうどその時、およそ第六時頃〈正午頃〉、ペテロは祈りをするために屋上に上った。
  10. その時、彼は空腹になり、食事をしたくなった。彼らが食事の準備をしている間に、彼は夢うつつの状態になった。
  11. すると、天が開かれているのが見えた。そして大きな敷布のような入れ物が、四隅を吊られて地上に降ろされて来た。
  12. その中には、地上のあらゆる種類の四つ足の動物や、はうもの、また、空の鳥などがいた。
  13. そして、「立て。ペテロ。屠って食せ。」という声がペテロにかかった。
  14. しかし、ペテロは言った。「絶対にだめです。主よ。私はまだ一度も、きよくない物や汚れた物を食べたことがありません。」
  15. すると、再び、二度目、声が彼にかかった。「神がきよめた物を、きよくないと言ってはならない。」
  16. このようなことが三回あった。そして、直ちにその入れ物は天に引き上げられた。
  17.  ペテロが、いま見た幻はいったい何を意味しているのか、と思案に暮れていると、ちょうどそのとき、コルネリオから遣わされた人たちが、シモンの家をやっと尋ね当てて、その門口に立った。
  18. そして、声を出して、「ここにペテロと呼ばれるシモンという方が、泊まっておられますか。」と尋ね始めた。
  19. ペテロが幻について再び思案していると、御霊が彼に言われた。「見よ。三人の男があなたを尋ねて来ている。
  20. さあ、立って、下に降りて行け。ためらわずに、彼らと一緒に行け。なぜならば、わたしが彼らを遣わしたのだからだ。」
  21. そこでペテロは、下に降りて行き、その男たちに、「見なさい。私が、あなたがたの尋ねている者です。あなたがたがここに来られたわけは何ですか。」と言った。
  22. すると彼らは言った。「百人隊長コルネリオは、正しい人であり、神を恐れ敬っている人であることは、ユダヤの全国民によって認められています。その人が、聖なる御使いによって、あなたを自分の家にお招きし、あなたからことばを聞くようにと告げられたのです。」
  23. それで、ペテロは、彼らを中に入れて泊まらせた。その次の日、ペテロは、立って彼らと一緒に出発した。ヨッパの兄弟たちも数人が彼に同行した。
  24. その翌日、彼らはカイザリアの町に入った。そしてコルネリオは、親族や親しい友人たちを呼び集め、彼らを待っていた。
  25. ペテロが家の中に入った時、コルネリオは出迎えて、彼の足もとに平伏して深々と頭を下げた。
  26. するとペテロは彼を起こして、「お立ちなさい。私も同じ人間です。」と言った。
  27. それから、コルネリオと言葉を交わしながら(部屋の)中に入った時、すでに大勢が集まっているのを見た。
  28. 彼は彼らに向かって言った。「あなたがたは、ユダヤ人には、異邦人の仲間になったり、その家に入ったりすることが、禁じられていることをよくご存じです。しかし、神は私に、だれかをきよくない人間とか、汚れている人間とか言ってはならないと示されました。
  29. それで、お迎えを受けたとき、言われたとおりに来たのです。そこで、お尋ねします。あなたがたは、いったいどういうわけで私を呼びに来られたのですか。」
  30. するとコルネリオが言った。「四日前のこの時刻まで、私は家の中で第九時〈午後三時〉の祈りを祈っていました。すると、見よ。輝いた衣を着た男の人が私の前に立ちました。
  31. そして彼は、『コルネリオ。あなたの祈りは聞かれた。またあなたの施しは神の御前で覚えられた。
  32. それで、ヨッパに人をやってシモン、別名をペテロという人を招け。この人は海辺にある、皮なめし工シモンの家に滞在している。』と言いました。
  33. それで、私は直ちにあなたのところに使いを送ったのです。よくぞお越しくださいました。それで、私たち全ては、今、主があなたにお命じになっておられること全てを聞くために、神の御前に出ているのです。」
  34.  そこで、ペテロは、口を開いて言った。
  35. 「私は、神が人を差別される御方ではなく、どの民族の中にあっても、神を恐れ敬い、正義を行う者は、神に受け入れられることが、本当に分かりました。
  36. 神は、イエス・キリストを通して平和を宣べ伝えられ、この御方こそ万民の主であられるとのみことばを、イスラエルの子たちに送られました。
  37. あなたがたは、ヨハネが宣べ伝えたバプテスマの後、ガリラヤから始まって、ユダヤ全土に起こった事柄を、知っているはずです。
  38. すなわち、ナザレから出られたイエスのことです。神はこの御方に聖霊と力を注がれました。神がともにおられたので、この御方は、良い業をなしながら、また悪魔に制せられている全ての者を癒しながら巡り歩かれました。
  39. 私たちも、イエスがユダヤ人の地とエルサレムとで行われた全てのことの証人です。実に、この御方を彼らは木にかけて殺したのです。
  40. しかし、神はこのイエスを三日目によみがえらせました。そしてその御方を明瞭に目撃され得るようにしてくださいました。
  41. しかし、それは民衆の全てにではなく、神によって前もって選任されていた証人である私たちに、です。私たちは、イエスが死者たちの中からよみがえられて後、一緒に飲み食いしたのです。
  42. 彼〈神〉は、このイエスこそ、生きている者と死んだ者とのさばき主として神によって任命されている御方であられると人々に宣べ伝え、証言するようにと、私たちに命じられたのです。
  43. 全ての預言者は、この御方を信じる者はだれでも、この御方の御名によって罪の赦しを受けることができると、この御方について証言しています。」
  44.  ペテロがなおもこれらのことばを話している間に、そのみことばを聞いている全ての者の上に、聖霊が下られた。
  45. それで、ペテロと一緒に来た、割礼に属する信者全ては、異邦人にも聖霊の賜物が注がれたことを見て仰天した。
  46. それは、異邦人が異言で語り、神を賛美するのを、彼らが初めて聞いたからである。そこでペテロは言った。
  47. 「いったいだれが水を拒んで、私たちと同じように、聖霊を受けたこれらの人々がバプテスマを受けられないようにすることができようか。」
  48. それで、ペテロは彼らに、イエス・キリストの御名によってバプテスマを受けるように命じた。それから彼らは、ペテロに数日間滞在するように願った。

11

  1.  さて、使徒たちやユダヤにいる兄弟たちは、異邦人たちも神のみことばを受け入れた、ということを聞いた。
  2. しかし、ペテロがエルサレムに上った時、割礼に属する者たちは、
  3. 「あなたは割礼のない人々のところに行って、彼らと一緒に食事をした。」と言って、彼を次々と非難し出した。
  4. それでペテロは改めて、彼らに順序正しく説明し始めた。
  5. 「私はヨッパの町で祈っていた。その時、夢うつつの状態になり、幻を見たのだ。四隅を吊り下げられた大きな敷布のような入れ物が天から降りて来て、私のところにまで来た。
  6. 私はその中に目を注いでしっかりと見極めた。そして、私はその中に地上の四つ足の動物、野獣、はうもの、空の鳥などを見た。
  7. その時、私は、『立て、ペテロ。屠って食せ。』と言う声も聞いた。
  8. しかし、私は、『それは絶対にできません。主よ。私はまだ一度も、きよくない物や汚れた物を口に入れたことがありません。』と言った。
  9. すると、天からの二度目の声が答えて、『神がきよめた物を、きよくないと言ってはならない。』と言われた。
  10. このことが三回あった。そして、全部の物が再び天へ引き上げられた。
  11. すると、見よ。ちょうどそのとき、カイザリアから私のところへ遣わされて来た三人の男が、我々が泊めてもらっていた家の前に立った。
  12. そして御霊は私に、『ためらわずにその人たちと一緒に行け。』と言われた。それで、この六人の兄弟たちも私と共に出発した。そして、我々はその人の家に入った。
  13. 彼は我々に、どのように御使いが彼の家の中に現れ、彼に語ったかを知らせてくれた。すなわちその御使いが彼に『ヨッパに使いを送って、別名をペテロと呼ばれるシモンを招け。
  14. その人がお前とお前の家にいる全ての者を救うことばをお前に話してくれる。』と言ったのだ。
  15. それで、私が語り始めた時、聖霊が、最初に私たちにお下りになったと同じように、彼らの上にもお下りになった。
  16. 私はその時、『ヨハネは水でバプテスマを授けたが、あなたがたは、聖霊によってバプテスマを授けられる。』と言われた主のみことばを思い出した。
  17. それで、我々が主イエス・キリストを信じた時、神が私たちに与えて下さったのと同じ賜物を、彼らにもお授けになった以上、私が何者だというので、神を妨げることができようか。」
  18. 彼らはこれらのことばを聞いて沈黙した。そして神を誉め讃えて、「それでは、神は、いのちに至る悔い改めを異邦人にもお与えになったのだ。」と言った。
  19.  さて、一方、ステパノのことで起きた迫害によって散らされた人々は、フェニキア、キプロス、アンテオケまで進んで行ったが、他方、彼らはユダヤ人以外の者には、だれにも、みことばを語っていなかった。
  20. ところが、その中にキプロス人とクレネ人が幾人かいた。彼らはアンテオケに来てから、ギリシア人に語り始め、主イエスを宣べ伝えていた。
  21. そして、主の御手が彼らとともにあった。それで主に立ち返った者の数は、非常に多かった。
  22. このことについての報告が、エルサレムにある教会の耳に伝えられた。それで、彼らはバルナバをアンテオケに送り出した。
  23. 彼はそこに到着して、神の恵みを見たので、喜んだ。そして、全ての者に、固い決意をもって、常に主に従い続けるようにと励ますことに努めた。
  24. それは、彼が立派な人物であり、聖霊と信仰に満ちていたからである。そして、非常に多くの人々が主(を信じる群れ)に加えられた。
  25. それで、彼はサウロを捜すためにタルソに行った。
  26. そして彼を見つけ出し、アンテオケに連れて来た。そして、彼らは、まる一年の間、教会に厚遇を受けて留められ、大勢の者たちを教えることとなった。アンテオケで初めて、弟子たちがキリスト者と呼ばれるようになった。
  27.  ちょうどその頃、預言者たちがエルサレムからアンテオケに下って来た。
  28. その中の一人でアガボという人が立って、世界中に大飢饉が今にも始まろうとしていると御霊によって預言した。それがクラウデオの時にそのとおりになった。
  29. そこで、弟子たちの中の幾人かは、資力のある者はだれでも、その力に応じてユダヤに住んでいる兄弟たちのための援助を送ることを各自で決めた。
  30. 彼らは、バルナバとサウロの手によって(それを)長老たちに送って、実行した。

12

  1.  このような時期にヘロデ王は、その頃の時流に従って、教会の中のある人々を迫害するために捕らえた。
  2. 彼はヨハネの兄弟ヤコブを剣で殺した。
  3. それがユダヤ人を喜ばせたのを見て、さらにペテロをも捕らえた。それは、種なしパンの祭りの時期であった。
  4. ヘロデはペテロを捕らえて牢に入れ、四組の四人隊の兵士に引き渡して監視させた。彼は、過越の祭りの後に、ペテロを民の前に引き出そうと考えていた。
  5. それで、ペテロが牢に閉じ込められている一方で、ペテロのための祈りが教会によって、神に向けて熱心にささげられていた。
  6.  さて、ヘロデがいよいよ彼を引き出そうとしていたその前日の夜、ペテロは二本の鎖に繋がれたまま、二人の兵士の間で寝ていた。戸口では番兵たちが牢を見張っていた。
  7. その時、見よ。主の御使いが(彼の)そばに立った。すると光が獄舎を照らした。御使いはペテロの脇腹を叩いて起こし、「急いで立ち上がれ。」と言った。すると、鎖が彼の手から落ちた。
  8. そして御使いが彼に、「帯を締め、靴をはけ。」と言った。それで彼はそのとおりにした。また彼に、「あなたの上着を着て、私について来るように。」と言った。
  9. そこで、彼は外に出て、御使いに従って行った。しかし、彼は、この御使いによって行われている事が現実であるとは分からず、幻を見ているのだと思っていた。
  10. それで、彼らは、第一、第二の衛所を通り、町に通じる鉄の門のところまで来た。すると、門がひとりでに開いた。そこで、彼らは外に出て、小通りを一つ進んだ。すると御使いは、たちまち彼から離れた。
  11. そのとき、ペテロは我に返って、「今、確かにわかった。主は御使いを遣わして、ヘロデの手から、また、(ペテロが殺されるだろうという)ユダヤ人たちのあらゆる期待から、私を救い出してくださったのだ。」と言った。
  12. こうとわかったので、ペテロは、大勢の人が集まっている、別名マルコと呼ばれているヨハネの母マリヤの家へ行った。その場所に大勢の者たちが集まり、祈っていた。
  13. 彼が入口の戸を叩いたので、ロダという女中が応対に出て来た。
  14. ところが、彼女は、それがペテロの声だとわかると、喜びのあまり門を開かずに、奥へ駆け込み、ペテロが門の外に立っていることを知らせた。
  15. 彼らは彼女に、「お前は頭がおかしい。」と言った。しかし、彼女は、自分の言うとおりであると強く言い続けた。そこで彼らは、「それは彼の霊だ。」と言っていた。
  16. しかし、ペテロは叩き続けていた。それで彼らが門を開けると、彼〈ペテロ〉が見えた。それで彼らは唖然とした。
  17. しかし、彼は、彼らに静かになるように手振りで示してから、主がどのようにして自分を牢から導き出されたかを彼らに説明した。それから、「このことをヤコブと兄弟たちに知らせるように。」と言って、他の所に向かって出て行った。
  18.  さて、朝になると、ペテロはどうなったのかと、兵士たちの間に少なからぬ騒動が起きた。
  19. それで、ヘロデは彼を捜したが見つけることができなかった。それで、彼は番兵たちを取り調べた。それから彼らを(処刑場へ)引いて行くように命令した。そして、彼は、ユダヤからカイザリアに下って行って、そこに滞在した。
  20.  さて、ヘロデはツロとシドンの人々に対して激しい怒りを抱いていた。そこで彼らは思いを一つにして彼を訪ねて来ていた。そして、王の侍従職に就いているブラストを説き伏せて、和解を求めた。それは、彼らの地方が王の国から食糧を得ていたからである。
  21. 決められていた日に、ヘロデは王服を着けて、王座に着き、彼らに向かって演説を始めた。
  22. そこで民衆は、「これは神の声だ。人間の声ではない。」と叫び続けた。
  23. するとその場で、主の御使いがヘロデを打った。彼が神に栄光を帰さなかったからである。彼は虫に食われて、息が絶えた。
  24.  一方、主のみことばは、ますます広まって行き、ますます盛んになろうとしていた。
  25. バルナバとサウロは、奉仕を全うした後、マルコと呼ばれるヨハネを連れて、エルサレムから帰って来た。

