マルコの福音書
1
- 神の御子でいますイエス・キリストの福音宣教のはじめ。
- 預言者イザヤの書の中に次のように記されている。
「見よ。あなたの前にわたしの一人の使いを遣わす。その者は、あなたの道を整える。 - 荒野で叫ぶ者の声がする。『主の道を直ちに備えよ。主の歩まれる道を真っ直ぐにせよ。』」
- バプテスマのヨハネが荒野に現れ、罪の赦しに至る悔い改めのバプテスマを宣言していた。
- それで、全ユダヤ地方と全てのエルサレムの住民が彼の所に向かって続々と出て来た。そして自分の罪を自ら告白してヨルダン川で彼からバプテスマを受けていた。
- 実にそのヨハネは、らくだの毛織物を着て、腰の周りに皮の帯を締めていた。そしていなごと野の蜂蜜を常食していた。
- 彼は宣べ伝えて、言った。「私の後に、私よりも強い方が来られる。私はその方の靴のひもを解くために身をかがめる値打ちもない。
- 私はお前たちを水でバプテスマした。しかし、その方はお前たちを聖霊によってバプテスマされる。」
- ちょうどその頃、イエスはガリラヤのナザレから来られ、ヨハネによってヨルダン川の中でバプテスマを受けられた。
- そして、イエスは、水の中から出て来られると直ちに、天が裂け御霊が鳩のようにご自分に向かって下って来られるのをご覧になった。
- そして、天から声がかかった。「あなたはわたしの子、愛する者である。わたしはあなたに(十分に)満足している。」
- すると、直ちに御霊がイエスを荒野に送り出された。
- そして、イエスは四十日間、荒野でサタンによる試みを受けておられた。そして野の獣と共におられ、御使いたちがイエスに仕えていた。
- ヨハネが投獄された後、イエスは神の福音を宣べ伝えるためにガリラヤに来られた。
- そして「時はすでに満たされている。神の国はすぐ近くに来ている。悔い改めよ。そして福音を信じよ。」と語られた。
- そしてガリラヤの湖の岸辺を通っておられた時、イエスはシモンと彼の兄弟アンデレが投網を湖に打っているのをご覧になった。彼らは漁師であったからである。
- その時、イエスは彼らに言われた。「直ちにわたしに従え。そうしたら、わたしはお前たちを、人間を獲る漁師にならせる。」
- すると彼らは、直ちに網を残して、イエスに従った。
- そして、少し行かれた時、イエスは、ゼベダイの子ヤコブと、その兄弟ヨハネが舟の中で網を整えているのをご覧になった。
- イエスはすぐに彼らを召された。すると彼らは、父ゼベダイを舟の中に、雇い人たちと共に残してイエスの後について行った。
- そして彼らはカペナウムに入った。そして直ちにイエスは安息日に会堂の中に入り、教え始められた。
- 彼らは、イエスの教えに驚愕していた。それはイエスが律法学者たちのようにではなく、権威ある者として彼らを教えておられたからである。
- ちょうどその時、彼らの会堂に汚れた霊に取り憑かれている人がいて、叫んで言った。
- 「ナザレのイエスよ。私たちとあなたと何の関係があるのか。あなたは私たちを滅ぼすために来たのか。私はあなたがだれであるかを知っている。神の聖者だ。」
- するとイエスは彼を咎めて言われた。「黙れ。その人から直ちに出て行け。」
- すると、その汚れた霊は、その人を引き付けさせて、大きな声を発して、その人から出て行った。
- そこで全ての者が驚いた。それで仲間同士で議論して言った。「これは何だろうか。権威のある新しい教えだ。彼が汚れた霊どもに命じると、それらは彼に服従している。」
- それで彼についての噂は、直ちにガリラヤの近隣地方の全てに広まった。
- そして彼らはすぐに会堂を出て、シモンとアンデレの家に、ヤコブとヨハネと共に入った。
- シモンの義母が熱病にかかって寝ていた。その時、彼らは直ちに、イエスに彼女について話をした。
- イエスは近づいて、彼女の手を取って起こされた。すると高熱が彼女から去った。それで彼女は彼らに仕え始めた。
- 夕刻になり、太陽が沈んだ時、人々は病人と悪霊に憑かれた者たち全てをイエスのところに続々と運んで来た。
- そしてその町の全ての人がその戸口のところに集まっていた。
- イエスは、種々の病気を患っている多くの人を癒し、多くの悪霊を追い出された。そして、悪霊どもにものを言うことをお許しにならなかった。それは、彼らが、イエス(が誰であるか)を知っていたからである。
- そして、朝方、夜が明けるよほど前に、イエスは起きて、荒野に出て行かれた。そしてそこで祈っておられた。
- するとシモンと彼と共にいる者たちがイエスの後を追った。
- そしてイエスを見つけ出して言った。「皆があなたを捜しています。」
- そこで、イエスは彼らに言われた。「付近の町々でもみことばを宣べ伝えるために、行こうではないか。わたしは実にこのことのために出て来たのだから。」
- そして、イエスは、ガリラヤの全土の町々の会堂に入り、みことばを宣言され、悪霊を追い出された。
- その時、一人の重い皮膚病の人がイエスのところに来て、懇願した。そしてイエスに向かって膝をついて顔を伏せ、そして言った。「もしお望みくだされば、あなたは私をきよめることができます。」
- するとイエスは、心が憐れみの思いで満たされて、御手を差し伸ばし、その人に触れて、そして言われた。「わたしの願いだ。きよめられよ。」
- すると、直ちに重い皮膚病がその人から去り、きよめられた。
- イエスはその人を厳しく戒めてから、すぐに外に出された。
- それで、その人に言われた。「だれにも、何も言わないように注意せよ。しかし、行って祭司にお前自身を見せよ。そして彼らへの証のために、モーセが命じた、お前のきよめのためのささげ物をささげよ。」
- しかし、その人は出て行ってしゃべり回り、この事件を言い広め始めた。そのために、イエスは町の中に公に入ることができなくなり、(町の)外の荒野の所々におられた。人々は彼〈イエス〉のところに向かってあらゆる所から続々とやって来た。
2
- そして数日の後、イエスが再びカペナウムに来られた時、ある家の中におられることが知られた。
- そして、戸口のところまで全く隙間がないほど多くの人々が集まった。そしてイエスは彼らにみことばを語っておられた。
- そのとき、一人の手足の麻痺した人が四人の人に担がれてイエスのところまで運ばれて来た。
- 彼らは群衆のためにイエスのところまで(その人を)運ぶことができないため、イエスのおられるところの屋上の覆いをはがした。そして穴を開けて、手足の麻痺した人が寝ている床を吊り降ろした。
- イエスは彼らの信仰をご覧になって、その手足の麻痺した人に仰せになった。「子よ。お前の罪は赦されている。」
- しかし、そこに律法学者が数人座っていた。そして彼らは心の中で反論した。
- 「なぜこの人はこのように言うのか。彼は神を冒涜している。唯一、神以外にだれが罪を赦すことができようか。」
- イエスはすぐにご自分の霊によって、彼らが心の中でこのように反論しているのを知って、彼らに言われた。「なぜお前たちは、お前たちの心の中でこれらのことに反論しているのか。
- 手足の麻痺した人に、『お前の罪は赦されている。』と言うのと、『立ち上がれ。お前の床を直ちに取り上げよ。そして歩いて行け。』と言うのと、どちらが容易か。
- お前たちに、この人の子が地上で罪を赦す権威を持っていることを知らせよう。」そして、イエスは手足の麻痺した人に仰せになった。
- 「わたしはお前に言う。立ち上がれ。そしてお前の床を直ちに取り上げよ。そしてお前の家に向かって行け。」
- すると彼は起き上がり、すぐに床を取り上げ、皆の目の前から出て行った。そのために全ての者は驚愕し、神を崇め、「このように(神の御業を)見たことは一度もない。」と言った。
- そしてイエスは再び湖の畔に出て行かれた。すると群衆が皆、イエスのところに続々とやって来た。それで、イエスは彼らに教えられた。
- イエスが道を通っておられた時、アルパヨの子レビが収税所に座っているのをご覧になった。そして彼に「わたしに付いて来い。」と言われた。すると彼は立ち上がって、イエスに従った。
- それから、イエスは彼の家で食事を取られることになった。そして大勢の取税人と罪人たちが、イエスとイエスの弟子たちと共に食卓に着いていた。彼らは、大勢であった。そして彼らはイエスに従っていた。
- パリサイ人の仲間の律法学者たちが、イエスが罪人たちや取税人たちと食事をしておられるのを見て、イエスの弟子たちに言った。「なぜあの人は取税人や罪人たちと共に食べるのか。」
- それでイエスは(それを)聞いて彼らに言われた。「医者を必要とするのは、丈夫な者ではなく、病人である。わたしは正しい者たちをではなく、罪人たちを招くために来たのである。」
- ヨハネの弟子たちとパリサイ人たちとが断食中であった。すると彼らがイエスのところに来て言った。「ヨハネの弟子たちとパリサイ人の弟子たちが断食しているのに、なぜあなたの弟子たちは断食しないのか。」
- するとイエスは彼らに言われた。「花婿に付き添う友人たちは、花婿が一緒にいる間は、断食できようか。花婿と共にいる期間中、彼らは断食できない。
- しかし、花婿が彼らから取り去られる時が必ず来る。実にその時、彼らは断食する。
- だれ一人、古い衣の上に、まだ収縮処理をしていない真新しい端切れを継ぎ布として当てることはしない。もしそうしたならば、その新しい端切れが古い衣の、継ぎを当てた部分を引き裂いてしまう。そして破れは一層ひどくなる。
- だれ一人、(作って間のない)新しいぶどう酒を古びた皮袋に入れはしない。もしそうしたならば、そのぶどう酒は皮袋をやがて裂いてしまう。そうしたら、そのぶどう酒も皮袋も無駄にされてしまう。だから、(作って間のない)新しいぶどう酒は、(質的に)新しい袋に入れよ。」
- ある安息日にイエスが麦畑の中を歩いて行かれることがあった。そのとき、イエスの弟子たちが麦の穂を摘みながら道を歩き始めた。
- するとパリサイ人たちがイエスに言い出した。「見よ。なぜ安息日にしてはならないことを彼らは行っているのか。」
- イエスは彼らに言われた。「ダビデと彼の連れの者たちとが腹を減らし困窮した時、ダビデが何をしたかを読んだことがないのか。
- アビヤタルが大祭司であった時、何と、彼は神の家に入り、祭司以外の者が食べることの許されていない供えのパンを食べ、彼と共にいた者たちにも与えたのだ。」
- またイエスは彼らに言われた。「安息日は人間のために設けられたのであって、人間が安息日のために設けられたのではない。
- だからこの人の子は、実に安息日の主である。」
3
- イエスは再び会堂に入られた。そこに片手の萎縮してしまっている一人の人がいた。
- 彼らは、イエスを訴えようとして、イエスが安息日にその人を癒されるかどうかを(悪意を持って)見守っていた。
- するとイエスは、その手の萎縮している人に、「真ん中に立て。」と言われた。
- そして彼らに言われた。「安息日に許されているのは、善を行うことか、それとも悪を行うことか。人を救うことか、それとも人を殺すことか。」彼らは黙っていた。
- イエスは、怒りの目をもって周りを見回し、彼らの心の頑迷さを嘆きながら、その人に向かって言われた。「手を伸ばせ。」それで彼は(手を)伸ばした。すると彼の手は元のとおりに癒された。
- パリサイ人たちは、すぐに出て行った。そしてヘロデ党の者たちと、どのようにしてイエスを殺してしまおうかと、イエスに対する悪意をもって協議し始めた。
- それで、イエスは弟子たちと共に湖に向かって退かれた。それでガリラヤから、またユダヤからも非常に多くの群衆がついて来た。
- またエルサレムから、またイドマヤとヨルダンの対岸地方から、ツロとシドンの周辺からも非常に多くの群衆が、イエスがしておられた全てのことを聞いて、イエスのところに(会うために)来た。
- それでイエスは、大群衆によってご自分が押しつぶされることがないように、一艘の小舟を手元に用意するように弟子たちに命じられた。
- それは、イエスが多くの人々を癒されたので、病苦に悩んでいる全ての人々がイエスに手で触れようと押し寄せて来たからである。
- そして汚れた霊どもが、次々と、イエスを認めてイエスの前にひれ伏しては、「あなたは神の御子である。」と叫んでいた。
- イエスは、ご自分を公にしないように、彼らを幾度も厳しく戒められた。
- それから、イエスは、ある山の上に登られた。そしてご自分で決められた者たちを召し出された。彼らは、イエスのところに出て来た。
- そして十二人を任命された。そして彼らを使徒と呼ばれた。それは彼らをご自分と共におらせ、また宣教のために遣わすためであり、
- また悪霊を追い出す権威を持たせるためであった。
- そしてイエスは十二人を任命して、シモンにペテロという名を付けられた。
- ゼベダイの子ヤコブとヤコブの兄弟ヨハネを(任命された)。そして彼らにボアネルゲ、すなわち雷の子という名を付けられた。
- またアンデレ、ピリポ、バルトロマイ、マタイ、トマス、アルパヨの子ヤコブ、タダイ、熱心党員シモン、
- イスカリオテ・ユダを(任命された)。この人がイエスを裏切ったのである。
- そしてイエスは家に帰られた。すると群衆が再び集まって来た。それで食事を取ることができないほどになった。
- イエスの親族の者たちが(このことを)聞いて、イエスを捉まえようと出て来た。人々が、イエスの気が狂ってしまったと言っていたからである。
- エルサレムから下って来た律法学者たちは、イエスがベルゼブルに取り憑かれていると言っていた。また悪霊どものかしらによって悪霊どもを追い出していると言っていた。
- イエスは彼らを呼び寄せて、喩えをもって彼らに語っておられた。「どうしてサタンがサタンを追い出すことができようか。
- そして、もし王国が内部で対立し分裂しているなら、その王国は続かない。
- また、もし家が内部で対立して分裂しているなら、その家は決して立ち行かない。
- また仮にサタンが自分自身に対立し、分裂したならば、サタンは立ち行くことができず、滅びる。
- だれでも強い者の家に入り、初めにその強い者を捕らえて縛らない限り、その者の家財を奪うことはできない。その後、その家を奪い取る。
- 真実にわたしはお前たちに言う。人間の子たちは、あらゆる罪を、たとい神を冒涜したとしても、その冒涜の罪さえ赦して頂ける。
- しかし、だれでも聖霊を冒涜する者は、永遠に罪の赦しを得ることはなく、罪の永遠のさばきを受ける。」
- ──そのわけは、彼らが、イエスは汚れた霊につかれている、と言っていたからである。──
- その時、イエスの母と兄弟たちが来た。そして外に立ち、イエスを呼び出すために人を送った。
- その時、群衆がイエスの周りに座っていた。彼らはイエスに言った。「見よ。あなたの母と兄弟たちが外であなたを待っている。」
- するとイエスは彼らに答えられた。「だれがわたしの母、またわたしの兄弟か。」
- そしてイエスは、ご自分の周りに輪になって座っている人々を見回して言われた。「見よ。わたしの母とわたしの兄弟たち。
- 神のみこころを行う者は、だれでもわたしの兄弟姉妹であり、そしてわたしの母である。」
4
- そしてイエスは再び湖の畔で教え始められた。そして非常に多くの群衆がイエスに向かって集まって来た。それで、イエスは湖の上で一艘の舟に乗って座られた。そして群衆は湖に向かって岸辺にいた。
- イエスは、彼らに多くのことを、喩えを使って教え始められた。そしてイエスは、教えの中で、彼らに次のように言っておられた。
- 「お前たちは聞け。見よ。種を蒔く者が種を蒔くために出て行った。
- 種を蒔いている間に、道端に落ちた種があった。すると鳥が来て、それを食べ尽くしてしまった。
- ある種は、土が多くない石地の上に落ちた。すると土が深くないので、すぐに芽を出した。
- しかし、日が昇った時、それは焼けた。そして根がないので、枯れてしまった。
- また別の種はいばらの中に落ちた。そしていばらが伸びて、(種の)息を詰まらせてしまった。そのために実を結ばなかった。
- また別の種は良い地に落ちた。(そのような種は)芽を出して成長し、実を結ぶのである。そしてそれは三十倍、六十倍、百倍になる。」
- そしてイエスは、「聞く耳のある者は、聞け。」と言われた。
- そしてイエスが一人になられた時、イエスの取り巻きの人々が十二弟子たちと共に、イエスにその喩えについて尋ねた。
- それでイエスは彼らに言われた。「お前たちには、神の国の奥義が与えられている。しかし外部の者たちには、全てのことが喩えで語られる。
- それは彼らが『見ようとして見続けても、決して見ない。聞こうとして聞き続けても、決して理解できず、立ち返って赦されることが決してない。』ためである。」
- そしてイエスは彼らに言われた。「この喩えが分からないのか。それなら、他の全ての喩えをどのようにして理解するのか。
- その種を蒔いている人は、みことばを蒔いているのだ。
- みことばが道端に蒔かれたような人々とは、このような人々である。みことばを聞いた時、すぐにサタンが来て、彼らの(心の)中に蒔かれたみことばを取り去ってしまう。
- そして、石地の上に(みことばが)蒔かれた人々とは、このような人々のことである。彼らは、みことばを聞いた時、すぐにそれを喜んで受け入れる。
- しかし、彼ら自身の中に根がないので、一時的である。みことばゆえの困難や迫害が起きると、すぐにつまずいてしまう。
- そして、他に、いばらの中に蒔かれたような人々がいる。このような人々は、みことばを一時聞いたのである。
- しかし、この時代の色々な心遣い、豊かさからの惑わし、その他の色々な事についての欲望が入り込んできて、みことばの息を詰まらせて、実を結ばなくならせる。
- そして、良い地の上にみことばが蒔かれた人々とは、このような人々のことである。その人々は、みことばを聞いて受け入れ、ある人は三十倍、ある人は六十倍、ある人は百倍の実を結ぶ。」
- またイエスは彼らに向かって言われた。「まさかランプが(運ばれて)来るのは、枡の下や寝台の下に置かれるためではないだろう。そうではなく、燭台の上に置かれるためである。
- 今、隠されているものは、いずれ必ず明らかにされる。明らかにされることなしに、隠され続けるものは一つもない。
- 聞く耳を持っている者は聞け。」
- また彼らに引き続き語られた。「お前たちは聞いていることに気を付けよ。お前たちが(人のために)量る量りに従って、人はお前たちのために量り、一層厳しくお前たちにする。
- 持っている者は、与えられる。しかし持っていない者は、持っているものまで取り上げられる。」
- またイエスは語り続けられた。「神の国〔統治〕は、人が地の上に種を蒔くようである。
- その人は、夜寝て、日中は起きている。その種は、その人が知らないうちに芽を出し、成長する。
- 地は自ら実を実らせる。最初は苗、その次に穂、その次に穂に穀粒が満ちる。
- 実が熟した時、人はすぐに鎌を入れる。収穫の時が来ているからである。」
- そして語り続けられた。「神の国〔統治〕をどのように喩えようか。またどのような比喩で語ろうか。
- それはからし種のようである。それは地に蒔かれる時は、地に蒔かれる種の中で一番小さい。
- しかし、蒔かれると、芽を出し、全ての野菜よりも大きくなる。そして大きな枝を出し、その陰に空の鳥たちが宿り得るようになる。」
- イエスは、人々が聞いて(理解できるように)このような多くの喩えによって語られた。
- イエスは、人々には喩えによらずに話されなかった。しかしご自分の弟子たちには密かに全てのことを解き明かされた。
- さて、その日、夕方になったとき、イエスは彼らに「向こう岸に渡ろう。」と言われた。
- それで、彼らは、群衆をあとに残し、その舟に乗っておられるイエスをお連れした。他の舟〈複数〉がイエスと連れ立っていた。
- すると激しい突風が起こった。それで波がその舟の上に落ちかかって来て、その舟はとうとう(水で)いっぱいになりかかっていた。
- しかしイエスは船尾で枕をして眠っておられた。それで弟子たちはイエスを起こして言った。「先生。私たちが死にかかっていてもかまわれないのですか。」
- すると、イエスは起き上がり、風を叱りつけ、湖に対して言われた。「黙れ。静まれ。」すると風は止み、大なぎになった。
- そして、イエスは彼らに言われた。「お前たちはどうして臆病なのか。お前たちにはまだ信仰がないのか。」
- 彼らは非常な恐れに打たれ、互いに言っていた。「いったいこの方は何者なのか。風と湖までがこの方に服従するとは。」
5
- 彼らは湖の対岸のゲラサ人の地に着いた。
- イエスが舟から上がられた時、直ちに汚れた霊に憑かれた一人の人が墓場から出て来てイエスを出迎えた。
- この人は、墓場の中に住み着いていた。そして鎖を使っても、もはや彼を縛り付けておくことはだれにもできなかった。
- 彼は幾度も足かせと鎖で縛られていたことがあったが、その鎖は彼によって引きちぎられ、足かせも砕かれてしまっていたので、だれにも彼を押さえつける力がなくなっていた。
- それで彼は、夜も昼も常に、墓場や山で叫び続け、石で自分自身を傷付けていた。
- 彼は遠くからイエスを見て、イエスのところに向かって走って来て、ひれ伏した。
- そして彼は大声で叫んで言った。「いと高き神の子イエスよ。あなたと私と何の係わりがあるのですか。あなたに神の御名にかけてお願いします。私を苦しめないでください。」
- それはイエスが「汚れた霊よ。その人から出て行け。」と言っておられたからである。
- イエスはそれに対して「お前の名は何か。」と尋ねられた。するとそれは「私の名はレギオン。我々は大勢だからです。」と答えた。
- そしてそれらはイエスに、自分たちをこの地方の外へ追い出さないようにと熱心に頼んだ。
- さて、その山の中腹に、豚の大群が飼われていた。
- それらはイエスに願って言った。「我々を豚の群れの中に送り、それらの中に入らせてください。」
- それでイエスはそれらに(豚の中に入ることを)許された。するとその汚れた霊どもは出て行って、その豚たちの中に入った。すると二千匹ほどの豚の群れが湖まで断崖をなだれ下り、湖の中で溺れ死んでいった。
- それで豚を飼っていた者たちは逃げ出し、町と村々で報告した。すると人々は、何が起きたのかを見るために出て来た。
- そしてイエスのところに来て、悪霊に憑かれていた人、あのレギオンを宿していた人が着物を着て正気に返って座っているのを見た。それで恐れた。
- 見た人々は、その悪霊に憑かれていた人がどうなったのかを、また豚について人々に詳しく報告した。
- それで彼らはイエスに彼らの地域から立ち去ってくれるように願い始めた。
- それでイエスが舟に乗ろうとされた時、悪霊に憑かれていた人がイエスに、共におらせてくれるようにとしきりに願った。
- しかし、イエスはそれを許されなかった。そして彼に、「お前の家と家族のもとに帰り、主がどんなに大きなことをお前になさったか、そしてお前を(どんなに)憐れまれたかを、彼らに報告せよ。」と言われた。
- それで、彼は立ち去り、イエスが彼のためにどんなに大きなことをされたかをデカポリス地方で言い広め始めた。それで人々はみな驚いた。
- イエスが舟に乗って再び湖の向こう岸に帰られたとき、多くの群衆がイエスに会うために集まった。それでイエスは湖の岸辺にとどまっておられた。
- すると会堂管理者の一人でヤイロという名の人が来た。そしてイエスに会って、イエスの足もとにひれ伏した。
- そして彼は熱心にイエスに願って、「私の幼い娘が死にかかっています。お願いです。お出でくださって、彼女の上に手を置いて、彼女が癒され、生きることができるようにしてください。」 と言った。
- そこでイエスは彼と共に出かけた。大勢の群衆もイエスに従ってついて来た。そしてイエスに押し迫っていた。
- そこに、十二年間、出血を患っている一人の女性がいた。
- 彼女は多くの医者から何度もひどい取り扱いを受け、彼女の全財産を費やしてしまっていた。彼女は何一つ益を与えられなかったばかりか、かえって悪くなるばかりであった。
- 彼女はイエスについて聞いた。それで群衆の中に入り込み、イエスの後ろに回り、御衣を掴んだ。
- 彼女は、「イエスのお着物でも掴みさえすれば、私は必ず癒される。」と言っていたからである。