13

  1.  さて、アンテオケには、そこにある教会に、バルナバと、別名ニゲルと呼ばれるシメオン、クレネ人ルキオ、国主ヘロデの乳兄弟マナエン、サウロという預言者や教師たちがいた。
  2. 彼らが主を礼拝し、断食をしている時、聖霊が、「さあ、わたしのために、バルナバとサウロを、わたしがかねてから召しておいた働きへと、今、聖別せよ。」と言われた。
  3. そこで彼らは、断食と祈りをして、ふたりの上に手を置いてから、送り出した。
  4.  それで、ふたりは聖霊に遣わされて、セルキアに下り、そこからキプロスに向かって船出した。
  5. 彼らは、サラミスに着いてから、ユダヤ人の諸会堂で神のことばを宣べ伝え始めた。彼らはヨハネをも助手として連れていた。
  6. 島全体を巡回して、パポスまで来た時、名をバルイエスという魔術師であり偽預言者であるユダヤ人の男に出会った。
  7. この男は地方総督セルギオ・パウロのもとにいた。この総督は賢明な人であって、バルナバとサウロを招いて、神のことばを聞きたいと願った。
  8. ところが、魔術師エルマ(エルマという名を訳すと魔術師)は、総督を信仰の道から引き離そうと、ふたりに反対し続けた。
  9. しかし、サウロ、別名パウロは、聖霊に満たされ、彼をにらみつけた。
  10. 彼は言った。「ああ、あらゆる偽りとごまかしに満ちている者、悪魔の子、全ての正義の敵。お前は、主の正しい道を曲げることを止めないのか。
  11. 見よ。主の御手が今、お前の上にある。お前は盲目になって、しばらくの間、太陽の光を見ることができなくなる。」と言った。するとたちまち、かすみとやみが彼をおおったので、彼は手を引いてくれる人を捜し回った。
  12. 総督はこの出来事を見た時、驚嘆して主の教えを信じた。
  13.  パウロの一行は、パポスからパンフリアのペルガに向けて出帆した。ここでヨハネは一行から離れて、エルサレムに帰った。
  14. しかし、彼らは、ペルガから進んでピシデアのアンテオケに着いた。そして安息日に会堂に入って席に着いた。
  15. 律法と預言者の朗読があって後、会堂の管理者たちが、彼らのところに使いを送って、「兄弟たち。あなたがたのどちらかが、この人たちのための奨励のことばをお持ちでしたなら、どうぞお話しください。」と言ってきた。
  16. そこでパウロが立ち上がり、手で合図をしてから言った。「イスラエルの人たちと神を恐れかしこむ方々。お聞きください。
  17. このイスラエルの民の神は、我々の父祖たちを選び出された。そして、この民を、エジプトの地に滞在中に強大にされ、高く上げられた御腕をもって、彼らをその地から導き出された。
  18. そして約四十年間、荒野で彼らの振る舞いを忍耐された。
  19. それからカナンの地の七つの民族を滅ぼして、その民族の地を相続財産として(彼らに)与えられた。
  20. これは、(入エジプト以来)約四百五十年目のことである。神は、その後、預言者サムエルの時代まで、士師たちを遣わされた。
  21. その後、彼らが王を求めた。それで、神はベニヤミン族出身の、キスの子サウルを四十年間(王として)与えられた。
  22. それから、神は彼を退けて後、ダビデを民のための王として立てられた。神は、このダビデについて証して言われた。『わたしはエッサイの子ダビデを見出した。彼はわたしの心にかなった者であり、わたしの欲することを全て行う。』
  23. 神は、このダビデの子孫から、約束に従って、イスラエルのためにイエスを救い主として起こされた。
  24. この御方が(公の御働きに)入られる前に、ヨハネがイスラエルの全ての民に、悔い改めのバプテスマを前もって宣べ伝えた。
  25. ヨハネは、その行程を終えようとしていた時に、『あなたがたは、私をだれと思うのか。私はその方ではない。見よ。その方は私の後から来られる。私は、その方のくつのひもを解く値打ちもない。』と言った。
  26.  兄弟たち、アブラハムの子孫の方々、ならびにあなたがたの中にいる神を恐れ敬う方々。この救いのことばは、我々に送られたのだ。
  27. しかし、エルサレムに住む人々とその指導者たちは、安息日ごとに読まれる預言者の声をも理解しようとせずに、このイエスを死罪に定めて、(その預言を)成就させた。
  28. そして、死罪に当たる理由を何一つ見出せなかったにもかかわらず、ピラトにイエスを殺すことを強要した。
  29. こうして、彼〈イエス〉について書かれていること全てを成し尽くして後、イエスを十字架から取り降ろし、墓の中に納めた。
  30. しかし、神はこの御方を死者たちの中からよみがえらされた。
  31. イエスは幾日にもわたり、ご自分と一緒にガリラヤからエルサレムに上って来た人たちに現れられた。(今日)、その人たちが民に対する彼〈イエス〉の目撃証人である。
  32. そして我々は、神が父祖たちに対してなされた約束についての良い知らせを、あなたがたに宣べ伝えているのである。
  33. すなわち、神は、詩篇の第二篇に、『あなたは、わたしの子。きょう、わたしがあなたを生んだ。』と書かれてあるとおり、イエスをよみがえらせて、彼らの子孫である我々にその約束を完全に成就されたのだ。
  34. 神は、ご自分がイエスを、決して腐敗に至るべきではない者として、死者たちの中からよみがえらされることについて、次のように語っておられた。『わたしはダビデに対する確かな聖なる(約束の)ものを、あなたがたに与える。』
  35. そのわけで、ほかの所でも、『あなたは、あなたの聖者に腐敗を見させられない。』と語っておられた。
  36. 一方、ダビデは、その生きていた時代において神のみこころに仕えて後、死んで、彼の先祖たちの仲間に加えられた。そして彼(の死体)は腐敗した。
  37. しかし、他方、神はこの御方をよみがえらされた。そして、この御方は腐敗を見ることがなかった。
  38. ですから、あなたがた兄弟たちよ。知っていただきたい。この御方による罪の赦しが、しかもモーセの律法によっては義とされ得なかったあらゆる罪の赦しが、あなたがたに宣言されているのである。
  39. この御方によって、信じる者は全て、義とされるのである。
  40. だから、預言者の書に言われているような事が、あなたがたの上に起こらないように注意せよ。
  41. 『見よ。嘲る者たちよ。驚け。そして滅びよ。わたしはお前たちの時代に一つの業を行う。それは、お前たちに、どんなに説明しても、決して信じられないほどの業である。』」
  42.  ふたりが会堂を出ようとした時、人々は、次の安息日にも同じことを話してくれるように(彼らに)頼んだ。
  43. 集会が解散してからも、多くのユダヤ人と神を敬う改宗者たちが、パウロとバルナバについて来た。それで、ふたりは彼らに話し続け、彼らに神の恵みにとどまり続けるようにと説得しようとした。
  44. 次の安息日には、ほとんど町中の人が、神のことばを聞きに集まって来た。
  45. しかし、この群衆を見たユダヤ人たちは、妬みに燃え、パウロによって語られていることばに対して、不敬虔な言葉を語って、反論し始めた。
  46. そこでパウロとバルナバは、大胆明瞭に宣言した。「神のことばは、初めにあなたがたに語られなければならなかったのだ。しかし、あなたがたはそれを拒絶した。それによって、あなたがたは自分自身を永遠のいのちにふさわしくない者と決めたのだ。見よ。我々は、異邦人の方に向きを変える。
  47. なぜなら、主は私たちに、このように命じておられるからである。『わたしはお前を立てて、異邦人の光とした。お前が地の果てにまで、救いをもたらす者となるためである。』」
  48. それで、それを聞いた異邦人たちは喜び、主のみことばを賛美していた。そして、永遠のいのちに与るようにと定められていた人たちは、みな信じた。
  49. それで、主のみことばは、この地方全体にますます広まっていった。
  50. しかし、ユダヤ人たちは、神を敬う貴婦人たちや町の有力者たちを扇動して、パウロとバルナバに対して迫害を起こさせ、ふたりをその地方から追い出した。
  51. ふたりは、彼らに対して足のちりを払い落としてから、イコニオムに向かって行った。
  52. 一方、弟子たちは喜びと聖霊に満たされていた。

14

  1.  イコニオムにおいても彼らは連れだって、ユダヤ人の会堂に入り、同じように語った。そのために非常に大勢のユダヤ人とギリシア人が信じた。
  2. それで、信じなかったユダヤ人たちは、異邦人の心をそそのかし、兄弟たちに対して悪意を抱かせた。
  3. しかし一方、彼ら〈バルナバとパウロ〉は、かなりの期間(そこに)滞在して、主について大胆に証し続けた。主は、彼らの手を通してしるしと不思議な業を行い、主の恵みのみことばの真実さを立証された。
  4. それで、多くの市民の中に分裂が生じ、ある者たちはユダヤ人の側に付き、他の者たちは使徒たちの側に付いた。
  5. それで、その異邦人たちとユダヤ人たちとの中から、彼らの指導者たちと一緒になって、使徒たちに暴行を加え、石で打ち殺したいという衝動が生じた。
  6. それに気付いた使徒たちは、ルカオニアの他の町々、すなわちルステラ、デルベ、またその周辺の町々に逃れ、
  7. その地方で福音を宣べ伝え続けた。
  8.  そして、ルステラに、両足の(悪い)ことで、座ったままの男がいた。その人は生まれた時からの足なえで、一度も歩いたことがなかった。
  9. この人は、パウロが語ることばを聞いた。パウロは彼に目を注ぎ、彼に癒されるほどの信仰があることを知り、
  10. 大声で、「あなたの足で真っ直ぐに立て。」と言った。すると彼は、躍り上がった。そして歩き出した。
  11. パウロがしたことを見た群衆は、彼らの声を張り上げ、ルカオニア語で、「神々が人間と同じ姿になって、我々の所に下って来たのだ。」と言った。
  12. そして、彼らは、バルナバをゼウスと呼び、またパウロを、彼がおもな話し手であったので、ヘルメスと呼んでいた。
  13. そして、町の前にあるゼウス(の宮)の祭司は、(宮の)門に向かって何頭かの牡牛と花輪を群衆と共に持って来て、いけにえをささげようとした。
  14. それを聞いた使徒たち、バルナバとパウロは、自分の衣を引き裂き、群衆に向かって叫びながら駆け出した。
  15. そして彼らは言った。「皆の者よ。なぜあなたがたはこのようなことをするのか。我々も、あなたがたと同じ情を持っている人間なのだ。我々は、あなたがたに、このような虚しいことから離れ、天と地と海とその中にある全ての物を創造された生ける神に立ち返るようにと福音をあなたがたに宣べ伝えているのだ。
  16. 神は、過ぎ去った時代においては、全ての異邦人にそれぞれの道に従って歩くことを見逃しておられた。
  17. と言っても、神は、ご自身が善を行われる方であられることを常に証して来られたのである。そのために神は、あなたがたのために天から雨を降らせ、また収穫の時には実りを与え、あなたがたの心を食物と喜びをもって満たしてくださったのである。」
  18. 彼らは、これらのことを語って、辛うじて群衆に彼らにいけにえをささげることを思い止まらせることができた。
  19.  ところが、あるユダヤ人たちがアンテオケとイコニオムからやって来た。そして、彼らは群衆を説得して、パウロを石打ちにし、彼が死んでしまったと思って、町の外に引きずって行った。
  20. しかし、弟子たちが彼を囲んでいると、彼は立ち上がり、町の中に入った。そして、その翌日、バルナバと共にデルベに向かって出て行った。
  21.  彼らは、その町に福音を宣べ伝え、多くの者を弟子にして後、ルステラとイコニオムとアンテオケに帰った。
  22. そして、彼らは弟子たちの心の決意を一層強固にし、信仰に踏み留まるように励ました。また、私たちが神の御国に入るまでには多くの困難を経なければならないと教えた。
  23. また、信者たちのために教会ごとに長老たちを任命した。そして、彼らは断食とともに祈って後、長老たちを、彼らが信頼している主に委ねた。
  24. そして後、彼らは、ピシデアを通ってパンフリアに来た。
  25. そして、彼らはペルガの人々にもみことばを宣べ伝えてから、アタリヤに下って来た。
  26. 彼らに委ねられた働きを全て成し遂げた彼らは、その所から、その働きのためにかつて彼らを神の恵みに委ねて送り出したアンテオケに向けて船出した。
  27. 彼らはそこに到着してから、教会を集め、神が彼らと共に成し遂げてくださった全てのことを、また神が異邦人に信仰の門を開いてくださったことを詳しく報告した。
  28. そして彼らは、弟子たちとかなりの時を過ごした。