- するとすぐに、彼女の血の源が枯れ、鞭打ちのような苦痛から癒されたことをからだで知った。
- イエスもすぐに、ご自分から力が出て行ったことをご自身で知り、振り向いて群衆の中をご覧になり、「私の着物を掴んだのはだれか。」と言われた。
- イエスの弟子たちはイエスに言った。「あなたは群衆があなたに押し迫っているのを見ておられます。それなのにあなたは誰が私に触ったのかと言われるのですか。」
- しかし、イエスは、このことをした人を知ろうと見回しておられた。
- それで、その女は、自分の身に起きたことが分かったので、恐れ、そして震え、イエスの御前に来て、ひれ伏し、真実を全てイエスに語った。
- そこでイエスは彼女に言われた。「娘よ。お前の信仰がお前を癒したのだ。安らかに帰れ。お前の苦痛から解放され、健康であれ。」
- イエスがなお話しておられるとき、会堂管理者の家から人が来て、「あなたの娘さんは死んでしまいました。もうこれ以上先生を煩わせることはありません。」と言った。
- イエスは彼の語ったことばを側で聞かれた。そして会堂管理者に、「恐れるな。ただ信じ続けよ。」 と言われた。
- そして、ペテロとヤコブとヤコブの兄弟ヨハネ以外には、誰もご自分に従って来ることを許されなかった。
- 彼らは会堂管理者の家に着いた。イエスは、人々が泣き悲しみ、大声で叫んでいる大騒ぎをご覧になった。
- イエスは中に入られ、彼らに言われた。「なぜ大声で泣き騒いでいるのか。その子は死んではいない。眠っているのだ。」
- それで人々はイエスを嘲っていた。しかし、イエスは皆を外に出し、その子の父と母、そしてご自分と共にいる者たちを連れて、子どもがいる所に入られた。
- イエスは子どもの手を取り、彼女に「タリタ・クミ」と言われた。それを訳すと、「少女よ。わたしはお前に言う。起きよ。」である。
- するとすぐにその少女は起き上がり、歩き始めた。彼女が十二歳であったからである。すると直ちに彼らは非常な驚きに打たれて茫然となった。
- イエスは、このことを誰にも知らせてはならないと、厳しく命じられた。そして彼女に食べ物を与えるように言われた。
6
- イエスはそこから出て行き、故郷に行かれた。イエスの弟子たちも従って行った。
- 安息日になったので、イエスは会堂で教え始められた。そして多くの人々が聞いて驚いて言った。「これら(の知恵)はどこからこの人に来たのだろうか。何という知恵がこの人に与えられていることか。そしてこの人の手を通して行われているこのような力は何だろうか。
- この人は大工ではないのか。マリヤの子で、ヤコブとヨセとユダとシモンが兄弟で、彼の妹たちは、ここで我々と共にいるではないか。」そして彼らはイエスにつまずいた。
- そしてイエスは彼らに言われた。「自分の故郷、親族、家族内で重んじられる預言者は一人もいない。」
- それで、イエスは、そこでは力ある業を何一つ行うことができなかった。ただ少数の病人の上に手を置いて癒されただけであった。
- イエスは彼らの不信仰に驚かれた。
そして、イエスは、付近の村々を巡回しながら教えておられた。 - そして、あの十二人を招集し、彼らを二人ずつ遣わし始められた。そして、汚れた霊を追い出す権威を与えられた。
- そしてイエスは彼らに命令された。「旅のために杖一本以外に持って行ってはならない。パンも、(皮)袋も、胴巻きの中に銭も持って行ってはならない。
- しかし靴は履いておれ。下着は二枚着てはいけない。」
- また、イエスは彼らに言われた。「何処ででも、一軒の家に入ったならば、そこに、そこから出て行くまで留まっていなければならない。
- もしその場所がお前たちを歓迎せず、その人々がお前たちの言うことを聞かないならば、その人々への証として、お前たちの足の裏のちりを払い落としてからそこから出て行け。」
- そして、十二人は、出て行って、人々が悔い改めるようにと福音を宣べ伝えた。
- そして彼らは、多くの悪霊を追い出しながら、多くの病人にオリーブ油を塗り、癒して回った。
- イエスの御名が知れ渡ったのでヘロデ王も聞いた。そして人々は「バプテスマのヨハネが死人の中から生き返ったのだ。だから彼の中に奇蹟の力が働いているのだ。」と言っていた。
- しかし他の人々は「彼はエリヤだ。」と言い、またその他の人々は「彼は、(昔の)預言者の一人のような預言者だ。」と言っていた。
- しかしヘロデは(それを)聞いて、「私が首を切ったあのヨハネが生き返ったのだ。」と言っていた。
- このヘロデは、自分の兄弟ピリポの妻ヘロデヤを自分の妻にしていたために、そのヘロデヤのことで、人を遣わしてヨハネを捉まえ、牢に入れた。
- それは、そのヨハネがヘロデに、「あなたの兄弟の妻を自分の妻にしていることは違反である。」と言っていたからである。
- それで、そのヘロデヤはヨハネに対して憎しみを持っていた。それで彼女は彼を殺そうとずっと考えていたが、果たせないでいた。
- それはヘロデが、ヨハネが正しく聖なる人であることを知っていたので、彼を恐れていたからである。それでヘロデは、ヨハネを保護していた。そして彼から多くのことを聞きながら、どうすべきかが分からずに当惑していた。彼は喜んでヨハネの言うことを聞いていた。
- そこに好機が訪れた。ヘロデは、自分の誕生日に、重臣たちや、千人隊長たちや、ガリラヤの重だった人々のために祝宴を催した。
- その時、ヘロデヤの娘自身が入って来て、踊って、ヘロデと食卓に着いている人々を喜ばせた。それで、王はその少女に「欲しい物は何でも求めよ。そうしたら、あなたに与えよう。」と言った。
- そして「私に求める物は何でも、私の王国の半分でもあなたに与える。」と(力を込めて)誓った。
- 少女は出て行って、母親に「私は何を求めようか。」と言った。すると母親は言った。「バプテスマのヨハネの首を。」
- すると少女はすぐに中に入り、急いで王の前に行き、自ら頼んで言った。「お願いです。今すぐに、バプテスマのヨハネの首を皿の上に載せて私に下さい。」
- 王は悲嘆に暮れたが、自分の誓いと宴席に着いている人々の手前、少女を拒みたくなかった。
- そこで王はすぐに死刑執行人を遣わし、ヨハネの首を持って来るように命令した。それで死刑執行人は行って、牢でヨハネの首を切った。
- そして彼は皿の上にヨハネの首を載せて運んで来て、それを少女に渡した。そして、少女はそれを母親に渡した。
- ヨハネの弟子たちはそのことを聞き、やって来た。そして彼の遺体を引き取り、墓に納めた。
- さて、使徒たちはイエスのもとに集まった。そして自分たちがなしたことの全てを、また自分たちが教えたことの全てをイエスに報告した。
- それでイエスは彼らに「お前たちだけで、人里離れたところに行き、しばらくの間休め。」と言われた。それは、出たり入ったりする者が多かったので、食事する暇さえなかったからである。
- それで、彼らは舟に乗って、自分たちだけで人里離れたところに行った。
- 多くの人々が、彼らが行くのを見、そして気付いた。それであらゆる町々からその場所まで陸路を走って来た。それで弟子たちより先に着いた。
- イエスは舟から上がって、多くの群衆をご覧になった。そして彼らを深く憐れまれた。それは、彼らが羊飼いのいない羊のようであったからである。それで、イエスは彼らに多くのことを教え始められた。
- そして時刻が過ぎて遅くなった。それでイエスの弟子たちはイエスに近づいて言った。「この場所は人里から離れています。そして時刻も過ぎています。
- 彼らを解散させて、近辺の部落や村に行かせ、何か食べる物を自分で買わせてください。」
- するとイエスは答えて、「お前たちが彼らに食べ物を与えよ。」と言われた。すると彼らはイエスに、「私たちが行って、二百デナリのパンを買って、彼らに与えて食べさせるべきだということですか。」と言った。
- それでイエスは彼らに、「パンは幾つあるか。行って確かめよ。」と言われた。彼らは確かめてから「五つ。それに魚が二匹。」と言った。
- イエスは、全ての者を青草の上に組に分けて座らせるように弟子たちに命じられた。
- それで彼らは、百人ごと、あるいは五十人ごとのグループに分かれて座った。
- そしてイエスは五つのパンと二匹の魚を取り、天を見上げて感謝のことばを述べられた。そして、それらのパンを裂き、人々の前に置くようにと弟子たちに次々と与え続けられた。また魚も全ての者に分けられた。
- そして全ての者が食して満腹した。
- そして彼らは十二籠いっぱいのパン切れを集めた。そして二匹の魚の残りも集めた。
- パンを食べた者のうち、男の数は五千であった。
- そして、すぐにイエスは弟子たちを舟に強いて乗り込ませ、群衆を解散させている間に、湖の向こう岸のベツサイダに向かわせられた。
- そしてイエスは彼らに別れを告げて、祈るために山に向かって行かれた。
- 夕暮れになった時、その舟は湖の真ん中にあった。しかし、イエスはひとりで陸地におられた。
- 風が逆風であったので、弟子たちが漕ぎあぐねているのをイエスはご覧になって、夜中の三時頃、弟子たちに向かって湖の上を歩いて来られた。しかし、イエスは彼らの側を通り過ぎようと考えておられた。
- ところが、弟子たちはイエスが湖の上を歩いておられるのを見て、それが幽霊であると思った。それで彼らは大声で叫んだ。
- みなイエスを見、動揺してしまっていた。それで、イエスはすぐに彼らと話をされた。そして彼らに、「気を確かにせよ。わたしである。恐れていてはならない。」と言われた。
- そして、彼らに向かって行かれ、舟に乗り込まれた。すると風は止んだ。彼らは、心の中で(気が狂いそうになるほど)驚愕していた。
- 彼らはあのパンのことを理解していなかった。そればかりか、彼らの心は固くなってしまっていたからである。
- 彼らは湖を渡って対岸の地、ゲネサレに着いて、舟をつないだ。
- 彼らがその舟から上がった時、人々はすぐにイエスに気付いた。
- 彼らはその地域をくまなく走り回り、病人たちを床に乗せたままイエスがおられると聞いた場所へ続々と運んで来た。
- 村でも町でも田舎でもイエスが入って行かれるところでは何処ででも、人々は病人たちを担いで来て広場に置いていた。そしてイエスの着物の裾にでも触れさせてくれるようにと次々とイエスに願った。そして、イエスに触れた者はだれでも次々と癒された。
7
- パリサイ人たちと、エルサレムからやって来た幾人かの律法学者たちが、イエスのところに集まって来た。
- 彼らは、イエスの弟子のうちのある者たちが手を洗わずに、汚れた手でパンを食べているのを見た。
- ──パリサイ人とユダヤ人の全ては、先祖たちからの言い伝えを堅く守っていたので、必ず手を儀式張って念入りに洗ってから食事していた。
- また市場から帰った時は、必ず全身を洗ってきよめてから食事していた。その他、杯、水差し、銅器、食卓等を洗うことなど、堅く守るようにと受け継いだしきたりが多かった。──
- パリサイ人たちと律法学者たちはイエスに尋ねた。 「なぜあなたの弟子たちは先祖たちからの言い伝えに従って歩まず、汚れた手でパンを食べているのか。」
- イエスは彼らに言われた。「イザヤはお前たち偽善者について正しく預言している。だから次のように書かれているのだ。『この民は、口ではわたしを敬っている。しかし、彼らの心はわたしから遠く離れている。
- 彼らはわたしを空疎に拝んでいる。彼らが教えている教えは、人間の戒めにすぎない。』
- お前たちは神の戒めを捨ててしまって、人間の言い伝えを堅く守っている。」
- また言われた。「お前たちは、自分たちの言い伝えを守るために、なんと巧妙に神の命令を捨てていることよ。
- 実にモーセは、『あなたの父と母を敬え。』また『父と母をののしる者は殺せ。』と言った。
- だが、お前たちは、『もしある人が父、また母に向かって、「あなたがたが私から受け取るはずだった全ての物を、コルバン、すなわち(神への)供え物にした。」と言うならば、その人に、それ以上、父、母のために何も行わせてはならない。』と言っている。
- お前たちは、お前たちの受け継いだ言い伝えによって神のみことばの権威を否定している。実にお前たちはこれと同類のことを多く行っているではないか。」
- そしてイエスは再び群衆をご自分に呼び寄せて言われた。「お前たちはわたしの言うことを聞いて、(その意味を)よく理解せよ。
- 外から人の中に入って来るものは何一つ人を汚さないが、人の中から外に出て行くものが人を汚すのである。」
- (なし)
- イエスが群衆から離れて家に入られた時、弟子たちはその喩えについて質問した。
- イエスは彼らに「お前たちもそのように鈍いのか。外から人の中に入る物は、人を汚すことができないことが分からないのか。
- なぜならば、それはその人の心には入らず、腹に入り、そして肥溜めの中に出されるからである。」と言われて、全ての食物をきよいとされた。
- また言われた。「人間から出て行くものが、それこそ人間を汚すものである。
- 人間の心の中から、不品行、盗み、殺人、姦淫、貪欲、悪意、欺き、好色、ねたみ、冒涜、高慢、愚かさなどの悪い考えが出て来るのだ。
- これらの悪がみな、内側から出て、人間を汚すのである。」
- そしてイエスはそこから立ち上がられ、ツロの地方に向けて出て行かれた。イエスは、ある家に入られるとき、だれにも知られたくなかったが、気付かれずにいることができなかった。
- その逆に、汚れた霊に取り憑かれている幼い娘を持っている一人の女がイエスのうわさを聞いて、すぐにやって来た。そしてイエスの御足もとにひれ伏した。
- この女はスロ・フェニキア生まれのギリシア人であった。そして自分の幼い娘から悪霊を追い出してくださいとイエスに願い続けた。
- するとイエスは言われた。「初めに、子どもたちを満腹させなければならない。それは、子どもたちからパンを取り上げて、小犬に投げてやることは良くないからだ。」
- しかし、その女は答えて言った。「主よ。しかし、食卓の下の小犬は、子どもたちのパンくずを食べます。」
- そこでイエスは言われた。「そうだ。そのことばで十分だ。家に帰れ。悪霊はお前の娘から出て行ってしまっている。」
- それで彼女が家に帰ってみると、その少女は床の上で眠っており、悪霊がすでに出て行ってしまっていることが分かった。
- そして、イエスは再びツロの地方から出て、シドンを通って、ガリラヤ湖の、デカポリス地域に属する沿岸の中程の場所に来られた。
- すると、ある人々が、耳が聞こえず、口もきけない人を連れて来て、彼の上に手を置いてくださるように願った。
- そこで、イエスは、その人だけを群衆の中から連れ出し、その両耳に指を差し入れ、それからつばきをして、その人の舌に触られた。
- そして、天を見上げ、深く息をついて、その人に「エパタ」すなわち、「開け」と言われた。
- するとすぐに彼の耳が開かれ、舌の拘束が解かれ、正しく話し始めた。
- イエスは、だれにも言ってはならない、と命じられた。しかし、イエスが彼らに(語るなと)命令されたのに、彼らはかえって一層激しく宣伝し始めた。
- そして彼らは非常に驚いて言った。「この方が行ったことはみなすばらしい。耳の聞こえない者たちを聞こえるようにし、語れない者たちを語れるようにされた。」
8
- その頃のことであった。集団が非常に大きくなり、食物が全くなくなった時、イエスは弟子たちをご自分に呼び寄せて言われた。
- 「わたしはこの群衆を深く憐れんでいる。なぜならば彼らはすでに三日間もわたしと共にいる。その上、彼らは食べ物を持っていない。
- そしてもし彼らを空腹のまま家に帰らせるならば、途中で疲れ果ててしまう。その上、彼らのある者は、遠方から来ている。」
- それで弟子たちはイエスに答えた。「ここ荒野の中で、だれが、どこからのパンでこの人々を満腹させることができるでしょうか。」
- するとイエスは彼らに「お前たちはパンをどれほど持っているか。」と尋ねられた。彼らは「七つ。」と答えた。
- それでイエスは、群衆に地面の上に座るように命じられた。そしてその七つのパンを取り、感謝をささげてから裂かれた。そしてそれらを分配するように弟子たちに与え続けられた。それで弟子たちはそれらを分配した。
- また、魚も少しあったので、それらを祝福した後、それらも分配するように言われた。
- 彼らは(それを)食して満腹した。そして余ったパン切れを編み籠七つ分集めた。
- 彼らの人数は約四千であった。それからイエスは彼らを解散させられた。
- そしてイエスはすぐに弟子たちと共に舟に乗り、ダルマヌタ地方に行かれた。
- その時、パリサイ人たちが出て来て、イエスと論争し始めた。彼らはイエスに天からのしるしを示すように求めて、イエスを試した。
- イエスは、霊において嘆きつつ、「なぜこの時代はしるしを求めるのか。真実にお前たちに言う。この時代にはしるしは決して与えられない。」と言われた。
- そしてイエスは彼らを離れて、再び小舟に乗り、対岸に行かれた。
- 彼らはパンを持って来ることを忘れた。それで舟の中には一つのパンしかなかった。
- その時、イエスは次のように語って命じられた。「見よ。パリサイ人のパン種とヘロデのパン種とに注意し、警戒せよ。」
- そこで、弟子たちは、パンを持っていないことで、互いに議論し始めた。
- イエスはそれに気づいて言われた。「なぜ、パンを持って来なかったことで議論しているのか。まだ分からず、また悟らないのか。お前たちの心は頑なになってしまっているのか。
- お前たちは、目を持っていても見えないのか。耳を持っていても聞こえないのか。お前たちは覚えていないのか。
- わたしが五千人のために五つのパンを裂いた時、お前たちはパン切れに満ちた編み籠をいくつ取り上げたのか。」彼らは「十二。」と答えた。
- 「四千人のために七つのパンを裂いた時、お前たちはパン切れで一杯になった編み籠をいくつ取り上げたのか。」彼らは「七つ。」と答えた。
- イエスは彼らに「まだ悟らないのか。」と言われた。
- そして、彼らはベツサイダに着いた。すると人々は、一人の目の見えない男を連れて来た。そしてイエスに、その人に手を触れてくれるように願った。
- それでイエスは目の見えない人の手を取って、村の外へ連れて行かれた。そして彼の両目につばを吐き、彼の(目の)上に両手を置いて尋ねられた。「何か見えるか。」
- それで彼は、再び見えるようになって言った。「人々が見えます。私には木が歩いているように見えます。」
- それから、もう一度イエスは彼の両目の上に手を置かれた。それで彼は見つめた。そして彼はすっかり回復し、全てのものがはっきり見えるようになった。
- それでイエスは「村に入ってはならない。」と言って、彼を家に帰らせられた。
- そしてイエスと弟子たちはピリポ・カイザリアの村々に向かって出て行った。そして道の途中、弟子たちに尋ねて言われた。「人々は私をだれであると言っているか。」
- 彼らはイエスに答えて言った。「バプテスマのヨハネだと。しかしある者はエリヤだと、またある者は預言者たちの一人だと言っています。」
- それでイエスは彼らに尋ねられた。「では、お前たちはわたしをだれであると言うのか。」ペテロはイエスに答えて言った。「あなたはキリストです。」
- それでイエスは、ご自分についてだれにも言わないように、彼らを厳しく戒められた。
- そして、イエスは、人の子が多くの苦しみを受けなければならないことを、そして長老、祭司長、律法学者たちによって否認されて捨てられ、殺され、三日の後によみがえらなければならないことを教え始められた。
- そしてみことばを公然と話し始められた。それでペテロはイエスを脇に引き寄せ、イエスを諌め始めた。
- しかしイエスは後ろを振り向いて、弟子たちを見ながら、ペテロを叱って言われた。「引き下がれ、サタン。なぜならば、お前は神のことを思わず、人のことを思っているからだ。」
- そしてイエスは群衆を弟子たちと共に御許に呼び寄せて、彼らに言われた。「だれでもわたしについて来たいと思うなら、直ちに自分を捨て、直ちに自分の十字架を背負え。そしてわたしに従い続けよ。
- だれでも自分のいのちを救おうとする者は、必ずそれを失う。だれでも、わたしと福音とのためにいのちを失う者は、必ずそれを救う。
- 人が、たとい全世界を得ても、いのちを損じたら、何の益があるのか。
- 人は、自分のいのちの代価として何を与え得ようか。
- この姦淫という罪の世の中で、わたしとわたしのことばとを恥じる全ての者、そのような者を、この人の子は、御父の栄光をまとって、聖なる御使いたちと共に来る時に恥とする。」
9
- そしてイエスは彼らに言われた。「真実にわたしはお前たちに言う。ここに立っている者の中に、神の王国が力をもってすでに来ていることを見るまでは、死を決して味わわない者たちがいる。」
- それから六日後、イエスは、ペテロとヤコブとヨハネとを呼び寄せ、ある高い山に彼らだけを密かに連れて登られた。そして彼らの面前でイエスの御姿が変えられた。
- イエスの御衣は、地上の漂白屋がそれ以上白くすることができないほど白く、異様に白く輝き始めた。
- また、エリヤがモーセと共に現れた。そして彼らはイエスと語り合っていた。
- その時、ペテロがイエスに声を発して、「先生。私たちがここにいることは、すばらしいことです。私たちは、幕屋を三つ造ります。あなたのために一つ、モーセのために一つ、エリヤのために一つ。」と言った。
- 彼がそう言ったのは、何を言うべきかを知らなかったからである。彼らは非常な恐怖にかられていたのである。
- その時、雲がわき起こって彼らを包んだ。そしてその雲の中から、「この者はわたしの子、愛する者である。お前たちは彼の言うことを聞け。」と言う声があった。
- それで急いで彼らは辺りを見回したが、だれも見えなかった。彼らと一緒にいるのは、イエスおひとりであった。
- そして彼らが山から下って来る時、イエスは彼らに、この人の子が死人たちの中からよみがえらされる時まで、見たことをだれにも決して話さないようにと厳しく命じられた。
- それで彼らはそのみことばをしっかり受け入れたが、死人たちの中からよみがえるとは何のことなのかと彼らの間で論じ合っていた。
- そして彼らはイエスに「なぜ律法学者たちはエリヤがまず来なければならないと言っているのですか。」としきりに尋ねた。
- それでイエスは彼らに言われた。「まずエリヤが来て、全てのことを立て直す。しかし、その一方で、この人の子について、彼が多くの苦しみを受け、辱められなければならないとも書かれてあるのはどうしてなのか。
- そうだ、わたしはお前たちに言う。エリヤはすでに来てしまったのだ。そして人々は彼に対して、彼について書かれているとおり、思いどおりのことを全て行ったのだ。」
- さて、彼らは、弟子たちのところに帰って来たが、大勢の群衆が弟子たちの周りを取り巻いており、また律法学者たちが彼らと議論しているのを見出した。
- するとすぐに群衆はイエスを見つけ、愕然とした。そしてイエスのところに走り寄って来て挨拶した。
- それでイエスは彼らに「お前たちは、彼らと何を議論しているのか。」と尋ねられた。
- すると群衆の中の一人がイエスに答えた。「先生。口のきけない霊に憑かれている私の息子を先生のところに連れて来ました。
- そして、それが彼を捕らえると常に彼を引き倒します。そして彼は泡を吹き、歯をきしらせ、からだを硬直させます。それで、霊を追い出してくださいとあなたの弟子たちに言ったのですが、彼らにはできませんでした。」
- イエスは彼らに答えて言われた。「ああ、不信仰の世よ。わたしはいつまでもお前たちといっしょにはおれないのだ。いつまでもお前たちを我慢し続けるわけにはいかないのだ。その子をわたしのところに連れて来い。」
- それで彼らはその子をイエスのところに連れて来た。彼がイエスを見た時、その霊が直ちに彼に激しい痙攣を起こさせた。そして彼は地面に倒れ、泡を吹きながら転げ回っていた。
- イエスは彼の父親に尋ねられた。「この子にこのようなことが起きてからどのくらいになるのか。」すると父親は「幼い時からです。
- その霊は彼を滅ぼすために何度も火の中にも、水の中にも投げ込みました。しかし、もし、できるならば、私たちを助けてください。そして私たちに憐れみを与えてください。」と答えた。