15

  1.  その時、ある者たちがユダヤから下って来て、兄弟たちに、モーセのしきたりどおり割礼を受けなければ救われないと教え始めた。
  2. そのために、パウロとバルナバは、その者たちに対して激しい論争と議論を仕掛けた。それで、彼ら〈教会〉は、パウロとバルナバと、彼らの中の数名の者たちとを彼らと共に、この問題(の解決)のために、エルサレムにいる使徒たちや長老たちのところに送ることを決めた。
  3. それで、一方、彼らは、教会によって送り出されて後、異邦人が回心したことを詳しく報告しながらフェニキアとサマリアを旅し続け、全ての兄弟たちに大きな喜びを起こしていた。
  4. 彼らは、エルサレムに到着したとき、教会と使徒たちと長老たちによって歓迎された。そして、彼らは、神が彼らと共に成し遂げてくださった全てのことを報告した。
  5. しかし、パリサイ派の中の、ある分派から信者になった者たちの中から数名が立ち上がって、「彼ら〔信じた異邦人たち〕に割礼をしなければならない。また彼らにモーセの律法を守るように命じなければならない。」と言った。
  6.  そこで、この問題を検討するために、使徒たちと長老たちが集められた。
  7. 長時間の討論の後、ペテロが立ち上がって、彼らに向かって言った。「兄弟たちよ。神が、初めの日以来、あなたがたの中では、私の口を通して、異邦人が福音のことばを聞いて信じるように定められたことは、あなたがたが承知していることである。
  8. そして、人の心を知っておられる神は、我々に聖霊を与えてくださったように彼らにも聖霊を与えてくださることを証された。
  9. そして、神は、我々と彼らとの間に何一つ差別を付けず、彼らの心を信仰によってきよめてくださった。
  10. そうであるのに、なぜあなたがたは、我々の先祖も我々も負いきれなかったくびきを、あの弟子たちの首に掛けて神を試みるのか。
  11. 我々も、彼らと同じように、主イエスの恵みによって救われたと信じている。」
  12.  すると、会衆全員が沈黙し、バルナバとパウロが、神が異邦人たちの中で彼らを通してなしてくださったしるしと不思議な業の全てについて詳しく述べるのを聞き始めた。
  13. ふたりが語り終わった時、ヤコブが答えて言った。「兄弟たちよ。私のことばを聞いていただきたい。
  14. シメオンは、どのように神が初めにご自身の御名のために、諸民族の中から一つの民を選び出そうと思し召されたかを詳しく説明した。
  15. このことと預言者たちのことばとは一致している。それでこのように書かれている。
  16. 『これらのことの後、わたしは帰って来る。そして倒れてしまっているダビデの幕屋を再建する。そして、掘り起こされ、覆されてしまっているその土台から建て直し、もう一度建てる。
  17. それは人々の中から残された者たちが、すなわちわたしの名によって呼ばれている全ての異邦人が主を求めるためである、と、
  18. 永遠の昔から全てを知っておられ、これらのことをなされる主が言われる。』
  19. このことのゆえに、私は、異邦人の中から神に立ち返った者たちを煩わすべきでないと、
  20. ただし、偶像の汚れと、性的不道徳と、絞め殺した動物と、血とを避けるべきであると手紙に書いて通達すべきであると判断する。
  21. なぜならば、モーセ(の律法)には、昔から町ごとにそれを宣べ伝える者がおり、また安息日ごとに会堂で読まれているからである。」
  22.  そこにいた使徒たちと長老たちとは、全教会とともに、彼らの中から、兄弟たちの中の指導的人物である、バルサバと呼ばれるユダとシラスとを選び出し、パウロとバルナバとともにアンテオケに送るのが良いと考えた。
  23. 彼らは、この人たちの手によって手紙を書き送った。「兄弟である使徒および長老たちから、アンテオケ、シリア、キリキアの異邦人の中から救い出された兄弟たちに挨拶を送る。
  24. 我々の仲間のある者たちが出て行き、我々が指示したのでもない言葉をもってあなたがたの心を動揺させ、あなたがたをかき乱したと我々は聞いた。
  25.  それゆえに、我々は一致して、ある者たちを選出して、我々の愛するバルナバとパウロ──この人たちは我々の主イエス・キリストの御名のために、自分のいのちを投げ出してしまっているのである。──とともにあなたがたのところに送るのが良いと考えた。
  26. それで、我々はユダとシラスを送るのである。彼らは、彼らの口で同じ事を告げ知らせる。
  27. 聖霊と我々は、次のやむを得ない事柄を除いて、あなたがたに重荷を何一つ負わせないことが正しいと考える。
  28. 偶像の汚れと、血と、絞め殺した動物と、性的不道徳とを避けるべきこと。あなたがたがこれらのことから自分自身を遠ざけているなら、立派である。しっかりやるように。」
  29.  それで、一方、送り出された者たちは、アンテオケに下って行った。そして、会衆を集めて手紙を手渡した。
  30. それで、人々はそれを読んで、励ましを得て喜んだ。
  31. ユダとシラスは、両者とも預言者であったので、多くのことばによって兄弟たちを励まし、また力づけた。
  32. 彼らはしばらくの時を過ごして後、兄弟たちによって、彼らをかつて送り出した者たちのところに向けて、無事送り出された。
  33. (なし)
  34. しかし、パウロとバルナバはアンテオケに滞在し続け、他の多くの人々に対して主のみことばを教え、また福音を宣べ伝え続けた。
  35.  ある日数が経って後、パウロはバルナバに、「主のみことばを以前、宣べ伝えた全ての町に戻って行って、あの兄弟たちがどのようにしているかを見に訪ねようではないか。」と言った。
  36. それで、バルナバはマルコと呼ばれるヨハネも一緒に連れて行くことをしきりに願った。
  37. しかし、パウロは、パンフリアで彼らから離れ去って、(主の)働きに彼らと同行しなかった者を連れて行くことは良くないと考えていた。
  38. それで激論が起きた。そのために、ふたりは互いに別れ、バルナバはマルコを連れてキプロス島に船で渡ることになった。
  39. それで、パウロはシラスを選び、兄弟たちによって主の恵みに委ねられて出発した。
  40. そして彼らは(町々の)教会を力づけながら、シリアとキリキアの地方を通って旅をしていた。

16

  1.  それで、彼らはデルベとルステラに到着した。そして、そこにはテモテという名の一人の弟子がいた。彼の母はユダヤ人信者で、父はギリシア人であった。
  2. 彼はルステラとイコニオムの兄弟たちによって高く評価されていた。
  3. パウロはこの人を連れて行くことを強く願った。それで彼を(弟子に)取り上げ、その地方にいるユダヤ人のゆえに、彼に割礼を施した。なぜならば、そこのユダヤ人たちは全て、彼の父親がギリシア人であることを知っていたからであった。
  4. さて、彼らは町々を通過しながら、(そこの教会の)信者たちに、エルサレムにいる使徒たちと長老たちによってすでに決定されている規定を実行するようにと、彼らに勧めを与えながら旅を続けていった。
  5. それで諸教会は、信仰がますます確立させられ、日々、人数も増し加えられていた。
  6.  さて、彼らはフルギアとガラテヤ地方を通って旅を進めたが、アジアではみことばを語ることを聖霊によって禁じられた。
  7. それで、彼らはムシアの近くに来たので、ビテニア地方に入ろうとした。しかし、イエスの御霊が彼らにそれを許されなかった。
  8. それで、彼らはムシアを通過してトロアスに下って来た。
  9. ある夜のうちにパウロに幻が現れた。一人のマケドニア人が立っていた。そして、「マケドニアに渡って来て、我々を助けてください。」と言って懇願し続けた。
  10. 彼がこの幻を見た時、神が、マケドニア人たちに福音を宣べ伝えるように私たちを以前から召しておられたと確信して、直ちにマケドニアに行こうと努めた。
  11. それで、私たちはトロアスから出帆し、サモトラケに直航し、その翌日、ネアポリスに着いた。
  12. そこからピリピへ行った。その町はマケドニア州のこの地区第一の町であり、植民都市であった。それで、私たちはこの町に幾日か滞在していた。
  13. 私たちは、ある安息日に町の門の外の、私たちが、かねてから祈り場があると思っていた川辺に出て行った。そして、私たちは、そこに座って、そこに集まって来た婦人たちに話し始めた。
  14. するとあるルデヤという婦人が聞き入っていた。彼女はテアテラ市の紫布の商人で、神を敬う人であった。主は彼女の心を開いて、パウロによって語られていることばに熱中させられた。
  15. 彼女と彼女の家族がバプテスマを受けた時、彼女は、「あなたがたが、もし私を主に忠実な者と判断しておられるならば、私の家に入り、泊まってください。」と言って、私たちに強く迫った。
  16.  私たちが祈り場に行く途中に、占いの霊に憑かれた一人の若い女奴隷に出会った。彼女は占いをして自分の所有者たちに大きな儲けを与えていた。
  17. 彼女は、パウロと私たちの後に付いて来ては、「この人たちはいと高き神のしもべたちで、あなたがたに救いの道を宣べ伝えています。」と叫び続けていた。
  18. このことを彼女は何日間も続けた。それでパウロは憤慨して振り返り、その霊に向かって、「イエス・キリストの御名によって命じる。その女から出て行け。」と言った。すると同時にその霊は出て行った。
  19. 彼女の所有者たちは、彼らの儲けの望みが失われたことを知って、パウロとシラスを捉まえて、広場にいる役人たちのところに引いて行った。
  20. そして、彼らを長官たちの前に連れて来て言った。「この男たちはユダヤ人であって、我々の町をかき乱しています。
  21. ローマ人である我々が受け入れてはならないしきたりを宣伝しています。」
  22. そして群衆もこのふたりに対する告訴に同調した。それで長官たちも、彼らの上着を剥いで鞭で打つことを命じようとしていた。
  23. 彼らは、ふたりに何度も鞭打ちを加えてから、看守に、ふたりを牢に入れ、厳重に監視するようにと命令した。
  24. 看守はこの命令を受けて、彼らを奥の牢に入れ、彼らの足を足かせに固定した。
  25.  真夜中頃、パウロとシラスは神に祈りながら賛美を歌っていた。一方、囚人たちは彼らの賛美に聞き入っていた。
  26. ところが突然、大地震が起きた。それで、獄舎の土台が揺り動かされた。そして全ての扉が開き、全ての者の鎖が解けてしまった。
  27. 看守は目を覚まして、牢の扉が開いてしまっていることが分かった。囚人たちが逃げてしまっていると思い、剣を抜いて自殺しようとしていた。
  28. それでパウロは大声を上げ、「自害するな。私たちは皆ここにいる。」と言った。
  29. 看守は灯りを求めてから、走って、入って来て、震えながらパウロとシラスの前に倒れ伏した。
  30. それから彼は彼らを外に連れ出して、「先生方。〈決定的に〉救われるために私は何をなし続けるべきでしょうか。」
  31. 彼らは、「主イエスを信じよ。そうすれば、あなたもあなたの家族も救われる。」と言った。
  32. そして、彼らは彼と彼の家の者全員に主のことばを語った。
  33. そして、彼は、その夜のその時間に、このふたりを(井戸に)連れて行き、鞭打ちの傷から(汚れを)洗い流した。そして、彼と彼の家族全員が直ちにバプテスマを受けた。
  34. 彼は彼らを自分の家に連れ上り、食卓を備えた。そして彼は全家族そろって神を信じたことを大いに喜んだ。
  35.  朝になって長官たちは警吏たちを送って、「あの人たちを釈放せよ。」と言ってよこした。
  36. それで、看守はそのことばをパウロに伝え、「長官たちは、あなたがたを釈放するようにと使いを送って来ました。それで、どうぞここを出て、安心してお出かけください。」と言った。
  37. しかしパウロは、警吏たちに、「ローマ人である我々を、有罪の判決も受けていないのに、公衆の面前で鞭打ちにし、牢に入れたのだ。そして今、密かに我々を去らせようとするのか。断じて許されない。彼ら自らここに来て、我々を外に連れ出させよ。」と言った。
  38. 警吏たちはこのことばを長官たちに報告した。ふたりがローマ人であると聞いて、長官たちは恐れた。
  39. それで、彼らは来て、ふたりに(赦しを)願った。そしてふたりを外に連れ出し、町から立ち去るように求めた。
  40. ふたりは牢から出て後、ルデヤの家に入り、兄弟たちに会って、励ました。そして出て行った。