- それでイエスは彼に言われた。「もし、できるならば(と言うのか)。わたしは、信じる者のためには、全てが可能である。」
- すぐにその子の父親は叫んで言い始めた。「私は信じます。私の不信仰をお助けください。」
- イエスは、群衆が一団となって走って来るのをご覧になって、汚れた霊を、「口と耳を塞ぐ霊。このわたしがお前に命じる。この子から直ちに出て行け。今後、決してこの子の中に入るな。」と言って、厳しく叱りつけられた。
- するとその霊は、叫び声を上げ、その子を激しく痙攣させて出て行った。それでその子は死んだようになった。そのために多くの者たちが、「この子は死んでしまった。」と言った。
- しかし、イエスはその子の手を取って、起こされた。それでその子は立ち上がった。
- そしてイエスが家の中に入られてから、弟子たちは一人ひとりイエスに尋ね始めた。「なぜ私たちはあの霊を追い出せなかったのですか。」
- すると、イエスは彼らに「この種の霊は、祈りによらない限り、何によっても出て行かない。」と言われた。
- そして彼らはそこから出て、ガリラヤ地方を通って歩いて行った。イエスは、だれにも知られないようにしておられた。
- それは、イエスが弟子たちに、「この人の子は人々の手に引き渡される。そして人々はこの人の子を殺す。しかし、殺された後、三日目によみがえる。」と教え始めておられたからである。
- しかし、弟子たちはそのみことばを理解できないでいた。そして質問することを恐れていた。
- さて、彼らはカペナウムに来た。そしてイエスは、家に入ってから弟子たちに、「お前たちは来る途中何を議論していたのか。」と質問された。
- しかし彼らは黙っていた。それは、彼らが、途中、だれが一番偉いかと互いに言い合っていたからである。
- それで、イエスは座り、十二弟子を呼び寄せ、彼らに言われた。「もしだれでも一番になりたいならば、皆のしんがりになり、奉仕者であれ。」
- そしてイエスは一人の幼子を連れて来て、彼らの真ん中に立たせ、そしてその子を両腕の中に抱いて言われた。
- 「このような幼子たちの一人を、わたしの名のゆえに受け入れる者はだれでも、わたしを受け入れるのである。またわたしを受け入れる者はだれでも、わたしを受け入れるのではなく、わたしを遣わされた方を受け入れるのである。」
- ヨハネがイエスに言った。「先生。私たちは、ある者があなたの御名によって悪霊どもを追い出しているのを見ました。それで、彼が私たちの仲間ではないので、私たちは彼にやめさせています。」
- しかし、イエスは言われた。「お前たちは彼にやめさせてはならない。それは、わたしの名によって力ある業を行い、その後すぐにわたしのことを悪く言うことができる者は一人もいないからである。
- わたしたちに反対しない者は、わたしたちの味方である。
- お前たちがわたしのものであるという理由で、お前たちに一杯の水でも飲ませる者はだれでも、真実にわたしは言う、決して報いを失うことはない。
- 実に、わたしを信じるこれらの小さい者たちの一人でもつまずかせる者は、その者の首の回りに重い石臼がくくり付けられ、海の中に投げ入れられてしまうほうが、彼にとってむしろ良いのだ。
- それゆえ、もしお前の手の一つがお前につまずきを起こさせるなら、それを切り捨てよ。お前にとって、両手を持って、火が消えないゲヘナに投げ入れられるよりも、片手でいのちに入るほうが良い。
- (なし)
- また、もしお前の足の一つがお前につまずきを起こさせるなら、それを切り捨てよ。お前にとって、両足を持ってゲヘナの中に投げ入れられるよりは、片足でいのちに入るほうが良いのだ。
- (なし)
- また、もしお前の目の一つがお前につまずきを起こさせるならば、それをえぐり出せ。お前にとって、両目を持ってゲヘナに投げ入れられるよりは、片目で神の御国に入るほうが良いのだ。
- そのゲヘナでは彼らのうじは死ぬことがなく、火は消えることがない。
- 実に、全てのものは、火によって(塩味を)味付けられるものである。
- 塩は良いものである。しかし、塩が塩味を無くしたならば、お前たちは何によってそれに味付けできようか。お前たち自身の中に塩を保て。そして、互いの間に平和を保て。」
10
- そして、イエスは立ち上がり、そこからユダヤの、ヨルダン川の向こう側にある地方に行かれた。すると、群衆が再びイエスのところに集まって来た。それで、イエスは、いつもしておられたとおり、再び彼らを教え始められた。
- するとパリサイ人たちがイエスのところにやって来て、イエスを試すために、夫が妻を離別することが律法にかなっているかどうかと質問した。
- それで、イエスは彼らに答えて、「モーセはお前たちに何と命じているか。」と言われた。
- それで、彼らは「モーセは離婚状を書いて妻を離別することを認めました。」と言った。
- イエスは彼らに言われた。「モーセは、お前たちの心の頑なさのゆえに、そのような命令をお前たちのために書いたのだ。
- しかし、天地創造の初めから、神は人を男性と女性に造られたのだ。
- このゆえに、人はその父と母を離れ(その妻に進んで密に結びつい)ていなければならない。
- それで、その二人は一体である。であるから彼らはもはや二人ではなく、一人である。
- それで、神が結び合わせた者たちを、人は引き離してはならない。」
- それで弟子たちは、家の中に入って後、もう一度イエスにこのことについて質問し始めた。
- それでイエスは彼らに言われた。「だれでも自分の妻を離別して、別の女性と結婚する者は、彼女に対して姦淫を犯すのである。
- そして、もし妻が彼女の夫から離れて、別の男と結婚するならば、彼女は姦淫を犯しているのである。」
- さて、人々は、イエスに触っていただこうと幼い子どもたちをイエスのところに連れて来た。しかし、弟子たちは彼らを叱った。
- しかし、それを見たイエスは怒られ、彼らに言われた。「子どもたちをわたしのところに来るままにさせよ。彼らを妨げてはならない。神の御国はこのような者たちのものであるからだ。
- 真実にわたしはお前たちに言う。幼子のように、神の御国を受け入れない者はだれでも、決してその中に入ることができない。」
- そしてイエスは彼ら〈子どもたち〉を両腕に抱き、彼らの頭の上に手を置いて祝福された。
- それからイエスが道を歩いて行かれると、一人の男が走って来て、イエスの前にひざまずいて、イエスに尋ねた。「良い先生。私が永遠のいのちを受け継ぐためには、何をなすべきでしょうか。」
- それで、イエスは彼に向かって言われた。「なぜわたしを良い人と呼ぶのか。唯一の神以外に良い方はひとりもいない。
- お前は律法を知っているではないか。『殺すな。姦淫を犯すな。盗むな。偽証を立てるな。欺き取るな。父と母を敬え。』」
- 彼は言った。「先生。それら全てを私は幼い時から自ら守って来ました。」
- それでイエスは彼を見つめ、慈しんで彼に向かって言われた。「お前には一つのことが欠けている。行って、お前が持っている物を全て売って、貧しい者たちに与えよ。そうすればお前は天に宝を持つようになる。そして直ちに来て、わたしに従い続けよ。」
- 彼は、そのことばを聞いてふさぎ込み、悲しみながら去って行った。なぜならば、彼は多くの財産を持っていたからであった。
- イエスは周りを見回して弟子たちに言われた。「富を持っている者たちが神の御国に入ることは、何と難しいことか。」
- それで弟子たちは、イエスのことばに驚いた。それでイエスは、再び彼らに答えて言われた。「子たちよ。神の御国に入ることは、何と難しいことか。
- 金持ちが神の御国に入るよりも、らくだが針の穴を通るほうがもっと容易である。」
- それで彼らは一層驚いて互いに向かって言った。「ではだれが救われることができるのだろうか。」
- イエスは彼らを見つめて言われた。「人間に不可能なことも、神にはそうではない。全てのことが神にとって可能である。」
- ペテロはイエスに向かって言い出した。「見てください。私たちは全てを捨てて、あなたに従って来ています。」
- イエスは言われた。「真実にお前たちに言う。わたしのため、また福音のために、自分の家、兄弟、姉妹、父母、子どもたち、畑を捨てた者で、今のこの世において、家、兄弟、姉妹、母、子どもたち、また畑を、迫害と共に百倍を受け、また来るべき永遠の時代においては永遠のいのちを百倍受けない者はいない。
- しかし、多くの先の者が終わりの者となり、終わりの者が先の者になる。」
- さて、彼らはエルサレムに向かう途中にあった。そして、イエスは彼らの先頭に立って歩いて行かれた。それで彼らは驚いていた。そして、彼らは従いながらも怯えていた。それでイエスは、十二弟子を側に呼び寄せて、ご自分に起きようとしていることを彼らに話し始められた。
- 「見よ。わたしたちは、今、エルサレムに行こうとしている。そしてこの人の子は、祭司長たち、律法学者たちに引き渡される。そして彼らは、この人の子を死に定める。そして彼らは彼を異邦人に引き渡す。
- すると彼らはこの人の子を嘲り、唾をかけ、鞭で打ち、そして殺す。しかし、この人の子は、三日の後によみがえる。」
- その時、ゼベダイの息子たち、ヤコブとヨハネがイエスに向かって進み出て、「先生。お願いです。私たちの求めていることをかなえてください。」と言った。
- それで、イエスは彼らに、「お前たちのために、わたしに何をして欲しいのか。」と言われた。
- それで、彼らはイエスに、「あなたが栄光をお受けになった時、私たちの一人があなたの右に、もう一人があなたの左に座ることをお許しください。」と言った。
- そこで、イエスは彼らに言われた。「お前たちは、自分が何を求めているのかが分かっていない。お前たちは、わたしが今飲もうとしている杯を飲むことができるか。また、わたしが受けようとしているバプテスマを受けることができるか。」
- 彼らはイエスに言った。「できます。」そこで、イエスは彼らに言われた。「わたしが飲もうとしている杯をお前たちは必ず飲み、またわたしが受けようとしているバプテスマをお前たちは必ず受ける。
- しかし、わたしの右と左に座らせることは、わたしの決めることではない。そうではなく、それは、そのために(御父によって)備えられた者たちに与えられるのである。」
- 十人は、それを聞いてヤコブとヨハネについて腹を立て始めた。
- それで、イエスは、彼らをご自分に呼び寄せて言われた。「異邦人の中で支配者と見なされている者たちは、人々の上で権力者として威張り散らしており、そして彼らの中の有力者らは、人々の上に権威を振り回していることをお前たちは知っている。
- しかし、お前たちの中ではそのようなことがあってはならない。しかし、お前たちの間で有力者でありたいと願う者は、だれでも、お前たちの奉仕者であれ。
- また、だれでも、お前たちの間でかしらでありたいと求める者は、全ての者の奴隷であれ。
- 実に、この人の子は仕えられるためではなく、仕えるために、そして多くの者に代わって、自分のいのちを贖いの代価として与えるために来たのである。」
- そして、彼らはエリコに来た。イエスと弟子たちと、かなりの群衆がエリコから出ようとしていた時、ティマイの息子で目の見えない乞食のバルティマイが道の傍らにいつものように座っていた。
- ところが、ナザレのイエスがおられると聞いて叫び始め、言い出した。「ダビデの子イエスよ。私を憐れんでください。」
- しかし、多くの者が彼を黙らせようとした。しかし、彼は一層大声で「ダビデの子よ。私を憐れんでください。」と叫び始めた。
- するとイエスは立ち止まって、「彼を呼べ。」と言われた。それで彼らは、その目の見えない人に呼びかけて、「元気を出せ。立ち上がれ。主がお前を呼んでおられる。」と言った。
- それで、その人は上着を脱ぎ捨て、躍り上がって立ち上がり、イエスのところに来た。
- イエスは彼に答えて、「お前はわたしに何をして欲しいのか。」と言われた。それで、その目の見えない人はイエスに言った。「ラボニ〈先生〉。もう一度見えるようになることです。」
- それで、イエスは彼に言われた。「行け。お前の信仰がお前を癒した。」すると、直ちに彼は再び見えるようになった。そして彼はイエスに従い歩み始めた。
11
- そして、彼らがエルサレムに向かって、オリーブ山のふもとのベテパゲとベタニアに近づいた時、イエスは二人の弟子を遣わされた。
- そして彼らに、「向こう側の村に行け。そして村に入るとすぐに、今までだれも乗ったことがないロバの仔が繋がれているのを見つける。それを解いて連れて来い。
- もしだれかがお前たちに『なぜそうしているのか。』と尋ねたなら、『主が必要としておられる。(用が済んだら)主はすぐにここに送り返される。』と言え。」と言われた。
- 彼らは出かけて行って、四面道路に囲まれた集落の、道路に面した家の戸口にロバの仔が繋がれているのを見つけた。それで、彼らはそれを解いた。
- すると、そこに立っていた人々のある者たちが彼らに「なぜそのロバの仔を解いているのか。」と言った。
- そこで、彼らはイエスが言われたとおりに言った。すると、彼らはそれを許した。
- 彼らはそのロバの仔をイエスのところに連れて来た。そして、彼らはそのロバの仔の上に彼らの上着を掛けた。それでイエスはその上に座られた。
- すると多くの者が彼らの上着を道の上に広げた。また他の者たちは、野から伐って来た葉のついた木の枝を道に広げた。
- そして前を行く者たちと、後ろからついて来る者たちが大声で叫んでいた。「ホサナ。主の御名によって来ておられる御方に祝福あれ。
- 来るべき、私たちの父ダビデの国に祝福あれ。ホサナ。いと高きところに。」
- そしてイエスはエルサレムの宮に入られた。そして、全てのものを見て回られた後、時刻もすでに夕方になろうとしていたので、十二弟子と共にベタニアに向けて出て行かれた。
- その翌朝、彼らがベタニアから出て行く時、イエスは空腹になられた。
- そして、葉の茂った一本のイチジクの木を遠方から見られ、その木に実を見つけることができればと近づかれたが、葉の他に何も見つけることができなかった。その時期がイチジクの季節でなかったからである。
- それで、イエスはその木に向かって声を出して言われた。「もはや、今後いつまでも、だれもお前の実を食べることがないように。」弟子たちは、イエスの言われることばを聞いていた。
- 彼らはエルサレムに入った。そして、イエスは宮の中に入られ、宮の中で売ったり買ったりする者たちを追い出し始められた。また金の両替人たちの机と、鳩を売る者たちの椅子とをひっくり返された。
- そして、イエスは、だれにも器を持ったまま宮の中を通り抜けることをお許しにならなかった。
- またイエスは、「『わたしの家は、全ての国民によって祈りの家と呼ばれる。』と書かれているではないか。それなのにお前たちは、それを強盗の巣窟にしてしまっている。」と教え、語っておられた。
- また、祭司長たちと律法学者たちはこのことを聞いて、イエスを殺す方法を探し始めた。それは彼らがイエスを恐れていたからであり、また群衆の全てがイエスの教えに驚いていたからであった。
- そして、夕方になったので、彼ら〈イエスと弟子たち〉は町の外に向かって出て行った。
- 朝早く、彼らは、道を歩いて側を通り過ぎる時、あのイチジクの木が根から枯れてしまっているのを見た。
- それを思い出したペテロがイエスに言った。「先生。見てください。あなたがのろわれたイチジクの木が枯れてしまっています。」
- それでイエスは答えて言われた。「神をしっかりと信じておれ。
- わたしは真実にお前たちに言う。だれでも、この山に向かって、『持ち上げられて、海の中に投げ込まれよ。』と言い、その心の中で、疑わず、自分が言ったことが成就されると信じているならば、そのとおりになる。
- だから、わたしはお前たちに言う。お前たちが祈り願うことは全て、かなえられると信じよ。そうすれば、それら全ては与えられる。
- そして祈るために立つ時、お前たちが、もしだれかに対して敵意を持っているならば、天にいますお前たちの父にお前たちの罪を赦していただくために、その人を赦せ。」
- (なし)
- そして彼らは再びエルサレムに来た。またイエスが宮の中を歩いておられる時、祭司長たちと律法学者たちと長老たちがイエスのところにやって来た。
- そして「あなたは何の権威によってこれらのことを行っているのか。あるいは、だれがあなたにこれらのことを行う権威を与えたのか。」とイエスに向かって言い出した。
- それでイエスは彼らに言われた。「わたしもお前たちに、一つのことを尋ねる。それに答えよ。そうすれば、わたしが何の権威によってこれらのことを行っているかをお前たちに語ろう。
- ヨハネのバプテスマは天からか、それとも人からか、わたしに答えよ。」
- すると彼らは互いに議論し始め、「もし私たちが、天から、と言えば、彼は『それでは、なぜお前たちは彼を信じなかったのか。』と言うだろう。
- しかし、もし私たちが、人からだ、と言えば。──」と言った。彼らは群衆を恐れていた。それは、全ての人が、ヨハネは預言者であったと本当に認めていたからである。
- それで、彼らはイエスに答えて「私たちには分からない。」と言った。それでイエスは彼らに対して「わたしもお前たちに、何の権威によってこれらのことを行っているかを語らない。」と言われた。
12
- それからイエスは、喩えによって彼らに語り始められた。「一人の人がぶどう園を作った。そしてその周りを垣で囲み、地面を掘って酒蔵を造った。また塔を建てた。そして、それを小作人に賃貸しして、旅に出て行った。
- 彼は、収穫の時期になったので、ぶどう園の収穫の中から(自分の)取り分を小作人たちから取るために、一人のしもべを遣わした。
- しかし、彼らは、そのしもべを捕らえて打ち叩き、空手で送り返した。
- 彼は再び、もう一人のしもべを彼らに遣わした。彼らはその者の頭を打って傷を負わせ、侮辱した。
- すると彼はもう一人を遣わした。すると彼らは彼を殺した。それで、彼は他の多くの者を遣わしたが、彼らはそのうちの、ある者たちを打ち叩き、他の者たちを殺した。
- 彼はなお、もう一人を持っていた。それは彼の愛する息子であった。彼は息子を最後に、小作人たちに遣わした。彼は、彼らが息子ならば尊ぶと思ったからであった。
- しかし、その小作人たちは、『彼は跡取りだ。さあ、彼を殺そう。そうしたら彼の相続財産は我々のものになるのだ。』と互いに言った。
- そして彼らは彼を捉まえて殺してしまった。そしてぶどう園の外に投げ捨てた。
- さて、ぶどう園の主人はどうするだろうか。彼は必ず来て、小作人たちを殺してしまい、ぶどう園を他の者たちに与える。
- お前たちは聖書のこの箇所を読んだことがないのか。『家を建てる者たちが価値を認めなかった石が、隅の頭石となった。
- それは、主によってなされたことである。そしてそれは、私たちの目には驚きである。』」
- 彼らは、イエスを捕らえようと機会を狙い始めた。しかし彼らは群衆を恐れていた。それは、イエスが、彼らに向けてその喩えを語られたと彼らが認めたからであった。それで、彼らはイエスを残して、去って行った。
- そして彼らは、パリサイ派とヘロデ党の中からある者たちを、イエスの言葉尻を捉まえてイエスを捕らえようと送って来た。
- 彼らはやって来て、イエスに言った。「先生。私たちは、あなたが真実な方で、だれをも恐れないことを知っています。実に、あなたは人の顔色を見ずに、真理に基づいて、神の道を教えています。さて、カイザルに税金〔人頭税〕を納めることは律法にかなっていますか、それともかなっていませんか。納めるべきか、納めるべきでないか、どちらですか。」
- イエスは彼らの偽善を知っておられたので、彼らに言われた。「なぜお前たちはわたしをためすのか。デナリ銀貨を一枚持って来て見せよ。」
- それで彼らは持って来た。そこでイエスは彼らに向かって「この肖像はだれのか。またこの銘はだれのか。」と言われた。彼らはイエスに「カイザルのです。」と言った。
- それでイエスは彼らに言われた。「カイザルのものは、カイザルに返せ。そして神のものは、神に返せ。」彼らはイエスのことばに非常に驚いていた。
- また、復活はないと言っているサドカイ人たちが、イエスのところに来て、質問して言った。
- 「先生。モーセは私たちのために、『もし、ある人の兄弟が死んで、妻を残し、しかも子を残さなかったならば、その人の兄弟はその残した妻を受け入れ、死んだ兄弟の子をもうけなければならない。』と律法に書きました。
- 七人の兄弟がいました。長男が妻をめとりました。しかし、彼は子を残さずに死にました。
- そこで次男がその女をめとりましたが、子を残さずに死にました。そして三男も同様でした。
- そして七人とも子を残しませんでした。そして全ての者の最後に、その女も死にました。
- さて、復活の時が来て、彼らがよみがえるならば、その女はだれの妻になるのでしょうか。その七人みなが彼女を妻にしたのですから。」
- イエスは彼らに言われた。「お前たちは聖書も神の御力も全く分かっていないので、誤解している。
- 実に、人々が死人たちの中からよみがえる時には、めとることも嫁ぐこともせず、天にいる御使いたちのようになるからである。
- よみがえらされる死者たちについて、神が柴の中から『わたしは、アブラハムの神、イサクの神、ヤコブの神である』と語られたことを、お前たちはモーセの書の中で読んだことがないのか。
- 神は死んでいる者の神ではない。神は生きている者の神である。お前たちは甚だしく誤っている。」
- 律法学者の一人が来て、彼らの議論を聞いた。そしてイエスが彼らに対してすばらしく答えられたことを知って、「全ての戒めの中で、どの戒めが一番重要ですか。」と尋ねた。
- イエスは答えられた。「一番重要なものはこれである。『イスラエルよ。聞け。われらの神である主は、唯一である。
- 心を尽くし、思いを尽くし、知性を尽くし、力を尽くして、あなたの神である主を愛せよ。』
- 二番目はこれである。『あなたの隣人をあなた自身のように愛せよ。』これら二つの戒めより重要なものは、他にない。」
- それで、その律法学者はイエスに言った。「先生。神は唯一であられ、その神以外に他の神はいない、という真理について、あなたは立派にお語りになりました。
- また、心を尽くし、知恵を尽くし、力を尽くして主を愛し、また隣人をあなた自身のように愛することは、全ての全焼のいけにえ、また供え物よりも、はるかに重要です。」
- それで、イエスは彼が賢明に答えたことを見て、彼に言われた。「お前は神の御国から遠くない。」それから、もはやだれ一人、イエスにあえて質問し続ける者がなかった。
- イエスは、宮の中で教えておられたとき、次のように言って尋ねられた。「なぜ、律法学者たちは、『キリストはダビデの子である。』と言っているのか。
- ダビデ自身、聖霊によって語った。『主は私の主に言われた。
「わたしがあなたの敵をあなたの足の下に従わせるまで、わたしの右の座に着いていよ。」』 - ダビデ自身が、キリストを主と呼んでいる。では、どうしてキリストがダビデの子であるのか。」その時、大勢の群衆が喜んで聞いていた。
- そして、イエスは教えの中で次のように語っておられた。「市場の中を、長服を着て歩き回り、挨拶されることを好んでいる律法学者たちに注意せよ。
- 彼らは会堂の貴賓席や、宴会の最上座を好んでいる。
- また、やもめたちの家々を食いつぶし、見栄のために長い祈りをする。このような者たちは、必ず一層厳しい処罰を受ける。」
- それから、イエスは、献金箱に向かって座り、群衆が献金箱の中に金を投げ入れている様子を見ておられた。多くの金持ちが大金を投げ入れていた。
- その時、一人の貧しいやもめが来て、レプタ二枚を投げ入れた。それは、一コドラントである。
- するとイエスは弟子たちを呼び寄せて、彼らに言われた。「真実にお前たちに言う。この貧しいやもめは、献金箱に金を投げ入れている全ての人々よりも、多くのものを投げ入れたのだ。
- 全ての者は、彼らの余ったものの中から投げ入れた。しかし彼女は貧しさの中から、彼女の生活費の全てである持ち金全てを投げ入れたのだ。」
13