17

  1.  彼らはアムピポリスとアポロニアを通過して、テサロニケの町に入った。そこにはユダヤ人の会堂があった。
  2. パウロは、いつものとおり人々に会うために会堂に入った。そして三つの安息日に渡って聖書から彼らに説いた。
  3. 彼は、キリストが苦しみを受けなければならないこと、また死人たちの中からよみがえらなければならないことを、そして、「私があなたがたに伝えているイエスこそ、そのキリストである。」と説明し、明瞭に示した。
  4. そして、彼らの中の数名の者たちは納得し、進んでパウロとシラスの弟子になって従った。また、ギリシア人で神を敬う婦人たちの中から、また有力者たちの中からも非常に多くの者たちが信仰に入った。
  5. それでユダヤ人たちは妬みに燃えた。それで彼らは、広場でぶらついている悪者たちを自分たちの側に引き入れ、暴徒を集めて町に大騒ぎを起こし始めた。そして、ヤソンの家を襲い、彼ら〈パウロとシラス〉を捜し出して公衆の前に引き出そうとした。
  6. しかしふたりが見付からないので、ヤソンと数名の兄弟たちを執政委員たちのところに引いて行き、大声で、「世界中に騒動を起こした者たちが、ここにも来ている。
  7. そいつらをヤソンが家に迎え入れている。彼らは、イエスというもうひとりの王がいると言って、カイザルの詔勅に背くことを行っている。」と言った。
  8. そのことばは、それを聞いた群衆と市の役人たちを動揺させた。
  9. それで彼らは、ヤソンとその他の者たちを、保証金を取ってから釈放した。
  10.  そのために兄弟たちは、直ちに、その夜の内にパウロとシラスをベレアに送り出した。彼らはそこに着くとすぐに、ユダヤ人の会堂に行き始めた。
  11. ここのユダヤ人たちは、テサロニケのユダヤ人たちよりも偏見のない人たちであった。彼らは非常な熱意をもってみことばを受け入れた。そして、聞かされたことが本当かどうか(を確かめるために)毎日聖書を調べていた。
  12. それで、彼らの中から大勢の者が信じた。また、ギリシア人の立派な家柄出身の婦人や男の中からも、少なからぬ者たちが信じた。
  13. しかし、テサロニケのユダヤ人の中のある者たちが、ベレアにおいてもパウロによってみことばが宣べ伝えられたことを知って、そこにやって来て、人々をかき乱し、不安を与えた。
  14. そこで、兄弟たちは、直ちにパウロを、海辺にまで行くようにと送り出した。一方、シラスとテモテはそこに留まった。
  15. そして、兄弟たちは、パウロを案内して、アテネにまで行った。そして、彼らは、シラスとテモテへの、できるだけ早くパウロのところに来るようにという命令を預かったので、(ようやく)帰途についた。
  16.  さてパウロが、アテネで彼らを待っている間、町が偶像でいっぱいになっているのを見たので、彼の霊は彼の心の中で怒りに燃えた。
  17. それで、彼は(ユダヤ教の)会堂でユダヤ人や神を敬う人々〈ギリシア人〉に語ったり、また広場では毎日、出会う人々と論じ合っていた。
  18. それで、エピクロス派とストア派の哲学者の幾人かが一緒になってパウロに対して議論を戦わせていた。そしてある者たちは、「有識者ぶってしゃべりまくるこの男は、いったい何を言わんとしているのか。〈彼が言っていることは全く分からない。〉」と言い、ある者は、「彼は聞き慣れぬ神々の宣伝者のように見える。」と言っていた。それは、パウロがイエスと復活とを宣べ伝えていたからである。
  19. そこで彼らは彼を捉まえて、アレオパゴスの上に連れて行った。そして、「あなたによって語られている新しい教えがどんなものであるのかを、我々は知ることができるか。
  20. あなたは我々の耳に何か不思議なことを聞かせているので、それらが何のことなのか我々は知りたいのだ。」と彼らはパウロに言った。
  21. 全てのアテネ人も、また滞在中の外国人も、何か耳新しいことを話したり、聞いたりするためだけに時間を費やしていた。
  22.  そこでパウロは、アレオパゴスの真ん中に立って言った。「アテネの人々。私には、あなたがたがあらゆる点で、非常に宗教心に篤い方々であると見える。
  23. なぜならば、私が歩きながら、あなたがたの拝むものを注意深く観察していると、『知られていない神に』と刻銘された祭壇も見つけたからである。それで、私は、あなたがたが知らずに拝んでいるものを、あなたがたに伝えようとしているのだ。
  24. 世界とその中にある万物を造られた神は、天と地の主であられるので、人間が手で造った宮には住まわれない。
  25. また、神は、全ての者にいのちと息と万物を与えられた方であるので、何かに不足しているかのように人間の手によって養ってもらうこともない。
  26. 神は一人の人から人類の全ての民族を造られ、地の全面に住み着かせ、それぞれの民族のために、あらかじめ決めておかれた時代と定住地の境界とを定められたのである。
  27. それは、彼らが、もし手探りしてでも本気で神を見つけようと捜すならば、(神を)見出すこともあり得るので、神を求めさせるためである。確かに神は私たち一人ひとりから遠く離れてはおられない。
  28.  なぜならば、私たちは神の中に生き、動き、また存在しているからである。だから、あなたがたの間の詩人のある者たちも、『私たちは神に所属する部族である。』と言っているのだ。
  29. そのように私たちは神に所属する部族であるのだから、神を、金や銀や石で人間の技巧や考案によって作った像と同じものと考えるべきではない。
  30. それで、一方、神は無知の時代を見過ごされたが、今や、全てのところの、全ての人間に悔い改めるように命じておられる。
  31. なぜならば、神は、そのために任命しておられるひとりの人によって、義によってこの世界をさばくための日を決めておられるからである。神は、そのための確かな証拠を全ての者に与えるために、その方を死者たちの中からよみがえらされたのである。」
  32.  しかし、死者たちの中からの(イエスの)復活を聞いて、ある者たちは嘲笑した。また他の者たちは、「このことについて、あなたからまた聞かせていただこう。」と言った。
  33. このように語って後、パウロは彼らの真ん中から出て行った。
  34. しかし、ある者たちは彼に付き従い、信仰に入った。その中には、アレオパゴスの裁判官デオヌシオと、ダマリスという名の婦人と、彼らと共にいる他の人々がいた。

18

  1.  これらのことの後、彼〈パウロ〉はアテネを離れて、コリントに来た。
  2. そして、彼〈パウロ〉は、アクラという名の、ポント州生まれのユダヤ人と彼の妻プリスキラに出会った。彼らは、全てのユダヤ人はローマから退去せよという皇帝クラウデオの命令により、その少し前、イタリアから来ていたのである。彼〈パウロ〉は彼らのところに来た。
  3. 彼は同業の者であるので、彼らと同居して仕事を続けた。彼らの職業は天幕作りであった。
  4. それで、パウロは安息日ごとに会堂で、ユダヤ人たちとギリシア人たちを説得し続けていた。
  5.  シラスとテモテがマケドニアから下って来たので、パウロはみことばを宣べ伝えることに専念し始めた。そしてユダヤ人たちにイエスこそキリストであられると力を込めて証し続けた。
  6. しかし、彼らが反抗的になり、ののしりの言葉を吐くので、パウロは上着を振り払い、彼らに向かって、「お前たちの血は、お前たちの頭上にかかれ。私はお前たちの罪には関わりがない。今から私は異邦人たちに向かう。」と言った。
  7. そして、その場を離れ、神を恐れ敬うテテオ・ユストという人の家に入った。その人の家は、会堂に隣接していた。
  8. 会堂管理者クリスポは、彼の家族全員で主を信じた。そして、コリント人の中から多くの者が聞いて、次々と信じ、続々とバプテスマを受けていた。
  9. 主は、ある夜、(夢の中の)幻によってパウロに、「恐れているな。語り続けよ。語るのを止めてはならない。
  10. わたしがお前と共にいるからだ。だれ一人、決してお前を襲い、傷付けることはない。この町にはわたしの民が大勢いるからだ。」と言われた。
  11. それで、パウロは、一年と六ヶ月間、彼らの間に腰を据えて、神のみことばを教え続けた。
  12.  しかし、ガリオがアカヤの地方総督になった時、ユダヤ人たちは一致してパウロに反抗して立ち上がった。そして彼らはパウロを法廷に引いて行った。
  13. そして、「この男は法に反する神を拝むように人々を説き伏せている。」と言った。
  14. しかし、パウロが口を開こうとした時、ガリオはユダヤ人に向かって言った。「ユダヤ人の方々。何かの不法行為や悪質な犯罪行為のことであるならば、あなたがたの訴えを当然受理しよう。
  15. しかし、それがあなたがたの間の言葉や名称や律法に関する問題であるならば、自分たちで解決すべきである。私はそのような問題の裁判官になりたくない。」
  16. そして彼は彼らを法廷から追い出した。
  17. それで、彼ら全員は会堂管理者ソステネを捕らえ、法廷の前で打ち叩き始めた。しかし、ガリオは、これらのことには全く気を留めなかった。
  18.  しかし、パウロは引き続きかなりの日数滞在して後、兄弟たちに別れを告げて、船でシリアに向けて出発した。プリスキラとアクラもパウロに同行していた。パウロは一つの祈願を持っていたので、ケンクレアで頭髪を切った。
  19. 彼らがエペソに到着した時、パウロは、ふたり(テモテとシラス)を(船に)残し、一人で会堂に入り、ユダヤ人たちに語った。
  20. それで、彼らは彼にもっと長く留まるように頼んだが、彼は了承しなかった。
  21. しかし、彼は、彼らに別れを告げてから、「神のお許しがあれば、再び、あなたがたのところに戻って来る。」と言って、エペソから船出した。
  22. そして、カイザリアで下船し、(エルサレムに)上り、教会に挨拶して後、アンテオケに下って行った。
  23. そして、パウロはしばらくの時を過ごして後、出発した。そして、全ての弟子たちの信仰を堅くしながら、ガラテヤ州とフルギア州を順番に歩いた。
  24.  さて、アレキサンドリア生まれのユダヤ人で、名をアポロという雄弁な男がエペソに来た。彼は聖書を良く知っていた。
  25. この人は、主の道を口頭で教えられていて、霊に燃え、イエスについて正確に教えていたが、ただヨハネのバプテスマだけを理解しているだけであった。
  26. この人が、会堂で大胆に話し始めた。他方、それを聞いたプリスキラとアクラは彼を招き入れて、彼に神の道を一層正確に説明した。
  27. それで、彼がアカヤへ渡りたいと思っていたので、兄弟たちは彼を励まし、彼を受け入れるようにと手紙を弟子たちに宛てて書いた。彼はそこに着くと、すでに以前から恵みによって信仰に入っていた人たちを大いに助けた。
  28. それは、彼が強い語調で、イエスがキリストであられることを聖書によって論証し、公にユダヤ人たちを徹底的に論破したからであった。

19

  1.  アポロがコリントにいる間に、パウロは山地を通ってエペソに来た。そして幾人かの弟子たちに出会った。
  2. 彼は彼らに「あなたがたは信じたとき聖霊を受けたか。」と尋ねた。しかし、彼らは「いいえ。聖霊がおられることさえ、聞いたことがない。」と答えた。
  3. それで、彼が、「それでは、何にバプテスマされたのか。」と言うと、彼らは、「ヨハネのバプテスマに。」と答えた。
  4. それで、パウロは言った。「ヨハネは、彼の後から来られる御方を信じるように、すなわちイエスを信じるようにと人々に告げて、悔い改めのバプテスマをバプテスマしたのだ。」
  5. それで、彼らは彼の言葉を聞き入れて、主イエスの御名にバプテスマされた。
  6. そして、パウロが手を彼らの上に置いた時、聖霊が彼らの上に臨まれた。そして彼らは異言で語り始め、また預言を語り始めた。
  7. その人々は全部で約十二名であった。
  8.  さて、パウロは会堂に入り、三ヶ月間、神の御国について論じ合い、説得し、公然と語り続けた。
  9. しかし、ある者たちが、心を頑なにし始め、信じようとせず、会衆の前で、この道について悪口を言い出したので、パウロは彼らから離れ、弟子たちをも引き離した。そして毎日、ツラノの講堂で論じ合っていた。
  10. このことが二年間に及んだ。それでアジアに住んでいる者たちは、ユダヤ人もギリシア人も全て、主のことばを聞いた。
  11.  そして、神はパウロの手を通して力ある、しかも異常な業を行われた。
  12. 遂に、パウロの手ぬぐいや頭巾が彼の肌から奪い取られて病人の上に置かれると、その病気がその人から去らせられ、悪霊も出て行かされるほどになった。
  13. また、ユダヤ人で、そこら中を歩き回っている悪霊払いのある者たちが、悪霊に憑かれている者たちに向かって、「パウロが宣べ伝えているイエスにおいてお前たちに命じる。」と言って、主イエスの名を試しに使って見た。
  14. それをやったのは、ユダヤの祭司長スケワという男の七人の息子たちであった。
  15. すると、悪霊が彼らに答えて、「俺はイエスを知っているし、パウロも承知している。だがお前たちは何者だ。」と言った。
  16. そして悪霊の憑いている男は、彼らに飛びかかり、全部の者を押さえ付け、彼らを打ち負かしてしまった。それで彼らは裸にされ、傷を負わされて、その家から逃げ出した。
  17. それで、このことがエペソに住んでいる全てのユダヤ人とギリシア人に知れ渡った。それで、全ての者が恐怖に襲われた。そして、主の御名はますます高くあがめられていった。
  18. それで、しっかりと信じている者たちのうちの多くが、自分たちの(それまでの)してきたことを次々に告白し、また公に言い表していた。
  19. また魔術を行っていた者たちの多くの者が、その書物を一所に運んで来て、次々と皆の前で焼いた。彼らは、それらの価格を総計した。するとそれは銀貨五万枚になることが分かった。
  20. このように主のみことばは、威力をもって、ますます広がり、普及していった。
  21.  これらのことが満了された時、パウロは、マケドニアとアカヤとを通ってエルサレムに行くことを御霊によって決心した。そして、「エルサレムに行ってから、私はローマにも行かなければならない。」と言った。
  22. それで、パウロは自分の協力者の中から、テモテとエラストのふたりをマケドニアに遣わした。しかし、彼はしばらくの間、なおアジアに滞在した。
  23.  ちょうどその時、この道の事に関して、大きな騒動が起きた。
  24. 名をデメテリオという、銀でアルテミスの神殿(の模型)を作っている銀細工人が、職人たちに少なからぬ儲けを与えていた。
  25. その彼が、職人たちとその仕事に関わっている者たちを集めて言った。「諸君。この仕事の儲けから豊かさが我々に与えられていることを諸君は知っている。
  26. ところが、皆の者よ。見て、聞いてくれ。あのパウロが、エペソのみならず、ほとんど全アジアの大勢の民衆を、『人間の手で作った物などは神ではない。』と言って説き伏せ、邪道に引き入れてしまっている。
  27. それで、我々にとって(大切な)この職業部門が否定される危険があるだけでなく、大女神アルテミスの宮も全く顧みられなくなる危険がある。全アジアと全世界が崇拝しているこの女神のご威光も失墜させられそうになっているのだ。」
  28.  彼らはこの言葉を聞いて、激しい怒りに満たされ、「エペソのアルテミスは偉大だ。」と叫び始めた。
  29. それで町が混乱で満たされた。彼らは、パウロの旅の同行者であるマケドニア人ガイオとアリスタルコとを捕らえ、一団となって劇場になだれ込んだ。
  30. パウロがその民衆の中に入ろうとしたが、弟子たちが彼を引き止めた。
  31. パウロの友人で、アジア州の高官のある人たちも、パウロに使いを送って、劇場の中に入らないようにしきりに頼んだ。
  32. 一方、その集会は混乱状態に陥ってしまっていたので、色々の者たちが別々のことを叫んでいた。そして、皆は何のために集められたのかも知らずにいた。
  33. ユダヤ人たちがアレキサンデルを前に押し出したので、彼らは群衆の中から彼に指図した。それで、アレキサンデルは手を振ってから群衆に言い訳を始めた。
  34. しかし、彼らは、彼がユダヤ人であると知った。すると、群衆からの声が一つになった。そして二時間ばかり、彼らは、「エペソのアルテミスは偉大だ。」と叫び続けた。
  35. それで、市の書記役が群衆を静めてから言った。「エペソの人たち。エペソの町が大女神アルテミスと天下った神体の守り役であることを知らない者はいない。
  36. それで、このことが否定できないことであるゆえに、あなたがたは静かにしているべきであり、また軽率なことを何一つすべきでないことは当然である。
  37. 諸君がこの人たちを連れて来たが、彼らは神殿泥棒でもなく、我々の神をそしる者でもない。
  38. それで、もしデメテリオと彼の仲間の職人たちが誰かに対して言いたいことを持っているならば、裁判も行われるし、地方総督もいるのだから、互いに訴えるべきである。
  39. もし、諸君が何かこの上なお要求することがあるならば、正式の議会で解決されなければならない。
  40. 今日の事件については、正当な理由がないゆえに、我々は暴動の嫌疑で訴えられる恐れがある。我々はこのような騒動の弁護はできない。」
  41. このように言ってその集まりを解散させた。

20

  1.  騒ぎが治められた後、パウロは弟子たちを呼び集め、彼らを励ましてから、別れの挨拶を言い、マケドニアに向けて出発した。
  2. 彼はその地方を巡り歩き、(行く先々で)信者たちを多くのことばをもって励ましながら、ギリシアに来た。
  3. 彼〈パウロ〉が(そこで)三ヶ月間過ごして、シリアに向けて船出しようとしている時、ユダヤ人たちが彼に対してある陰謀を企てたので、彼はマケドニアを通って帰ることを決意した。
  4. それで、ベレア人プロの子ソパテロ、テサロニケ人アリスタルコとセクンド、デルベ人ガイオとテモテ、アジア人テキコとトロピモは、パウロと同行するはずであったが、
  5. 先発して、トロアスで私たちを待つことになった。
  6. それで、私たちは種なしパンの祝いの後、ピリピから出帆し、五日かかってトロアスにいる彼らのところに着いた。私たちはそこに七日間滞在した。
  7.  週の初めの日に、私たちはパンを裂くために集まった。パウロは、その翌日に出発しようとしていたので、人々に語り続けた。そして夜中まで彼は話を長引かせた。
  8. 私たちが集まっていた屋上の間には、多くのランプが点灯されていた。
  9. 名前をユテコという一人の若者が、窓の縁に座っていたが、パウロがさらに長く話し続けたので、ひどい眠気に襲われていた。遂に眠気に圧倒されて彼は三階から下に落ちてしまった。抱き起こしたが死んでいた。
  10. それで、パウロは下に降りて行き、彼の上に身をかがめて抱きかかえ、「泣きわめいていてはいけない。彼は生きている。」と言った。
  11. そしてパウロは上に上って来て、パンを裂き、そして食事を取ってから、かなり長時間、明け方まで話し合っていた。このようにして彼は出発した。
  12. 人々は、息を吹き返した青年を連れて来た。それで、彼らは非常に慰められた。
  13.  さて、私たちは先に乗船し、アソスに向けて出帆した。私たちはアソスでパウロを船に乗せるつもりであった。それは、彼が、自分は陸路を歩いて行くと堅く心を固めて、それを実行しようとしていたからである。
  14. こうしてパウロはアソスで私たちと行動を共にし始め、私たちは彼を船に乗せてミテレネに来た。
  15. そこから出帆して、翌日キヨスの沖に達し、次の日サモスに立ち寄り、その翌日ミレトに着いた。
  16. それは、パウロがアジアで時間を取られないためにエペソを通り過ごすと決めていたからである。彼は、できれば五旬節の期間にはエルサレムに着いていたいと(思い、)急いでいた。
  17.  それで、パウロは、ミレトからエペソに使いを送って、教会の長老たちを呼び寄せた。
  18. 彼らがパウロのところに到着してから、彼は彼らに向かって言った。「あなたがたは、私が最初、アジアに足を踏み入れた日以来、私が、あなたがたと共にいて、どのように常に行動してきたかを知っている。
  19. 私は、謙遜の限りを尽くしながら、また涙ながらに、さらにユダヤ人たちの陰謀により私に降りかかって来る試練の中を主に(奴隷のように)仕え続けた。
  20. それで役に立つことで、私が遠慮してあなたがたに、公に、あるいは個人的に、伝えなかったこと、教えなかったことは一つもない。
  21. 私は、ユダヤ人にもギリシア人にも、神への悔い改めと私たちの主イエスへの信仰を厳しく命令した。
  22. 見よ。今、私は聖霊に心を縛られて、エルサレムに向かっている。エルサレムでどのようなことが私を待ち受けているのか、私は知らない。
  23. しかし、聖霊は、どの町でも、投獄と苦難が私を待っていると語って、私に警告しておられる。
  24. しかし、私が走路を走り終え、神の恵みの福音を宣べ伝えるという、私が主イエスからいただいた働きをなし終えるためならば、私のいのちなど惜しいとは全く思っていない。
  25.  実に、今、私は知っている。あなたがたの全ては、あなたがたの間を御国を宣べ伝えながら歩き回った私の顔を、もはや二度と見ることはないと。
  26. このゆえに、私は、全ての人の血とは関係がないと、今日、あなたがたに証言する。
  27. それは、私が神のご計画の全てをあなたがたに知らせたからである。
  28. あなたがたは、自分自身と群れ全体を見守れ。聖霊は、神がご自分の血をもって獲得された神の教会を牧させるために、あなたがたを教会の中の監督にお立てになったのである。
  29. 私がここを離れた後、凶暴な狼があなたがたの中に入り込み、群れを食い荒らすことを知っている。
  30. またあなたがたの中からも、曲がったことを語って、弟子たちを自分たちに従わせようと引っ張り込む者たちが必ず立ち上がる。
  31. それゆえにあなたがたは見張っておれ。私が三年間、日夜、休むことなく、涙を流しながらあなたがた一人ひとりを訓戒し続けたことを思い出せ。
  32. 私は今、あなたがたを神と神の恵みのみことばに、すなわちあなたがたを建て上げることができ、聖とされている全ての者たちに神の御国を受け継がせることができるみことばに委ねる。
  33. 私は、だれからも金銀、衣服を欲しがったことはない。
  34. あなたがた自身、私と私とともにいる者たちの必要のためにこの手が奉仕したことを知っている。
  35. 私はこのように働くことによって、私たちは病める者たちを助けるべきであることと、『与える者は、与えられる者より幸いである。』と仰せになった主イエスのみことばを思い出すべきであることを、あらゆることであなたがたに模範として示したのである。」
  36.  これらのことを言って後、パウロはひざまずき、全ての者たちと共に祈った。
  37. 全ての者が大声で泣いた。そしてパウロの首を抱いて幾度も口づけした。
  38. パウロが、彼の顔を二度と見ることはないと言ったことばに、彼らは非常に心を痛めた。しかし、彼らはパウロを船まで見送った。

21

  1.  私たちは、彼らを振り切って別れ、出帆して、直航してコスに、翌日ロドスに、そこからパタラに着いた。
  2. そしてフェニキアに渡る船を見つけたので、それに乗って出帆した。
  3. やがて、キプロス島が遠くに見えた。それを左に見過ごしてシリアに向かって航海を続けた。そしてツロで上陸した。それは船がそこで積み荷を降ろしていたからである。
  4. それで、私たちは弟子たちを探し出し、そこに七日間滞在した。彼らはパウロにエルサレムに上ってはならないと御霊によってしきりに忠告した。
  5. しかし、私たちは、その日数を終えた時、そこを出発し、歩き始めた。彼ら全員が、妻や子どもたちも共に、私たちを町はずれまで見送ってくれた。そして彼らは海岸でひざまずいて祈った。
  6. お互いに別れの挨拶を交わした後、私たちは船に乗り込み、彼らは自分たちの家に帰った。
  7.  それで、私たちはツロからの航海を終わりにし、トレマイで上陸した。そして、そこの兄弟たちに挨拶し、彼らのところに一日滞在した。
  8. その翌日、私たちはそこを出て、カイザリアに着いた。そして、あの七人の中の一人である伝道者ピリポの家に入り、彼の家に滞在した。
  9. この人には、預言する四人の処女の娘がいた。
  10. 私たちがかなりの日数そこに滞在している間に、ユダヤからアガボという名の預言者が下って来た。
  11. そして彼は私たちのところに来て、パウロの帯を取り、自分の足と手を縛って、「『ユダヤ人は、この帯の所有者を、エルサレムでこのように縛り、異邦人の手に引き渡す。』と聖霊が語っておられる。」と言った。
  12. このことばを聞いて、私たちとその土地の人たちとは共に、パウロにエルサレムに上らぬようにとしきりに懇願した。
  13. その時、パウロは、「あなたがたは、泣き悲しみ、私を落胆させて、何をしようというのか。私は、実に、主イエスの御名のためには、エルサレムで縛られるだけでなく、殺される心の備えもできている。」と言った。
  14. 彼が聞き入れようとしないので、私たちは、「主のみこころがなるように。」と言って、黙った。
  15.  それで、数日後、私たちは支度を整えて、エルサレムに上り始めた。
  16. それで、(そこの)弟子たちもカイザリアから私たちと同行した。彼らは、私たちが泊めさせてもらうことになっている、古くからの弟子であるキプロス人マナソンの家に私たちを案内してくれた。
  17.  私たちがエルサレムに到着した時、兄弟たちは私たちを喜んで受け入れた。
  18. その翌日、パウロは私たちと共に、ヤコブの家に行った。そこには長老たち全員が集まっていた。
  19. それで、パウロは、彼らに挨拶して後、神が国々の異邦人の間で彼の働きを通して成してくださった御業を一つ一つ詳しく説明し始めた。
  20. それを聞いた人たちは神を誉め讃えながら、パウロに言った。「ご覧のとおり、兄弟よ。ユダヤ人の中で信じた人々は、全員で数万人おり、みな律法に熱心な人々である。
  21. しかし、彼らはあなたについて、あなたが異邦人の間にいる全てのユダヤ人に、息子たちに割礼を行うな、習慣に従って歩むなと言ってモーセの教えに背くことを教えていると聞かされている。
  22. それではどうすべきか。彼らの全ては、あなたが来ていることを必ず聞くはずである。
  23. それで、あなたは私たちが言うとおりを行っていただきたい。私たちの中に、自分のことで誓願を立てている者が四人いる。
  24. この者たちを引き受けて、あなたも彼らと一緒にきよめを受け、彼らが(生贄をささげて)頭を剃ってもらえるように(生贄を買う)費用を彼らのために支払っていただきたい。そうすれば、彼らの全ては、あなたについて聞かされていることが(単なる中傷で、実体が)何もなく、かえってあなたが私たちと共に歩んでいる者であり、あなた自身も(モーセの)律法を守っていることを知るに違いない。
  25. しかし、信仰を持つに至っている異邦人については、私たちは、すでに彼らが偶像の神に供えた肉と、血と、絞め殺した物と、性的不品行とを避けるべきであるという決定事項を書き送ってある。」
  26. そこで、パウロは、その翌日、その人たちを引き連れ、彼らと共に身をきよめ、その一人ひとりのために生贄をささげる時までの、きよめの日数が満了する日を告げるために宮の中に入って行った。
  27.  しかし、その七日がほとんど終わろうとしていた時、アジアから来ていたユダヤ人たちが、パウロが宮の中にいるのを見て、群衆を扇動し始め、彼を捉まえて、
  28. 叫んだ。「イスラエルの諸君。手伝ってくれ。この男は、この民族と、律法と、この場所に逆らうことを、あらゆる所であらゆる者たちに教えている者である。その上に、ギリシア人をこの宮に引き入れ、この聖なる所を汚してしまっているのだ。」
  29. それは、彼らが町でギリシア人トロピモがパウロと一緒にいるのを前に見たことがあったので、パウロが彼を宮の中に連れ込んだと思ったからであった。
  30. それで町中が騒ぎ出し、民衆が暴徒となって集合し、パウロを捕らえて宮の外に引きずり出した。そして宮の門は直ちに閉じられた。
  31. 彼らがパウロを殺そうとしていた時、全エルサレムが混乱状態に陥っているという報告がローマ歩兵隊の千人隊長の所に届いた。
  32. 彼は直ちに、兵隊たちと百人隊長たちとを引き連れて、彼らのところに駆けつけた。彼らは千人隊長と兵隊たちを見て、パウロを打ち叩くことを止めた。
  33. その時、千人隊長が近づいて来てパウロを捕らえ、二本の鎖で繋ぐように命令した。そしてパウロが何者なのか、やった(悪)事とは何なのかと尋問し始めた。
  34. しかし、群衆の中の各々が勝手なことを叫び続けていた。それで、その騒がしさのために彼は正確なことを知ることができなかった。そこで、彼はパウロを兵営に連れて行くように命令した。
  35. ところで、パウロが階段の登り口に来た時、凶暴な群衆の手から彼を守るために兵隊たちが彼を担ぎ上げなければならない事態になった。
  36. なぜなら、大勢の群衆が、「彼を除け。」と叫びながらついて来たからである。
  37.  パウロは兵営の中に連れて行かれようとしていた時、千人隊長に、「私があなたに何かお話ししても差し支えありませんか。」と言った。すると彼は、「お前はギリシア語が話せるのだな。
  38. そうすると、お前は先頃暴動を起こし、四千人のシカリ党員を荒野に連れ出したあのエジプト人ではないということか。」と言った。
  39. それで、パウロは、「私はユダヤ人であり、キリキアのタルソ出身です。また名の通った町の市民です。それで、あなたにお願いします。民衆に話すことを私に許してください。」と言った。
  40. 千人隊長が彼に許しを与えたので、パウロは階段の上に立ち、民衆に静まるように手振りで合図した。皆が静まった時、彼はヘブル語で語り出した。