- それから、イエスが宮から出て行かれる時、弟子の一人がイエスに「先生。見てください。何とすばらしい石、何とすばらしい建物。」と言った。
- それでイエスは彼に「お前はこの大きな建物を見ているのか。この場所で、石が石の上に崩されずに積まれたままであることは決してない。」と言われた。
- イエスがオリーブ山で、宮の方を向いて座っておられると、ペテロ、ヤコブ、ヨハネ、アンデレが、密かにイエスに質問し始めた。
- 「これらのことが、いつ起きるのか、私たちにお話ください。これらのことが全て成就される直前にどのような前兆があるのですか。」
- それで、イエスは彼らに話し始められた。「だれにもお前たちを騙させないように注意せよ。
- 多くの者がわたしの名によって現れ、『私こそがそれだ。』と言う。そして多くの者を騙す。
- お前たちは、戦争について、また戦争のうわさを聞いても狼狽するな。それらは必ず起きなければならない。しかし、終わりが来たのではない。
- 実に民族が民族に、国が国に敵対して立ち上がり、方々に地震が起き、飢饉も起きる。これらのことは、陣痛の始まりである。
- お前たちは、自分自身に気を付けよ。彼らはお前たちを議会に引き渡し、またお前たちは会堂の中で打ち叩かれる。そしてお前たちは、わたしのために、支配者たち、王たちの前に証をするために立たせられる。
- そして第一に、福音は全ての民族に宣べ伝えられなければならない。
- そして、彼らがお前たちを引き渡すために引いて行く時、お前たちは何を語ろうかと心配してはならない。まさにその時にお前たちに与えられる言葉を語れ。実に、語るのはお前たちではなく、聖霊であられるのだ。
- また、兄弟は兄弟を死に渡し、父は子を死に渡し、子は両親に自ら逆らって立ち、実に彼らを死に至らせる。
- また、お前たちはわたしの名のために、みなの者の憎まれ者にされる。しかし、最後まで耐え忍ぶ者は救われる。
- 『荒らす憎むべきもの』が、立ってはならない所に立っているのを見たならば、─読者は悟れ。─ユダヤにいる人々は山地に逃げよ。
- 自分の家の屋上にいる者でも、家から何かを持ち出すために、降りて家の中に入ることもするな。
- 畑にいる者も、自分の着物を取りに家に戻ってはならない。
- だがちょうどそれらの日々に、身重の女と乳飲み子を持つ女は哀れである。
- それで、それが冬に起きないように祈れ。
- なぜなら、それらの日々は、神が天地を創造された創造の初めから、今に至るまで、いまだかつてなかったような、またこれからもないような苦難の時になる。
- そして、もし主がその日数を短く限定しておられなかったならば、生き残れる者は一人もない。しかし、主は、ご自分で選んだ選民のために、その日数を短く決めておられる。
- そのとき、たといだれかが、お前たちに『そら、キリストがここにいる』とか、『ほら、あそこにいる』とか言っても、信じてはならない。
- 偽キリストたち、偽預言者たちが現れて、できれば選民を惑わそうとして、しるしや不思議なことをして見せる。
- だから、お前たちは注意せよ。わたしは、全てを前もって話しておいた。
- だが、それらの日には、その苦難の後に、太陽は暗くされ、月は光を放たず、
- 星は天から次々と落ち、天の万象は揺り動かされる。
- そのとき、彼らは、この人の子が偉大な力と栄光を帯びて雲に乗って来るのを見る。
- そのとき、彼〈この人の子〉は、御使いたちを送り、地の果てから天の果てまで、四方からその選民を集める。
- イチジクの木から、喩えを学べ。枝が柔らかくなり、葉が出て来ると、夏の近いことをお前たちは知る。
- そのように、お前たちは、これらのことが起こるのを見たら、彼〈この人の子〉が戸口まで近づいていると知れ。
- 真実に、お前たちに告げる。これらのことの全てが起きてからでなければ、この時代は過ぎ去らない。
- この天と地は滅びる。しかし、わたしのことばは決して廃れない。
- しかし、その日、その時については、だれも知らない。御父以外に、天の御使いたちもこの子も知らない。
- 気を付けていよ。目を覚ましておれ。その時がいつであるか、お前たちは知らないからだ。
- それはちょうど、出がけに、しもべ一人ひとりに、それぞれの仕事の責任を持たせ、また門番には目を覚まして見張るように命じてから、家を離れて遠方に旅している人のようである。
- だから、目を覚まして見張っておれ。お前たちは家の主人がいつ帰って来るか、それが夕方か、夜中か、鶏の鳴くころか、明け方か、知らないからだ。
- 主人が突然に帰って来て、眠っているお前たちを見るようなことがないように気を付けよ。
- わたしが全ての人にも語っていることを、お前たちにも、今、話しているのだ。目を覚まして見張っておれ。」
14
- さて、過越の祭りと種なしパンの祝いが二日後のことであったので、祭司長たちと律法学者たちは、イエスをどのようにすれば騙して捉まえ、殺すことができるか、と方法を探していた。
- しかし、彼らは、「祭りの間はだめだ。民衆を騒がすことは、あってはならないからだ。」と言っていた。
- イエスはベタニアの、重い皮膚病であった人シモンの家におられた。そして食卓についておられた時、一人の女が、純粋で、非常に高価なナルド油の入ったローマングラスの瓶を持って来た。そしてその瓶の首を折って、イエスの頭に香油を注いだ。
- するとある者たちは腹を立て、「この香油の無駄使いは何のためだ。」と互いに言っていた。
- そして、「この香油は、三百デナリ以上で売ることができ、貧しい者たちに施しができたはずだった。」と言って彼女を厳しく咎め続けた。
- それでイエスは言われた。「彼女をするままにさせよ。なぜ彼女を煩わせるのか。彼女はわたしに良いことをしたのだ。
- なぜなら、貧しい人々はいつもお前たちと共におり、お前たちはしたい時にはいつでも、彼らのために良いことを行うことができるからだ。しかし、わたしはいつもお前たちと共にいるのではない。
- 彼女はできるだけのことをしたのだ。彼女は、わたしのからだに埋葬のための香油を早めに塗ったのだ。
- わたしは、真実にお前たちに言う。世界中の、この福音が宣べ伝えられる全ての所で、彼女のした事も必ず語られ、彼女の記念となる。」
- その時、十二弟子の一人であるイスカリオテ・ユダは、イエスを引き渡すために祭司長たちのところへ出向いて行った。
- 彼らはこれを聞いて喜んだ。そして彼に銀貨を渡すことを約束した。そこでユダは、どうしたら、うまい具合にイエスを引き渡せるかと、機会をねらい始めた。
- 種なしパンの祝いの第一日、すなわち、過越の小羊をほふる日に、弟子たちはイエスに、「あなたが過越の食事をなさるために、私たちは、どこへ行って用意をすべきですか。」と言った。
- そこで、イエスは、二人の弟子を遣わし、彼らに言われた。「都に行け。そうすれば、水がめを運んでいる男がお前たちに出会う。その人について行け。
- そして、その人が入った家の主人に、『先生が、弟子たちといっしょに過越の食事をする客間はどこか、と言っておられる。』と言え。
- そうすれば、彼はお前たちに、席が整って用意のできている二階の広間を見せてくれる。そこにわたしたちのための食事の用意をせよ。」
- それで、その弟子たちは出て行った。そして都に入ると、イエスが言われたとおりのことを見た。それで彼らは過越の食事の用意をした。
- 夕方になってから、イエスは十二弟子といっしょにそこに来られた。
- そして、彼らが席に着いて、食事をしているとき、イエスは言われた。「真実に、お前たちに言う。お前たちのうちの一人で、わたしといっしょに食事をしている者が、わたしを裏切る。」
- 弟子たちは悲しみ始めた。そして、一人ずつ「まさか私ではないでしょう。」と言い出した。
- イエスは言われた。「この十二人の中の一人で、わたしといっしょに、鉢にパンを浸している者だ。
- この人の子は、彼について書かれてあるとおりに、去って行く。だが、この人の子を裏切る、その人のことを思うとわたしの心は張り裂ける。だから、その人は生まれなかったほうがよかったのだ。」
- それから、彼らが食事をしているとき、イエスはパンを取り、祝福して後、これを裂き、彼らに与えて言われた。「これを取れ。これはわたしのからだである。」
- また、杯を取り、感謝をささげて後、彼らに与えられた。彼らはみなその杯から飲んだ。
- それからイエスは彼らに言われた。「これは、多くの人のために流されるわたしの契約の血である。
- 真実に、お前たちに告げる。神の国でそれを新しく飲むその日まで、わたしはもはや、ぶどうの実から作った物を決して飲まない。」
- そして、彼らは、賛美の歌を歌ってから、オリーブ山に向かって出て行った。
- それからイエスは弟子たちに言われた。「お前たちの全てが、つまずく。なぜならば『わたしが羊飼いを打つ。すると、羊は散り散りになる。』と書かれてあるからだ。
- しかしわたしは、よみがえらされて後、お前たちより先に、ガリラヤへ行く。」
- すると、ペテロがイエスに言った。「たとい全部の者がつまずいても、私だけはつまずきません。」
- それで、イエスは彼に言われた。「真実に、お前に言う。お前は今日、この夜、鶏が二度鳴く前に、三度、わたしとの関係を否定する。」
- それで、ペテロは一層力を込めて言い続けた。「あなたと一緒に死ななければならないとしても、私は決してあなたとの関係を否定しません。」すると全ての者も同じことを次々と言い出した。
- それから、彼らはゲッセマネという名の場所に来た。そこで、イエスは弟子たちに、「ここに、わたしが祈り終わるまで座っておれ。」と言われた。
- しかし、ペテロ、ヤコブ、ヨハネをいっしょに連れて行かれた。そしてイエスは、愕然としてもだえ始められた。
- そして彼らに、「わたしは死ぬほど悲嘆に暮れている。お前たちはここにとどまり、目を覚ましておれ。」と言われた。
- そして、イエスは少し進んで行き、地面にひれ伏し、もしできることなら、この時が自分から過ぎ去るようにと祈り始められた。
- そして、「アバよ。父よ。あなたには全てが可能です。この杯をわたしから取り去ってください。しかし、わたしが求めていることではなく、あなたが求めておられることを行ってください。」と言っておられた。
- それから、イエスは戻って来られた。そして彼らが眠っているのを見つけて、ペテロに言われた。「シモン。お前は眠っているのか。一時間でも目を覚ましていることができなかったのか。
- 誘惑に陥らないように、目を覚まして祈り続けよ。たとい心が熱意に溢れていても、肉体は弱いのだ。」
- イエスは再び離れて行き、同じことばで祈り続けられた。
- そして、また戻って来られると、彼らが眠っているのをご覧になった。それは、彼らが非常に眠かったからである。それで、彼らは、イエスに何を言うべきかが分からなかった。
- イエスは三度目に来て、彼らに言われた。「まだ眠って休むのか。もう十分だ。時が来たのだ。見よ。この人の子が罪人たちの手に渡されようとしている。
- 立て。行こう。見よ。わたしを裏切る者が近づいて来た。」
- そしてすぐに、イエスがなお話しておられる間に、十二弟子の一人のユダが、そして祭司長、律法学者、長老たちから差し向けられた群衆が、剣や棒を手にして、彼と共にやって来た。
- イエスを裏切る者は、彼らと前もって「私が口づけする者がそれだ。その男を捉まえて、確実に引いて行くのだ。」 と合図を決めていた。
- それで、彼はやって来るとすぐに、イエスに近寄って、「先生。」と言って、情熱的に口づけした。
- そして彼らはイエスに手をかけ、捕らえた。
- そのとき、イエスのそばに立っていた一人が、剣を抜いて大祭司のしもべを斬りつけた。そして、彼の耳を切り落とした。
- その時、イエスは彼らに向かって言われた。「わたしを逮捕するために、まるで強盗にでも向かうように、剣や棒を持って出て来たのか。
- わたしは毎日、宮でお前たちといっしょにいて、教えていた。だがお前たちは、わたしを捕らえなかった。しかし、これは聖書が成就するためなのだ。」
- すると全ての者が、イエスを捨てて逃げてしまった。