22

  1.  「兄弟たち、父たち、諸君。今の私の諸君への弁明を聞いていただきたい。」
  2. 彼らは、彼がヘブル語で彼らに話しかけ始めたのを聞いて、一層静まった。それでパウロは話を続けた。
  3. 「私はキリキアのタルソ生まれのユダヤ人である。私はこの町で育てられたのであり、またガマリエルのもとで先祖からの厳格な律法に従って教育された者であり、今日の諸君と同様に神のために熱心な者である。
  4. 私は、この道を迫害し、男や女を縛ったり、獄に投じたりして死に至らしめたのである。
  5. それは、大祭司も、長老会〔サンヘドリン=(最高)議会〕全員も私のために証言しているとおりである。私は、彼らから兄弟たち宛の手紙さえ受け取り、ダマスコに向かって出て行った。そこにいる者たちをも縛ってエルサレムに連れて来て、処罰するためであった。
  6.  しかし、私が進んで行き、ダマスコに近づいていた昼頃であった。突然、天からの非常に強い光が私の周りを輝き照らした。
  7. それで、私は地面に倒れた。そして、『サウロ、サウロ。お前はなぜわたしを迫害しているのか。』という私に語りかける声を聞いた。
  8. それで私は、『主よ。あなたはどなたですか。』と答えた。するとその方は私に、『私はお前が迫害しているナザレのイエスである。』と言われた。
  9. しかし、私と共にいた者たちは、光は見たけれど、私に語っておられる方のことばは聞き取れなかった。
  10. それで、私が、『主よ。私は何をなすべきですか。』と言うと、主は私に、『立ち上がってダマスコに行け。お前がするように定められている全てのことが、そこでお前に告げられる。』と仰せになった。
  11. その方の光の輝きのために私の目は見えなくなっていたので、私は同行の者たちに手を引かれてダマスコに入った。
  12.  そこには、アナニヤという、そこに住む全てのユダヤ人によって律法に基づいて神を恐れている人として認められている人がいた。
  13. その人が私のところに来て、そして私の側に立って、私に向かって、『兄弟サウロよ。再び見えるようになれ。』と言った。それを聞いたと同時に、私はその人を見上げた。
  14. 彼は私に言った。『我々の父祖たちの神は、あなたが神のみこころを知るように、そしてその義なる御方を目で見、その御口から御声を聞くようにあらかじめ定めておられたのだ。
  15. なぜなら、あなたは全ての人に対して、(いつまでも)あなたが見たこと、また聞いたことについて、その方のための証人にならなければならないからである。
  16. さあ、何をためらっているのか。立て、そして主の御名を呼んで、バプテスマを受けよ。そしてあなたの全ての罪を洗い流してもらえ。』
  17.  ところが、私がエルサレムに帰った時のことであった。私が宮の中で祈っていると、私は恍惚状態になった。
  18. そして、私は主を見た。その時、主は私に言われた。『急げ。そして直ちにエルサレムから出よ。人々がわたしについてのお前の証を受け入れないからだ。』
  19. それで、私は言った。『主よ。彼らは、私があなたを信じている者たちを牢に入れ、鞭打ちにしていたことをよく知っているのです。
  20. また、あなたの証人ステパノの血が流されていた時、私自身がその場に立っていて、それに全面的に同意し、彼を殺そうとしている者たちの上着の番をしていたのです。』
  21. すると、主は私に対して言われた。『行け。なぜならば、わたしはお前を遠く異邦人たちに遣わすからだ。』」
  22.  彼らはパウロのことばをここまで聞いていたが、声を張り上げ、「このような男は殺してしまえ。こいつは生きているべきではない。」と叫んだ。
  23. そして彼らは叫び続け、上着を引き裂き、ちりを空中にまき散らし続けるので、
  24. 千人隊長は、パウロを兵営の中に引き入れるように命じ、人々が何の理由で彼に向かってこのように叫ぶのかを知るために、彼を鞭打ちの拷問にかけて取り調べるようにと言った。
  25. 彼らがパウロを革ひもで(鞭打ちの拷問のために)杭に縛った時、彼はそこに立っていた百人隊長に、「ローマ市民を、しかも裁判にかけずに、鞭で打つことがあなたがたに許されているのか。」と言った。
  26. これを聞いた百人隊長は、千人隊長のところに行って報告して、「あなたはどうなさいますか。あの人はローマ人です。」と言った。
  27. それでその千人隊長はパウロのところに来て、「私は知らなかった。お前はローマ市民だったのか。」と言った。パウロは「そうだ。」と言った。
  28. 千人隊長は、「私は大金を払ってその市民権を買ったのだ。」と言った。それでパウロは、「私は先祖代々ローマ市民だ。」と言った。
  29. それで、パウロを拷問にかけようとしていた者たちは、直ちにパウロから身を引いた。そして千人隊長も、パウロがローマ市民であることを知って、彼がパウロを縛っていたことを恐れた。
  30.  その翌日、千人隊長は、パウロがユダヤ人に訴えられている確かな理由を知りたいと思って、パウロの鎖を解き、大祭司たちと全議会《サンヘドリン》に集まるように命令した。そしてパウロを連れて降り、皆に向かって立たせた。

23

  1.  パウロは議会を見つめて、「兄弟がた。私は今日に至るまで、まったくきよい良心に従って神のために市民としての義務を果たしてきた。」と言った。
  2. すると大祭司アナニヤは、パウロのそばに立っている者たちに、パウロの口を打つように命じた。
  3. その時、パウロは彼に向かって、「神があなたを打たれる。白く塗られた壁よ。実に、あなたは律法に従って私をさばこうとしてそこに座っていながら、律法に背いて私を打てと命じるのか。」と言った。
  4. するとそばに立っている者たちが、「お前は神の大祭司をののしるのか。」と言った。
  5. それで、パウロは、「兄弟たちよ。私は彼が大祭司であるとは知らなかった。確かに聖書に、『あなたの民の指導者を悪く言ってはならない。』と書かれてある。」と言った。
  6.  しかし、パウロは、彼らの一部がサドカイ人であり、一部がパリサイ人であることを知って、議会の中で、「諸君。兄弟たちよ。私はパリサイ人の息子であり、私自身もパリサイ人である。死者たちのよみがえりを望む望みのゆえに、今、私はさばかれているのだ。」と叫んだ。
  7. 彼がこのように言ったために、パリサイ人たちとサドカイ人たちとの論争が生じた。そして議会が分裂した。
  8. なぜならば、一方、サドカイ人たちは、復活はない、また御使いも霊も存在しないと言っており、他方、パリサイ人たちはその両方があると言っていたからである。
  9. それで、大変な大騒ぎとなった。するとパリサイ人の一部の律法学者たちの中からある者たちが立ち上がって、激しい口調で主張し出して、「我々はこの人に何一つ悪い点を見出せない。もしかして、霊か御使いが彼に語ったのかも知れない。」と言った。
  10. 論争が非常に激しくなったので、千人隊長は、パウロが彼らによって引き裂かれることを恐れ、兵隊たちに下に降りて行って、彼を彼らの中から力ずくで奪い取って来て兵営に連れて来るように命じた。
  11.  その夜、主がパウロの傍らに立たれ、彼に、「勇気を出せ。お前がエルサレムでわたしについて証言したように、ローマでも証言しなければならない。」と言われた。
  12.  朝になって、そのユダヤ人たちは結社を作り、パウロを殺すまで飲み食いしないと、自分にのろいをかけて誓い合った。
  13. この結社に加わった者が、四十人以上いた。
  14. 彼らは大祭司たちと長老たちのところに行って言った。「我々は、パウロを殺すまで、決して飲み食いしないと、自分にのろいをかけて堅く誓い合っている。
  15. さて、それで、あなたがたは千人隊長のところに議員たちと一緒に行き、あなたがた自身がパウロに関することをもっと正確に知りたいためという口実で、千人隊長にパウロをあなたがたのところに連れて来て欲しいと申し出ていただきたい。我々は、彼を、(あなたがたのところに)近づく前に殺す手はずを整えている。」
  16. しかし、パウロの姉妹の息子がこの(待ち伏せの)陰謀を聞き付けた。そして、兵営に入って来て、パウロに告げた。
  17. そこでパウロは百人隊長の一人を呼んで、「この若者を千人隊長のところに連れて行って欲しい。彼が千人隊長へのある報告を持っているからだ。」と言った。
  18. それで、百人隊長は彼を千人隊長のところに連れて行って、「囚人パウロが私を呼んで、この若者が何かあなたにお話しすべきことを持っているので、あなたのところに連れて行ってくれと頼みました。」と言った。
  19. それで千人隊長は彼の手を取り、(別室に)退いて、密かに「お前は何を私に知らせたいのか。」と尋ねた。
  20. それで、彼は、「ユダヤ人たちは、明日あなたに、彼に関することをもっと詳しく調べるためという口実で、パウロを議会に連れて来て欲しいとお願いする計画を立てています。
  21. それで、彼らの言うことを聞かないでください。なぜなら、四十人以上の男がパウロを待ち伏せしているからです。彼らは、パウロを殺すまで飲み食いしないという誓いを、自分にのろいをかけて立てています。そして、今、彼らは、(実行の)用意を整えて、あなたからの約束〔承諾〕を待っています。」
  22. それで、千人隊長は、「お前がこれらのことを私に知らせたと、だれにも漏らすな。」と命じて、その若者を家に帰らせた。
  23.  彼は百人隊長の中から二人を呼び寄せて、「今夜第三時〈午後九時〉に、カイザリアに向けて出発できるように、歩兵二百人、騎兵七十人、槍兵二百人を整えよ。」と命令した。
  24. また、パウロを乗せて無事に総督ペリクスのもとに送り届けることができるように、馬の用意もさせた。
  25. そして彼はこのような文面の手紙を書いた。
  26. 「クラウデオ・ルシヤ、つつしんで総督ペリクス閣下にご挨拶申し上げます。
  27. この男は、ユダヤ人に捕らえられて、彼らによって殺されそうになっていたので、私は、彼がローマ人であることを知り、兵隊たちと共に駆けつけて行って、助け出しました。
  28. 私は、彼らが彼を訴えている理由をよく知ろうとして、彼をユダヤ人議会に連れて行きました。
  29. 私は、この男が彼らユダヤ人の律法の問題に関して訴えられているのであり、彼には、死刑や投獄に値する告訴の理由が全くないことが分かりました。
  30. しかし、この男に対する陰謀が行われるということが私に知らされました。それで、直ちに閣下のところに送ることに決めました。そして、訴えている者たちに、訴えるならば、閣下の前で、閣下に申し上げるように命じました。」
  31.  そこで兵士たちは、彼らに命じられた命令に従ってパウロを引き取り、夜通し歩いてアンテパトリスまで連れて行った。
  32. その翌朝、兵隊たちは、騎兵たちにパウロと共に行くことを任せて、兵営に帰った。
  33. 騎兵たちはカイザリアに着き、総督に手紙を手渡してから、パウロを引き渡した。
  34. 総督は手紙を読んで、パウロにどの州の出身であるかを尋ね、彼がキリキア州出身であることを知った。
  35. そして彼は、「お前を訴えている者たちが到着してから、お前の言い分をよく聞こう。」と言った。そして彼をヘロデの官邸に保護しておくように命じた。

24

  1.  その五日後、大祭司アナニヤが、数名の長老たちとテルトロという弁護士を伴って、総督にパウロを告訴するために下って来た。
  2. 彼〈パウロ〉が呼び出されると、テルトロが訴えを始めて言った。「あなた様のおかげで、私たちはすばらしい平和を享受しており、あなた様の先見の明によってこの国民のために改革が実現されつつあります。
  3. それゆえ、ペリクス閣下よ。私たちは常に、また至る所において、(閣下の行政に)心からの感謝をもって満足しております。
  4. さて、閣下にあまりご迷惑をお掛けしないように手短に語りますので、私たちの言い分を、ご忍耐をもってお聞き入れくださるようにお願いいたします。
  5. 実は、この男はペストのような危険人物であり、ナザレ派という異端の首謀者として世界中のユダヤ人の間に騒動を起こしている者であることが判明しています。
  6. この男は、宮さえも汚そうとしたので、私たちは彼を取り押さえました。
  7. (なし)
  8. 閣下ご自身で、これらの事全てについて綿密にお調べくだされば、彼の口から私たちがこの男を告訴している事柄〔理由の正しさ〕を十分に分かっていただけるはずです。」
  9. そのユダヤ人たちも、そのとおりであると断言して、その告訴に同調した。
  10.  その時、総督がパウロに話すように手で合図したので、彼〈パウロ〉は答えた。「閣下が長年に渡りこの国民の裁判官であられることを承知しておりますので、私は喜んで私自身の弁明を申し上げます。
  11. 私が礼拝のためにエルサレムに上って来てから、まだ十二日しか経っていないことは、閣下にも分かっていただけると思います。
  12. さらに、彼らは、宮でも、会堂においても、また市内においても、私がだれかと論争したり、群衆を騒がせたりしているのを見たことはありません。
  13. また、彼らは、今、私を訴えている事柄に関して、閣下に証拠を挙げることもできません。
  14. しかし、私はこのことを認めます。私は彼らが異端と呼んでいる道に従って、先祖から信じてきた神を礼拝しており、律法にかなったことは全て、そして預言者の書の中に記されていることを全て信じているということです。
  15. 私は、義人の復活も、そして悪人の復活も必ずあると、これは彼らも望んでいることですが、神にあって望みを抱いています。
  16. そのために、私は常に神と人とに対して責められるところのない良心を保つように努力しています。
  17. さて、何年かぶりに私は、私の同胞のために施しを行うために、またいけにえを捧げるために帰って来ました。
  18. そのために、私が身のきよめを受けて宮の中にいるのを彼らは見たのですが、その時、私のそばに群衆もおらず、騒ぎもありませんでした。
  19. ただ、アジアから来たユダヤ人が何人かおりました。もし仮にも彼らに、私に対する訴えがあると言うならば、彼らは閣下の前に来て、訴え出るべきでした。
  20. あるいは、私が議会の前に立っていた時、彼らが(私に)どのような不正を見付けたかを、
  21. あるいは、私が彼らの真ん中に立ったまま、『私は、今日あなたがたの前で死者たちの復活に関することでさばかれている。』と大声で叫んだ私のあの一声に関すること以外に、私にどんな悪事を見付けたかを、今、彼らに言わせてください。」
  22.  しかし、ペリクスは、この道に関することをかなり詳しく知っていたので彼らに裁判の延期を通告し、「千人隊長のルシヤが下って来た時、あなたがたのこの問題に判決を下そう。」と言った。
  23. 彼は百人隊長に、パウロを緩やかに監禁しておくように、また彼を世話するために人々が彼に会いに来ることを妨げてはならないと命じた。
  24.  その数日後、ペリクスは、彼のユダヤ人妻ドルシラとともにやって来て、パウロを呼び出した。そしてキリスト・イエスを信じる信仰について彼から聞いた。
  25. それで、パウロが正義と自制と、来るべきさばきについて語ったために、ペリクスは恐れを感じた。そして、「今は帰ってくれ。次の機会を見付けて、再びお前を呼び出そう。」と言った。
  26. それと同時に、彼はパウロから金を取ろうという望みも持っていた。それで彼はしばしばパウロを呼び出して話し合った。
  27.  それから二年経た後、ポルキオ・フェストがペリクスの後を継いで総督になった。しかし、ペリクスはユダヤ人の歓心を買うためにパウロを牢に入れたままにしておいた。

25

  1.  それで、フェストはその州に到着した三日後、カイザリアからエルサレムに上った。
  2. すると、祭司長たちとユダヤ人の主立った者たちがパウロを訴えるために彼の前に現れ、(訴えを取り上げてくれるようにと)しきりに願った。
  3. 彼らは彼〈フェスト〉に、パウロに対する訴訟の件で彼らの肩を持ってくれるように頼んだ。そして彼にパウロをエルサレムに召喚するように懇願した。それは、彼らが、その途中でパウロを殺す陰謀を実行するためであった。
  4. ところが、フェストは、パウロはカイザリアに拘束されているべきであり、自分も直ぐに出発しなければならない、と答えた。
  5. 彼は、「それで、もしこの男に何か不正な点があるなら、お前たちのうちの有資格者たちが私と一緒に下って来て、彼を告訴すべきである。」と言った。
  6.  フェストは、ただ八日か十日ほど彼らの間に滞在してカイザリアに帰った。その翌日、彼は裁判の席に着き、パウロを連れて来るように命令した。
  7. それで、パウロが登場した時、エルサレムから下って来ていたユダヤ人たちはパウロを取り囲み、多くの、また重い罪状を申し立て、その証拠を挙げようとしたができなかった。
  8. その一方でパウロは、「私はユダヤ人の律法に対しても、宮に対しても、カイザルに対しても、如何なる罪も犯したことがない。」と弁明した。
  9. しかし、フェストはユダヤ人の歓心を引こうとして、パウロに「お前はエルサレムに上り、そこで私の前でこのことに関する裁判を受けたくないか。」と言った。
  10. するとパウロは言った。「今、私はカイザルの法廷に立っているのだから、ここで裁判を受けるべきです。閣下もよくご存じのように、私はユダヤ人に何一つ悪を行ったことはありません。
  11. それで、もし私が罪を犯し、何か死に値することを行ったのであれば、私は死刑の免除を懇願するようなことはしません。しかし、彼らが私を訴えている事柄の中に根拠となるものが一つもない以上、だれも私を彼らに引き渡すことはできません。私はカイザルに上訴します。」
  12. それで、フェストは陪席の者たちと協議して、「お前はカイザルに上訴した。だからカイザルのところに行け。」と言った。
  13.  さてその後数日経ってから、アグリッパ王とベルニケが、フェストに挨拶するために、カイザリアを訪れた。
  14. 彼らが長期間そこに滞在し続けていたので、フェストはこの王にパウロの件を話題に持ち出した。そして言った。「ある一人の男が、ペリクスによって囚人のまま置き去りにされています。
  15. 私がエルサレムに行った時、祭司長たちとユダヤ人の長老たちが出頭し、この男について有罪を宣告するように要求しました。
  16. 彼らに対して私は、『被告人が告訴人の面前で、その告訴に関する弁明の機会を与えられずに、裁判に引き渡されることは、ローマの慣習ではない。』と答えました。
  17. それで、彼らがここに私と一緒に来たので、私は一時も猶予せず、その翌日、裁判の席に着きました。そしてその男を連れて来るように命令しました。
  18. 告訴人たちは立ち上がったが、私が思っていたような悪事についての罪状は何一つ提出できませんでした。
  19. しかし、彼らが彼に対して持っている争点は、ある彼ら自身の宗教に関することです。すなわち、あるイエスという人物に関することで、その男は死んでしまったのですが、パウロはその男が生きていると断言しているのです。
  20. しかし、私は、このようなことに関する問題をどのように処理すべきかが分からず、『お前はエルサレムに行って、そこでこの事の裁判を受けることについて、どう思うか。』と聞いてみました。
  21. しかし、パウロは皇帝陛下の判決が下るまで自分を保護して欲しいと願い出たので、私は彼をカイザルに送り届けるまで保護するように命じたのです。」
  22. それでアグリッパはフェストに、「私自身もその男の言うことを聞きたいと日頃思っているのだ。」と言った。それで、彼は、「では明日、聞いてください。」と言った。
  23.  このような次第で、その翌日、アグリッパとベルニケは盛大に着飾って現れた。そして、千人隊長たちと市の要職にある者たちとを従えて講堂に入って来た。そして、フェストが命令したので、パウロが連れて来られた。
  24. そこで、フェストが言った。「アグリッパ王、並びに、ここにおられる全ての方々。この人をご覧ください。彼は、ユダヤ人の全てがエルサレムにおいても、ここにおいても、生かしておくべきではないと、大声で叫んで要求した人物です。
  25. しかし、私は、彼が死刑に値するような事は何一つ行っていないと認めました。ところが、この人自身が皇帝に上訴したので、私は、彼を(ローマに)送ることを決めたのです。
  26. この人について、皇帝に書きしたためるべき確かな罪状は何一つありません。それゆえ、私は彼をあなたがたの前に、特にアグリッパ王の前に連れて来たのです。それは、審問が行われたならば、何か書くべきことが得られるかも知れないと思ったからです。
  27. 囚人を送るのに、その者に対する訴えの理由も示さないことは、不合理であると私は思うからです。」

26

  1.  それで、アグリッパはパウロに、「お前は自分のために語ってもよい。」と言った。その時、パウロは手を差し伸べ、弁明し始めた。
  2. 「私がユダヤ人たちによって訴えられている全てについて、アグリッパ王よ、今日、あなたの前で弁明できる私自身を、幸せ者と思っています。
  3. 特にあなたがユダヤ人のあらゆる慣習や問題について精通しておられる方である(と私が存じている)からです。それゆえ、私が述べることを忍耐深くお聞きくださるようにお願いします。
  4. 私が自国民の中で過ごした青年時代から始まった、私の初めからの生活ぶり、またエルサレムでの私の生活ぶりは、全てのユダヤ人が知っています。
  5. 彼らは以前から私を知っていますから、私が私たちの宗教の最も厳格な派(の規律)に従って、パリサイ人として生活してきたことは、彼らも、もししようと思うならば証言できるのです。
  6. そして、今、私は、神によって私たちの父祖たちに与えられた約束の(実現を待ち望む)望みのために、ここに立ってさばきを受けているのです。
  7. 私たち十二部族は、夜も昼も熱心に神に仕えながら、この望みに達することを望んでいるのです。王よ。私はこの望みのためにユダヤ人たちによって訴えられているのです。
  8. 神が死者たちをよみがえらされることを、どうしてあなたがたは信じられないことと判断されるのですか。
  9. 実は私自身も、ナザレのイエスの名に対して甚だしい敵対行動を実行すべきであると思っていたのです。
  10. そして、それをエルサレムにおいて行いました。そして私は、大祭司たちから認可を得て、多くの聖徒たちを牢に入れ、彼らが殺される時には賛成の票を投じました。
  11. そして、全ての会堂において、幾度も彼らを処罰し、(主イエスの御名を)冒涜することを強制し、彼らに対してますます怒り狂い、遂に国外にまで、実に外国の町々にいる者にまで迫害の手を伸ばしていました。
  12.  このような時に、私は大祭司たちから認可と全権を委任されて、ダマスコに向かって進んでいました。
  13. その途中、正午頃、王よ、私は、天から太陽よりも光り輝く光を見たのです。それが私と私の同行者たちの周りを照らしました。
  14. 私たちの全員が地面に倒されました。その時、私は私に向かって、ヘブル語で、『サウロ、サウロ。なぜわたしを迫害するのか。追い棒を蹴って反抗することはお前にとって危険である。』と言う声を聞きました。
  15. それで、私は、『主よ。あなたはどなたですか。』と言いました。すると主は私に仰せられました。『わたしはお前が迫害しているイエスである。
  16. 起き上がって自分の足で立て。わたしがお前に現れたのは、お前が見たこと、また、これからわたしがお前に現れて示すことについて、お前をわたしの奉仕者、また証人に任命するためなのだ。
  17. わたしはお前をこの民と異邦人の中から選び出す。そしてわたしがお前を彼らのところに遣わすのだ。
  18. それは、彼らの目を開き、暗闇から光へ、すなわちサタンの支配下から神に立ち返らせ、彼らが、わたしを信じる信仰によって罪の赦しを得て、聖なる者とされた者たちの中で相続分を得るためである。』
  19.  それゆえ、アグリッパ王よ、私は天からのこの顕現に背きませんでした。
  20. まずダマスコにいる人々に、エルサレムにいる人々に、さらにユダヤ全土の全ての人々に、そして異邦人に悔い改めて神に立ち返るべきことを、そして悔い改めにふさわしい働きを行い続けるようにと宣べ伝え続けてきました。
  21. このことのために、ユダヤ人たちは私を宮の中で捉まえ、私に手をかけてほとんど殺すところでした。
  22. しかし、私は、この日に至るまで神からの助けを受け、預言者たちとモーセが、必ず成就されると語った事以外のことは何も語らず、小さい者にも大きい者にも証しながら立ち続けて来ました。
  23. すなわち、それは、キリストが苦しめられるべき御方(であられたこと)、また死人たちの中からの復活によって第一の者(になられ)、この民と異邦人に光を宣べ伝えられる(御方であられる)、ということです。」
  24.  パウロがこのように弁明していると、フェストは大声で、「パウロ。お前は気が狂っている。博学がお前を狂わせている。」と言った。
  25. それでパウロは言った。「フェスト閣下。私は狂っていません。私は真実を、そしてまじめな事実を明言しています。
  26. 王よ。あなたはこれらのことについてよく知っておられます。だから私は王に対しても勇気を出して率直に申し上げています。私は、それらのことが何一つ、王ご自身の耳に入らなかったとは、決して信じられません。なぜなら、このことは(世界の)片隅で起きた出来事ではないからです。
  27. アグリッパ王よ。あなたは預言者を信じておられますか。私はあなたが信じておられると知っています。」
  28. するとアグリッパがパウロに向かって、「お前は、わずかのことばで私をキリスト者にしようとしている。」と言った。
  29. それでパウロは、「私が神に切望していることは、ことば数が少なかろうと多かろうと、あなただけでなく、今日私のことばを聞いている人々が全て、このような鎖は別として、私のようになってくださることです。」
  30.  王と総督も、およびベルニケと同席の者も全てが立ち上がった。
  31. そして、彼らは退場した後で、「この人は、死刑や投獄に値することは何もやっていない。」と互いに話し合っていた。
  32. それで、アグリッパとフェストは、「もしこの人がカイザルに上訴さえしていなければ、すでに釈放されてしまっているはずだ。」と言った。