- ある若者が、素肌に一枚の亜麻布を巻き付けてイエスについて行った。すると人々は彼を捕らえようとした。
- それで彼はその亜麻布を残して、裸で逃げた。
- そして、彼らはイエスを大祭司の所へ引いて行った。すると祭司長、長老、律法学者たちがみな、集まって来た。
- しかし、ペテロは、遠くからイエスの後について行き、大祭司邸の庭の中にまで入った。そして下役たちと一緒に座って、火にあたっていた。
- さて、祭司長たちと全議会は、イエスを死刑にするために、イエスを訴える証拠を探し続けたが、何も見つからないでいた。
- 多くの者がイエスを陥れるために偽証していたが、それらの証言が一致することはなかった。
- すると、ある数人の者が立ち上がって、次のように言ってイエスに対する偽証を行い始めた。
- 「私たちは、この人が『わたしは手で作られたこの神殿を壊し、三日のうちに、手で作られない別の神殿を建てる。』と言うのを聞いた。」
- しかし、彼らの証言は同様に一致できなかった。
- そこで大祭司が真ん中に立ち、イエスに詰問した。「何も答えないのか。この人々があなたに不利な証言をしていることを何と思っているのか。」
- しかし、イエスは沈黙を守り、何一つ声を出されなかった。それで再び大祭司はイエスになお質問して言った。「あなたは、ほむべき御方の御子、キリストか。」
- そこでイエスは言われた。「わたしである《エゴーエイミ》。お前たちは、この人の子が、全能者の右の座に座しているのを見ることになる。そして、天の雲に包まれて下って来るのを見ることになる。」
- すると大祭司は自分の衣を引き裂いて言った。「これでもまだ他の証人が必要だろうか。
- お前たちは神を冒涜することばを聞いたのだ。お前たちは何と考えるか。」それで、全員が、イエスは死刑に処せられるべきであると断罪した。
- そしてある者たちはイエスにつばを吐きかけ、イエスの顔を覆い、イエスを拳で殴りつけ、「言い当ててみよ。」と言ったりし始めた。また下役たちはイエスに平手打ちを食わせた。
- ペテロが庭の出口の近くにいた時、大祭司の女中の一人が来た。
- 彼女は、火にあたっているペテロを見つけ、彼を見つめながら言った。「あなたも、あのナザレ人、イエスといっしょにいました。」
- しかし、ペテロはそれを打ち消して、「その人を知らないし、お前が言っている意味も分からない。」と言った。そして彼は前庭に向かって外に出て行った。その時、鶏が鳴いた。
- またその女中がペテロに会い、そばに立っていた人たちに、「この人は彼らの仲間です。」と再び言い続けた。
- しかし、ペテロは再び打ち消そうとした。しばらくの後、再び、そばに立っている人々がペテロに言い出した。「間違いない。お前も彼らの一人だ。お前もガリラヤ人だからだ。」
- それで彼は、「私は、お前たちが話しているその人を絶対に知らない。」と、自分にのろいをかけて誓い始めた。
- するとすぐに、鶏が、二度目に鳴いた。それでペテロは、「鶏が二度鳴く前に、お前は、わたしとの関係を三度否定する。」というイエスのおことばを思い出した。彼はそのことに思い当たったので、大声で泣き出した。
15
- 早朝直ちに祭司長たちは長老、律法学者たちと共に、全議会と協議を行い、イエスを縛って連れ出し、ピラトに引き渡した。
- ピラトはイエスに尋ねた。「あなたは、ユダヤ人の王か。」イエスは答えて言われた。「あなたの言うとおりだ。」
- そこで、祭司長たちはイエスを激しく訴え出した。
- それで、ピラトは再びイエスに尋ねて言った。「何も答えないのか。見よ。彼らはあらゆる理由をあげてあなたを訴えているではないか。」
- それでも、イエスは何も答えなかった。それでピラトは驚いた。
- 彼は祭り毎に、人々が請願する一人の囚人を赦免していた。
- さて、あの反乱の時に殺人を犯した反乱運動扇動者たちと共に牢の中に拘留されていた、バラバと呼ばれる者がいた。
- その時、群衆が官邸に登って来て、ピラトにいつも行っているとおりに行うよう請願し始めた。
- そこでピラトは、彼らに答えて言った。「お前たちは、私がこのユダヤ人の王を釈放することを求めているのか。」
- というのは、祭司長たちがねたみからイエスを引き渡したことを、ピラトが知っていたからである。
- しかし、祭司長たちは群衆を扇動して、むしろバラバを釈放してもらいたいと言わせた。
- そこで、ピラトは再び答えて言った。「では、お前たちがユダヤ人の王と呼んでいるあの人に対して、私に何をして欲しいのか。」
- すると彼らはまたも「十字架につけろ。」と叫んだ。
- それでピラトは彼らに、「彼がどんな悪事を行ったからか。」と言い続けた。しかし、彼らは一層大声で「十字架につけろ。」と叫んだ。
- それで、ピラトは、群衆を満足させようと決断して、バラバを釈放した。そして、イエスを十字架につけるために、鞭打ちにした後、引き渡した。
- 兵士たちはイエスを、邸宅、すなわち総督官邸の中に引いて行った。そして全中隊〈約六百人〉を召集した。
- そしてイエスに紫の衣を着せ、いばらを編んで冠にしてイエスの頭にかぶらせた。
- それから、彼らは「ユダヤ人の王よ。ばんざい。」とイエスに敬礼し始めた。
- また、葦の棒でイエスの頭を次々と叩き、つばを吐きかけ、イエスに向かってひざまずいて拝んだりしていた。
- そして、彼らはイエスを嘲ってから、紫の衣を脱がせ、イエス自身の着物を着せた。そして、イエスを十字架につけるために連れ出した。
- そこに、一人のクレネ人が、田舎から出て来て通りかかった。それで、彼らはその人にイエスの十字架を強いて運ばせた。その人の名は、シモンといい、アレキサンデルとルポスとの父であった。
- そして彼らはイエスをゴルゴタという場所に連れて行った。その場所の名を訳すと「頭蓋骨の場所」であった。
- 彼らはイエスに没薬を混ぜたぶどう酒を飲ませようとした。しかし、イエスは受け付けられなかった。
- それから彼らはイエスを十字架につけた。そして、イエスの着物を切り分けた。そしてくじを引いて、だれが何を取るかを決めた。
- 時は第三時〈午前九時〉であった。彼らはイエスを十字架につけた。
- イエスの罪状書きには、「ユダヤ人の王。」と書かれてあった。
- また彼らは、イエスと共に二人の強盗を、一人は右に、一人は左に、十字架につけた。
- (なし)
- その側を通り過ぎる人々も、彼らの頭を振りながら、「ああ哀れな、神殿を倒して、三日間で建てる人よ。
- 十字架から降りて自分を救え。」と言ってイエスを侮辱し続けた。
- また、祭司長たちも同じように、律法学者たちといっしょになって、互いにイエスを嘲り合って言っていた。「彼は他人を救ったが、自分は救えないのだ。
- キリスト、イスラエルの王。今、十字架から降りて、我々にそれを見せて、信じさせてみろ。」そして、いっしょに十字架につけられた者たちもイエスをののしっていた。
- そして、時は、第六時〈正午〉になった。その時、全地が、第九時〈午後三時〉まで暗闇になった。
- そして、第九時〈午後三時〉にイエスは大声で、「エロイ、エロイ、ラマ、サバクタニ。」と叫ばれた。それは訳すと「わが神、わが神。どうしてわたしをお見捨てになったのですか。」になる。
- 側に立っていたある者たちは、これを聞いて、「見よ。彼はエリヤを呼んでいる。」と言っていた。
- すると、一人の男が走って行き、海綿に酸いぶどう酒を含ませ、それを葦の棒の先につけて、イエスに飲ませようとした。そしてこう言っていた。「このままにしておけ。エリヤが彼を下ろしに来るかどうか見ようではないか。」
- それから、イエスは大声をあげて息を引き取られた。
- 神殿の幕が上から下まで真っ二つに裂けた。
- イエスの正面に立っていた百人隊長は、イエスがこのように息を引き取られたのを見て、「この方は真実に神の子であった。」と言った。
- その時、遠方から見ていた女たちがいた。その中にはマグダラのマリヤと、小ヤコブとヨセの母マリヤと、またサロメもいた。
- その女たちは、イエスがガリラヤにおられたとき、イエスに従い、イエスに仕えて来た人々であった。またイエスといっしょにエルサレムに上って来た女たちも大勢いた。
- その時、すでに夕刻になっていた。その日は備え日、すなわち安息日の前日であった。
- それで、アリマタヤ出身の名誉議員ヨセフが来た。この人も神の王国を待望している人であった。彼は大胆にピラトの所に行き、イエスのからだを求めた。
- ピラトは、イエスが本当に死んでしまっているのかと不思議に思った。それで彼は百人隊長を呼び出し、イエスが死んでからかなり時間が経っているのかどうかを尋ねた。
- ピラトは、百人隊長からそれを確認してから、イエスのからだをヨセフに与えた。
- そこで、ヨセフは亜麻布を買った。そしてイエスを取り降ろしてその亜麻布で包み、岩を掘ってすでに作ってあった墓に納めた。そして、石を転がして墓の入り口の上に置いた。
- マグダラのマリヤとヨセの母マリヤとは、イエスの納められる所をよく見ていた。
16
- 安息日が過ぎたので、マグダラのマリヤとヤコブの母マリヤとサロメとは、行ってイエスに油を塗るために香油を買った。
- そして、週の初めの日の朝、非常に早く、日の出時に墓に来た。
- 彼女たちは、「だれが墓の入り口からあの石を転がし除けてくれるのだろうか。」と互いに話し合っていた。
- その時、目を上げると、非常に大きいその石が、すでに転がしてあるのが見えた。
- それで、彼女らは墓の中に入った。すると真っ白な長い衣をまとったひとりの若者が右側に座っているのが見えた。それで彼女らは非常に驚いた。
- その若者は言った。「驚いていてはいけない。あなたがたは、十字架につけられたナザレのイエスを捜しているが、イエスはよみがえらされたのだ。ここにはおられない。見なさい。ここがイエスの置かれた場所である。
- あなたがたは行って、弟子たちとペテロに、イエスはあなたがたより先にガリラヤに行かれる、そしてあなたがたは、イエスがあなたがたに言われたとおり、そこでイエスに会うことができる、と言いなさい。」
- 彼女たちは、墓から出て、逃げた。彼女たちは、震えおののき、茫然自失の状態であったからである。それで、彼女たちは、恐ろしさのあまり、だれにも、何も言わなかった。
長い方の文末 - さて、イエスは、週の初めの日の朝早くによみがえられた。イエスは、かつて七つの悪霊を追い出されたマグダラのマリヤに、最初にご自分を現された。
- 彼女は、イエスといっしょにいた人々のところに行き、嘆き悲しんで泣いている彼らに知らせた。
- しかし、彼らは、イエスが生きておられ、彼女がお姿を見た、と聞いたけれども、信じなかった。
- これらのことの後、彼らのうちの二人に、彼らが里に向かって歩いていた時、イエスは別の姿で現れてくださった。
- それで、彼らもその他の者たちのところに行って報告した。しかしその者たちは彼らをも信じなかった。
- しかし、その後に、イエスは、十一人が食卓に着いていたとき、ご自身を現された。そして、彼らの不信仰と心の頑なさを非難された。なぜならば、彼らが、よみがえらされて生きておられるイエスを見た人々の言うことを信じなかったからである。
- それからイエスは彼らに言われた。「全世界に向かって行け。そして造られた全ての者に福音を宣べ伝えよ。
- 信じて、バプテスマを受ける者は救われる。しかし、信じない者は断罪される。
- 信じる者たちにはこのようなしるしが伴う。わたしの名によって悪霊を追い出し、新しいことばを語る。
- 毒蛇を掴んでも、またたとい毒のある何かを飲んでも、決して害を受けない。また病人の上に手を置けば、癒される。」
- それで、主イエスは、彼らに語られた後、天に引き上げられて、神の右の御座に着かれた。
- それで彼らは出て行き、あらゆる所で福音を宣べ伝えた。主は彼らと共に働かれ、随伴するしるしをもってみことばを確かなものとされた。
短い方の文末
さて、彼女たちは命じられたことを全て、ペテロとその一行に簡潔に告げ知らせた。そして、これらのことの後、イエスご自身も東から西に至るまで、彼らを通して聖であり不朽である、永遠の救いのメッセージを送られた。