27

  1.  私たちがイタリアに向けて出航することが決められたので、パウロと、他の数名の囚人がユリアスという親衛隊の百人隊長に託されることになった。
  2. それで、私たちは、アジアの各地に寄港することになっているアドラミテオの船に乗り、出帆した。マケドニアのテサロニケの人アリスタルコも私たちと同行していた。
  3. その翌日に、シドンに入港した。ユリアスはパウロを親切に取り扱い、彼が友人たちのところに行って(食事の)世話を受けることを許した。
  4. そこから出航したが、風が逆風なのでキプロス島の風下を航行した。
  5. それからキリキアとパンフリアに沿って(の沖を)航行して、ルキアのミラに入港した。
  6. そこで、百人隊長はイタリアへ行くアレキサンドリアの船を見付けて、私たちをそれに乗せた。
  7. かなりの日数、船はゆっくり進み、やっとのことでクニドの沖に着いた。しかし、風が私たちをそれ以上真っ直ぐに進むことを許さなかったので、クレテ島の風下のサルモネ岬の沖を進んだ。
  8. やっとのことでその沿岸を進んで、ラサヤの町の近くの「良い港」と呼ばれる港に着いた。
  9.  かなりの日数が過ぎており、また断食の季節〈贖罪の日=九月の末から十月の始め〉もすでに過ぎてしまっているために、すでに航海が危険な季節になっていた。それでパウロは次のような忠告を彼らに語り始めた。
  10. 「諸君。私は、この航海が積み荷と船体の損傷と大損害に終わるだけでなく、我々の生命にも危険を必ず及ぼすと見ている。」
  11. しかし、百人隊長はパウロによって語られたことよりも、船長や船主を信用していた。
  12. また、その港が越冬には不適であるので、大多数の者たちは、なんとしてでもクレテ島の、南西と北西に面しているピニクスの港まで行って冬を過ごすことができればと、協議してそこから出港することに決めていた。
  13.  それで、穏やかな南風が吹いて来たので彼らは(出港すべきであると)固く決断して錨を上げ、クレテ島の岸に沿って航行し始めた。
  14. ところが間もなく、ユーラクロンと呼ばれている暴風が船に向かって吹き付けて来た。
  15. 船は嵐に激しく翻弄され、風に逆らって進むことができないので、風に吹き流されるままにした。
  16. しかし、カウダと呼ばれるある小島の風下に駆け込んで、やっとのことで(それまで引いて来た)小舟を処置することができた。
  17. その小舟を引き上げ、綱を使って船体を巻いて固く縛った。またスルテスの浅瀬に乗り上げることを恐れて、帆を下ろして流れるに任せた。
  18. 私たちは寒風に非常に激しく吹き付けられ続けていたので、その翌日には(船を軽くするために)投げ荷を始めた。
  19. そして三日目には、船の船具を自ら投げ捨てた。
  20. 幾日間も太陽も星も見えない日が続き、激しい冬の暴風が吹きまくるので、遂に、私たちの助かる望みが失われようとしていた。
  21.  断食状態が長く続いていたので、パウロは彼らの真ん中に立ち上がって言った。「ああ諸君。あなたがたは私の言うことを聞き入れてクレテから出帆すべきではなかったのだ。そうしていれば、諸君はこのような危害も損害も被らずに済んだのだ。
  22. しかし、今、私は諸君に勇気を出すように勧める。船以外には、諸君の中の一人も、いのちを失う者がいないからだ。
  23. なぜならば、昨夜、私が所属している神の、すなわち私がお仕えしている神の御使いが私の前に立った。
  24. そして、その御使いが、『パウロ。恐れていてはならない。あなたはカイザルの前に立つことになっている。見よ。神があなたと共に船に乗っている全ての者をあなたに与えておられる。』と言ったのだ。
  25. それゆえ、諸君、元気を出せ。私は、実に、私に知らされたとおりになると神によって信じている。
  26. 私たちは、どこかの島に打ち上げられることになっている。」
  27.  私たちがアドリア海を漂流し始めてから十四日目の夜、その真夜中に、水夫たちは、私たちがどこかの陸地に近づいていると推測し始めた。
  28. 測り綱を投げて水深を測ってみると、深さは二十ヒロ〈約三十七メートル〉であった。しばらく進んで再び測ると十五ヒロほど〈三十メートル弱〉であった。
  29. 私たちはどこかの岩に座礁することを恐れて、船尾から錨を四つ投げ降ろし、朝になるのを心待ちにしていた。
  30. しかし、ある水夫たちが船から逃げ出そうとして、舳先から錨を降ろそうとしているかのように見せかけて、海に小舟を降ろしていた。
  31. そのために、パウロは百人隊長と兵士たちに、「彼らが船に留まっていないならば、あなたがたも助からない。」と言った。
  32. それで兵士たちは、綱を切って小舟を流れ去らせた。
  33.  遂に、夜が明けかけた頃、パウロは皆に食事を取ることを勧めようとして言った。「諸君は何も食べずに、今日で十四日間、待ちながら断食状態を続けている。
  34. それゆえ、私は諸君に食事を摂ることを勧める。それは、諸君のために身の安全となるからだ。諸君のうちだれ一人、髪の毛一本でも失われない。」
  35. このように言って後、彼はパンを取り、皆の前で神に感謝を捧げてから、それを裂いて食べ始めた。
  36. それで皆も勇気付けられ、彼ら自身も食事を摂った。
  37. 私たちは全員で船の中に二百七十六人いた。
  38. 食事で満足してから、彼らは積み荷の麦を海に投げ捨てて船を軽くしようとした。
  39.  明るくなった時、陸地であるとは確認できなかったが、砂浜のある入江(があること)に気付いた。それで彼らは、できればそこに乗り上げることに協議して決めていた。
  40. 錨を切って海に捨て、同時に二つの舵を結んでいた綱を解いた。そして前しょう帆〈舳先の三角形の小帆〉を揚げて、砂浜に向かって進んで行こうとした。
  41. しかし、海岸から突き出た岩礁地帯に出くわし、彼らは船を座礁させてしまった。そして舳先がめり込んで動けなくなった。一方、船尾は激しい波によって壊され始めた。
  42. 兵士たちは、囚人たちを、一人も泳いで逃亡させてはならないと言って殺してしまうことを協議して決めた。
  43. しかし、百人隊長はパウロを救おうと決めていたので、彼らにその企てを実行することを禁じた。そして泳げる者が初めに海に飛び込んで陸に向かうように命じた。
  44. そして残りの者たちに、ある者は板に乗り、他の者たちは船にある物に掴まって陸に向かって行くように命じた。このようにして、全員が救われ陸に上がることができた。

28

  1.  そして私たちは救われて後に、そこがマルタと呼ばれている島であることを知った。
  2. そこの現地人たち〔未開人たち〕は、降り続く雨と寒さのために焚き火を焚いて私たちの全てを歓待し、私たちに対して並々ならぬ友情を示してくれていた。
  3. パウロがかなりの量の柴を集めて火の中にくべた。すると一匹の毒蛇が熱のために出て来て、彼の手に咬み付いた。
  4. それで現地人たちは、パウロの手から毒蛇がぶら下がっているのを見て、互いに、「この人は、確かに人殺しだ。海から救われたが、正義の女神が彼に生きることを許さないのだ。」と言っていた。
  5. しかし、彼は毒蛇を火の中に振り落とし、何の害も受けなかった。
  6. しかし、彼らはパウロが間もなく腫れ上がるか、あるいはたちまち倒れて死ぬと予想していた。ところが、長い間待っていたが、彼に変わったことが起きるようには全く見えないので、考えを変え、「彼は神だ。」と言い出した。
  7. さて、その場所の近くに、島の首長ポプリオという名の人の領地があった。この人は私たちを招待し、三日間厚意をもって宿泊させてくれた。
  8. ちょうどその時、ポプリオの父が高熱と下痢を患って寝ていた。パウロはその人の家に入り、手をその人の上に置いて祈って癒した。
  9. このことがあったので、島の他の人で病気を持っている人々が次々とやって来て、次々に癒してもらった。
  10. 彼らは私たちを非常に尊敬し、そして私たちが出帆する時には、私たちの必要物を備えてくれた。
  11.  私たちは、三ヶ月(間そこに滞在した)後に、その島で冬を過ごしていた船首にデオスクロイの飾りのあるアレキサンドリアの船で出帆した。
  12. そしてシラクサに寄港して、そこに三日間停泊した。
  13. 私たちはそこから沿岸沿いのコースを取ってレギオンに到着した。そして、一日後には南風になったので、その翌日〈二日目〉、ポテオリに来た。
  14. そのところで私たちは兄弟たちに出会って、(彼らに)要請されて七日間彼らのところに滞在した。このようにして私たちはローマ(州)に来た。
  15. (ローマの)兄弟たちは、私たちのことを聞いて、ローマからアピオ・ポロとトレス・タベルネ〔三つの宿屋〕まで私たちを出迎えるために来てくれた。パウロは彼らに出会って勇気付けられ、神に感謝した。
  16.  私たちがローマに入った時、パウロは、監視の兵士付きで、彼個人の家に住むことが許された。
  17.  三日後、パウロはユダヤ人たちの中の有力者たちを呼び集めた。彼らが集まった時、パウロは彼らに向かって次のように言い出した。「諸君、兄弟がた。私は(私の)国民に対しても、先祖からの習慣に対しても何一つ反することを行ったことはない。それなのに、私はローマ人の手に引き渡され、エルサレムから囚人となっている。
  18. 彼ら〔ローマ人たち〕は私を詳しく調べた結果、私には死刑の理由が全く見当たらないので、私を釈放することを決めていた。
  19. しかし、ユダヤ人たちが反対したために、私は仕方なくカイザルに上訴した。しかし、それは、私が私の同胞を告訴する思いを持っていたからではない。
  20. それで、この理由のために、私はあなたがたに会い、説明するためにお呼びしたのだ。それは、私がイスラエルの望みのためにこの鎖で繋がれているからである。」
  21. それで、彼らは彼に向かって言った。「我々は、ユダヤからあなたについての手紙も受け取っていないし、こちらに来た兄弟たちの中のだれ一人、あなたについて悪いことを報告したり、語ったりした者はいない。
  22. それで、我々はあなたが考えていることをあなたから聞くのが良いと考えている。なぜならば、この宗派に対して、至る所で非難が語られていると我々はよく知っているからだ。」
  23.  それで、彼らは、パウロと日を決めて、大勢で彼の泊まっている家にやって来た。パウロは彼らに向けて、朝から夕刻まで、モーセの律法と預言書からイエスについて彼らを説得しようと、神の国について力を込めて語り、説明し続けた。
  24. ところが、ある人々は語られたことを信じようとしたが、その他の者たちは信じようとしなかった。
  25. 彼らはお互いに意見が一致せずに帰って行こうとした時、パウロは彼らに次のように一言語った。「あなたがたは、聖霊が預言者イザヤを通して、あなたがたの父祖たちに語られたとおりである。
  26. 『この民のところに行って、語れ。あなたがたは聞いて聞いて聞くだろうが、決して悟らない。見て見て見るだろうが、決してわからない。
  27. この民の心は鈍重になっており、その耳は遠くなっており、その目は閉じてしまっているからだ。それは、彼らが決してその目で見ることがなく、決してその耳で聞くことがなく、そして彼らが決してその心で悟って、わたしに立ち返ることがなく、またわたしが彼らを癒すことが決してないためである。』
  28. だからあなたがたに知っていただきたい。この神の救いは、異邦人に送られている。彼らは必ず聞く。」
  29. (なし)
  30. それで、パウロは、まる二年間、自分の借家に住んだ。そして彼に会いに来る全ての者を受け入れ、
  31. 妨げられることなく神の国を宣べ伝え続け、そして主イエス・キリストについて教え続けた。